表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第8章:忠義と仁義
70/144

第69話:レイ・ネッビアスペーニェレ その男、海賊につき……

 クルードさんの知り合いであり、それでいて海賊の一員でもあるという人物が目を覚ました。上半身を起こした事によってその顔がはっきりと私にも見えた。顔には所々に刃物で出来た様に見える傷痕が残っており、いくつもの死線を潜って来た人間なのだと感じさせた。

 クルードさんは牢の前でしゃがみ込むと中に居る彼に語り掛けた。


「久しぶり、レイ……」

「……その、声……クルードか?」

「ああ。そうだレイ……こんな形で会いたく無かったが……」


 レイと呼ばれたその人物は、まだ体の調子が完全に戻っていないからか這う様にしてこちらに近寄ってくると鉄格子を掴み、体を持ち上げる様にして起こした。

 彼は私達全員を一瞥していたが、すぐにクルードさんへと視線を戻しやや弱弱しく口を開いた。


「ここはどこなんだ……? この揺れは船か?」

「ああ、少し訳があってね。今は国から離れてシップジャーニーの船団に世話になってるんだ」


 シップジャーニーの名前を聞いた瞬間、レイさんの瞳があからさまに震え、動揺している様に見えた。しかしすぐに落ち着きを取り戻したのか、一度瞬きをするとすぐに震えは収まっていた。


「君に聞きたい事があるレイ。今の君についてだ」

「……分かってる。クルード、君の言いたい事くらいは分かってるさ」

「じゃあ答えてくれるか?」

「……本当は分かってるんだろクルード? 俺はこうするしかなかったんだ。人として正道を外れてでも、なさねばならなかったんだ」

「そんな事、彼女は望んでいない」


 いまいち二人の会話が何を示しているのか呑み込む事が出来なかったが、少なくとも部外者である私達が口を出していい雰囲気では無かった。そのため、話が終わるまで少し離れていようと下がると、クルードさんから呼び止められた。


「お三方にも同席して欲しいのです。あなた達の意見も聞きたい」

「えっ、私達のですか?」

「ええ。彼が海賊になったのには理由があるのです。どの様な理由であれ許される事はありませんが、それでもせめて彼の事情を聞いて欲しいのです」

「クルードやめろ……これは俺の問題だぞ。女子供を巻き込む事じゃない」

「えっと……私達が呼ばれてるって事は錬金術に関係する事ですか?」

「恐らくですが。それにシーシャさん、あなたにも伺いたい」

「錬金術は門外漢だぞ?」

「それ以外の点についてなんです」


 クルードさんはレイさんの方へ向き直ると目で話をする様にと促した。どうやら私達を巻き込みたくないらしく、あまり乗り気では無い様だった。その様子はとても海賊行為を行っている人物とは思えないものだった。


「レイ」

「……君はいつもそうだな。俺の意見なんぞ聞きやしない」

「それは君もそうだろう? あの時私は止めた筈だ。海賊になったとしても、彼女の無念を晴らせる訳ではないと、人生を棒に振ると」

「いいや、無駄じゃない。少なくともあんな事が起きない様には出来る」

「えっとさ……その、あたし達やっぱりお邪魔なんじゃない?」

「レイ、話すだけ話してくれ。何か得られるものがあるかもしれない」


 レイさんはかなり渋っている様子だったが、私達の顔を交互に見た後、ようやくその重い口を開いた。


「……杖を探している」

「杖ですか?」

「……ああ。先端に何か水晶の様な物が付いていて、その周りを囲う様に蛇の装飾が付いているやつだ」

「ちょっと覚えが無いですけれど、どうして探してるんですか?」

「壊さなければならないからだ」

「壊す?」


 レイさんはなかなか次の言葉を出せない様だった。思い出したくない何か嫌な思い出に直結しているのか、唇が震えており何か只事ではない事が起こったらしかった。


「私が代わりに話しましょう。彼の……レイの姉は私達の故郷で神官をしていたのです。それも神からの宣託を授かるという重要な役割をしておりました」

「クルードさんの故郷はリュシナじゃないんですか?」

「ええ。仕事の関係であそこに移っていただけです」レイさんに視線を移す。

「ある日彼女はある商人から杖を購入したのです。今思えばあの男の身分をもう少し調べるべきでした。警備に引っ掛からずに託宣所に入る事など不可能だったというのに……」


 どうやらその男の人がその杖を持ち込んできたらしい。でも警備を掻い潜ったっていうのが気になるな……。もしかしたら何かしらの道具、あるいは魔法とかを使ってたのかもしれない。まだ確証は持てないけれど……。


「その杖は『未来を見通す物』だとレイの姉、マリアは語っていました。実際彼女が行う宣託の精度は、その日を境に格段に上昇しました。完全に未来を予知しているといっても過言では無いものになっていた」

「その話を聞く限りだと何も変な事は起こっていないな」

「その先ですシーシャさん。ある日……私のもとにレイが血相を変えて駆け込んできました。当時まだ私は青年でしたし、いったい何事かとそれだけで混乱してしまいました」

「な、何があったんですか?」

「レイは混乱のあまり言葉すら話せない様子で私の腕を引っ張り、託宣所へと連れて行ったのです」


 牢の中でレイさんが背を向けた。余程思い出したくない事柄らしく静かに体を震わせていた。この屈強そうな見た目の人物がこれほどまでになる事と考えると、おおよそ一つしか考えられなかった。


「……凄惨の一言でした。部屋の中央にはマリアが倒れており、その周りは彼女の血で真っ赤に染められていたのです。一人の人間からこれほどの血が出るのかと信じられない程でした」

「ヴィーゼ……」

「大丈夫……」

「最初は物取りの犯行かとも思いました。ですが何も盗られていなかったのです。それに外傷もどこにも無かった。まるで血液だけが身体の外に一気に抜き取られたかの様に……」

「クルード、今の話を聞いて思ったがそんな事は不可能だ。どんな技術を使っても血だけを外に抜くなんて出来ない、まして無傷で」

「ええ。あなたからはその意見が聞きたかったんです。普段から狩猟をしているあなたなら、そういった知識を持っているかもしれないと。ですが、今のではっきりました。どうやら自分とレイの考えは合っていた様です」


 レイさんは未だ体を震わせてはいたが、こちらに体を向けクルードさんを見上げた。その目つきは鋭いもので、はっきりと強い憎悪の感情が見て取れた。


「クルード、やはり……」

「ああ。自分達の推理は正しかった」

「あ、あの……どういう事ですか?」

「現場は荒らされてたんです。だからこそ自分達は物取りの犯行だと思った。でも何も盗られていなかったし、何より引っ掛かる部分があったのです」

「引っ掛かる部分? どういった所だ?」シーシャさんが問う。

「誰かと争った形跡では無かったのです。壁や床に付いていた傷はどれも同じ様な傷だった。そして亡くなった彼女が持っていた杖……あれの先端部分の水晶に僅かに付いていた傷、どれも一致したんです」


 クルードさんが今言った事が事実だとするなら、レイさんの姉、マリアさんは自分で杖を振り回して壁や床を傷付けた事になる。もしそうなんだとしたら、マリアさんはその杖を壊そうとしていた事になる。だとしたら、死因は杖が関係してる……?


「じゃ、じゃあその人は自分で杖振り回したって事……?」

「恐らくはそうだと思います。それから私達は急いで大人達を呼びに行きました。思えばあの時……どちらかが残っておくべきだった」

「何かあったんですか?」

「……戻って来た時には既に杖が無くなっていたんです。確かにこの目で、彼女の手に握られていたのを見た筈なのに、まるで幻の様に姿を消していたのです」


 レイさんがついに口を開いた。


「俺は……あれからあちこち聞き回った。何ヵ月も何年も……そしてようやく掴んだんだ」

「掴んだって……」

「レイは旅の商人から『自分をかつて捕まえていた海賊達が似たような物を持っていた』と聞いたのです」

「まさかレイ、あなたは……」

「ああ。あれを見つけ出すには奴らの仲間になる必要があった。それで一番手っ取り早く確実な道だ」レイさんは顔を伏せる。

「だが……どうしても俺には彼らが悪い奴らとは思えないんだ」

「どうしてですか……?」

「彼らは義賊だった。不正なやり方で金を稼いでいる奴らを襲い、盗んだ金を恵まれない者達に分け与えていたんだ。そんな奴らが……あの場から、姉さんから杖を奪うだろうか……」


 レイさんの中には困惑がある様だった。自分が見つけ出した情報を基に海賊の仲間入りをしたのに、その人達は義賊で悪人には見えなかった。自分が疑惑を向けている相手が実は関係無い者達なのではないかと考えているのだろう。

 するとその話を聞いていたのか、先程話を終えたばかりのリチェランテさんが隣の牢から顔を出して話しかけて来た。


「どうやら君達のお仲間さんらしいな双子ちゃん。気をつけないとまた私の時みたいになるぞ?」

「リチェランテ、お前は黙っていろ。こっちから聞きたい事はもう聞いた」

「シーシャ君には話してない。なあ君、その杖水晶が付いてて、蛇の装飾があったんだったかな?」

「おい静かにしろ!」


 看守の人と一緒にリチェランテさんの牢の方へと向かうと手に持っている棒で牢の奥へと押し戻そうとした。しかしリチェランテさんはそれを掴むと更に話を続けた。


「知ってるぞ、それ。私も探してたところだ」

「えっ!?」

「ノルベルト、今何て……」

「知ってると言ったんだ。あれも破壊予定の一つだ。君が手に入れた情報の通り、あの海賊共が持ってると見て間違い無いだろう」

「いやしかし、彼らは……!」


 牢から顔を出したリチェランテさんは嘲る様な表情をこちらに向ける。


「間抜け極まりないな。高度な嘘をつくというのは人間の特殊な才能と言ってもいい。犬猫も嘘をつくがせいぜいたかが知れてる」

「ノルベルト、君はその海賊達が嘘をついてると言いたいんだな?」

「そう。私が君達にやった様にね」


 レイさんは何か言い返そうとしている様子だったが、反論の言葉は何も口から出なかった。実際嘘をつかれているとなると、自分が信じているものが根底から覆るのだから無理もない。


「どうだろう。私と手を組まないか? 利害は一致する筈だ」

「レイさん、冷静に考えてください。探すのなら私達が協力しますから……」

「そ、そうそう! あいつ凄い悪い奴だよ!」

「……クルード、俺はこの後どうなるんだ?」


 クルードさんは首を横に振る。


「はっきりとは分からない。でも君は海賊だ、どこかに突き出されて運が良ければ投獄だけ、運が悪ければ死刑は免れないと思う……」

「そうか……」


 レイさんは少し間考え込んでいた。その間、私達は全員が黙っていた。リチェランテさんですらレイさんがどういう答えを出すかを静かに待っていた。

 やがて答えを決めたらしくレイさんは静かにその口を開いた。


「分かった……あの杖を破壊するのが今の俺に残された使命だ。その後どうなろうが悔いも無い」

「レイ!」

「レイさんっ!」

「なるほど、じゃあ協力しよう。ただ正直な話、今のままじゃ私も君もどうしようもない。そこでだクルード」


 リチェランテさんに呼ばれクルードさんは厳しい顔をして顔を合わせる。


「君の方から上手くここの船長殿に掛け合ってくれないか? 君としてもそっちの姉君の仇を取りたいだろう?」

「ノルベルト、悪いがそれは出来ない。君のかつての行いを見たら信用は出来ない」

「分かった。じゃあ約束しよう。私はただ錬金術を無暗に使っている連中や、それによって作られた道具を破壊したいだけだ。今回の件が済んだらまたここに入れていい。これでどうだ?」


 リチェランテさんのこの約束がもしも嘘じゃないんだとしたら、水の精霊が私達に頼んだ事とも重なる。錬金術は使い方次第では国一つを簡単に消せる力がある。この人もそれを危惧しているのかもしれない。もちろん嘘かもしれないけれど……。


「……自分の一存では決められない。ヴォーゲさんが決める事だ」

「じゃあ聞いてきてくれ。あの邪魔な海賊共を消せるとなれば、きっと彼は協力すると思うがね」

「……」


 クルードさんは何も返事は返さず、部屋から出て行った。残された私達は看守の人に一言例を述べると急いで部屋を出た。流石にあれ以上あの中に居るのは重い空気に耐えられなかった。

 プーちゃんは私とシーシャさんと私の服を引っ張り口を開く。


「ねぇヴィーゼ、シー姉、どう思う?」

「どうって言われても……」

「私はあまり賛成は出来ない。リチェランテには前科がある。あいつの口八丁に乗せられて行動するのは危険過ぎる……」

「じゃあ海賊のおっちゃんの話はどう思う?」

「クルードが嘘をつくとは思えない。彼の性格でああいった作り込まれた嘘を作るのは不可能だと思う」

「私もレイさんの話は本当だと思う。でもあの話に出てた杖、リチェランテさんが食いついてきたって事は錬金術で作られた物なのかな?」


 確証は持てなかったけれどその可能性が高いよね……。もし未来予知が出来る杖が錬金術で作られた物なんだとしたら、レイさんのお姉さん、マリアさんの死因にも納得がいく。ルナさんがあの絵の代償として片腕が動かなくなったのを考えると、マリアさんも錬金術の代償を受けた人なんだと思う。


「プーちゃん私ね、多分マリアさんの話はルナさんの時と同じ代償が関係してると思うの」

「でもさ、ルナ姉の時は自分で錬金術を使っちゃったから起きたんでしょ? さっきの話だとそのお姉さんは商人から買ったって言ってたよ?」

「うん。でもそれぞれの道具の影響力を考えると……」

「なるほど、そういう事か」シーシャさんは私の意見に納得した様だった。

「ルナが使っていたあれは、あくまで絵の世界で願望を再現する力だった。だがマリアが使っていたというその杖には未来を予知する力……つまり現実そのものに関りを持つ力があった。この違いだな?」

「あくまで予想ですけどね。でもそれぞれの力の差を考えれば、代償の結果的にも納得がいく気がするんです」


 プーちゃんもシーシャさんの話を聞いて納得をしてはいる様だったが、何かが引っ掛かっているらしく腕を組んで眉をひそめていた。


「プーちゃん?」

「ヴィーゼの言いたい事は分かったし、納得は出来たんだけどさ。ちょっと引っ掛かる事があって……」

「何?」

「いや……未来予知って本当に出来るのかなって思ってさ……」

「そればっかりは私にも分からないよ。作った事が無いだけで、そういう道具があるのかもしれないし……」

「そう、なのかなぁ……?」


 確かに引っ掛かる部分ではあった。もし未来予知が出来るのだとしたら、未来や運命というものは最初から全て決められているものだという事になる。そうじゃないと予知は成立しない。『未来は何が起こるか分からない』というのが持論の私としては、出来れば否定したい説だった。


「ヴィーゼ、プレリエ、考えてる最中に悪いんだが、そろそろ船が動き出す時間帯だ。ここに居たら怪しまれるぞ」

「あっ! そ、そうですね」

「じゃあ戻るヴィーゼ?」

「うん。じゃあシーシャさん、何か進展があったらその時は……」

「ああ。まあリチェランテの件は進展が無い方がありがたいが……」


 お互いに別れの挨拶を終えた私達はそれぞれの部屋へと戻り、何事も無かったかの様に振舞う事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ