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全5話。一日1話。最後に設定集のような妄想の書き綴りを投稿する予定です。よかったら最後までお付き合いください。

「殺してやる...…。必ずお前を...…」


 その言葉が今でも頭から離れない。


 ・・・


 この世界は、数年前まで戦火の火に包まれていた。

 突如として空いた地獄の蓋。そこからあふれ出す魔族という生物。知性と力を持ったそいつらは、人間の世界を、蹂躙していった。

 人間もただ負けていたわけではない。個としての戦いを重視し、好き勝手暴れまわる魔族に対し、人間は群としての力で対抗した。だが、一騎当千の力を持った存在には、たとえ万の軍勢でかかったとしても、勝つことはできなかった。

 しかし、切り札はあった。その昔、錬金術によって作られた【神剣】と呼ばれる武器だ。しかし、使うためには適性が必要らしく、国は総力を挙げて適性者を探し出した。

 神剣は四本。地水火風の属性があてはめられており、そして水の神剣に選ばれた担い手こそが、俺だった。

 ほか三人が一般からの選考だったのに対し、下っ端とはいえ兵役に就いていた俺は、すぐに戦場に投入された。

 戦って、戦って、戦って、戦って、そして俺は、間違いを犯した。


 これから話すのは、すべてが終わった後の後日談。

 物語は終わり、スポットライトを浴びる者はもういないステージの上で行われるある男の間違いから続いた日常の一幕だ。


 ・・・


「♪~」


 俺の朝は透き通るような歌声で始まる。

 目を覚まし、カーテンを開けて窓を開ける。そこから見下ろせば、庭にいるのは一人の人物だった。


「あ、おはよう」


 俺の存在に気付き、庭で洗濯を行っていたらしいそいつは笑顔を向けて挨拶を送る。


「おう。相変わらず早いな」

「これでもメイドですし? ご飯すぐに用意するから着替えて顔洗ってね」


 そう言って丈の短いスカートを翻しながら、洗濯物を干して空になった籠をもって屋敷内に入ってくる。

 俺も言われたとおりに普段着に着替えて顔を洗う。徐々にだが、意識もはっきりとしてきた。

 食堂に向かえば、すでに隣接しているキッチンで機嫌よさそうに自称メイドは料理を作っていた。


「おーい、シアン。料理くらいなら俺でもするぞ」

「いいから座っててよ。好きでやってるんだから。それにメイドとしてご主人様の手を煩わせるわけにはいかないでしょ」

「ほざけファッションメイド」


 ...こいつ、ミニスカメイドガーター付きなんていう狙いすぎな格好をしているが、完全に趣味でやっている格好であり、本職でも何でもない。屋敷に住まわせ始めたころはこれでもかというくらい皿を割るわ、洗濯物は破くわで大変だった。

 完成した料理をテーブルに運び、俺の正面にシアンは座る。


「さ、いただきます」

「...ご主人様より先に食うなよメイドさん」


 そう言って俺も、いただきます、と手を合わせて食事に手をつける。


「うーん、我ながらいい出来」


 その声に目を正面のシアンに向ける。

 短く切り揃えられた青い髪。パッチリと開かれた海を思わせる青い瞳。全体的に細いラインの体つき。そして、()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()()()()()


 シアンは人間ではない。魔族の長、魔王の側近であり四天王【青龍】のシアンと呼ばれていた龍の血を引く魔族だった。

 過去、俺はこいつと戦い、そして勝ち、__間違いを犯した。

 その後戦争はいろいろあって、いや本当にいろいろあって、人間と魔族が手を取り合う方向に向かい、端的に言うなら第三の敵、黒幕の存在が現れたことで儚いながらも強力な同盟を組み、今の平和を掴み取った。

 その後、人間と魔族は人間派閥、魔族派閥、同盟派閥の大きく分けて三勢力に分かれ、本当の意味での平和には程遠いながらも今の時間を歩いている。

 俺は戦争での功績が認められ、隠居と、今後の生活保障、そして今住まう屋敷を賜った。隠居とは言うが、戦う力はあるし、自分も大きく関わった今の時代が生きてるうちにまた変な拗らせを起こしても困るため、時々くる指令書を生きがいに生活していた。そこに流れ着いたのが、かつての敵、シアンであった。


「ご主人様。美味しい?」

「ん、美味いよ」

「良かった」


 ふにゃりと緩みきった笑顔に、思わず頰が緩む。

 昔はいろいろあったし、問題も現在進行形で続いているが、俺は今の時間に満足していた。

 たとえ今のこの生活が薄氷の上に成り立っているものだとしても。


 ・・・


「ごちそうさま」

「おそまつさま」


 手を合わせ、感謝を示し、軽い解毒魔法を自分にかけて玄関へと向かう。あるものを確認するためだ。


「今日は……と、あったか」


 ポストの中を確認すると、一枚の封書が入っている。例の指令書であった。


「……指令書?」

「機嫌悪くすんなよ。しょうがないだろ」

「だってさー」


 洗い物を手早く終わらせたらしいシアンが指令書の存在に気付き、露骨に表情を曇らせる。

 仕事が入れば、その分俺との時間が削られるから。そんな可愛い理由で不機嫌になるシアンを見て、俺は頭をポンと叩く。


「ほれ。文句言いながらもどうせ着いてくんだろ。準備しろ」

「はぁ。いいけどさ。ボクだってただ手伝うと思われるのはちょっと癪だなー」

「なんなんだよ急に」


 いつもと違う反応に訝しみながら身構える。ただ、シアンは悪戯っ子のような表情を浮かべ俺の懐へとするりと入った。そして、


「んっ」

「っ」


 唐突に、視界いっぱいにシアンの顔が広がる。唇に柔らかい感触があたり、全身に幸福感が満ちる。

 あまりにも唐突に行動に何も反応ができず、ただ俺はその気持ち良さに身を委ねることしかできなかった。

 どれくらい経っただろうが。ゆっくりと離れていくシアンの顔を惚けながら眺め、イタズラ成功と言わんばかりの笑顔に胸がときめく。


「続き、したくない?」

「っ。お、おま」


 クスクスと口元を押さえながら笑う。しかし、俺の思考は完全に先ほどのキスに引っ張られていた。

 俺の愚息は完全にスイッチが入ってしまっているし、なにか言い返そうとしても頭が回らない。むしろ、やる気とか気合いとかが満ち満ちている。

 もう一度シアンが近づき、俺の耳元まで口を近づける。


「どうなの? したくないの?」


 囁くような声に脳がとろけるような感覚を覚える。

 正直、もう指令書とかどうでもよくなっていた。こんな可愛い娘に迫られているのに、据え膳食わぬは男の恥って言うじゃん。もう欲望に溺れてもいいんじゃないかな?

 だが、そう言うわけにもいかない事情もあった。

 俺は、シアンの腕を掴み体から引き離す。その手からカランとナイフが落ちた。


「……終わったらな」

「やりぃっ♪」


 喜びの感情を全身に溢れさしながら、シアンは自分の部屋に戻っていった。

 俺は愚息が鎮まるのを待った。


 ・・・


 俺は間違いを犯した。

 決して許されることはない間違い。

 その罪は決して消えることはない。

 ただ一つだけ言い訳をさせてほしい。

 俺は疲れていたんだ。戦いとか、神剣とか、担い手とか。そういった物事に。

 俺は疲れていたんだ。


「殺してやる……。必ずお前を……」


 その言葉が、今でも耳から離れない。

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