千代に八千代に①
「移動だりぃーな」
「次、終わったら帰れるだろ……」
次の時間割は移動教室の為、ボヤく巳山と俺は長い渡り廊下を歩いていた。
「あ……」
「へぇ」
次々とすれ違う人々は俺をジロリと見る。
「あれ、上級生じゃね? 桜次郎、有名になったねぇー。女の子からの熱視線だなんてモテモテじゃん。うらやましいぞ」
「……あれは熱視線というか、後ろ指をさしてるんだって」
深く溜め息を吐きながら、キョロキョロと周囲を見渡す巳山に言った。
「えー、でも目立っててうらやましいなー。うしろ指でもいいからさされたい~」
「今だけ。皆、その内飽きるだろ」
この間の【厩舎小火騒ぎ】で噂に尾ひれがついて、何だか注目されてしまった。一躍時の人。
まぁ、すぐに忘れられるんだろうけど。……てか、早く忘れてくれ。俺は巳山みたいに目立ちたがりじゃないんで、注目なんてされたくない。
再度溜め息をつくと、目の前から金髪の女の子が巳山以上にダルそうな感じで歩いて来た。
「千代花ちゃん?」
俺の声に反応して、彼女は目を細くしてこちらを見る。
「この時間に千代がいるなんて珍しぃー」
「それじゃー、あたいがいつもサボってるみたいじゃねーか」
千代花ちゃんは巳山の言葉に面倒臭そうに答える。
「あら、そうじゃありませんの?」
「ゲッ……」
顔を歪ませた千代花ちゃんの視線の先には、腕を組んだ申空時さんがツカツカと俺たちの前に現れた。
「まぁ、帰って下さって結構ですわよ。むしろ、辞めて下さって構いませんわ」
申空時さんは満面の笑みを向けて千代花ちゃんに言う。
「ケッ! そんなにあたいに辞めて欲しいのかよ 」
「ええ。学園の為ですもの」
「辞めたっていいぜ? けど、テメェの言いなりになるのは屈辱だから辞めてやんねー」
申空時さんの発言に、千代花ちゃんは『ケケケ』と肩を震わせて笑う。その様子に、申空時さんの顔から笑顔が消えていった。
「おい、二人とも……。申空時さん、『辞めろ』ってのは言い過ぎだよ……それに千代花ちゃんもそれを煽らない」
俺は頭をボリボリと掻きながら、二人の顔を見て漏らすように言葉に出した。
「でも桜次郎様、あの子がいたら、学園の黒い噂が絶えませんわッ」
申空時さんは俺の腕を掴み、千代花ちゃんを指す。
「あ? 黒い噂って何だよ、黒い噂って?」
「あら失礼。『噂』じゃありませんわね。事実ですものね」
「このアマ……」
片手を口元に当て、クスッと笑う申空時さんに、今にも掴みかかりそうな勢いの千代花ちゃん。
「まぁ、乱暴な人ですこと。女性たるもの、少しは言葉使いに気を付けなさっては? 桜次郎様は淑女がお好きですわよね」
俺の腕をギュッと強く掴みながら、申空時さんがこちらを向いた。
淑女……。そりゃあ、乱雑な娘よりは優しくて大人しい子の方が俺はいいと思うけど。
「だーッ! もう、ウッセーなァ! イチャついてんじゃねーよ、キモい!!」
「あらあら、嫉妬かしら。見苦しいですわ」
「ちげーよバーカ!! お前らバカップルに付き合ってられるかッ!!」
千代花ちゃんはそう言って、足早に俺らの前から去って行く。
「負け犬の遠吠えですわ。では桜次郎様また後で。ごきげんよう」
申空時さんは勝ち誇ったように、高飛車な笑い声で俺たちから離れて行った。
「あーあ、行っちゃた。でも、オレらも急がないと間に合わんぜ?」
今まで口を閉ざしていた巳山が喋り出した。
「……お前も止めろよ、ケンカ」
「見てる方がいいじゃん。被害少ないし」
見てるだけ……か。高みの見物。
確かにそっちのが楽で被害も少ないし賢いのかもな。
ガックリと項垂れていると、彼は急かすように俺の肩を叩く。
「早く行こうぜ。次、合唱だし。桜次郎の歌声が聴けるぅー」
キャピキャピと、女子みたく楽しそうに待ちわびる男が目の前にいる。そんな巳山の台詞に引きつってしまった。
……次は合唱か。憂鬱だ。
どんよりとした雨雲を頭上に浮かべた俺は、ウキウキとした足取りの巳山と音楽室へ向かうのだった。
「あんな聞き耳立てられたら声が出ないんだが……」
俺は鞄を片手に、小さな声でぶつくさと独り言を言いながらトボトボと帰り道を歩いていた。すると、どこからか謎の音が聞こえる。
「ウッセーんだよ! テメェらとは縁を切ったっつっただろッ!!」
「縁を切るだぁ!? はは……寝言は寝て言えよ」
物凄い怒号が飛び交うのは、あの細い路地らしき場所から。
うわぁ……チンピラ同士の喧嘩か何かかな? 申空時さんの口喧嘩とは違い、チンピラとなるとやっぱ怖いな。
「永遠に忠誠を誓ったんじゃなかったのか、チヨカ?」
チヨカ……って千代花ちゃん?
俺はギョッとして、路地の方向に耳を傾けた。
――バキッ!
殴る音がしたと同時に、バタバタと複数の人間が暴れる音が耳に入る。
こ、これはヤバい状況なのではないのか?
俺はすぐさま、路地の中へと入って行った。
「千代花ちゃん!?」
やっぱりあの千代花ちゃんだ。
彼女は複数の柄の悪そうな女子に囲まれていた。俺は急いでそちらへ駆け寄る。
「な、なんでお前がここにいんだよ!」
口元に手を当てた千代花ちゃんは、息を切らせながら俺を睨んで言った。足がふらつき、低い姿勢の千代花ちゃんに寄り添うように、俺はしゃがみこんだ。
「誰だコイツ? チヨカの男か? まさか男が原因って訳じゃねーよなぁ」
赤毛をツンツンに立てたその集団のボスらしき娘が、ペッぺと嫌そうに口を開く。
「違う!! こいつはただの通りすがり、全く関係ない他人だ!」
千代花ちゃんはギリッと唇を噛み締めて、厳しい視線と共に集団のボスに言葉を放つ。そして俺のそばからも遠ざかる。
「千代花ちゃん……」
「そうか。通りすがりか……。通りすがりの男、運が悪かったな。こんな場面に立ち会っちまってよ!!」
赤い髪をしたボスがこちらを向かって来て不気味に笑ったとかと思うと、彼女の痛そうなブーツが俺の頭上から降ってきた。
「ッ!!」
赤い髪の彼女が放った蹴りは、見事クリーンヒット。脳震盪を起こしてしまいそうな勢いで、俺は地面にバタリと倒れ込んだ。
「桜次郎っ!!」
千代花ちゃんらしき人が、ゆっくりとこちらに来ようとしていた。だが、ヤンキー集団たちが彼女を囲む。
「恨むなら、ワガママな彼女と自分の弱さを恨むんだな」
上から聞こえた声に顔を向ける。目線の先には、血の気が引いた俺を見下した赤毛の女。
ガシッと襟ぐりを捕まれ、無理矢理立たされたかと思うと、ふと俺の中で意識が飛んでいき、目の前から映像が消えた。
「……み!」
微かに耳に聞こえる音。声?
「君、大丈夫か!?」
揺れる自分の体にハッとして、俺は急いで飛び起きる。
「良かった。声をかけても揺すっても、中々起きないから……」
目の前にはスーツを着たサラリーマンらしき中年の男性がいた。俺に声をかけ続けてたであろう人物。彼は安堵の表情を浮かべると、ハンカチをこちらに差し出してきた。
「大丈夫? 血、出てるけど……」
そんな彼の台詞に俺は顔を触る。
「痛ッ!」
鼻やら口やらから血がポトポトと流れ出てる。そうだ……あの後、俺、ボッコボコにされたんだ。それはそれは死ぬかと思うくらい……。
火傷も完治してないのに最悪だ……。思い出したら余計に痛くなってきた。
「あの……俺……」
ハンカチで顔を押さえながら男性の話を聞く。
「『警察を呼んだ』って言ったら不良たちは一目散に逃げてったよ」
男性の話によると、俺以外はこの場から去って行ったみたいだ。……千代花ちゃんも。
千代花ちゃん、大丈夫なのか? あの集団は一体?
俺は立ち上がろうと身体を動かしたが、痺れているのか何なのかわからないが、全く自由が利かない。つまり家に帰れない。
ヤバい……また病院とか嫌だ。
「あ、あの……」
俺は男性に頼んで鞄の中から携帯を出してもらい、黒野さんに電話を掛けてもらう事にした。
「はっ!!」
また眠っていた……いや、意識が飛んでいた? ここは?
見覚えのある天井。チラチラと瞳を動かしながら周囲を探る。
ここは俺の部屋? 屋敷の中だ。
「いてて……」
何とか身体は動かせるようだ。
重い身体を起こしてベッドから立ち上がった俺は、ミイラ男かと思う程グルグルと巻かれた包帯にギョッとした。
ふぅ……と、自然と深い溜め息が出る。そして、壁際へ歩むとカーテンを開けて窓の外を覗いた。
外は暗い。もう夜だ。
時計を見ると短針は十の数字を 指していた。
まだ頭がボーッとする。
握り締めていたハンカチを見た。
……そうだ、あの男の人にお礼を言わなきゃ。しかし、名前も聞いてないし、どこの誰かもわからない。
「はぁ……」
息を吐くと同時に腹の虫が鳴った。
腹減った。何か食い物恵んでくれないかな……。
俺はフラフラと危なっかしい足取りで部屋を出て行った。
こんな時間に晩飯とか用意されてるはずないよな。そう思いながらも足を進める。
「あれ……?」
明かりの灯ったダイニングルームからは話し声が聞こえる。そっと音を立てずに中へと入った。
中で話していたのは、黒野さんと俺を助けてくれたサラリーマン風の男性。
「あ、あの!」
ゆっくりとした足取りで駆け寄ると 、彼にお礼する。
「桜次郎様! まだ起きてはお身体に障ります!!」
黒野さんは急いでこちらへ来て、俺を支える。
「具合は少しは良くなったのかな?」
男性はにっこりと微笑むと、ジーッとこちらを見ながら続けた。
「まさか君が後吉君の息子だとはね……」
……ん? 後吉さん……?
「あぁ、僕は画商でね。後吉君とは昔から交流があるんだ」
首を傾け、不思議そうな顔をしていた俺に男性は補足してくれた。
後吉さんの仕事関係者?
「お、桜次郎っていいます! 危ないところを助けて頂きありがとうございました!」
深々と頭を下げた俺は、自己紹介を兼ねて再度お礼をする。
「わたしは子津零一と申します。さ、頭を上げて」
子津さんはポンッと、俺の腕を軽く叩いた。そして席を立つと、黒野さんの方を向く。
「では、わたしはこの辺で失礼するよ。長居してしまって申し訳なかったね。……桜次郎君、お大事にね」
「は、はい……ありがとうございます」
子津さんはにこやかな笑顔を向けて去って行った。
やり手の商社マンといった感じのダンディーな紳士だったな。
格好いいお客さんを見送ると、急いで黒野さんの顔を見る。
「黒野さん、千代花ちゃんは部屋にいますか?」
椅子に手を掛けながら黒野さんに身体を向けて聞く。
俺のその言葉に、彼は下を向いた。
「今日も帰って来てません……」
帰ってない? 『も』って事は今日以外も?
彼の顔には【心配】という文字で埋め尽くされていた。
「あれ? でも、学校には来てたけど……」
「そうなんです。学園には登校しているみたいなんですが……」
連絡が全くつかないんだと、黒野さんは長い息を吐く。
「そうですか。じゃあ俺、明日千代花ちゃんに……」
そう言いかけた時、俺の腹からグーっと音が鳴った。そしてヘナヘナと身体が崩れる。
「そうだ……何か食い物ないですか……力が出なくて。残飯でも何でもいいです……」
「では簡単に何か作りましょうか。しかし、私が作るので味の保証は出来ませんよ?」
黒野さんはキラキラとした爽やかな笑顔で俺の返事を聞くと、颯爽と部屋を出て行ってしまった。
ぽつんと取り残された俺は、取り敢えず椅子に座る。そして態度の悪い生徒のようにぐでんとだらけた。
次の朝、身体中ギシギシといっていたが、ムクリと起きて制服に着替える。
昨晩黒野さんが作ってくれたのはお粥だった。俺、怪我人ではあっても病人じゃないんですけど……。 でも、優しい味付けでとても美味しかった。今まで食べた豪華な料理よりも、俺の口には合っていた。
昨日の事を思い返しながら、ノロノロと下の階へと歩く。
徐に廊下の時計を見た。
「えっ……もうこんな時間!?」
飯を食ってる暇ないじゃねーか。 ダイニングに向かっていたが、急遽玄関へと足を進めた。
だが、目の前に立ちはだかる人物 。
「桜次郎様……お願いですから安静にしていて下さい……」
呆れているような表情の黒野さんが行く手を阻む。
「『安静に』ってもう大丈夫ですよ。動けますし」
俺は少し痛む腕をゆっくりと動かした。その様子を見た黒野さんは、再び深く息を吐く。
「あー! 何でもうこんな時間な訳!? クロノ、早く車呼んで……って、オージロー!?」
良いのか悪いのかわからない、微妙なタイミングでパンをくわえた鈴芽が現れた。
「だ、大丈夫なのアンタ……」
じろじろと見る彼女に首を縦に振って答える。
「ふーん……そ、そう」
パンをゴクンと飲み込んだ鈴芽は、俺と目が合うと俊敏に目を逸らした。しかし、彼女はチラチラとこちらを見る。
「俺も早くしないと遅刻しちまう……黒野さん、通して下さい」
「……」
う……何だかいつもの黒野さんの雰囲気とは違い、俺を見る視線が痛い……。
「かしこまりました。お二方共急ぎましょう」
観念したように黒野さんが俺たちの靴を出す。
「ただし、学園まで私が責任をもって送らせて頂きます」
黒野さんは車を出すので待っとくように俺たちに言うと、車庫へと急いだ。どうやら彼が直々に運転するらしい。鈴芽曰く、登下校時に運転手以外が送り迎えするのは珍しい事みたいだ。
「そうだ。鈴芽、千代花ちゃん知らない? 昨日帰って来てないみたいだけど……」
「は? 何でチヨカが出てくんの? アンタ、アイツに何かされた?」
鈴芽は靴を履きながら、チラッと俺に顔を向ける。
「え……いや……」
「何よ。ハッキリしないわね。……まぁ、あんな不良娘なんて知らないわよ。クラスも違うし会う事ないし」
ツンとしながら答えた鈴芽は、靴を履き終えるとさっさと玄関を出て行った。
屋敷を出ると、豪邸には似つかわしくない、こじんまりとした車が停まっていた。
「クロノのヤツ、まだ軽なんかに乗ってるの……」
ブツブツと言いながら、鈴芽は小さな車の中へと入って行った。 そして黒野さんに促され、俺も中へ急ぐ。
あっという間に着いた。
鈴芽は何も言わず、先々と車を後にして、一人で教室へ行ってしまう。
同じクラスなんだし、一緒に行ってくれてもいいじゃん……とか思ったが、怪我をしている今の俺とじゃあ彼女に迷惑かけるだけか。
ノロノロ歩きしか出来ないもんな。
「……それでも教室くらい一人で行けるんですけど」
俺は黒野さんに連れられて教室に向かっていた。
「お、桜次郎様!?」
廊下を歩いていると、前から黒服をゾロゾロと引き連れた女の子がスタスタと俺に近づいて来た。申空時さんだ。
「どうなさったんです!? 動いて大丈夫なんですの!! だから昨日、学園をお休みになったのですね」
「いやぁ……大した事は……」
……ん? 昨日学校休んだか? 俺。
斜め上を向き、昨日の事を考える。
もしや、俺、丸一日寝てた?
瞳を動かして黒野さんの顔を伺うと、彼は無言で微笑んだ。その様子に、少しばかりの冷や汗がたらり……。
記憶がない。まぁ、ずっと寝てたんだろうから、当たり前と言えば当たり前なんだが。まさかそんなに眠ってたなんて……。
「全身に軽い打撲……後、擦り傷。一番の原因は過労でした。しかし、桜次郎様の回復力は相当です。なので、ご心配なさらず、申空時様」
黒野さんの言葉を食い入るように聞く申空時さんと俺。過労……って、俺はそんなに疲れてたのか?
つーか、軽症の割には包帯グルグルじゃねー? 本当に軽症だったのか?
「あら? この方、桜次郎様のバトラーだったのですわね……ふぅーん」
バ? バトラー? 戦う人?
申空時さんの言った単語に頭を捻る。黒野さんは彼女にペコリと会釈した。
「ごきげんよう申空時様。しかし、私はバトラーなど大それた役職ではありません。只のお手伝い……言わばフットマンです」
黒野さんは胸に手を当て、申空時さんに頭を下げる。
フットマン? 足男?
「フットマンは召し使い……つまり、男のお手伝いさんの事だよぉー」
ひょっこりと背後から登場した羽流ちゃんが俺の隣に立つ。
「それより桜ちゃん、大丈夫なの?」
羽流ちゃんのうるうるとした瞳がこちらを見据える。そして俺の身体をツンツンと突っつく。
「いて……は、羽流ちゃん……いてッ」
「ちょっと! 馬鹿担当の辰酉さん!? 気安く桜次郎様に触らないで下さいません! 痛がっているでしょう!!」
申空時さんはドスドスと羽流ちゃんの前へ行くと、俺を突く彼女の腕を掴もうとした。だが、すんでのところで羽流ちゃんはニコニコしながらサッとかわす。
羽流ちゃんの行動に申空時さんはムスッとした様子だった。
「そうだ。羽流ちゃん、今日千代花ちゃん見かけてない?」
確か、この二人仲良さそうにしてたよーな。そう思って聞いてみた。
「最近会わないんだよねぇー。学校に来てるのか来てないのか良くわかんないし」
フルフルと首を横に振りながら羽流ちゃんは口を尖らす。
授業に出ていたかどうかは置いといて、一昨日は来ていた。今日は学校来てるのかな……?
薄目にしながら考えていると、申空時さんが声をかけてきた。
「早くしないとチャイムが鳴りそうな雰囲気ですわ」
そうだ。こんな所で井戸端会議をしている暇はないんじゃないか!?
「あの……黒野さん、ここで大丈夫ですので」
会釈をし別れを告げて、教室へと急ごうとした。しかし、黒野さんに呼び止められた。
「羽流様に桜次郎様、旦那様と奥様からこれを渡すようにと……」
羽流ちゃんと俺が黒野さんから手渡されたのは手紙。母さんと後吉さんから?
急いでると言ってる癖に、その場で封を開けて手紙を読んだ。だって急ぎの用事だと困るし……。
「えっ……」
「んーと、なになにー」
俺と羽流ちゃんは同時に文章を読むと、一瞬固まる。
「えぇーーーーっ!!!!」
チャイムが鳴る中、俺たちの叫びは長い廊下中に響きこだました。




