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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第11章:ピオニール集会所
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第93話:聖剣

 ヘルメスさんの後を続き三つ目の部屋へと入ると部屋の真ん中には台座の様な物が存在していた。しかしその台座自体は大した問題ではなく、そこに突き刺さっている剣が一番目を引く物だった。長さを見るに恐らく両刃の片手剣であり、刀身は台座に突き刺さっていた。また鞘が無いため、その黄金色に輝いている刀身はかなり注意を引くものだった。


「こ、これですね」

「ヘル姉、これ何? ただの剣に見えるけど」

「せ、正確には分かりません。私の記憶の中には覚えがありませんし……多分私が知らない間に作られた物だと……」

「見た通りじゃないのか? 剣と言えば……戦いに使う物だろ?」


 確かに剣と言えば他に使い道はない様に思える。もしもこの世に争いが無ければ、そもそもこんな物は作られなかっただろう。しかし人間はそこまで強くはない。


「でも妙じゃないかな? 僕は騎士でも無いし詳しくはないけど、普通こういう武器は鞘とかがあるものじゃないのかい? 剥き身のまま放置しておくというのはあり得ないと思うんだ」

「そ、そうですね。何か理由があるのかもしれません。鞘が邪魔な理由が……」


 鞘が邪魔な理由……一番可能性がありそうなのは刀身の部分だよね。まるで本で読んだ事がある御伽噺みたいな形で刺さってるし……きっとあの刀身に何か意味がある筈……。

 剣に視線を向けている内に私はある部分に気が付いた。柄頭の部分に何かが刻印されている様に見えたのだ。その形は以前ルナさんの所で見せてもらった釜に彫られていた紋様の一つに酷似していた。


「んーもしかして切れ味が良過ぎて鞘に入んないとか?」

「ど、どうなんでしょう……錬金術を使えば強靭な鞘を作る事くらいは簡単ですが……」

「……おいヴィーゼ、どうしたんだ?」


 いったいこれはどういう意味を持ってるんだろう? あの時は特に意味が分からなかったけれど、ここで見付けた本を使えば、もしかしたら意味が分かるかもしれない。


「ヴィーゼ? ヴィーゼ? どうしたんだい?」


 鞄から本を取り出す。迷いは無かった。どこを開けば目当てのページなのかは感覚で分かった。

 ……あった。このページだ。知らない紋様、知ってる言葉、この二つを照らし合わせればいい。それだけでこの刻印の意味が分かる。


「ちょ、ちょっとヴィーゼ!」


 歩みが止まる。必要ない。もうここまで近寄れば刻印をしっかり見る事も出来るし、何なら直接触ってみる事だって出来てしまうのだから。

 目を凝らす。


「おいヴィーゼ何してる!?」

「プ、プレリエちゃん離れてくださいっ!」


 ……そうか。そういう意味か。何だ簡単な言葉だ。別に調べるまでもない言葉だったみたい。だってちょっとど忘れしてただけなんだから。


「ヴィーゼ! ねぇどうしたの!?」

「おい離れろ!!」

「ヴィーゼ! 何してるんだ!?」


 握る。冷たい感触。私の肌へと伝わってくる。私が成すべき事が。私が何者なのか。そうだ。簡単な事じゃない。だってこうすればいいんだから。

 腕を振るった。

 ドサリと私の目の前でお父さん、妹が尻餅をついた。どこぞの狩人、そして同胞は驚いた様子で私を見ていた。


「ヴィ、ヴィーゼ……?」


 妹が私を見て怯えた顔をする。何て可愛らしいのだろう。何百年と経ってもこの子の美しさは変わらない。いつだって私の側に居たのだから、胸を張って言える。この子は世界一可愛い。


「な、何するんだヴィーゼ……置きなさい……」


 お父さん。正確には違うけれど、でも『今の私』にとってはお父さんだ。とても頭がいい。決して強い訳じゃないけれど、家族のために働いている。世界のために働いている。だからこそ、とっても邪魔だし愛してる。


「下がれ……。ヴィーゼ、なのか?」


 確かこの人は……そうだ、シーシャ・ステインだ。頭の中に記憶してあった。一緒にここまで旅をしてきた。村を救うために、水の精霊とかいうのとの約束を果たすために。何だか愚かに思える。本当に約束が守られるか、確証も無いのに……。


「ま、まさかその剣って……」


 かつての同胞。今は私達を裏切って人間側に付いているみたいだ。わざわざ主様達から力を与えられて、使命までも与えられたというのにどうして人間の味方をするんだろう……。世界を取り戻せば、私達も地位が与えられるというのに……。


「ヴィーゼ……私の顔が分かるか?」

「覚えてるよ。シーシャ・ステインだよね。ダスタ村出身。水の精霊との約束を守る為にここまで来てる。だよね?」


 シーシャの目は真っ直ぐに私の方へと向いていた。射貫く様な鋭い目つき。でも私には分かる。その目は私に恐怖してる目だ。未知への恐怖……怖がってるんだ。

 彼女はナイフを抜いた。


「ヴィーゼ、私の前で君は錬金術を見せてくれたよな。最初に見せてくれたのは何だった?」

「栄養剤でしょ? 言っておくけれど、あんなのじゃ気休めだよ。あの土地はもう永久に戻せない。地面だって生きてるんだよ。一度死んだらもう二度と生き返らない」


 視線を逸らせば妹の姿が映った。ここに居る誰よりも怯えた様子で私を見ていた。確か今の名前は『プレリエ』だったかな。『今の私』とお揃いの名前だ。


「あはは……怖いんだね。もしかして、忘れちゃってるの?」

「え、な、何……?」

「ねぇ。私達さ、ずっと昔から一緒だったよね? もう何百年も前からさ」

「何言ってるの、ヴィーゼ……どうしちゃったの……?」

「……どうもしてないよ。プレリエこそ、どうして覚えてないの?」


 彼女はただただ怯えた顔を見せるだけで、私の質問には答えようとはしなかった。いや正確には答えられなかったのかもしれない。その様子を見て合点がいった。どうして彼女が覚えていないのか。どうして私が忘れていたのか。


「そっか。何かされたんだ」

「えっ……?」

「この『私』の記憶を見た感じだと、昔は違う名前だったけれど、ブルーメって人が私達のお母さんなんでしょ?」

「ヴィーゼ、何を……」


 喋ろうとしたお父さんを手で制止する。


「まずは、だよ……私の話が先だよね。それで、そのブルーメっていう人、つまりは今の私達のお母さんが何かしたんだね? 私とプレリエに」

「お、お母さん? そんなの分かんないよ……」

「そっか……」


 最低だなぁ『お母さん』。凄く最低だよ。何をしたのかは分からないし、何でこんな事したのかは知らないけれど、私とこの子の記憶を弄ったんだ。だから私は思い出せなかったんだ。最低だよ。何百年も一緒だった私とこの子の絆を壊そうなんて、どうしてそんな事が出来るの? 同胞なら分かる筈なのに……。


「もういい黙れッ!!」


 シーシャの声が響く。


「もういい……君が……お前がヴィーゼと同じ奴だとは思えない。それ以上、同じ顔で、同じ声で喋るな……」

「どうして? 『今の私』は間違いなくヴィーゼだよ? お父さんが名付けてくれたんでしょ? プレリエと対になる様に、ね?」

「……ヴィーゼとプレリエの名前はブルーメと付けた。僕だけが付けた訳じゃない。それにお前は『ヴィーゼ』じゃない」

「どうしてそんな事言うの……? 『私は』ヴィーゼだよ? ねぇ?」


 妹からの返事は帰って来なかった。ただ体を震わせながらも可愛い瞳で私の方を睨み付けていた。


「……ねぇヘルメスさんだよね?」

「えっ……!?」

「私ね、『お母さん』に会いたいんだ。どうしても会ってお話しなくちゃいけない事が出来ちゃったの。どこに居るか知ってるんじゃない?」

「し、知りません! さ、最後に会ったのはもう相当前ですし……! そ、それにヴィーゼちゃんには教えても『あなた』には教えません……!」


 やっぱりこの人裏切り者かぁ。まあ記憶を見るにそうだよね。『私』と一緒に居たって事はそういう事だもんね。まあ別にこの人達を始末するのは簡単だけれど、あの子は巻き込みたくないなぁ……。


「そうですか」


 数歩前に出る。


「……やるのか?」

「まずは、だよ……一番強いあなた。次に裏切り者のヘルメスさん。お父さんはどうしよっかな……まあいいか別に。その順番だよ」

「ヴィ、ヴィーゼ! ほ、ホントにどうしちゃったの!? もうやめてよ!」


 慌てる様子もとっても可愛い……やっぱりこの子は世界一だ。今はちょっと『あの女』の毒にやられちゃってるだけだよね。きっとすぐに今まで通りの、私の一番の理解者になってくれる筈……。


「待っててねプレリエ。私の大事な大事な『妹』……すぐに終わらせて思い出させてあげるからね。大丈夫だよ痛くないから。お姉ちゃん痛いの苦手なの知ってるからね。もうずっとずぅっと前から。大丈夫だから待っててね、これ触ればすぐに思い出すよ……」


 私は邪魔な三人相手に剣を構える。軽いお陰でこの細身な体でも問題無く動かす事が出来た。シーシャはナイフを構えたまま私を睨む。ヘルメスさんは怯えながらも何かを出そうとしている。お見通しだよ、同じ錬金術士なんだから。お父さんは、まあいいか。素手だしすぐに始末出来ちゃうし。


「まずは、だよ……あなた達から始末するね」


 私は柄頭の刻印のお陰で『目覚める』事が出来た。まだあの子が目覚めてないのが不満だけれど、でもすぐ終わる事。私達は再び目覚めて、使命を果たすんだ。『先駆者』のために、そして何より……お互いのために……。




                  そんな事させない

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