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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第1章:ヘルムート王国の双子
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第8話:救済のための調合

村へと戻った私達はトヨさんとお父さんが居た家へと入った。中では既にお父さんが釜の準備を終えており、後は私達が作るだけという段階になっていた。


「おかえり。怪我は無かった?」

「あったりまえじゃ~ん! このプレリエ様が怪我とかする訳ないじゃん!」


 危うく私諸共怪我するところだったけどね……。


「それで、どうすんの? その果物が何の役に立つんだい?」

「これが栄養剤の材料になるんです」

「……どうだかね?」


 どうやら信頼されてないみたいだ。小さい頃から錬金術に触れてきた私達からすれば当たり前かもしれないけれど、実際に見た事が無い人からすれば信用出来ないものなのかもしれない。


「トヨ婆……」

「いいんです。今からやってみせますから」

「ヴィーゼ、火はどうしようか?」

「大丈夫だよお父さん。ちゃんと点けられるから」


 私は鞄に入れておいた小さな瓶を取り出す。これも錬金術で作った物だ。お母さんのレシピ集に書いてあった物で、この中に入っている液体を出して息を吹き掛けると火が点くという仕組みだ。


「ヴィーゼ気を付けてよ~。前にそれで自分に火点けたんだし」

「わ、分かってるよ」


 プーちゃんの言葉を聞いてか、トヨさんやシーシャさん、果てはお父さんまで私から少し距離をとった。

 気持ちは分かるけれど、露骨にそんな対応されたら普通に傷付くなぁ……。私だって点けたくて点けた訳じゃないのに……。

 私は今度こそ同じ失敗をしない様にと慎重に釜の周りに瓶の中の液体を付け、静かに息を吹き掛けた。今度は上手く行ったらしく、釜の周りを取り囲むように火が付き、いつも家で見ている光景が再現出来た。


「不思議な水だな」

「凄いでしょ? あれは『塗り火薬』って言ってね? あたし達のお母さんが作ったオリジナルなんだー!」


 プーちゃんはまるで自分の事の様に得意気に自慢している。実際この液体はお母さん以外の人が作ったりする事は出来なかったらしい。それが何故か私達は出来るのは、ただの偶然だろうか?


「ちゃんと後始末は大丈夫なんだろうね?」

「大丈夫ですよ。上から砂を掛けたりすれば消えるので」


 私は釜の中に透明の液体が出てくるのを確認すると、森の中で集めた素材を適当に中に入れた。本来ならちゃんと計量するところだが、プーちゃんの腕と感覚を信じて今回は量らなかった。

 そういえば前から疑問に思っていたけれど、この液体はどこから出てきてるんだろう? 別にお水を入れている訳でも無いのに、火を点けたら急に出てくるんだよね。他の人が調合をしてるところを見た事が無いけれど、もしかして錬金釜って元々こういう物なのかな?


「ヴィーゼー、何ポヤーっとしてんのさー」

「あっ! ごめんごめん!」 私は慌てて釜を掻き混ぜ始める。


 まずは気付け薬を作らないとね。その後に中和剤を作らないと。その二つが無いと栄養剤が作れないんだから。

 私はまずはゆっくりと掻き混ぜ始める。これで素材の中に入っている成分を抽出して、釜の中に溶かす。確か今入れたこの植物の中には薬用成分がある。これらの成分が混ざり合う事で、心臓の鼓動を正常に戻すらしい。


「初めて見るが、こういうものなのか?」

「いや~? ヴィーゼが慎重過ぎるだけだよ」

「プーちゃんが適当なだけでしょ」


 本当にもう……自分の基準で話さないで欲しいよ。私だってこれでも急いでる方なんだから……。

 ある程度混ぜた私は少し速度を速め、抽出した成分を釜の内部で融合させ始めた。本来なら別々の素材に入っている成分が釜の中で一つに混ざる。これは錬金術でしか出来ない技術らしい。

 混ぜ終わった私は蓋をする。


「よし、後は待つだけだね」

「そうは言ってもまだ中和剤も作って無いし、もうちょい掛かるでしょ?」

「中和剤そのものはそこまで掛からないし、多分今日中には出来ると思うけれど……」


 お父さんは自分の鞄に入れていたであろう本を開く。


「ヴィーゼ、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「う、うん。大丈夫だよ」

「ありがとう。ここに来るまでに、何か変な物を見たりとかはしなかった?」


 多分お父さんが言いたいのは『未知の生物』の事だよね。やっぱりあれの事は言っておいた方がいいのかな?


「えっと、一応それっぽいのは見たかな……」

「! どんなのだった?」

「えっと……図鑑で見た熊みたいな生き物だったよ。でも、図鑑で見たのよりも明らかに大きかったし、それに地面から出てきたんだ」

「……地面から?」


 私とお父さんが話している後ろでプーちゃんが蓋を開け、次の調合に取り掛かっている。


「そーそー! 地震みたいに揺れたと思ったら急に地面からボーンだよ!」

「図鑑にはそんな生物は載ってない。それに学会でも発表されてないな」


 シーシャさんも話に入ってくる。


「それなら私も見た事があるぞ。矢を撃ったんだが、全部弾かれてしまってな。いったいどうやってあれから逃げたんだ?」

「ふっふーん! 凄いでしょー! さぁ何ででしょーか!」


 トヨさんは椅子に腰掛け、答える。


「大方動物の糞を混ぜたもんでも投げたんだろう」

「何で分かったのぉ!?」

「何年森で暮らしてると思ってんだい。大体の動物はね、縄張りのために匂いを付ける。だから自分の体に変な匂いが付くのを嫌がるんだよ」


 なるほど、あれはそういう事だったんだ。あの悪臭爆弾、プーちゃんがイタズラ目的で作ってたんだと思ってたけれど、ちゃんと意味があったんだね。


「あー、あれそういう事だったのか」プーちゃんは納得しながら気付け薬を取り出すと釜の中に次の植物を入れた。

「ねぇねぇ、使ってもいい水とかある?」

「そこにあるの使いな」

「はーい」


 プーちゃんはトヨさんが指差した場所に置いてあった樽に近付くと、持って来ておいたコップに移し、それを釜に入れた。


「ちょっとプーちゃん! 中和剤作ってるんでしょ!? ちゃんと量らないと!」

「量ったって!」


 まさか液体もそうやって目分量で量ったの? 私からすれば信じられないよ。どうやったらそんな芸当が出来る様になるんだろう。

 適当に釜を混ぜ始めたプーちゃんは少し混ぜた後で蓋を閉めた。


「これで少し待てば中和剤の出来上がりっとね」

「少し聞きたいのだが、その中和剤というのはどういう物なんだ?」

「何かね、抽出した素材の成分が混ざる時に反発したりする事があるんだって。それをそのままにしとくと、ありえない混ざり方してたり、酷い時にはドカンと一発大変な事になるんだよ。そういう事を防ぐのが中和剤の役目」


 素材が融合する時、普通なら起きない様な大きなエネルギーが発生するらしい。そのエネルギーは融合が複雑であれば複雑である程大きくなるという。軟膏などの小さな物の調合時なら入れなくても良かったりするが、今回の様な、何回かに分けての調合の場合は欠かせない必需品だ。


「な、何だかよく分からないが、凄い事をしているんだな」

「そっ! 錬金術ってのは頭を使うからねぇ!」


 正直プーちゃんが頭を使っている様には全然見えないのだけれど……言うのは止めておこうかな。

 やがて蓋を開けたプーちゃんは、鞄に入れていたフラスコの一つを持ったまま中に入れると釜からフラスコを引き上げた。掬ったりなどはしていないにも関わらず、何故かフラスコの中には緑色をした中和剤が入っていた。

 これも不思議だな……私がやっても同じ様になるんだけれど、未だにどういう原理でそういう風になるのか想像も出来ない。お母さんは、これをやる時は絶対に中を見ちゃ駄目って言ってたけれど、何か見たらまずい現象でも起きてるのかな……?


「完成ー! よしヴィーゼ、後はよろしくー!」

「う、うん。やってみるね」


 私は頭の中に浮かんでいた疑問を隅の方に追いやると、もう一度お母さんのレシピ集に目を通した。これが最後の工程であり、絶対に失敗は出来ないからだ。

 皆に見守られる中、私は栄養剤の調合を開始する事にした。

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