11:それぞれの行先
「さて、フールラ、君に聞きたい」
「はい、何でしょうか?」
「君は、どこか行きたいところはあるかな?」
「行きたいところ、ですか?」
「どこか無いかな?」
「そうですね……」
突然の質問に頭を悩ませているらしく、彼女の返事は中々帰ってこない。
「じゃあ、この村に残りたいかな?」
「それは嫌、です」
今度はすぐに返事が返ってくる。とりあえずこの村ではないどこかに行きたいようだ。
「とりあえず、僕はこの村から出て行くけど、付いてくる?」
「…………天使様がよろしければお願いします」
ゆっくりとではあるが、返事が返ってきた。
ならば、この村から連れて行くのは二人ということになる。
どうやって行こうかな。空を飛ぶには二人抱えないとだけど、シーラとフールラをあんまり近い距離に居させるのはよくないだろう。
というか、僕が二人の間を持つのがしんどい。
しかし、歩くのだってそこまで距離に変わりはないし、そもそも二人を歩かせていたら速度が遅い。
やっぱり僕が我慢して抱えて飛ぶか、抱えて走るしかない?
この際シーラは気絶させたまま運べばいいのでは?という悪魔の囁きが聞こえたが、それは流石にないだろう。
いや、最終手段として考えておこう。
僕が二人居れば楽なんだけど。
「分身的な」
「天使様?」
「あ、いや、何でもない。いや、あるか。ちょっと待ってね」
「はい」
本来なら空を飛べて、人が一人運べるくらいに力があれば十分なのだが、せっかくなので思考能力を持った分身を作ってみたい。
フールラから見えない位置に移動して、自分を二人に分ける。
そして二人目の服を用意して、フールラのところまで戻った。
「天使様が、二人?」
「そう、シーラも村から出たいみたいだったからね。二人を運ぶのに僕が二人になった方が便利だと思ったから」
「そんなこともできるのですね」
フールラが感心したように言う。
しかし、これは残念ながら僕の想像していた分身と違って、3本目4本目の足を動かして、二個目の口を動かしたりしているのに近い。
結局考えている僕は一人なので腹話術で人形を動かしているのと同じだ。
まぁ、これでも十分だろう。
とりあえずお試しとして、一人は地面に、もう一人は空を飛んでみる。
「きゃっ」
地面から飛び立つのに発生した風によってフールラが悲鳴を上げる。
二つの身体の感覚の違和感はあるが、まぁそんなに問題なさそうだ。
飛んでいた僕は地面に降りて、シーラ家に向かう。
「フールラ、ここから一番近い大きな町ってどこかな?」
地面で見ていた僕はフールラに話しかけた。
「バイラ、ですかね。この国の王様がいるところです」
「へぇー、王様か。いいね、とりあえず行ってみよう」
「……そうですね。私も一度は見てみたいと思っていました」
フールラはそのバイラに行くことに異論はないようだ。
シーラ家に入ると、目を瞑って考え込んでいる様子のシーラを見つけた。
「おかえりなさいませ、テンシ様」
彼女は誰かが家に入ったのに気がつくと、すぐに表情を笑顔に変えてこちらを向いた。
「ただいま。この村を出ようと思うんだけど、行き先はバイラでいいかな?」
「バイラ、ですか」
「どこか行きたいところはある?」
「私はルークスに行ってみたいです」
ルークス……どこ?
「ヘイ、フールラ、ルークスってどんなとこ?」
「え?……っと、ルークスと言いますと、湖が綺麗で芸術家に手厚い町として有名です」
ほうほう。
「シーラ、ルークスっていうのは、湖で有名な町だよね」
「はい、一度行ってみたいところでして。テンシ様は行ったことがお有りですか?」
「いいや、無いよ」
「そうですか、でしたら是非行ってみませんか?」
「うん、そうだね」
というわけで、シーラを連れた僕はルークスへ、フールラを連れた僕はバイラに行くことになった。
とはいえ、さっぱり場所が分からないので彼女たちには数日の間待っていてもらい、僕一人で下見に行ってこよう。
「シーラ、少し準備があるからこの村で待っててもらってもいいかな?」
「準備、ですか?」
「そう、ルークスの町にどうやって行くか調べてくるよ」
「………帰って来てくれますよね」
「もちろん。君を連れて行くために調べるんだからね」
「そうですね」
一瞬だけ、色が無くなった彼女の表情は、すぐに元の笑顔に変わった。
「じゃあ行ってくるけど、待ってる間に何かあったら呼んでね」
「呼んだら来て下さるんですか?」
「試してみる?」
「………いえ、では、何かあればテンシ様のことを呼ばせていただきます」
「うん、元気にしててね」
僕はそう言ってシーラ家を出ると、空へと飛び立った。