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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第10章:日没
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第87話:唖濡那鬼(アヌナキ)

 街へと戻ってきた私達の目には住民達を船の方へと避難させているレイさんの姿があった。一向に消える事のないあの怪物を見て、流石に市民達も危機感を覚えたらしく軽くパニックの様な状況になっていた。そして避難している人々を誘導しているのはレイさんだけでなく、防衛部隊の隊員をしている人々も居た。そこには当然リオンさんの姿もあった。


「あっ、皆さんも船に行ってください! 事情はレイから聞きました! 今は状況が状況ですから、リチェランテ、あなたも船に……」

「そりゃどうも……好意に甘えたいところだけど、こんな状況だからこそ私も逃げる訳にはいかないんだよ」

「リオンさん、私達も同じです。このままだとこの国だけの問題じゃ済まなくなるかもしれないんです」

「いったいどういう……?」


 詳しい状況はまだ知らない様子のリオンさんにヘルメスさんが事情を話し始めた。緊急事態故にかリオンさんもヘルメスさんの話を真面目な顔で聞き、疑いを持っている様子は無かった。


「細かい事までは分かりかねますが……とにかくレーメイ女王が持っているその道具が危険なのですね?」

「そ、それもですけど、あの怪物もです、はい……。仮にあの宝玉を奪えたとしても、あの怪物はきっと太陽の光を吸収し続ける……だからあれも倒さないと……」


 あの怪物はただの囮に過ぎない……それはお父さんやシーシャさんに予測されてる。実際私もそうとしか思えない。もし完全にあの怪物が光を吸収し終えたら、何が目覚めるのか……何も分からない。


「今女王はどうしているのですか?」

「え、えっと王族騎士団の人達が何とか止めようとしてます。ただその……」


 どうするべきなんだろう……ここで本当の事を言うべきなんだろうか? リオンさんはリオナさん達と喧嘩別れしたみたいだし、もしかしたら会いたくないかもしれない。でもリオンさんの協力があれば女王を止めるのも簡単になるかもしれない。嘘をついてでも、協力を仰ぐべきなのかも……。

 私が思い悩んでいるとプーちゃんが口を開いた。


「あのねリオン姉。助けて欲しいんだ! 出来ればシップジャーニーの皆にも!」

「……私もプレリエに賛同する。悪いがリオン、助けてくれ。冗談抜きにこの国だけの問題じゃなくなる気がするんだ」

「分かりました。一旦レレイや船長に事情を話しに行きます! 私が力になれるのであれば!」


 そう言うとリオンさんは隊員達に追加の指示を出すと船へと駆け出した。


「さて、それじゃあ私は海賊君を手伝うとしよう。あれの対処法については君らに任せるよ」

「逃げるなよリチェランテ……」

「逃げないさシーシャ君。尤も、逃げ場など無いが」


 足を引き摺りながらレイさんの下へと向かうリチェランテさんを見送り、私達は急いで船へと駆け出した。賑やかだった街は今は別の賑やかさに包まれており、この状況がこの国とって如何に異常な状態かという事が分かった。

 何とか人混みを潜り抜け船へと戻った私達は住民達でごった返している船内を通り、準備をするためにそれぞれの部屋へと戻った。無論私達が今からすべき事は一つしか無かった。


「プーちゃん手袋!」

「うん!」

「二人共、僕はどうすれば?」

「お父さんは何でもいいから卵か水を持ってきて!」

「分かった!」


 お父さんは部屋から飛び出し、私達は以前作った力を増幅させる剛力の手袋をはめると釜を持ち上げて台車へと移動させた。この台車に釜を乗せるのは久しぶりだったが、手袋のおかげですんなりと作業を進められた。そのまま台車を引きながら部屋を出るとシーシャさんと遭遇した。先程よりも重装備になっており、矢筒には大量の矢が入っていた。更にはこの船に居る間に作っていたのか、いつもよりも小型の弓を持っていた。


「あ、シーシャさん」

「手伝おうか?」

「いえ、それよりもシーシャさん、大丈夫なんですか? さっき体に火とか点けてましたけれど……」

「問題ない。軽い火傷だ。それに私はあくまで囮役だ」

「シー姉、危ない事しないでね……?」

「心配するな。私じゃいずれにせよあれは倒せない。時間を稼いだりするのが精一杯だ」


 確かにあの怪物の体が虫で出来ていると考えると物理的に破壊したりする事は困難な様に思えた。一応火を恐れる様な動きはしてたけれど、多分すぐに離れた所に再集合してしまう。本当に今回はシーシャさんは時間稼ぎしかしようがないかもしれない……。


「行きましょう」

「ああ」


 私達は台車を引きながら外へと向かい、途中でヘルメスさんとも合流した。腰にはベルトを巻いており、そこからは色々な形をしたアクセサリーの様な物がぶら下がっていた。恐らくは何らかの錬金術の道具だとは思われたが、今の私には細かく推理するだけの余裕は無かった。

 外に出るとお腹の膨れた魚とフラスコ入れられた水を持ったお父さんが待っていた。


「これでいいかい?」

「うん、ありがとう!」

「行こう……あの二人がいつまで相手していられるか分からないぞ」


 私達は急いで街の広場へと台車を引いて移動した。避難はほとんど完了しており、山の方では時折青い光や橙色の光が放たれており、未だ状況が好転していない事を示唆していた。


「ヴィーゼ、プレリエ、ヴァッサさん、三人はここに居てくれ。私も助けに行く」

「シーシャさん……なるべく無理はしないでくださいね。あの宝玉のどっちかだけがあればいいので……」

「ああ。それとヘルメス、お前も行くんだろう?」

「は、はい。相手は錬金術で作られた存在です……錬金術に対抗出来るのは錬金術だけなので、はい……!」

「よし、じゃあ行くぞ」


 二人はリオナさん達を助けるために山の方へと駆けていった。山を見てみれば、やはりあの怪物はそこから一歩も動いておらず、本当に太陽光を集める事だけを目的にしているのだと改めて感じた。


「お父さん、どれくらいもつかな?」

「……分からない。僕もああいったものは初めて見たし、何よりあの卵がいったい何なのかが分からない。あれは何の卵だ……? あれだけのエネルギーを必要とする生き物なんて居るのか……?」


 きっとあれが孵化したら、本当に取り返しがつかなくなる筈だ。お父さんが言う様に前例が無さすぎてあまりにも未知数過ぎる。絶対目覚めさせちゃいけない存在……そんな気がする。

 シーシャさん達の動向を遠目に見守っているとリオンさんが合流してきた。腰の両側には曲剣を差しており、腰の後ろにはバックパックの様な物が装着されていた。


「お待たせしました! 他の方は?」

「今山の方に……」

「分かりました。レレイ達にも話は通しておきました。私からの合図があれば援護砲撃をしてくれるそうです」

「リオンさん、僕からの意見ですが恐らくあれには物理的な攻撃はほとんど意味を成しません。ヴィーゼ達の推測によると必要なのは女王が持っている宝玉です」

「ええ、理解しています! 宝玉の回収が最優先ですね!」


 リオンさんは常人よりも明らかに素早いと言える動きで山へと駆け出した。それを合図にしていたかの様にリチェランテさんとレイさんがこちらに近寄ってきた。


「こっち終わったよ。全く馬鹿な愚民は理解が遅くて困るな」

「あのさ、あっち行っててよ。どーせ何も出来ないんでしょ?」

「気持ちは分かるが落ち着きなよ。先人の見解も必要だろ?」

「二人共、俺に指示をくれ。罪滅ぼしがしたいんだ……頼む、せめて、せめて最期くらい……」


 レイさんのその表情には鬼気迫るものがあった。私達からすれば自分なりに責任を果たそうとしていた人という印象しか無かったが、この人からしてみれば調査をするためとはいえ海賊に所属していたという事実は変えられない、死を持ってでもして償いたいと思っていたのだろう。


「落ち着けよレイ。君が救い難い馬鹿なのは知ってるが、悪い奴だとは思ってないぞ?」

「お前は黙っていろ。もう俺には何も無いんだ。ただ死刑を待つだけなら、誰かのためになりたい」

「レイさん、少しいいかな」


 お父さんは真剣な眼差しをレイさんに向けた。


「僕もあなたが悪い人間とは思えない。ただあなたが自分を許せない気持ちも分かる。だけど……自分の命を犠牲にしようという考えは捨ててくれませんか」

「……あんたには分からないさ。こうするしか俺にはもう……」

「命は……皆平等なんです。正直僕は、そこのリチェランテの事ははっきり言って嫌いです。反吐が出る程。だけど、どんな生き物でも、どんな人間でも命は平等であるべきなんですよ」


 恐らくお父さんのこの考え方は生物学者として色々な生き物の生と死を見てきたからなのだろう。私自身、相手が悪人だからといって死刑にしてしまえばいいという考え方は賛同出来ない。罪は生きて償うべきだと思う。死んでしまったら、本当にそれで全てがおしまいだから……。

 レイさんは言葉に詰まった様だったがお父さんの言葉に答える前に事態が動いた。一瞬怪物の足元が光ったと思うと、突如私達の目の前にヘルメスさんが現れた。どうやら何がしかの道具を使ったらしく、腰から下げていた道具がいくつか減っていた。そしてその手には黄昏色に光る丸い宝玉が乗っていた。


「へ、ヘルメスさん! それっ!」

「う、うん! 何とか! と、取り上げられました、はいっ!」

「プーちゃん!」

「うん!」


 私達は急いで塗り火薬を使って火を点け、釜を広場に設置した。プーちゃんはヘルメスさんが見せてくれたレシピを記憶していたのか、迷いなく材料を入れ始め調合を始めた。色々と細かくやってしまう私よりも直感的にやるプーちゃんの方が、この状況には適していた。


「ヘルメス、どうなってた?」

「え、えっと……リ、リオンさんとリオナさん達がちょっと険悪な感じにはなったんですけど……と、取り合えずシーシャさんが間に入ってくれて何とか協力出来た感じです、はい」

「違う。別に仲良しこよしだろうが殴り合ってようがどうでもいい。そうじゃなく、もう一つの宝玉とか怪物の方だ」

「ひっ!? えっと……もう一つの方は今シーシャさんが持ってて、怪物は見ての通りです、はいっ……」


 リチェランテさんは怪物を見上げ目を細めた。


「悪くないな。君達にしてはよくやった方だろう」

「ヘルメスさん、もう一つの方は大丈夫なんですか?」

「う、うん。あっちは創生の力だから、少なくとももう破壊の力が使われたりはしない筈、です」


 プーちゃんの方を見てみると最後の材料である黄昏の宝玉を釜に入れたところだった。釜の中の色も安定しており上手くいっている様だった。


「ヘルメス、僕からも質問がある。君から見てあの虫達の様子はどうだった?」

「特に変化は無かったです、はい」

「襲ったりはして来なかった?」

「はい。あの、どうしたんですか?」

「……いや、恐らくあの虫達は宝玉の力を理解して行動している筈なんだ。それなのに自分達にとって必要な存在である宝玉が一つ奪われたのに、何も抵抗をしなかったのかと思って……」


 言われてみれば変だ……普通は巣や卵を狙われたらほとんどの生き物が攻撃をしたりする筈なのに、何もしなかった? いったいどうして……何か見落としてる?


「単純な話だろう学者先生」

「何が?」

「あいつは私達が思ってたより、余程賢かったという事さ。やれやれ全く……馬鹿なのは私もだったな」


 リチェランテさんの言葉を聞き咄嗟に山の方を見てみるとまるで明け方の様な青い光が柱の様に空へと伸び、山の上一面に広がったかと思うとそこから光が雨の様に山に降り注ぎ始めた。するとさっきまでは微動だにしなかった怪物がバラバラに崩壊し始めた。


「え、何々!? どうなってんの!?」

「ヘルメスさんこれって!?」

「た、多分『黎明』の力……でも、何でバラバラに……」

「……あいつにとってはどっちが残っても良かったんだろう」


 リチェランテさんの額から汗が伝っている。


「最初私は『黄昏』の攻撃エネルギーだけを吸収しているものだと思っていた。だからあれだけを止めればいいと思っていた。だが違ったんだ。あの馬鹿女王が『落日』とかいう力を使ったあの段階で、あいつにとっては全てが完成していた訳だ」

「まさ、か……」


 プーちゃんは釜を急いで混ぜながら声を上げる。


「ちょ、分かる様に言ってよ!」

「『落日』の後に攻撃が続いたらエネルギーを溜められる……もし『黄昏』が使われなくなっても、荒廃した山を直そうとして『黎明』を使う……どっちでも、良かったんだ……」

「その通り、ヘルメスの言う様にあいつにとってはどっちでも良かったんだ。だから動かなくて良かった」

「まずい! もしそうなら!」


 お父さんの言葉を遮る様に島全体が揺れ始めた。まるで地震に見舞われたかの如き揺れであったが、下からの揺れという感じではなく山の方から強力な振動が起きているといった感じだった。リオンさん達も山から振動が起きている事に気が付いたらしく、山を下り始める姿が遠目に確認出来た。

 揺れが一度収まったその直後、卵があったとされる洞窟の辺りが弾け飛び巨大な腕が這い出してきた。その大きさは最早あの怪物とは比べ物にならない程であり、その大きさから逆算すると上半身だけで島全体を覆い隠せる程巨大だと思われた。


「おいリチェランテ……何だあれは……」

「悪いが私にも分からないな。もし分かる奴が居たとしたら、そいつが黒幕だろうさ」

「ヴィヴィヴィヴィーゼ!?」

「ど、どうしようえっと……」

「ヘルメス、どうすればいいんだい!?」

「落ち着いてください! 私の、私の計算が正しければリオンさん達がそろそろ戻ってきます……戻ってきたらここに居る全員で一気に船に飛びます……!」


 ヘルメスさんの言葉通り、リオンさん達がこちらへと駆け戻ってきた。リオンさんとリオナさんは見るからに険悪な雰囲気だったが、シーシャさんの一声でヘルメスさんは腰から道具を一つもぎ取り、空へと掲げた。


「ヘルメスッ!」

「はいっ……!」


 一瞬眩い光に包まれたかと思うといつの間にか私達はシップジャーニーの甲板に立っていた。釜はもちろん台車もありあの場に居た全員が移動してきた様だった。


「リオン!? あれはいったい……いや、何……その二人はいったい……」

「ヴォ、ヴォーゲさん! 船を出して下さいっ……!!」


 今までの様子からは考えられない程の大声を聞き、ヴォーゲさんは驚きながらも船員の人達に指示を出し始めた。甲板にはクルードさんも登って来ており、一部の船員に細かく指示を出していた。


「……それで? 姉さん、何故ここに?」

「……」

「あ~あのさお二人さん? 今はちょっと空気読もうよ? マジで命掛かってるってハナシだよ?」


 リオナさんはリオンさんとは目を合わそうとせず、足元で膝を付いている女王を見下ろしていた。


「……女王、平気ですか?」

「え、ええ……ごめんなさい、私……何か変な感じになって……」

「お気になさらずに。それより、そっちは?」


 突然声を掛けられたせいかプーちゃんは素っ頓狂な声を上げる。


「んえっ!? う、うん。いい感じ!」

「なら良かったわ……」

「いいものか。一番の問題はここからだぞ」


 リチェランテさんが船尾の方へと歩き出し、島の方へと視線を向けた。お父さんやシーシャさん、リオンさん達が船尾へ行く中、プーちゃんの側を離れないために近くの手摺から身を乗り出し後方を確認してみると、リチェランテさんが言っている意味がそこにあった。

 島からはもう一本腕が生え、更には街の真ん中辺りから人型の上半身が突き出しているのが見えた。全身には毛の様なものは確認出来ず、薄っすらと全体が発光していた。眼球があるべき場所からはより強い光が発せられており、口を開けば空気を轟かせる様な叫び声を上げた。


「何なの、あれ……」

「ヴィーゼ、何が起きてるの……?」

「プーちゃんはそのまま続けて。きっと今作ってる道具は無駄にはならない筈だから……」


 ヴォーゲさんが声を張り上げ、巨大船やシップジャーニーの他の船達が加速を始めた。潮風が強く顔を打ち、それが今私達の置かれている状況をより切迫しているものだと強く感じさせた。


「そんな……島が……皆、皆の、私の……」

「……女王」

「っ! 止まって! お願いです! まだ! まだあの子が!」


 レーメイ女王は突然酷く取り乱した様子で叫び始めた。その表情は人の上に立つ人間の顔というよりも、一人の人間という顔だった。


「ちょっと女王どうしたのさ! 誰の事!?」

「あの子、オーレリアが……私、私あの子に牢の管理を任せて、そのまま……」


 恐らく女王が言っているのは私達に食事を運んできたあの召使いの人の事らしかった。よく考えてみればあの人はあの状況で私達の管理を任されていた筈だ。しかし牢からはあっさりと脱出する事が出来、城の中には誰も居なかった。あの時あの人はどこに居たの……?

 女王の様子を見ていたレイさんが口を開く。


「……なぁ」

「貴方は……」

「すまない、脱走した事に関しては後で罰してくれていい。それでその……オーレリアっていうのは俺達に食事を運んできた奴の事か?」

「え、ええ……あの子は、指示を出されないと動けない子なの……私があの時、任せなければ……」

「いや。その、あの召使いだったら避難してたぞ?」

「え……?」

「何か……変な物を布で包んで持ち出してたのを見つけて声を掛けておいたんだが」


 その言葉を聞いた女王は船尾から戻ると焦燥した様子でキョロキョロと辺りを見回し始めた。私も見回してみたもののどこにもオーレリアと呼ばれたあの人物の姿は見当たらなかった。しかし甲板に出る時に使うハッチが開くと、そこからひょこりと彼女が顔を出した。

 女王は駆け寄るとまるで自分の子供であるかの様に抱きしめ、すすり泣き始めた。オーレリアさんは何一つ表情を変える事は無かったが、女王の頭をぎこちなく撫で始めた。

 良かった……あの人も無事だったんだ。それにレイさんの話だと多分鏡も持ち出されてる。とはいえ、今は新しい問題が発生してしまっている。まずはあれをどうにかしないと……。


「レイ! クルード!!」


 リチェランテさんが船尾から叫ぶ。


「海戦の知識を貸してくれ。私は専門外だ」

「おい貴様! 勝手な行動はするな!」

「悪いね船長殿! だが今は四の五の言ってられないぞ。ここで下手打てば私達全員あの世行だ!」

「……船長! 私も不本意ですがリチェランテに同意です! レレイ! 手伝って頂けますか!?」

「ええ! 船長、今は仕方ありません」

「……分かった。お前達!! 命が掛かってるんだ!! 抜かるなよ!!!」


 ヴォーゲさんが喝を飛ばし船員達から声が上がった。最早今まで何をしていたかどうかで騒いでいる場合ではなく、今この状況を乗り切るためにこの場に居る全員が一丸となったのを感じた。


「さて、どうするかな……」


 海戦のスペシャリスト達がリチェランテさんの下へと集まり島の方を見つめ始めた。再び身を乗り出して見てみると、何とあの人型はその巨体を動かしながら島を胴に引っ付けたままこちらへと迫って来ていた。


「プーちゃん!」

「何っ!?」

「何があっても……私が居るからね……」


 私は調合中の品に希望を寄せながら、これからするべき事を考え始めた。ここに居る人達の命は私達全員に掛かっていた。

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