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新生天使は救えない  作者: yosu
第一章 終わりの村
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10:君だけの宝物


「俺、決めたよ。ここに残る」


 ご飯を食べ終わって、使った食器をフールラと洗っているときに、タックが僕に話しかけてきた。


 ちなみにシーラは部屋に戻ると言って、食事が終わってから別行動だ。恐らく僕がフールラと皿を洗いに行くと言ったので、フールラと一緒に居るのを避けたんだろう。


「ここに残るって、どうするつもりですか?」

「生きてくのはどうにかなると思うんだよ。それに、誰かがこの村に居ないと、本当にこの村が無くなっちまう」


 フールラが彼を嗜めるように言うと、彼は先ほどよりも強い意志を持って発言した。


「しかし……」

「お前らはこっから出て行くんだろ?でも俺がここに残ってるから、この村は無くなんねえ!またいつだって帰って来れる!」

「………でも」

「不安かもしんないけど、俺だって頑張ってみるから!俺はあいつの分までこの村に居たいんだ!」


 タックの決意は固いらしい。

 最初から僕がどうこう言う問題ではないが、ここまで強い気持ちがあるなら口出しをする理由もないだろう。


「……よしタック、餞別だ」


 そう言って彼の胸をトンと叩く。


「あ、せんべつ?」

「頑張ってってことさ」

「おう!ありがとな、誰だか分かんない人!そういや名前なんて言うんだ?」

「とりあえずテンシって呼んでくれればいいよ」

「そっか、ありがとなテンシ!」


 彼はそう言ってシーラ家を出て行った。


 服の袖を引かれたのでそちらを見ると、フールラがこちらを見上げていた。


「あの、彼に何かしたんですか?」

「んー、いや、まぁ、おまじないみたいなものだよ」

「そうですか……」


 フールラの表情はあまり良くない。

 自分の能力のテストも兼ねて、彼女に気分転換でもしてもらおうかな。


「フールラ、ちょっとおいで」

「え、えっと、どうかしたのですか?」


 彼女の腕を引いて、村の中を歩いて回る。

 大体半径3メートルくらいの広さがあれば十分だと思うので正直どこでもいい。



「あの、何を?」

「いいからいいから」


 シーラと打って変わって、彼女は不安そうな表情を隠そうともしない。

 こういう反応の方がやりがいがある。


 目的地についたので、転がっていた木の棒を手に取り、フールラを中心に地面に円を描く。


「とりあえず手を伸ばしても大丈夫なくらいで、っと」

「これは一体?」

「まあ見てて」


 頭に思い描くのは満点の星空。

 手を伸ばしたら掴めそうなくらいにらんらんと輝く星々。


「そういえば、フールラは星は好き?」

「星、ですか?えっと、好きな方だと思います」

「それはよかった」

「よかった?」


 描き出す光景は既に用意できた。

 後はそれを映し出すだけでいい。


 小さく区切られた空間、彼女の見慣れた景色を塗り替えていく。


「えっ?」


 周りに映る村の姿は、瞬きをする間に変貌を遂げる。


 誰も居ない、誰かが居たはずの空白の村から、誰も居るはずもない、静かな海の上に。

 明るくこちらを照らしていた太陽は姿を隠し、空から零れ落ちてきそうな星々だけが僕らを照らす。


 フールラは息を呑んでその光景を見ていた。

 しばらくその様子を観察してから、僕は自分の描いた光景が上手くいっているかを確認する。


 うむうむ、自分を褒めてあげたいくらいの会心の出来だ。



「どうかな?」

「すごく綺麗です!」


 彼女はキラキラと笑う。


「こんな綺麗な星空見たことないです!」

「ふっふっふ、上だけを見ているようだけど、下だってちゃんと考えて海の上なんだよ?」

「はい!海に映る星もとっても綺麗です!」

「あれ、気付いてたの?」

「はい、最初に地面を見てて、水に沢山の光が映っているのが分かって、そしたら凄く綺麗な星があって!」


 険しかった顔は楽しげに笑う顔に、少し大人びている落ち着いた様子は年相応の女の子らしい元気な姿に変わった。


 きゃっきゃとはしゃぐ彼女は何となくといった様子で星空に手を伸ばす。


「星、手に取ってみたい?」

「できるのですか?」

「もちろん」


 僕は星空に向かって手を伸ばす。

 実際にある星をここに持ってきたら死にそうになるだけなので、手の中に掴むのは宝石のように輝く別の何かだ。


「はい、どうぞ」

「………わ」


 薄く金色に光るその謎の物体を彼女に渡す。

 彼女は恐る恐るといった様子で両の手を皿のようにして受け取った。


 そして手の平のそれをじっと眺めたり、空に掲げて星と見比べるようにして楽しんでいた。



 さて、そろそろ時間かな。


 空に輝く星々が、ゆっくりと海に落ちてくる。


 もちろん、超巨大な光り輝く物体を自分に向けて落とすわけにはいかないので、僕らの周囲は小さな光が降り注いでいるだけだ。


「……星が、落ちてる」

「流れ星っていうんだ、知らない?」

「名前だけなら」

「そっかそっか、博識だね。……まぁ、普通こんなに落ちて来ないけどね」


 僕は流石に派手すぎたかなぁと後悔していたが、隣の彼女が食い入るようにそれらを見ているので、「まぁいっか」と続けることにした。




 空に輝く星もいつかは消える




「……もう、終わりですか?」


 フールラは真っ暗になった空を見上げて、静かに聞いてくる。


「そうだね」

「これも、無くなってしまうのでしょうか?」


 彼女は手の平の謎の物体を寂しげに見つめる。


「そうなるかな」

「そう、なんですね」

「………えっと、貰ってもいいかな、それ」

「はい」


 彼女はゆっくりとこちらに手の中の謎の物体を差し出した。

 謎の物体は僕が掴んで手の平に乗せるとパッと弾けて消える。


「………首飾り?」


 そうして、僕の手の中には一つの首飾りが残った。


「はいこれプレゼント」

「えっ?えっと?」


 戸惑う彼女に首飾りを付けていく。


「あ、さっきの星」


 主な飾りは先ほどの謎の物体を小さくしたもの。


「これ、頂けるんですか?」

「何だか、気に入ってるみたいだったからね」

「ありがとうございます」


 先ほどよりは口調が落ち着いたようだが、ニマニマとした口の動きを見るととても喜んでいるらしい。



 本来ならここで映すものはどこにも持ち出せないし、僕が映すのを止めたら消えてなくなるものだ。

なので、彼女にだけ見える幻覚という形で首飾りを作った。

 つまり実際には首飾りは彼女以外の誰にも見えない、もちろん僕にも別に見えていない。

 彼女の見えてる景色を想像しながら首飾りを付けているフリをしただけだ。


 彼女がもし首飾りの存在を忘れてしまえば、それは二度と現れることはない。

 逆に、彼女の頭の中でそれをどこに置いたり、隠したりしても、彼女が自身の手元にある姿を見ようと思えばいつでもそれは姿を現す。


「君の付けているそれは、他の人には見えないし、触れない。分からないかもしれないけど、そういうものだと思っておいて」

「えっと、分かりました」

「じゃあ帰るから、目を瞑りたければ瞑ってね」

「あ、そうですよね。……目を開いていると何かあるのですか?」

「いや、ただ真っ暗なのが急に眩しくなって目がしんどいかなと思って」

「あぁ、では目を瞑っていますね」


 そう言って、彼女はきゅっと目を瞑った。

 僕が景色を映し出していた膜のようなものを消すと、びかびかと輝く太陽が出迎えた。


「あ、戻ったんですね?」


 その明るさを感じたのだろう、フールラが目を瞑りながらそう言った。


「うん、もう目を開けてもいいよ」

「はい……うっ」


そして目を開くとすぐに目を閉じた。まだ目が光に慣れていないらしい。


「ふふっ」

「うぅ」


 僕がそんな彼女の様子を笑うと彼女は困ったように声を漏らした。



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