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新生天使は救えない  作者: yosu
第二章 そこに住む人々
24/75

22:剥がれ落ちた仮面


 シーラの家の氷はそれなりに溶けていてもうしばらくすれば氷が溶け切るだろうということが見て取れた。


 村へと降り立ちシーラの家へと向かう。破壊したドアの代わりに木の板が立ててあった。


「誰?」


 それを数回叩くと中から声がした。


「僕だよー」

「テンシ様?お帰りになられたのですか?」

「うん、ルークスの町を見てきたんだ」

「少々お待ちください、今退かしますので」


 木の板が右にズレると、暗い雰囲気のシーラの顔が見えるようになった。


「何か雰囲気変わった?」

「……そうですね、そうかもしれません」

「うーん、そっか。出発だけど、明日にした方がいいかな?」

「いえ、今すぐがいいです」

「そう?準備とか、大丈夫?」

「はい、この村から持っていくものはありません」


 彼女は僕と会うときはいつも笑顔を作っていたが、今は悲しいくらいに無表情だ。


「じゃあ飛ぶから、抱えるね」

「はい、お願いします」


 静かに近づいてくる彼女を抱えて空に上がる。


「………ら」

「ん?何か言った?」

「いえ、ただの独り言です」

「そう?」


 そうして、僕はシーラを連れてルークスの町へと向かった。


「シーラ、ルークスの町に着いたら僕の知り合いの人に任せることになってるんだけど大丈夫かな?」

「知り合いの方、ですか?」

「うん、ちょっと僕は行くところがあってね」

「いえ、構いません。元々、約束は村から連れ出して頂くことでしたから」

「あー、うん。とりあえず向こうで生活できるようにしてって知り合いには頼んだから、安心してね」

「わざわざありがとうございます」


 張り付いた笑顔はどこかに消え、静かに抱えられているシーラ。

 彼女にどんな心の変化があったんだろうか?少なくとも僕が想像できるものではなさそうだ。



 ルークスの町の門を潜り、シーラをこの前シャステーレさんと泊まった宿に泊まらせた。


「テンシ様、その、またお会いすることができましたら必ずお礼をさせて頂きます」

「あー、うん、よろしくね。ちょっとしたら知り合いの人が来ると思うから少し待ってて」


 僕は曖昧に答えて宿から離れ、自分の姿をシャステーレさんと出会ったときのものに変えた。

 そして、シーラの元へと戻る。


「こんにちは、シーラ」

「テンシ様のお知り合いの方ですよね。よろしくお願いします」


 シーラは初めて出会った僕に丁寧にお辞儀をした。


「そう畏まらずとも良いですよ、私のことはティルシーと呼んで下さい」

「いえ、そういうわけにも参りません。テンシ様には助けて頂いた恩がありますので、その知人であるあなたにも礼を尽くしたいのです」

「……そういうことでしたら止めませんが、嫌になったら止めて大丈夫ですからね」

「はい、御心遣い感謝いたします」


 かった!固過ぎない?流石にもうちょっと柔らかい物腰でもいいと思う。


「ええと、シーラ、疲れているでしょうし今日はゆっくり休むといいでしょう。明日からこの町を見て回ります。この町でどう過ごしていくか、考えていきましょう」

「はい、かしこまりました」


 僕はシーラの様子に戸惑いつつも、その場を愛想笑いで乗り切った。



 お金稼ぎは重要なので、患者を探して歩く、ついでにシャステーレさんも探す。

 何人か治療した後に、シャステーレさんを発見した。


「帰ってきたか」

「そりゃあ帰ってこなかったら殺すって脅されましたから」

「殺すとまでは言っていなかったと思うが?」

「言外に含まれているように思ったんですよ」

「ふっ、あながち間違いでもない」

「そこは間違いであって欲しかった!」


 相変わらず冷たいシャステーレさんと再会し、町をぶらぶらと歩き回る。


「この前とやってることは同じように見えるが、何か目的があるのか?」

「あー、いえ、ここに連れて来たい子が居るって言いましたよね」

「言ったか?」

「多分言ったと思います。……それで、その子がここで生活するのに何が向いてるだろうなーと思いまして、目下探索中なのです」

「そうか」


 ゆったりゆったりと、お店を見て回る。

 この町の道具屋は普通に何にもなかった。どこの道具屋にも何かしらの秘密の合言葉があっても困るか。


「連れて来た奴とは、どんな奴だ?」

「んー、何て言うんでしょ。前は割と元気あった子なんですけど、今はちょっと沈んでるっていうか元気のない感じの子です」

「性格、能力は?」

「えーと、性格は情より実利を取る感じで、能力は物を凍らせるものです」

「いつ会いに行く?」

「この前と同じところに泊まるんだったら今日の夜には会います」

「宿は前と違う方がいいな、折角の観光だろう?」

「……それもそうですね。では、明日彼女を迎えに行くのでその時に」


 なんだか、シャステーレさんが付いてくるのにも慣れてきた。

 というか、シャステーレさんは仕事とかいいんだろうか?僕と一緒に観光してるけど。


「シャステーレさん、仕事はよろしいんですか?」

「良いも悪いもない、やるかやらないかだけだ。今は特にする理由がないからな、それ以上に貴様の正体を探るのが重要だ」

「いや、正体って私をなんだと思ってるんですか?」

「高速で空を飛んでルークスの町からバイラの町以上に離れた距離を一日以内に往復できる化け物だな」

「………まぁ、それはそうかもしれないですけどね」


 どうやら彼女の僕を見失わないってのは本当らしく、おおよそのいる位置まで分かるらしい。どんな能力持ってるのさ。


「シャステーレさんってどんな能力を持ってるんですか?」

「私の能力か?ただ敵を倒すためだけの能力だ」

「えーっと、具体的には?」

「敵であるお前に教えると思うか?」

「既に敵として見られてるんですか?!」

「……敵として断定していたら殴っていると前も言っただろう」

「今のはシャステーレさんの言い方が悪いです!」

「ふっ」


 シャステーレさんは騒ぐ僕を鼻で笑った。

 こんな風に、今日という一日は特に何も起きることもなく、シャステーレさんと会話して終わった。


「……やっぱり二人部屋なんですね」

「貴様を見ている必要があるからな、それに性別的にも問題はないだろう」

「そうかもしれませんけど……」


 個人の時間とか、ないんだろうなぁ。



 翌朝、シャステーレさんを連れてシーラの居る宿に向かう。


「凍ってたらやばいな……」

「なんだ?能力の制御もできないのか?」

「あ、いえ、何だか不安定みたいで」

「能力がか?」

「心が」

「はっ」


 鼻で笑われた。……実際に起きる可能性がないわけではないが、起きなかったらこの心配が無駄なのは確かなので、とりあえずシャステーレさんの鼻が鳴ってるのはよしとしよう。


 宿に到着する。凍りついている様子は特に無い、シーラの部屋だけ凍りついている可能性も考えたが、それだったらもっと騒がしくなっているだろうということで大丈夫だと判断した。


「それで、そいつはどこだ?」

「シャステーレさんのこと伝えてないから先に部屋に入るとかやめて下さいね」


 先行するシャステーレさんを抑えてシーラの泊まっている部屋の戸を叩く。


「どうぞ」

「ティルシーです。もう一人連れがいますが、よろしいでしょうか?」

「ティルシーさんでしたか、今開けますね」


 扉が開くと控えめな笑顔をしたシーラの顔が見えた。


「そちらの方がお連れ様ですね」

「シャステーレだ」

「シャステーレさんですね。私の名前はシーラです」

「貴様の心が不安定だと聞いた、事実か?」

「ちょっと?」

「はい、それは事実です。私の心は今も定まらないまま、情けない話ですよ」

「………ふむ。おいティルシー、どこが不安定だ?」

「いや、不安定だったんですよ、多分」

「話にならんな。……行くぞ、この町のことなら私の方が詳しい」

「はい」

「…………私を置いていかないで下さいよ?」


 僕はシーラを連れて宿を出たシャステーレさんを追いかけて走り出した。

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