19:水と共に生きる町 2
「あ、あの!少しよろしいでしょうか!」
その言葉に悪意はないんだろうけど、一つ前に掛けられたその言葉による影響が出ているようで、僕はピクリと反応した。
「何だ、少年。いや、少女か」
「あ、一応女です。えっと、その、絵のモデルをして頂けませんか?」
「こいつか?」
「いや、貴方でしょ」
シャステーレは僕を指差す、僕もシャステーレを指差した。
しかし少年のような少女は首を振り、「二人ともです!」と言ったのだった。
「なぜこうなった?」
「私が聞きたいです」
シャステーレと僕は少年のような少女の申し出を受け入れ、着てほしい服があるというのでそれを着て、取って欲しいポーズがあるというのでその格好をして、今動かないようにしている。
「もう少し離れられないか?」
「いや、この格好でいてって言われたんでしょうが」
シャステーレさんと僕は抱き合っている。
――――――互いに互いの肩に腕を回して、見つめ合っている。
「少年、金はあるんだろうな?」
「あ、一応女です。えっと、一応お金は持ってます、それなりに」
「食事の美味い店も紹介してもらおうか」
「あ、えっと、分かりました」
「少年、喉が渇いたんだが」
「一応女です。えっと、ちょっと待ってもらえますか?」
「少年」
「いや、お金貰ってご飯食べさせてもらうんだからもうちょい大人しくしてましょうよ」
「それにしてもこの格好はな」
「私が言いたいよ?」
「すみません、その、お似合いのお二人だと思ったので。描きたいなと思いまして」
「お似合いって、君はもしかして女の子が好きだったり?」
「少年が少女を好きになることに問題はないだろう」
「えっと、一応女です」
「さっきから少年少年って、シャステーレさん最初に女の子だって気付いてませんでしたか?」
「そうだな」
「いや、そうだなって……」
とりあえずぐちぐち言いながらも何とかその地獄のような時間は終了した。
「あの、ありがとうございました!」
「どれ、絵を見せてみろ」
「それは私も気になります」
二人で少女の描いた絵を覗く。
冷たい目をした美しい女性と少し暗い雰囲気の背の低い女性が抱き合っていた。
そこに描かれた二人は、抱き合っているというのにお互いの顔を見ておらず、どこか冷たい印象を感じた。
「ふむ、絵のことはあまり詳しくないが、悪くない」
「指定された格好と違うものになってますね……」
「いえ、これでいいんです」
少年のような少女は完成した絵を満足そうに見た。
「では、少年。金と食事を」
「あ、はい。少々お待ち下さい……一応女です」
少女はそう言って、部屋を出ていった。
少女は約束通り結構な金額―――貨幣価値はあまり理解していないので何となくだ―――をシャステーレさんに渡し―――恐らく二人分だが、当然のようにシャステーレの懐に全て入った―――、料理の美味しいお店に連れて行ってくれた。
彼女はどうやらこの町で絵描きをしているらしく、それなりにこの町について詳しいらしい。何か知りたい事があったら彼女に聞きに来るのもいいだろう。
「それで、今日は何をするつもりだ?」
「まぁ、ふらっと町を見て回ろうかと」
「観光か」
「そうですね」
「昨日やらなかったか?」
「落ち着いて見られなかったので」
「落ち着いて町を見ようと落ち着かないで町を見ようと町を見るのが目的なら変わらないだろう」
「シャステーレさんはそうかもしれませんね!」
「個人差があるとでも?」
とはいえ、僕もこの町がそこそこ悪くないところだと理解した以上長居をする理由もないのだが。
「私はそろそろこの町から出ますけど、シャステーレさんはどうするつもりなんですか?」
「無論貴様に付いていくが」
「ですよね……」
「ちなみにシャステーレさんって空飛べます?」
「飛べない。貴様は空を飛ぶ能力を持っているのか?」
「まー、えーと、そうなんですよね」
「なるほどな。それなら問題ない」
「走るんですか?」
「あぁ」
「私結構速く飛びますよ?」
「逃げられても問題ないと言っただろう?私は貴様を見失わない」
「えーっと、じゃあ、私この町に帰ってくるのでここで待ってれば良いと思いますよ」
「……ならばなぜこの町から離れる?忘れ物か何かか?」
「えーっと、女の子一人ここに連れて来る約束してまして」
「仲間か」
「似たような感じですね」
「いいだろう、ならば私はここで待つ。しかし貴様が来なかったときには貴様を殴りに行くからな?」
「はーい」
「………まあいいだろう」
シャステーレさんが付いてこなくなったので自身の姿を変えて患者探しを少ししてからルークスの町を去った。