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新生天使は救えない  作者: yosu
第二章 そこに住む人々
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23:剥がれ落ちた仮面 2



 シャステーレさんは、シーラを連れて様々なお店を見て回っている。


「ここは何をしている店だ?」

「いらっしゃいませ、お客様。当店は人の運勢を占っております、お客様も如何でしょうか?」

「私は必要ない。シーラ、興味はあるか?」

「いえ、私もそういうのはちょっと」

「だ、そうだ。邪魔をした」

「はい、またのご来店をお待ちしております」


 お店の人はシャステーレさんの物言いを物ともせず、非常に丁寧な態度で接客をしていた。


「……すみません、あの人ちょっと言葉足りてなくて」

「いえいえ、よろしいのですよ」

「えっと、私も占いとかは大丈夫なので、では!」


 僕はそう言って次の店へと向かっていったシャステーレさんたちを追いかけていった。



「最近の子って占いに興味ないのかしら……」


 佇む店員による、悲しい呟きが店内に残った。




「ここはどうだ?」

「いえ、特には」


「シーラ、どう思う」

「それなりに」

「それなりか、他を探すぞ」

「はい」


「シーラ」

「特には」


 シャステーレさんは敬語というものを知らないようで全ての店員に同じように不遜な態度で話しかけていった。後半からはフォローも諦めた。

 それはともかくシーラの職探しは中々に難航している。「それなりに」という店が数件あったが、それ以上の評価は出てこないままだ。


「あら、どうしたの、そんなに急いで」

「貴様か。……そうだ、踊ってみせろ、金はそこの奴が払う」

「いや、別にこの際お金はいいですけど、貴方は踊れと言われて踊りますか?」


 踊りの綺麗だった女の子に再会した。

 彼女は頭に手を付けてため息を吐いてからこちらに返事をした。


「……いいわ、踊ってあげる。ただし特別よ?普段はそういうことを言ってきたやつは吹き飛ばしてるから」

「感謝する」

「踊り、ですか」


 シーラは踊り子を見て少し興味を示しているようだった。


「場所を変えるわ、付いてきて」


 彼女が以前踊った場所に向かっていると何だか見覚えのある男たちが近づいてきた。


 そして、目にも止まらぬ速さでシャステーレさんが男たちを昏倒させた。


「えっと、また助けられたみたいね……」

「踊る場所はここでいいのか?」

「いいわけないでしょ?とりあえずお金はいいわ。流石にこいつらももう懲りたでしょうし、そのお礼ってことにしてあげる」

「ふむ、シーラ、護衛の仕事はどうだ?」

「まあまあです」

「確かに面白みはないな」

「ああ、もう、私が踊るって言ってんだからちゃんと私の後についてきなさいよ!」


 踊り子は自分を置いて会話し始めた二人を見て顔を顰めつつ、しっかりと案内を再開した。







「どうだった、シーラ」

「素敵ですね」

「ほう、中々いい顔をしているな。いいんじゃないか?」


「えっと、そこの貴方、何の話?」

「あー、そこに女の子いるじゃないですか。その子、村を飛び出してきてて、この町でどんなことをしようか考えてるんですよ」

「中々面白い状況ね、それ」

「いや、そうかもしれませんけどね?」


 踊り終わった女の子は手元で水の玉を弄びながら笑った。

 僕にとっては頭の痛い状況ですがね。


「それで、私の踊りを見て、踊ってみたいって思ったの?」

「そうらしいな、人に踊りを教える気はあるか?」

「無いわ」

「だそうだ、シーラ、望みは薄いぞ」

「いえ、そうでもありません。彼女の踊りから学べることもあるはずです」

「ほう?中々やる気だな」

「何よ?ストーカーでもする気?」

「そのつもりです」


 シーラは踊りに興味を持ったらしい。何だかシーラは控えめになったような気がしてたけれど、勘違いだったようだ。彼女の押しの強さは確実に健在だ。


「ちょっと踊って見なさいよ」


 踊り子は不愉快そうにそう言った。自分の仕事を舐められていると思ったのかもしれない。


「分かりました」


 踊り子の言葉に従って、シーラは踊り始める。


 その踊りは、彼女の踊りを見た後ならばはっきりと分かるほどに拙かったが、それでも氷の飛び交う力強い踊りには人を惹きつける魅力があると感じた。


「ふーん?まあまあね」


 踊り子はつまらなさそうにそう言ったが、口の端が少し上がっている。


「どうでしたか?」

「中々悪くはない。……私は専門では無いから当てにするな」

「見ていて楽しかったですよ」

「そうですか、ありがとうございます」

「貴方、名前は?」


 水の踊り子は、氷の中を踊った彼女に興味を持ったようだ。


「シーラです、貴方の名前を聞いても?」

「ネセトア。貴方なら私の踊りを見に来てもいいわよ。……私はね、好敵手が欲しかったの」

「ネセトア、家はどこだ?」

「いや、上がり込んで来る気満々じゃない、教えるわけないでしょ?」


 不敵に笑った踊り子だったが、シャステーレさんの傲慢さには敵わないらしい。


「どうせ敵が欲しいのなら自分で育てればいいだろう。それとも自分の目の前で自分以上の存在が生まれるのが怖いか?」

「………言ってくれるじゃない、そういうことならいいわよ。シーラって言ったわね?ちょっと付いてきなさい。足腰立たなくなるまで踊らせてあげるわ」

「……はい!」


 シーラは力強く頷いて踊り子に付いていこうとして、立ち止まってこちらを向いた。


「あの、ありがとうございます、シャステーレさんも、ティルシーさんも。テンシ様には私のことは構わずご自分のことをなさって下さいとお伝え下さい!」


 そうして深く頭を下げてから走っていった。





「………天使とは、何のことだ?」


 そうして、残された僕は冷たい瞳のシャステーレさんにじっと見つめられていた。

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