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じゅうしまつ。  作者: 麻田なる
第八羽
23/23

心の渦巻き②

「ちょっと桜次郎っ!!!!」


 休み時間、廊下を歩いていた俺の後ろから鈴芽の喧しい声が響く。周りにいた通りすがりの生徒たちはチラッとこちら見るも、彼女は気にする事もなくこちらを向きながら一直線に歩いて来る。


「何だよ聞こえてるようるさいな恥ずかしいだろ」


 漏らすように一呼吸で小さく言葉にすると、回りに注目されてる事に気付いた鈴芽はムスッとしながらも顔を赤くしていた。



「ア、アンタがうろちょろするから悪いのよッ!」


「ハイハイ…………で、何用ですかー?」



「何か最近、アンタ態度悪くない……?」


 俺は窓際の壁にもたれると、窓越しに反対側の廊下へと視線を向けながら鈴芽の話を聞いた。


「まぁそれはそうと、いい加減馬術部に顔を出しなさい! 馬場の整備や馬の手入れ、ボロの始末してよ」


 鈴芽は腕を組みプンスカしながら言うが、つまるところ全部雑用じゃんか。行くんなら馬にも乗りたいんだが……。





 あれ? あの一階の廊下にいるのって卯月先生…………それにあのクズ教師? 何故あのクズが高等部にいるんだ? しかも卯月先生と何の話を……。



「何かヤバくねーか……」


 俺は頭を押さえながら小さく呟く。考え過ぎならいいんだが……ってか、考えんとこ。


「は? 何がヤバいのよ。ヤバいのはこっちよ。アンタが来ないから辞めてく一年生がーー」

「ハイハイわかったわかった。行くから……つーか、この為にわざわざ来たの? 教室でいいのに」



「わ、わざわざって……。違うわよッ! アンタと教室で口を利きたくないだけよッ!! それに私は忙しいんだからッ!!」


 またまた廊下に声を響かせた鈴芽は、周辺の生徒に注目されると、再び顔を染めて伏し目がちになりながら……しかしプリプリとご機嫌斜めな様子で俺の前から去っていった。



 ハハハ……全体的にどういう意味かわからん。


「そうだ。粟田君、ちょっと職員室に来てくれる?」


 放課後、帰り支度をしながら俺は一応あの教師が高等部にいた事を巳山に報告していると、案の定卯月先生から呼び出しをくらった。内容はいわずとも何となくわかる。噂をすればなんとやら……だ。



「まさか昨日の? 桜次郎、オレもついーー」

「用事は粟田君だけだから」


 卯月先生は片手を上げ、巳山の言葉を遮った。


「でもセンセ、昨日オレもいたし……。桜次郎は何もやってないっスよ」


「大丈夫大丈夫。さ、粟田君」


 先生は巳山の話を聞き流しながら俺を手招きする。そんな巳山の様子を見ながらも、俺は先生についていった。


 しかし巳山……。呼び出された内容が明らかになってないのにその発言は、昨日俺が何かやらかしましたよと言ってるようなもんだぞ。




「まぁまぁ座って」


 先生はパイプ椅子を自分の椅子の横へと置き、座るよう促す。説教でも始まるかのようだ……先生はにこやかだけど。


「昨日、粟田君に中等部まで書類を持っていってもらったじゃない? その時、不藤先生って生真面目そうでつり目な先生に会わなかった?」



「……会いましたけど」


 即答した俺に『うんうん』と頷く先生は言葉を続ける。


「実はその不藤先生が言ってたんだけど、『粟田くんに殴られた』っていうのよ」


「……は?」


 俺は裏返った間抜けな声を職員室に響きそうなくらいのボリュームで出してしまった。


「……す、すみません」


「ううん。いいのいいの。……けど、その様子だと身に覚えなしって感じかな?」


「……はい。殴るつもりも殴った覚えもありません。……巳山に止められましたし」



 けど、カッとなったのは事実だ。もしあの時巳山がいなかったらと思うとゾッとする。

 自分で言っといてなんだが、『止められた』なんて発言=止めなきゃならない状況だったって事になるよな。殴ってなくても、これじゃあ未遂…………もろ容疑者じゃんか。……発言どうこう人の事言えねーな、俺。



 卯月先生は『そっかー』と頷き俺の顔を見た後、すくっと立ち上がった。

「ん……ゴメンね、呼び出したりして。気を付けて帰ってね」


「…………え?」


 ニッコリ笑った先生は『話は終わりですよ』と言わんばかりに俺の肩をポンと叩くと、机に散らばった書類を整頓しだす。



「そ、それだけですか!?」


「ん?? ……だって粟田くんは殴ってないんでしょ?」


 先生はかき集めた書類を引き出しに入れるとこちらに顔を向けた。


「そうですけど…………信じるんですか?」


「え……? 当たり前じゃない。何で大事な生徒を疑わなきゃならないの」


 髪を結いながらサラッと答えた卯月先生は棒立ちしていた俺の背中を押す。



「はいはい、この話はおしまい。先生、こう見えても陸上部の顧問で忙しいんだよ…………それとも粟田くんは、この話以外他に何か私としたいのかな?」


 背中を押され強制的に職員室から退出させられると、先生は背後から俺の耳元にこそばゆい声で口にする。ビクッと肩を揺らし飛び退く俺の行動に、先生はニタリと笑い、手を振って去っていってしまった。


 廊下をポツポツ歩く俺は、どっから聞こえたか、ガラスの割れる音が耳に響いた。

 身体が触れ壺でも落としたのか……はたまたシャンデリアでも落下して来たのか。キョロキョロと見渡すが、特に割れ物を落とした訳でも落ちた訳でもなさそうだ。


 ふと窓を見ると向かいの廊下にはさっき話に出ていた人物、不藤先生という人がいる。後、私服だが生徒と思われる数人の男女……制服の子もいるな。割れた窓ガラスが不穏な空気を漂わす。



「…………真希ちゃん?」


 その現場の廊下を歩く真希ちゃん。先程のガラスの割れた破壊音に気付いてか気付いてないかはわからないが、彼女が向かっている方向は不藤先生のいる修羅場らしき雰囲気の場所。あー、そっちに行くとめんどくさい事になる……と思う。




 あ……やっぱ驚いてる。


 現場に近付いた真希ちゃんはキョロキョロとしながら割れた窓ガラスを見る。周囲の状況を確認した真希ちゃんは、不藤先生に何か話している様子。そして逃げるどころかチャラそうな私服生徒とも会話しているみたいだ。


 これは先生方を呼んできた方がいいのかな? しかしその先生があの現場にいる訳で……。ここは生活指導の先生に……って誰だっけ?


 考えるよりまず行動! 俺はUターンして職員室へ戻った。


 だが職員室にいたのは数名の女性教員と生徒。もしかして他の先生は音を聞いて現場に駆けつけたのか?

 取り敢えず俺は先程の事を報告すると、足早に職員室を後にした。




 さて、先生にも伝えたし早く帰ろうかな……と、勿論そんな気にはなれず、一度目にしてしまった出来事は気になる(たち)でして…………ましてや自分の義妹が関わっているとなると尚の事だ。


 俺は職員室を出ると、例の現場に直行した。だが、その廊下には割られたガラスの残骸だけで、人の姿が見られなかった。

 しかし側を見れば、カーテンの閉まった視聴覚室。怪しすぎる。



 中を確認したいけど閉めきったカーテンがそれを阻む。どっかに隙間でもないかな……。きっと中に、真希ちゃんに私服の生徒、あの不藤という先生がいるんだろう。どうにかして中を確認……やっぱ正面突破?



 あれ……何か落ちてる。これって……。





ーーパリンッ



「なんだ!?」


 扉が開いた瞬間、俺は反対側の扉から中へと入る。……コッソリと。




 開いた扉のお陰で中の様子もわかり、腰を低くしながら俺は真希ちゃんの側へ近付く。


「何であなたがここに……? さっき窓が割れて……」

「廊下にトンカチみたいなもんが落ちててさ……。それをこの部屋の入り口目掛けて放ったら窓が割れちゃった」


「トンカチ……間違いではないですけどレスキューハンマーです。その隙に入って来たとか……無謀で無策ですね。中のどこに立てこもり犯がいるともわからないのに」


 後で怒られますよ……と溜め息と一緒に溢した真希ちゃんだが、心なしかホッとしている様に見えるのは俺の願望かな。



「…………え? 立てこもり?」



「ある意味そうなるかもな」


 レスキューハンマーという名のトンカチを俺に向けた私服の少年が言うと、部屋の明かりが少しだけ付いた。


「君! どうして入って来た!?」


 椅子に縛られていた不藤という先生はまた俺に向かって怒鳴って来た。


「うるさいなぁ……センセ。ムダ口叩くんだったら、どうしてこんな状況になってるかよく思い出してよ」


 金髪の大人びた雰囲気をした少女が携帯をいじりながら口にした。そして不藤の前の机に座り、携帯を見せた。



「これ、センセなんだって? こんな不祥事起こしてたんだ?」




 何をしているのかよくわからないが、彼女は不藤に写真のようなものを見せているみたいだ。


「何故それを……って? 誰かから送られて来たんだよね~。先生に復讐しろって事かな? あはッ、SNSにあげちゃおっかな~」

「……それは昔の……教師になる前の写真だ。今さら……」

「そんなの見てる側にはいつ撮られたものかわかんないじゃん。関係ないよ」



 復讐か知らんけど、この場から真希ちゃんを連れて逃げる方法を考えよう。立てこもり犯は目の前にいるハンマー少年に机に座る携帯少女、出入口に制服を着た少年二人。他に仲間がいるかはわからないけど、ここにいるのは四人。出入口はがっちり固められてるから出るには反対側の窓からか。



「ここ二階ですから」


 窓際をチラリと見ると、真希ちゃんがボソッと言う。俺の心情、見透かされていた?


 そうなると説得か? いやいや無理無理。となると、誰か来てくれるのを待つしかないな……。話を長引かせて時間稼ぎか……そもそも何でこんな状況下に陥ってるか不明だし。



「あのぉ……何でこうなってるんでしょう? 立てこもりって……何故?」


 恐る恐る手を上げると、そのまま質問を続けた。



「通りすがりのアンタたちには悪いけど、ちょっと付き合ってもらうから。あぁ、男の方は自分から飛び込んで来たんだっけ……」


 ハンマー少年がそう言いながら近付いて来ると、俺と真希ちゃんは手を紐で縛られてしまった。

 質問の答えになってないんですが……。


「質問の答えになってないんですがッ!」


 頭で思った事をすぐに口に出した。すると、不藤に猿轡(さるぐつわ)をさせていた私服の少女が俺の目の前に来て、携帯の画面をこちらに向けた。画面には不藤と制服を着た少女が仲睦まじく手を繋いでいる様子が写されていた。






 いや……だから何?


「だからこれが何だっての? 何で復讐する訳?」


 俺はまたもや思った事を直ぐ様投げやりな感じで聞いてみた。ちょっと面倒になってきたし……俺も真希ちゃんにも関係ない事ですし、興味もないし……。


「ここに来た先生たちに本当の事を知ってもらいたい……私たちにした事を……コイツの過ちを知って欲しい。ただそれだけ」


 携帯を下ろした少女は投げ捨てる様に俺に言うと、真希ちゃんに顔を向けた。……それでも質問の答えになってないんだけどなぁ。



「そういえば君もあのセンセが担当なんだっけ?」


「担任です……。一応」


「だったらわかるでしょ? アイツは酷いヤツだって……面倒事や自分の評価を下げる人間は切り捨てるヤツだって……」



 少女はしゃがみ込み、真希ちゃんを見る。そんな彼女を見た真希ちゃんは下を向いた。その様子に少女は立ち上がり、溜め息を吐く。


「何それ。そっか……君は優等生でアイツのペットなのかな……。残念な子」




「私はペットなんかじゃない……。エサをあげない飼い主の事なんて信じられない」


 真希ちゃんは小さく口を開くと少女を見た。


「何が『復讐』よ! 何が『本当の事を知ってもらいたい』よ! あんた達不良のせいでもあるんだから! 授業は中断するし、そのくせ贔屓(ひいき)されてるし! 何でなの!? 何で不真面目なあの子が出来たら誉められて、私が出来たら当たり前なの!? 私だって頑張ってるんだから……」


 前のめりになりながらも少し震えていた真希ちゃんは、少女に向かって不平不満を力一杯叫んだ。時折、不藤を見ていたのでこの前の事を考えるとアイツへのメッセージでもあるのだろうと俺は勝手ながら解釈してしまった。


「贔屓されてるのはあんたみたいなクソ真面目な優等生じゃないッ!!」


 少女は真希ちゃんに近付き、食らいつく様に話す。その勢いがある形相に真希ちゃんは少し(おのの)いた様子だった。




 は、話が見えない……。


「高等部でも去年の事件の話は知ってるだろう?」


 キョトンとしていた俺にハンマー少年が聞いてきた。


「俺……最近ここに引っ越して来たから……」


「この男が生徒指導だった去年、学園に爆破予告があったんだ。よく先生達と揉めてた俺らをアイツは犯人だって押し付けたんだ。もちろん俺らはそんな予告なんて知らない。それだけじゃない……この学園の裏サイト経営だの、傷害事件だの、全て俺達を犯人に仕立て上げたんだ」


 少年は俺のそばに来ると、事のいきさつを語ってくれた。彼を見た真希ちゃんは前のめりになっていた態勢を戻し、少女は下を向いてしまった。




 ウラ……サイト。ウラサイトって何だろ……鉱石か何かか? 学園に採掘出来る場所があるのだろうか? そしてこの子達は濡れ衣を着せられてるって事か。



「……お前ら、こんな事をしてタダで済むと思うなよ」


 巻かれていた猿轡を何とかして外した不藤が口を挟んで来た。その声に驚いた少女は不藤に顔を向けて携帯を握り締める。


「それ以上喋ったら、この写真ばらまくわよッ!!」



 視聴覚室に少女の声が響いた後、カチカチと音を鳴らす時計以外の音声が消えた。

 彼らの狙いは、この場所に別の……第三者の先生が来るのを待って、過去の事件の真相を暴く……という感じか?


「ねぇ、君たちはさ……その(いわ)れのない噂をただの噂だって証明出来る?」


 こんな事をするという事は、何か誤魔化しようがない証拠があるはず。何もないのにこんな立てこもりなんてしない……はず。

 俺は少年たちを見回すと、彼らは目を泳がせている!?




「傷害事件なんて、その裏サイトに書いてただけだし、その裏サイトを私たちが経営してたのならそんな事書かないわよ」


 携帯をポチポチ触る少女は小さく言葉にした。しかしその声は、静まり返った部屋では十分なくらいよく聞こえた。



「そんなのは証拠にならないだろう!!」


「センセ知ってる?? また別のところでこの学校の裏サイトが出来てる事」


 少女は不藤に近付くと再度机の上に座る。じっと見つめている彼女に対し、この男は目を合わせようとはしていないみたいだった。


 またウラサイト……この学園は鉱石の宝庫か!?



「知ってたくせに! 私たちが犯人じゃないって! 他に犯人がいるって!」


 机を叩き、怒鳴りながら少女は不藤に噛みついた。


「センセだってあの時いたじゃん。生徒指導中に二回目の爆破予告が来た時にさ……」

「あれは香月(カゲツ)が掲示板に投稿したと告白している」


 自分たちの潔白を晴らそうとする少女だが、不藤は冷静に……というか冷徹に彼女を突き放した。




「おれ……じゃない……。俺じゃない! 俺だけど、アレは落ちてた携帯を拾っただけなんだ! ちょっと触ったらサイトに投稿されてて……はめられたんだ!」


 香月と思われる俺の前にいたハンマーを握った少年が、胸手をあてながら不藤ににじり寄る。


「しかしそれはお前の携帯だろう」

「そうだけど……違う……落ちて……た」


 冷たく見下すように不藤は言い放つと、香月は肩をすぼめ打ちひしがれた。



「酷い。センセは知ってたくせに……。爆破予告は……犯人別にいるって……裏サイトが復活してるって……これは仕組まれてるって……。センセのせいで私と香月は退学になったんだよっ!!」


 少女は不藤に手を上げてしまいそうな勢いで八つ当たりをするように力任せに机を叩いた。彼を睨む瞳が微かに潤んでいるようにも見えた。


 あれ……退学って言ったか? この二人は生徒じゃないのか。よく入れたな……残りの二人が手引きしたんだろうけど。




 静寂の中、カチカチと動く時計の長針。これはこのまま騒ぎに駆けつけた先生たちが来て解決、解散じゃないか……そう思ったが、急にこのしじまを破ったのは不藤だった。


「……確かに退学にまでなるとは思わなかった。しかし、事を大きくすれば生徒全員を疑わなくてはならない」

「それでも……それでもいいから助けて欲しかったのに。『自分が間違ってた』って言ってくれればいいだけなのに」



 少女は不藤の言葉に被せながら自分の気持ちを訴えていた。


 事を大きく出来ない……って、まるで彼らは無実だと言っているように聞こえたけど。裏で手引きしているやつがいるのか……それとも不藤の独断なのか。



「何か後ろめたい事でもあるんですか…? だから罪滅ぼしじゃないけど、不良ばかり甘やかすんですか?」


 何かを察知したかはわからないが、それまで彼らの行動を凝視していた真希ちゃんが、眼鏡を少し触りながら感情のない声音で不藤に言った。

 そんな彼女の様子に不藤は一瞬下を向くと、声をひそめて言葉をつむぎ出した。




「……ある日私のパソコンが開いていたんだ。マウスをクリックすると、見覚えのない掲示板に『◯月◯日◯◯に爆薬を仕掛けた』を投稿しました……と書かれていた。一度目の爆破予告は私が投稿してしまったようだ」


 教師とは思えないくらいのボソボソとした声で不藤が語りだす。


「誰の仕業かわからない。だが、その時、お前たちが学校で暴れて問題視されていたーー」

「だからって関係のないこの子たちを巻き込んだって事ですか!? 何も調べず罪を(なす)り付けたって事ですかッ!? 自分は悪くないって顔しやがって!!!!」



 俺はふらつきながら立ち上がると、近くの机を蹴り倒した。前のように不藤を掴みかかろうとしてしまったが、そこは手を縛られていたのと近くにいた香月という少年に静止された。

 不藤は蔑んだような目で俺を見た後、うっすらと笑みを浮かべた。




「そうだな……お前の言うとおりかもしれん。そして辰酉の言うように、私は心のどこかで自責の念に駆られていたのだろう……。厳しくするから反発するんだと思い、不真面目な生徒には気を配るようにした。結果、贔屓をしているように見えたのだろうな……」


 神に懺悔をするかように上を向きながら声を絞り出すが口調は淡々としていた。


 不平等に見える程の態度だったのか?

 しかしアメとムチは使いようって言うけど……起伏が激しいな。0か100しかないのかよ……。


「 教師になる以上、生徒から嫌われるのは覚悟をしていたが、私は今まで以上に恨みを買っていたんだろうな」

「こんな写真を撮られるなんて、相当恨みを買ってたんだよ……センセ」



 少女は携帯を見ると、ため息まじりに……しかしホッとしたのか少し笑っているようにも見えた。不藤が本当の事を話したからなのか?


 ……こいつが真実を言っているかどうかはわからないけど。それよりもその写真の出所はどこかが気になったし。





「センセ??」

「ああ……お前たちの退学処分を何とかしてもらえるよう掛け合おう」


 少女を見つめていた不藤に対し彼女が顔を覗き込み声をかけると、焦点が定まったようにそう言った。

 少女を見ていたというより携帯を見ていたのか?



「そんな事はいいよ……。今は定時制の高校行っててそれなりに楽しいし……それより――」

「話は終わったかしら??」


 急にドアが開いて入ってきたのは卯月先生と数名の先生と生徒たち。入り口にいた少年はいつの間にか消えていた。

 不藤を捕らえて騒ぎに駆けつけた先生たちが来る……彼らとってこれは計画通りなんだろうな。




「桜次郎大丈夫か? 何かまた事件に関わってたんだな……巻き込まれ体質ってやつか!?」

「……巳山?」


 そばに来た巳山は、俺と真希ちゃんの手を縛っていた紐をほどきながら大きい声で言った。


「あぁ……ありがとう。けど声がうるさい響く」

「……ありがとうございました」



「不藤先生、この後詳しい話を聞かせて頂きますが構いませんか? あなた達もいいかな?」


 卯月先生は不藤と、この部屋で立てこもり事件に関わった少年少女に同行を求めた。



「あ、粟田くんは義妹(いもうと)さんの事をお願いね。後、巳山くんたちとここの片付けをしてくれたら助かっちゃうな」

「えッ!? マジ!?!? あー……来るんじゃなかったぁ」


 ウインクをした卯月先生は『よろしくね』と言わんばかりに手を振って、立てこもり事件の関係者と共に消えていった。

 うん……まぁ、俺と真希ちゃんも関係者だけどな。



 そういえば香月という少年が最後、何か言おうとしていた気がするような……。俺が気にしても意味がないけど……先生たちに任せよう。






「何でさ……オレらがこんな事しなきゃならんの……業者に頼めばいいのにさ」


 割れた窓ガラス拾う巳山がグチグチと何か言っている。

 確かに一理あるかも。だが、派手に割れてはいるが範囲は狭い……業者に頼む程なのか?

 俺の想像だけど窓ガラスを割ったのは侵入の為ではなく、誰かに気付いてもらう為だろう。それより、このガラスの値段っていくらなんだろうか……結構分厚そうだけど。



「というか巳山、危ないから軍手付けろよ……」

「心配してくれてんの? 心配性だなぁ……」


 だってお前危なっかしいじゃん……。いつかガラスを握り締めそうで見ててヒヤッとする。

 俺は巳山に軍手と細かいガラスを集める用にガムテープも渡した。


「なんかこれってさ、どっかに強盗行くみたいじゃない?」

「全く『みたい』じゃないから……さっさとしろよ、帰れねーだろ」



 大きい声でバカな事をほざいている男子高校生は放っておいて、窓ガラスのない窓にはダンボールを貼っておくべきなのであろうか……? しかしこの学園にダンボールってどうなんだろ……。ちょっと不釣り合いかな。



「桜次郎ってマジメだよなー。窓ガラスとか、自分が壊した訳じゃないのにさ……皆もだけど」


 周りの生徒を見渡しブー垂れながら彼は軍手をはめていた。


 真面目ね……。



「でも、これ誰かがやらないといけないだろ。卯月先生にも言われたし」

「それだよ! 大人の言うことを聞いていればマジメ。反発したらフマジメ」

「外見をキチッと整えていたら優等生。着崩していたら不良……何でそうなるんだ?」


 俺はそんな疑問を投げ掛けた。


「オレに聞く、それ? ……んー、何故かそんなレッテル貼られてるんだよな。まぁそれは見た目だけの問題じゃないかもしれんけど、大半が容姿から入るだろ……見た目や噂で敬遠するヤツもいるよな」


 巳山はそう言いながら拾ったガラスを見ていた。



 見た目だけで判断か……そんなもんだろうけど、何だか理不尽な気がしてならない。


「真希ちゃん、こいつの事どう思う?」


 巳山を指しながら近くで掃除をする真希ちゃんに聞いてみた。


「掃除をやらされてる不良」


 やっぱ不良かぁ……。最初俺も『チャラそう』とか思ったし。見た目って大事なんだな。俺もちゃんと清潔感のある感じにしよ……。





「でも……悪い人ではないと思いました」


 息を吐くように喋りながら少し微笑んだ真希ちゃんは巳山と目が合うと、サッと下を向いて掃き掃除をし出した。



「桜次郎の義妹(いもうと)ちゃん可愛いなぁ~。笑うと最高! 優等生って感じがまた良いんだよな。そういう子って意外とエロいんだよー」

「前言撤回します」


 真希ちゃんのそばに寄って行った巳山は距離を取られて受け流されると、一瞬落ち込むがそのまま他の女子生徒の方へと歩み寄って行った。




「真希ちゃんは高等部にまで来て頑張ってるし、スゴいと思うよ」

「急に何ですか?」


 怪訝そうな顔をしつつも、彼女は視線を俺に向けて来た。



「……何で真希ちゃんがさ……中学のテストとかより高校の勉強を急いでするかは知らないけど、わからない事は聞けばいいと思うよ」


「貴方に聞いたところでわからないと思います」


 突き放すような声音の言葉。やっぱり俺ってあまり好かれてないよね。



「俺に……じゃなくてさ。いや、俺にでもいいんだけど、いっぱいいるじゃん……家に。勉強だったら大学生のお姉さんもいるし、鈴芽も結構頭良いしさ。相談相手だったら羽流ちゃんや天子ちゃんとか……俺もいるし。あ、それでも話しにくかったり困っていても黒野さんや皆さんもいるから……」



 真希ちゃんがジッと俺の顔をみつめている。角度のせいか、眼鏡の奥がよく見えない……。言葉を詰まらせていると、『フフ』と微かに笑い声が聞こえた。


「あ……えーっと」

「いえ……すみません。よく喋るなぁ……って。どうぞ続けて下さい」



 続けて下さい? それを言われると話しにくいぞ。


「つまり……俺が思うに学校だけが全てじゃないし……ってここで言ったら怒られるか」



 少し照れながら話していたが、真希ちゃんは窓に手を当て外を眺めていた。少し間が空いた後に空を見ながら(おもむ)ろに口を開き出した。



「そうですね……。いろいろ急いでいたのかしれません。焦って点数を獲得しようと……。私、海外の高校に行きたかったんです」


 くるりとこちら向いた真希ちゃんはにっこりと微笑んだ。俺もその笑顔につられて自然と口角が上がる。


「聞ける人が近くにいるってだけで幸せな事なんだよ……。さて、だいたい片付いたし先生に報告して帰ろ」


 周りを確認した俺は真希ちゃんの持っていた大きめの(ほうき)とガラスの破片が入ったダンボールを手に持った。





 何はともあれ一件落着……でいいのであろうか?


 事件の真相を暴く……みたいな事だったのだろうけど、真相ってなんだ? 発端は不藤だったが、背後に別の何かが見えた気がしたんだが……。

 裏サイトに爆破予告、不藤や少年たちを巻き込んだのは一体。自然に学園への侵入が出来る人物? しかし、中高大と全生徒がこれを行う事は出来る……それは生徒じゃない可能性だってある。



 考えても仕方ないし俺には何も出来ない。


 だから何も起きなければいいのだけど……。


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