12:ヘイ フールラ
「はい、ということでフールラ、道が分からないよ」
「あの………あっ、さっきの二人目の天使様に何かあったのですか?」
フールラは村の真ん中で首を傾げた僕を不思議そうに見つめてから、申し訳なさそうにこちらに質問をした。
「いや、ごめんね、分かりにくくて」
「いえいえ、とんでもないです」
むしろ分かるとは思ってなかったよ。
「村から大体この方向に真っ直ぐ行くとバイラの町に着く、みたいなの分かる?」
「えー、そうですね………」
彼女は、「ここにあれがあって」「だからこっち?……あーいや、こっちかも」という風に悩んだ後、一つの方向を指した。
「うん、とりあえず進んでみるね」
「あの、もしかしたら魔物と間違えられて攻撃されてしまうかも」
「あー、空飛んで行ったらそうなるよね」
町が見えたら走るとしよう。
「フールラはバイラに行ったことがないみたいだけど、この村からは出たことがあるの?」
「いえ、ないです」
「そうなんだ、何か出れない理由でもあったの?」
「そういうわけではないのですが」
「そっか」
おっと、バイラの町らしき大きな町が見えて来た。確かにかなり大きな町で栄えている。ただ人通りが少ないような気がするのはどうしてだろう。
「フールラ、バイラの町の人通りが少ない理由って分かる?」
「恐らくそれは流行病のせいですね。人との接触は少ない方がいいとされているので無闇に外に出る人が少ないのでしょう」
「あー、流行病」
シーラが掛かっていたものと同じだろうか。これはフールラを連れて行くに当たって少し調査が必要そうだ。
「ふむふむ、大体分かったよ」
「お役に立てたようで何よりです」
町の調査班(僕)は静かにバイラの町に潜入して、病気について調べるとして、村にいる僕は何をしようか。
「フールラ、少しこの村について聞いてもいいかな?」
記憶を頼りにしてもいいのだが、情報が断片的なのであまり当てにならない。
「はい、この村のどんなことでしょうか?」
「とりあえず、この村はどうやって今まであの獣達を退けていたのかな?」
「あぁ、それは、この村は村の外とそれなりに交易がありまして、それで村の野菜などを売りに行くついでに冒険者の方たちに魔物の駆除依頼を出していたのですよ」
「なるほどね。でも魔物を全て殺していたわけじゃないんでしょ?」
「はい、そこそこ数を減らしていただけかと。村にはそれなりに強い人間がいて、襲ったら返り討ちにされる、という風に思わせることで村は襲われていない、と誰かが言っていた気がします」
「しかしこの村は襲われた、と」
「……そうですね」
彼女は重たく言葉を放つ。
僕の記憶が確かなら、あの獣たちは攻撃されると反撃する性質を持っている。
それで村が襲われたんだろうか?けれどそれならもっと早く村は襲われていてもおかしくない。
何か要因があったはずなのだが……さっぱり分からない。
また村を襲いに来ないとも限らないし、どうにかしておきたいところなのだが。
「森の中を調べに行きませんか?」
「そうねー、森の中を調べに行けたら一番楽なんだけどそうするとこの村の戦力が………って、フールラも行く気?」
「私、それなりに動けます。邪魔になるようでしたら置いていって頂いて構いませんので」
「いや、流石に置いていくことはないんだけど」
獣たちの襲撃の原因が何かはかなり気になるたころではあるのだが、仮に襲撃がもう一度来るとすると、この村に残しているシーラとタックはかなり危ない。
………いや、大丈夫かな?
タックはまぁいいとして、シーラの能力ならそこそこ持つだろうし、襲われてから三十分も待たせたりしなければ平気だろう。
「ところでフールラ、野営の経験は?」
「……ないです」
「なるほどなるほど」
まぁ、何とかなるなる。
荷物は多少の保存食と毛布、後は何となく目についたもの。
フールラを連れて、僕は森の中へと入っていった。