26:天使を落とす男
バイラの町で集められる情報は十分ということで、僕はスティービルへと向かっていた。
スティービルがどのようなところか不明なため、フールラはビレーヴィのところに預けたままだ。
ビレーヴィはフールラが居ることを喜んでいたようだったので問題なさそうだが、フールラは置いていかれることを不服そうにしていた。
けれど仕方がない。
僕は今のところ3人に分かれるつもりはないし、もう一人はシャステーレという女性と旅をすることを決定している。
バイラの町から真っ直ぐにスティービルの国へと向かう途中。
一本の矢が空を飛ぶ僕へと放たれた。視認してから時間があったので右側へ回転して避ける。
更にもう一本の矢が放たれ、僕は更に右に回転した。
僕は今かなりの高度を取っているので、そもそも矢が飛んでくること自体がおかしいのだが、先程から今に至るまで僕へ向けて矢が飛び続けている。
段々と放たれる矢の速度が上がっているように思うのは気のせいだろうか。
「危なっ」
今放たれた矢は僕の翼を掠った。
危機感を持ち始めた僕は、矢が射られた場所を特定することに集中する。
つまり回避よりも標的の発見を優先するということだ。
「っ」
頭を正確に狙った矢に対して、首を傾けることで回避したが、腕に矢が刺さった。
その矢の威力は凄まじく、腕に矢が刺さった衝撃で後方に飛ばされてしまった。
お陰で見つけかけていた相手の居場所もまた分からなくなった。
腕に刺さった矢を抜く暇もなく、次の矢が飛んでくる。どうせ矢が刺さって使い物にならないならと矢の刺さっている腕で受けた。
そのお陰で何とか相手を見つけられたので、そこへ向けて降りていく。
真っ直ぐ向かうのが一番早いが、それではただの的なので不規則に向きを変えながら相手の元へと向かう。
結局、片腕だけでは足りないので両腕で矢を受けることになった。
「よっと、君は何者かな?」
「チッ、天使ってのはこんなにしぶといもんだったかね!」
そこには弓を持った男が一人居た。男は自身の側に降り立った僕へと矢を番えて放った。
僕はそれを片腕で弾いた。この両腕はもう使えないので後で交換が必要だろう。
「いやー、そんなに攻撃されてもね?君って天使に何か恨みでもある感じ?」
「恨みも何もこっちは家族殺されてんだよバカが!」
そしてもう一本の矢が飛んできた。逃げながらで体勢が悪かったのか、威力は大したことがなかったので腕を振ってはたき落とす。
「あちゃー、なるほどね。でもそれって僕に関係ないんじゃないかなー?」
「関係も何もお前ら天使は全部同じだろうが!」
「え?何それ、どういう意味?」
「はあ?何でそれを天使のお前が知らねーんだよ?」
「いやー、だからさ、多分人違いならぬ天使違いだって」
「………あぁ?」
男は矢を番えるのをやめて、こちらをじっと見てくる。
相手との距離はそれなりに離れているので、まだ弓の方が有利な距離だろう。
「お前、天使じゃねぇのか?」
「天使だよ?多分ね」
「………天使じゃねぇのか」
「いや、天使だって!多分だけど」
「……あー、いや、まー、何というか、悪かった!……いやでもお前天使臭いんだよ!俺は悪くねぇ!」
「天使臭いって何さ」
「天使の臭いがぷんぷんするくせに天使じゃねぇとか何事だって話だよ」
「いや、知らないんだけど……」
「えーと、まあその、腕の良い医者紹介してやっからさ?その、腕はごめんな!」
「うん、いや、腕は別に作り直せばいいから大丈夫だけど」
「何だそれ、吸血鬼かなんかか?アンタ。まぁそれにしちゃあ昼から飛び回ってんのはおかしいが」
「え、吸血鬼とか居るの?」
「居る。つーか、俺が見たのが多分吸血鬼だと思ってるからそう呼んでるし、自分のことを吸血鬼だって言ってたからな」
「へー、世界は広いなぁ」
「いや、そんなしみじみと言われてもな」
「とりあえずご飯食べさせてよ。僕の腕こんなにしてくれたんだからさ」
僕は矢が突き刺さって悲惨な状態の両腕を男によく見えるように掲げた。
「いや、悪い。天使臭いから本気で天使だと思ったんだよ。まぁ、アンタが天使な訳ねえわけねぇからホントに悪いことしたとは思ってるけどよ」
「そういうのいいから、早く君の家か何かに連れて行って、急いで!」
「いや、お前命狙われてた相手に友好的過ぎるだろ?!」
「はよはよ、進め進め」
「いや、押すな押すな、その腕で押されるのは普通に気持ち悪いから押すな」
命を狙われた理由ははっきりとはしないが、とにかく天使について何か知っていそうな男に出会った。