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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第8章:忠義と仁義
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第73話:時が廻りて花開く

 甲板へと飛び出すと、あの首領の周りで他の皆が倒れていた。どこかを怪我している人も居れば、特に怪我も見当たらないのに倒れていたり、一目であの杖でやられたという事が分かった。

 あたしは杖を強く握りしめ、一歩前へと出る。お父さんもシー姉もあたしを守ってくれるかの様に少し前に出てくれた。


「見逃してやったというのに、愚かな奴だ……」

「プレリエさんっ近寄っては駄目です! 戻ってください!」


 クルードのおっちゃんがこっちに向かって叫ぶ。あたし達を心配してくれてるのは分かったけど、それでもあたしはここで引き下がる訳にはいかなかった。あの子が……ヴィーゼが傷付けられて、黙ってる訳にはいかない。


「ねぇ……今すぐその杖離して」

「……ガキが。指図するのか? 我々の崇高な目的すらも理解出来ずに?」

「貧富の差……とかだっけ?」

「そうとも。これさえあれば、未来を自由に変えられる! これさえあれば、もう誰も傷付かなくとも済む!」

「……だから何?」

「あ……?」


 分かった……今分かったよ……。こいつには何言っても無駄なんだ。でも良かった……どうせあたしも許すつもりなんか無かったし……。


「ヴィーゼが苦しんでるんだけど」

「殺さなかっただけありがたく思え。見逃してやったんだぞ?」

「お前っ!」


 前に出そうになったお父さんの腕をシー姉が掴んで止める。


「言いたい事はそれで終わり?」

「何?」

「あんたは勝てないよ。悪い奴は何やっても勝てない様になってるんだ……」

「愚かな……」


 首領が杖を甲板に叩きつけると水晶部分から少しだけ光が放たれた。すると突然空模様が怪しくなり、黒ずんだ雲が立ち込め始めた。そこからポツリポツリと雨粒が落ち始め、あたし達の頬を濡らし始めた。

 嵐を起こす気だ……。船長やってるヴォーゲのおっちゃんも他の皆も、倒れて動けなくなってる。もし今この状態で嵐が起きたら……それこそ津波でも起きたら全員揃って一網打尽にされる。だったら、こうすればいい。そのためにあたしは……。

 あたしは作ったばかりの杖を上へと掲げる。すると先端部分に付いている花を模した飾りから小さな花弁の様な物が舞い始めた。

 あたしが調合の時に頭に思い浮かべてた通りの動作になってる……。これならいける。問題ない。


「っ!? 何だその杖は!?」

「……未来なんて決めさせない。あたし達の未来はあたし達自身で決める」

「ぐっ……!」


 首領はもう一度甲板を叩き、杖の力を使おうとし始めた。しかしそれに反するかの様に空に浮かんでいる雲は渦を巻き始め、やがて渦の中心に吸い込まれる様にして姿を消した。倒れている皆も傷口が渦巻く様にして消え去り、一人また一人と意識を取り戻し始めた。


「っ!? 何だその杖は!?」


 そう言った首領はハッとした様子で辺りを見回した。今自分の身に起きた違和感に気付いたんだろう。


「……諦めたら?」

「愚かな……。うっ!?」

「あんたは勝てないよ。悪い奴は何やっても勝てない様になってるんだ……」

「何?」

「言いたい事はそれで終わり?」


 順調だ。この調子なら問題なく行ける。

 シー姉が掴んでいたお父さんの腕を離す。全く予想していなかったらしく、お父さんもシー姉も驚いていた。


「お前っ!」

「殺さなかっただけありがたく思え。見逃してやったんだぞ? ……っ!?」

「ヴィーゼが苦しんでるんだけど」

「あ……?」

「……だから何?」

「そうとも。これさえあれば、未来を自由に変えられる! これさえあれば、もう誰も傷付かなくとも済む!」

「貧富の差……とかだっけ?」

「……ガキが。指図するのか? 我々の崇高な目的すらも理解出来ずに?」首領の声が震え始める。

「ねぇ……今すぐその杖離して」


 意識を取り戻したクルードのおっちゃんが叫ぶ。


「プレリエさんっ近寄っては駄目です! 戻ってください! ……!?」

「うん、分かった。『戻るよ』」


 杖から出ている花弁の量が一気に増えて、あたし達が乗っている船の周りをぐるぐると周る様に取り囲み、やがて海が見えなくなった。


 そして、全ては流転する。




 「なるほどな。説明どうもプレリエ、君のお陰で確信に変わった。やはりそういう事か」


 ふと気が付いた時、私が最初に聞いたのはリチェランテさんの言葉だった。負傷して医務室に運び込まれた筈の私はいつの間にか甲板に戻ってきていた。

 レイさんはリチェランテさんの言葉で何かに気が付いたらしく、戦いの中で手放されていた曲刀を拾うと素早く杖に向かって切りかかった。

 首領がその剣撃に対応しようと杖で甲板を叩こうとしたその瞬間、クルードさんが首領の視界外から組み付き、胸元に差している筒の様な武器を抜き取った。首領はすぐにもう一つある武器を抜きクルードさんに向けたものの、直後に炸裂音が響き渡り、その手に持たれた武器は弾き飛ばされた。


「こ、これはっ……!?」

「首領……今すぐその杖を離すんです。そんな物があっても、貧富の差が無くなる事なんて無い……」


 動揺をしている首領の周りに次々と防衛部隊の面々が集まり始める。リオンさんはそのメンバーをレレイさんに任せ、単身首領達が乗って来た海賊船へと乗り込んでいった。


「ありえないっ! 何が起こった!? ガキッ貴様ァ!!」


 怒鳴る首領の目線を追う様にして隣を見ると、そこには見た事も無い杖を持って真っ直ぐに立っているプーちゃんの姿があった。その目には怯えは無く、ぶれる事なく真っ直ぐに首領の方を向いていた。


「あたしはあんたを許さない」

「クソッ!」


 首領が杖で甲板を叩くと私達の体に黒い斑点の様なものが出来始める。それは以前何かの本で読んだ事がある病気の症状と酷似していた。現代の医学では治療のしようが無い、そんな恐るべき病だった。

 しかしプーちゃんが手に持っている杖を掲げると、突如斑点が渦巻き始め、そのままどんどん渦の中心へ吸い込まれる様にして消えていった。


「っ! 死ねェッ!!」


 首領は杖を使って後ろに居たクルードさんを殴った、それと同時にクルードさんが奪っていた武器を取り戻すとこちらにその先端を向けた。その目には明らかな憎悪が宿っており、私達に対する明確な殺意が見て取れた。


「動かないでください……」


 その言葉を発したのはレイさんだった。その手には首領が持っているのと同じ武器が握られており、その先端は首領の方を向いていた。


「……レイ、貴様……俺を撃つのか?」

「首領……あなたは、かつては義賊だった筈だ。少なくとも俺の知ってるあなたはそうだった」

「……今でも俺の心は変わってない」

「それならその杖を離してください」

「それは出来ん。俺達の従来のやり方では全ての問題は解決出来ん。出来たとしても、すぐにまた元通りになる。だが……だがこれなら全て解決する! 未来を変えられるなら、全てが!」


 レイさんは静かに首を横に振る。


「……あなたも知らない訳じゃないでしょう。俺の姉がどうなったか……?」

「ああ。だが使い方を誤らなければ問題無い。それにもしそうなったとしても、覚悟は出来ているつもりだ」

「覚悟?」

「……レイ、よく考えろ。俺は行き場の無い貴様を船員として受け入れた。貴様は俺に恩がある筈だ。ただの独り身の貴様と世界を変える俺……どちらがより崇高か分かるな?」

「崇高、ですって……?」

「貴様に俺が撃てるのか? あの日、俺に忠義を誓った貴様が?」


 首領がその言葉を言い終わった瞬間、炸裂音が響き渡った。数秒遅れて首領はよろめきながら、驚いた様な顔を見せた。その手からは武器が落ちる。しかし杖までは手放さず、また力を使おうとしたものの、それを見たリチェランテさんは近くに落ちていた剣を拾い、その杖を持っている手を手首ごと切り落とした。


「うがぁぁああっ!?」


 首領はガラガラとした悲鳴を上げながら、片腕を抑えて倒れ込んだ。脇腹にはレイさんによって付けられた傷が開いており、腕だけでなくそこからも血が流れ始めていた。

 私は苦しそうに目を背けているプーちゃんの肩に手を回し、抱き寄せた。


「首領、確かに俺はあなたに拾ってもらいました。でも、俺はあんたに恩義を感じたりした事はありませんよ。最初からその杖さえ見つかればそれで良かった」

「な……に?」

「正直、あんた達が姉さんから杖を奪ったのかどうか、今でも確信が持てない。そこだけ教えて欲しい。どうなんだ?」


 リオンさんに連れられて海賊船の中から縄で縛られた海賊達が連れ出せれ始めた。どうやらリオンさんが一人で全員無力化したらしい。


「……貴様の姉の話はっ……噂に聞いていた。最初は、ただの予言だと思っていたのだ……。だが色んな人間から話を聞く内に確信に変わった……。あれは、未来を自由に決められる道具、だと……」

「疑問には思わなかったのか?」クルードさんが殴られた場所を押さえながら首領に近付く。

「何ヵ月も観察した間違いない……現にそういう力がある、だろ……?」

「それで、奪ったのか?」


 首領は痛みからか呻き声を上げた。


「……最初は交渉をするつもりだった。だがあの託宣所に入った時……あの女が倒れていたのだ、血塗れでな……」

「だから盗んだ?」

「何か問題があったか……!? あの杖は……あんな所でちまちまと使われていい道具じゃないだろう! もっと、もっと世界のために使われるべきだ!!」


 リチェランテさんが杖をつきながら首領に近付く。


「その考えは悪くない」

「ノルベルト、君はっ!」

「……だが根本的な部分で間違いがある」

「間違い、だと……?」

「こんな道具は存在してはいけないって点だ」

「何を馬鹿な事をッ! それがどんな力を持っているのか、分からない訳ではないだろ!」

「……後は任せるよ」


 そう言うとリチェランテさんは足を引き摺りながら離れていった。首領は残ったクルードさんとレイさんの方へと顔を向ける。二人は首領が持っていた武器をそれぞれ構えていた。


「ま、待てレイ! 何故分からん!」

「十分分かったよ。簡単な話だ、俺には人を見る目が無かったって事だ」

「あの杖さえあれば全てが変えられるんだ! もう苦しむ人間も居なくなる……!!」

「堪忍しろ名も無き海賊よ。我が友を誑かす事など、もう出来はしないぞ」

「き、貴様に何が分かる! 水軍上りが偉そうに! レイ! 貴様なら……!」

「さよならだ首領。あんたも覚悟を果たす時だ」


 レイさんのその言葉の直後、甲板には二つの炸裂音が響き渡った。辺りは静まり返り、その後に聞こえてきたのは優しい波の音だけだった。かつて義賊だったあの首領は、最早醜いむくろへと成り果てていた。


 全てが終わり、首領の遺体を水葬するためにシップジャーニーの船員達が動き始めた頃、リチェランテさんが杖を持ってこっちへと近寄ってきた。シーシャさんは私達家族を守る様にして間に入ると睨みを利かせた。


「何だその態度は? 助けてやっただろう?」

「お前正気で言ってるのか? 自分がやった事を忘れた訳じゃないだろう」

「……冗談も通じないのか。まあいい。それより、ほらっ」


 リチェランテさんは杖を私に向かって放り投げ、私は落としそうになりながらも何とかそれをキャッチした。

 その杖は思っていたよりも軽く、非力な私でも簡単に振り回せそうな重さだった。


「あ、あの……どうして私に?」

「私じゃそれを始末出来そうにない。だが君達なら出来る筈だ」

「そ、そんな事言われても……。海に捨てるんじゃ駄目なんですか?」

「駄目だな、引き揚げようと思えば出来てしまう」


 そんな事を言われてもどうすればいいんだろう? 触った感じだと軽さとは正反対に凄く固いし、爆弾とかでも壊せるかどうか……。


「ヴィーゼ」

「え、どうしたの?」

「あたしがやるよ」

「や、やるってどうやって?」

「これ使えば出来るよ」


 そう言えばプーちゃんが持ってるこの杖、いったい何なんだろう? 私が撃たれたあの時、シーシャさんにプーちゃんへ破片を渡して欲しいって頼んでおいたけれど、もしかしてその破片を使って作ったのかな?


「あの、プーちゃんその杖は?」

「ヴィーゼのおかげで思いついたから作ったんだ。これならきっと上手くその杖を消せるよ。それにこの杖自体も」

「そ、そうだプレリエ。その杖はいったい何なんだい? 急に時間が戻った様な感じになった気がするんだけど……」


 お父さんは困惑した様子で尋ねた。実際私も意識が朦朧としている中、医務室で治療を受けていたと思っていたら急に甲板へと戻ってきていた。そして見覚えのある光景や台詞が聞こえてきた。


「えっとね……例えばAっていうタイミングとBっていうタイミングがあったとするじゃない? で、BからAにさかのぼるみたいに動きとか言葉を再現して、後はあたしが決めておいた言葉を誰かが言った後にあたしもそれを言えば、その言葉の通りに繰り返させるっていう道具なんだ!」


 どうしよう……プーちゃんが何言ってるのかさっぱり分からない……。時間が戻せるっていうのは意味が分かるんだけれど、再現するってどういう意味なんだろう? 私が見てない所で既にそういうのをやったのかな?


「えっと、そ……そうなんだ。それで、どうやってこの杖を消すの?」

「簡単だよ。今言ったAとBの間の時間に挟み込んで永遠にそのままにしちゃえばいいんだよ。そうすれば、この道具が無い限りは誰もその時間には入れないから、その杖を使える人は誰も居なくなる。でしょ?」


 でしょって言われても……まるで意味が分からないよ。時間に挟み込むってどういう状態なの……? 想像も出来ないんだけれど……。


「プレリエ、それだと君だけが未来改変をいつでも出来る様になるという事か?」

「……あたしがそんな事するって思ってんの? リチェランテよりは信頼されてると思うんだけど?」

「そうだろうな。だがどうやってそんな事をしないと証明する?」

「黙って見てれば……?」


 そう言うとプーちゃんは私の手を引いて甲板の中央へと歩いた。到着するとお互いに向かい合った状態になり、プーちゃんは杖を掲げた。


「いいヴィーゼ? あたしが喋る事とヴィーゼが喋る事、よく覚えといてね? あたしが同じ言葉を言ったら逆に喋るんだよ?」

「えっ!? えっと……やってみる……」


 何か相当難しそうな事をしなきゃいけないみたい……プーちゃんよくこの道具作ろうと思ったなぁ……。

 そんな事を考えていると、突然プーちゃんがこちらに駆け寄り抱きついてきた。更に耳元で小さく合図を出され、私もそれがどんな力をもたらすのか想像も出来ないままに喋った。


「え、永遠にずっと一緒……?」

「永遠にずっとずっと!」

「ど、どういう事!?」突然の意味不明な言動に動揺してしまう。

「こういう事だよ!」

「えっ!?」

「好きだよ! 大好き! ヴィーゼの事たっくさん好き!! 愛してる!」

「えっと、わ、私も好きだよプーちゃんの事……。大事な妹だもん」

「ヴィーゼ、大好き!」


 な、何か急に皆の前で言われたら恥ずかしいよ……。これ端から見たら完全に惚気てるカップルみたいじゃん……。ほ、本当にこれ必要なのかな……?


「ヴィーゼ、大好き!」


 も、もう始まってる!? え、えっとえっと確か……。


「えっと、わ、私も好きだよプーちゃんの事……。大事な妹だもん」

「好きだよ! 大好き! ヴィーゼの事たっくさん好き!! 愛してる!」

「えっ!?」

 

 杖の力のために必要だと分かってはいるものの、そういう事をはっきりと言われると恥ずかしくなってしまう。思わず素の声が出てしまっていた。


「こういう事だよ!」

「ど、どういう事!?」

「永遠にずっとずっと!」

「え、永遠にずっと一緒……?」


 私がそう言うとプーちゃんは私を強く抱き締めながら叫んだ。


「永遠にずっと一緒!」


 プーちゃんがそう言った瞬間、私達の手にそれぞれ握られていた筈の杖はいつの間にか消え失せていた。どのタイミングで消えたのかすら記憶に無く、ついさっきまで持っていたのかどうかさえも曖昧だった。


「あ、あれっ!?」

「ありがとヴィーゼ。成功!」

「……なるほど、やっぱり君達には才能があるな。私じゃ到底追いつけない才能が」

「ほらこれで満足でしょ! さっさと牢屋戻ったら?」

「ふっ……そうしようかな」


 リチェランテさんは特に抵抗をするでもなく、大人しくリオンさん達の下へと向かい、自分の腕を縛る様にと両手を前に差し出していた。その近くではレイさんが既に拘束されており、やがて二人は甲板から姿を消し、牢の方へと連れて行かれた。


「これで終わったのかな?」

「うん、これで大丈夫だと思うよお父さん」

「そうか……。二人共、部屋に戻ってしっかり休みなさい。疲れただろう?」

「お父さんは?」

「僕はヴォーゲさん達と話してくるよ。あの三日月島も一応調査しておきたいんだ」

「分かった。んじゃあたしとヴィーゼは戻っとくね?」


 私とプーちゃんはお父さんと別れるとシーシャさんに連れられ部屋まで戻った。シーシャさんはお父さんと同じ様に、私達に休む様に言うと自分の部屋へと戻って行った。

 私はベッドへ腰掛ける。プーちゃんは隣へと腰掛けると私の肩に寄り掛かる。


「プーちゃん、何か凄い道具作ったんだね。私確か撃たれた筈だったのに、傷がどこにも無いもん」

「まっ、あたしに掛かればこんなもんよ!」

「でも、よく皆の言葉とか動き覚えてたね? 私だったら咄嗟にそこまで出来ないよ」

「あー、あれね? 結構適当なんだ~」

「えっ?」


 プーちゃんは私の膝を枕にするかの様にして寝転がる。


「力を使うために最後に言う言葉は、実際は完璧に同じ様に言わなくてもいいんだよ」

「ど、どういう意味?」

「あたしが時間を戻す時に使ったのはクルードのおっちゃんが言った『戻ってください』って言葉だったの。でもあたしが言ったのは『戻るよ』って言葉だった」

「つ、つまり?」

「最後の言葉は同じ意味だったらいいって事。流石にそこまで細かくしちゃったらあたしが覚えらんないよ」


 あれ……だとしたらあの杖を消す時のは……?


「でもプーちゃんさっきは……」

「からかっただけ」

「わ、私あんなに恥ずかしかったのに!? 永遠にとか言っちゃったのに!?」

「ちょっとした罰だよ~」プーちゃんは寝そべったまま私の顔に両手を伸ばす。

「ば、罰……?」

「……あたしヴィーゼが倒れた時、もう本当に駄目かと思ったんだよ? もし、もしヴィーゼが死んじゃったらあたし……一緒に死のうかと思ってたもん」


 プーちゃんはその姿勢のまま状態を起こすと私の顎の下に唇を当てた。しかし私がそれに対して反応を起こす前に頭を下げ、顔を私の腹部へと埋めた。


「……だから反省してねヴィーゼ。じゃないとまた恥ずかしくしちゃうから……」

「うん……。そう……そうだね、反省するよ……」


 私は震えて少しくぐもった声で話す大切な妹の頭を優しく撫でた。それしか今この子にしてあげられそうになかったから。

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