目の前のソレ
.....ぼーっとする、頭が痛い。
ここはどこだろうか、うっすらとした意識の中目を覚ました。
僕の周りに4つの壁が立っていて、その真ん中に座っている。
どうやら公衆トイレにいるみたいだ。
そうだ、酒を飲みすぎてしまったんだ。
昨日の記憶がない、完全にやらかした。
確認すると2万円は入っていたであろう財布には千円も入ってなかった。
本当にやらかした、最悪だ。
しかし、今は春休み中、幸いにも大学はない。
.......帰るか。
そう思い、トイレの扉を開いた。
「..... ひゃっ!!!」
声にならない声が出た。
紛れもなくトイレの中に女の人が倒れている。
ためらいながらも、恐る恐る近づく。
驚いた、本当に驚いた、僕の目の前で倒れてるいる女の人は僕の彼女だった人だ。
彼女だった、というのは1週間前に縁が切れてしまったのだが。
「なつき!起きてる!?」
返事がない。
「なつき!?大丈夫??」
相変わらず返事がない。
彼女を起こそうと手を取る。
......冷たい
脈拍を測ってみる。
......血液が流れている様子がない。
やばいやばいやばいやばいやばい!
完全にパニックだ、どうしようどうしよ、
完全に死んでる、本当に死んでるのか?
え、どうしよう。
死体なんて見るのは中学の時にしたおじいちゃんの葬式以来だ。
「落ち着け落ち着け落ち着け、俺」
自分に言い聞かせるように何回も呟く、しかし落ち着くはずがない。
目の前のソレは微動だにしない。
落ち着けるわけがない、目の前で人が死んでいるのだから。
...僕はそのまま逃げるようにトイレから走り去ってしまった。