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今日から学校と仕事、始まります。②莞

こんなに頑張ってるのに、なんで怒られるんですか。

作者: 孤独

寒くなる時期にはこれだねぇ。

自販機の前で何を飲むべきか、迷う事なく選んだ。


「お茶」

「コーヒー」


味覚が別れている証拠か。年代が違って育っていけば、趣向が変わっているんだろう。

単に個人の問題かもしれないけれど。

八木と山口は寒さから一時的に逃れ、配達途中でトイレを探すこととなる飲み物休憩をしている時。会社内での世間話にしては、他人事にしているもの。


さねの奴、大変だよな。俺が教育係じゃなくて良かった」

「ほとんどの人、教育係ってやりたくないからな」


どんな仕事もそうであるが、現場で働く人間にもそれぞれ役職と似た”格付け”というものがある。

その格付けによって業務量は多くて濃く。当然、待遇面が異なるのも事実である。


そんな濃い業務量の中で、どの仕事にも避けられず、存在しているキツイ業務。

”新人教育”というものがある。

会社で働き始める者達を導くという大切な仕事。

やってて思うに。


「俺も結構ひでぇ事をしてたと思うんだよ。新人の頃はさ、それを頑張って許すのが難しいよな」

「新人っていうか、人それぞれ変わってるから。マニュアルもあるとかないとかじゃなく。そいつに適しているかどうかだしな。運だよ、運」


昔は酷かったなぁっとか。昔は良かったなっとか。

自分の足跡を調べる、良い機会でもあると思う。やってみると良い経験であることに違いない。



◇       ◇



ザーーーーーーッ


季節の変わり目には雨が降るという。

外で働く者達にとって、雨の環境はキツイ。気温も下がっていると風邪を引きやすく体調管理が大変。視界も見え辛く、体が縮こまって動き辛く、雨から荷物を保護する丁寧さも必要になる。


「これ大切な荷物なんだから!濡らさないでよ!!中が今回、無事だったから良かったけど!酷い濡れ方よ!」

「申し訳ございません」


玄関を開けただけで、暖房の熱気が来る御宅でご説教を喰らう。

責任者を出せという事で新人くんと一緒に、彼の教育係として実さんが謝りに来た。

やっちまったことはしょうがねぇから謝るしかない。


「ちゃんと仕事ぐらいこなしなさいよ!教えてる方もどうかしてるし、ちゃんと教育を受けてるの!?これだからあんた達の会社はダメなのよ!!」

「今後ないように、配慮いたします」


何かしらで他人にマウントがとれると、異様なアタリをしてくるのはいつものことである。

だからこそ、ミスというのはよろしくない事だ。かといって、ミスを責め続けるという事も、正しいとは言えない。

だったらと思う気持ちに、他所の会社を使って欲しいと言いたい時もあるし、そーいう御宅もあるものだ。まぁ、今日はそうでないのが残念だったが……。

仕事というのは熟練者と新人とでは能力や配慮のレベルが違っており、人それぞれの考え方が違う。マニュアル対応として、謝罪と反省、これからの方針を出すというのが企業における。この手のミスの改善策はそんなもん。そして、言ってる側からした


『ぶっちゃけ怒りたいだけ』


が大半である。暇というのもある。

お前等のやっている事なんざ、知らんけど。ミスしたのは悪いんだと、伝えるだけの事。

別に怒らない客もいるものだし、荷物の濡れ加減というのは中身次第だし、考え方も違う。


”二度とないように”、”配達員代えて”


色々な終わり方があるが、今回は怒るだけで終わりそうだった。

新人くんの様子を気に留められるものではないが、頭を下げている状態で握った拳が震えていた。悔しいというものか、あるいは……


「こんなに頑張ってるのに、なんで怒られるんですか!!」


別に荷物の中はなんともねぇに、外装が濡れているだけでこんな仕打ちが許せなかった。

なんでこんな事で怒られなきゃいけないと、彼としては客の考えに理解ができず。逆にこんな寒い雨の日に働いていて、客は温かいところでぬくぬくとしている環境の差。

自分がミスじゃないと思っている事に、ミスと伝える客と、それを認めて謝る先輩とかが許せなかった。


「雨の日に配達してみろ、おばさん!!」


仕事の怒りが爆発してしまう。実も不意過ぎて、驚きがあったが。


「お、落ち着け!なにを怒ってる!」

「やってもねぇことにケチつけてんじゃねぇ!!それくらいで怒ってんじゃねぇよ!!」

「なに、あなたの態度!そんな気持ちで仕事してんの!!」


個人としての気持ち。

尊重しろとも言うべきか、怒った新人である。

再度、実が頭を大きく下げ、怒る新人を宥めながら一緒に帰る。

胸中互いにまともな心ではないが、実は運転しながら新人に教えるとか、伝えるとかではなく。……なんと言えばいいんだろうか。


「言い返したい気持ちもある。他の会社を使えばいいとかもあるよ」

「……………」

「君は確かに新人だし、頑張っているよ。だけど、ここは君だけの企業じゃないんだよ。それはどこも一緒だ。私や山口、矢木、木下さんとか、いろんな人がいて、その上にもその下にも支えている人がいる」


説教しながら車を運転する。

自分もレベルが上がっているなって、関心するよ。


「信用や信頼というのはすぐにできるものじゃないし、すぐに捨てられる事でもない。君は気にしてないかもしれないけれど、君の言葉や行為が広まればどれだけ企業に損失があるか、分かる?」

「損失とか、そんなの……」

「君が今辞める分でも足りないぐらいのお金だよ。法的な事は詳しくないから言わないけど、……どこを働くにしても、信用を裏切る行為が一番の損失だよ。そして、信用を作るのは君自身がこれから考えて生きていくしかないよ」

「……………はい」

「帰ったら、何か飲み物を奢ってあげるよ。なにがいい?」


辞めるだろうな。

そう思っている。だからこそ、この企業のことは忘れてもいいから、忘れないで欲しいものを次の企業で活かして欲しいと、実は思う。

人にはいろんな道を通り、ここに来ているのだから。上手く言えないものだな。




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