14:氷の家
村に戻った僕は、フールラの体力を考えて彼女を自身の家で休ませていた。
森の魔物の謎は解明し、バイラの町に向かった僕は無事に流行病の抗体を作り上げたので空を飛んでこっちに来ている。
ルークスの町については、町で得た情報から方角だけ確かめた。とりあえずは流行病の抗体をフールラに適合させることが先決だ。
シーラも流行病に対する抵抗はできるようにしたし、タックも体を色々と弄ったので問題ないだろう、恐らく。
「ただいまー」
「おかえりー」
帰ってきた僕とハイタッチを交わす。悲しい一人芝居である。
「んじゃま早速」
「見張りは任して」
寝ているフールラの元へと僕が向かい、暇な僕は適当に家の外に突っ立っている。
抗体の適合と、適当なことを言ったが、実際に行うのはフールラの体を作り変えて流行病に罹っていても問題ない体にするだけだ。
一応バイラの町で実験した結果、抗体っぽいものはできた気がするのだがちょっと自信がない。
万が一フールラの体に合わなかったら、何てことを考えるとやりたくない。
というわけで生還率100%の肉体改造を施そうと思う。
こちら外で暇な僕、そちらの様子はいかがですか。
こちら気分は悪の秘密結社な僕、フールラが起きそうになったので寝かせました。
見えてくる情報も聞こえてくる情報も同じなのでやっぱり悲しい一人芝居である。
どうにかしてフールラを寝かせつつ、無事に改造手術を終えた。村の中を歩いていたタックに家の外で突っ立っていた僕が見つかりそうになったときに、改造班の僕が驚いて手が滑って若干予定と違う感じになったが、きっと無事に終わった。
今思い出してみれば、タックから隠れる必要はあまりない。せいぜい何でそこに居るのかと問われたときに返す返事が思い付かないくらいのものだろう。
じゃあ何であんなにびっくりして隠れてしまったのだろうか。それはきっと、昔の記憶が僕の行動にもしっかりと影響を与えてくるということなんだろう。
フールラが目覚めたら早速バイラの町に向かおうと思う。
ここに長い間残っていると魔物がやってくる。よって早めにシーラも連れて行かないとだけど、ルークスの町がどんなところか分かっていないので後回しだ。
ここに残るタックのことだが、一応僕からできることはしてあげたので大丈夫だろう。
フールラが起きるまで暇なのでシーラの様子でも見に行こう。
凍ってる。
完全に家が凍ってる。シーラ家が氷像に変わっている。
開かない扉を殴って破壊し、リビングの様子を見ると、置いてあった本や食べ物が凍っているのを発見した。
「シーラ?居る?」
返事はないが、シーラの部屋の方に人の気配はあるようだ。
「シーラ、開けるよ」
部屋の扉を開ける(破壊する)と、苦しそうに眠る彼女の姿があった。
近づいて体の具合を確認してみるが、特に怪我や病気の様子はない。単に夢を見ているというだけらしい。
「あ、起きた?おはようシーラ」
「……てんし、さま?」
眉間に寄せた皺はそのまま、彼女は僕のことを呼んだ。
「大丈夫?何か、苦しそうだったけど」
「あの、夢を見なくする方法ってありませんか?」
「夢?何だろう……深い眠りにつくとか?」
「深い眠り……」
彼女はいつも、僕と話すときは笑顔で、感情を隠すようにしているのだが、今はそんな余裕もないらしくずっと難しい顔をしている。
「本当に辛そうだね。僕が何とかしてあげようか?」
「何とか……いえ、大丈夫です」
彼女は顔を上げてこちらを見たけれど、すぐに顔を下げてしまった。
彼女という人間はこんなにも我慢強かっただろうか?少なくとも家を氷漬けにする程度には感情的だったと思うのだが。
「大丈夫ですから。テンシ様にはやることがあるのでしょう?私は大丈夫ですから」
彼女はそう言って、いつものように笑顔を作ると僕を部屋から、そして、家から押し出した。
僕は、彼女には彼女なりに考えていることがあるらしいと一人で納得して、大人しくフールラの寝顔を眺めることにした。