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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第1章:ヘルムート王国の双子
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第6話:枯れてしまった村

 水車がある建物から出た私達は森の中を進んでいた。さっきまで私達が通っていた所とは違って、最早道すらも無く、足場が常に不安定な所だった。軽快に進んでいくプーちゃんとシーシャさんとは逆に、私はあっちへフラフラこっちへフラフラと危なっかしく進んでいた。


「もー! ヴィーゼ遅いよー!」

「ま、待ってよぉ! こ、こんなに不安定な所行くなんて思わなかったんだもん!」

「すまない。だが、ここが一番の近道なんだ」

「だってさー」


 正直遠回りでもいいから普通の道が良かったよ……こんな所通ってたら服も汚れちゃうし……。ていうか、今台車引いてるの私だけじゃん! プーちゃん何しれっとサボってるの!?

 それから私達は数十分にも渡って歩き続け、ようやく開けた場所に村が見えてきた時には、もう足がクタクタになっていた。台車は手袋のおかげで全く重くは無かったが、慣れない場所を歩いたせいで呼吸の方はかなり乱れていた。


「ここだ、ここが私が生まれた村、ダスタ村だ」


 村自体は特に変わった所は無い様に見えた。よく本などで見ていた普通の村だ。しかし、シーシャさんが言っていた様に土地が枯れてしまっているのか、どこにも緑が見えなかった。


「何か寂れた感じだね」

「プーちゃん……!」

「いや、いいんだ。実際作物が育たなくなってから、村はずっとこんな感じだからな」


 村に入ってみてもどこにも植物は無かった。それどころか、家の数と比べても人の気配が疎らで、ほとんどの家が機能していない様に見えた。

 そうして見て回っていると、一人のお婆さんがシーシャさんに駆け寄ってきた。


「シーシャ! シーシャじゃないか……!」

「トヨ婆……」

「今までどこに行ってたんだい!」

「水の精霊に力を借りようと……」

「あんた、まさかあの耄碌もうろくジジイの言う事信じてんのかい……?」


 あれ? お婆さんの今の言い方だと、水の精霊を信じてないみたいな感じだったよね? シーシャさんが独断で水の精霊を探してたのかな?

「トヨ婆、それに関しては後にして欲しい。力になってくれそうな人達を呼んだんだ」

「何?」お婆さんは私とプーちゃんを交互に見る。

「この二人かい?」

「ああ、ヴュステ姉妹だ。錬金術を使えるらしい」


 お婆さんは私達の側まで来ると、皺に囲まれた目で私達を見つめた。


「こんなガキンチョに何が出来るのかねぇ?」

「失礼だなぁ! ガキンチョじゃないし!」

「プーちゃん、失礼だよ……」


 お婆さんはしばらく私とプーちゃんを見つめていたが、やがて背を向けると近くの家の方へと歩き出した。


「付いてきな。食べ物位ならやるよ」


 シーシャさんは申し訳なさそうに謝る。


「すまない……トヨ婆は錬金術に懐疑的なんだ。でも私は二人の力を信じている」

「え、えっと……出来る限りの事はやってみます」

「何弱気になってんのヴィーゼ! あたし達なら何だって出来るよ!」


 お婆さんからの反応に少し自信を失くしそうになっていたが、プーちゃんの言葉で私の心は再燃を始めた。何気なく言った言葉なのかもしれないけれど、私の事を勇気付けるには丁度いい言葉だった。

 私は台車を家の外に置き、家へと歩き始める。


「ありがとね、プーちゃん」

「何が?」

「……プーちゃんのおかげで元気出たって事」

「ん~何かよく分かんないけど、ヴィーゼがいいならいいや!」


 プーちゃんはにんまりと笑ってみせた。その無邪気さが、また私を勇気付け、そして安心させてくれた。


 家の中は木で出来た壁や床に囲まれていた。今は生えていない事から、恐らくまだ木が生えていた時に建てた家なのだろう。しかし、そうやって家の中を見ていた私の目には、予想外の人物が映った。


「お父さん!?」

「えっ、お父さん!?」

「二人共……?」


 プーちゃんはお父さんの下へと駆け寄ると、座っていたお父さんの胸に向かって飛び込んだ。その衝撃でお父さんが持っていた本が床に落ちてしまう。


「ど、どうしたんだい? 何でここに……」

「決まってんじゃん! お父さんを追い掛けて来たの!」

「何だい、あんたら親子かい」

「え、ええ。そうですね、はい」


 お婆さんは不思議そうにお父さんとプーちゃんを見ていた。


「妙なもんだねぇ……学者先生の子供が錬金術士とは」

「なーんかさっきから婆ちゃんの言葉がキツイ気がするんですけどぉ!」

「ハハハ……妻が錬金術をやっていたもので……」


 それにしてもお父さん、ここで何をしてたんだろう? もしかしてここでも未知の生物が見つかったのかな?


「ねぇお父さん、どうしてこの村に居るの?」

「トヨさんから頼まれてね。このダスタ村で起きてる土地枯れ現象を解明して欲しいって」

「こういうのは専門家に任せた方が一番だからねぇ。あの耄碌ジジイは精霊が何だの言ってたが、あんな考え方じゃ変えられるものも変えられなくなる」


 シーシャさんはトヨさんに悲しそうな顔を向ける。その顔は初めてあった時に見せた凛とした表情ではなく、どこか子供っぽさを感じさせる顔だった。


「トヨ婆、お願いだから村長の事をそんなに悪く言わないでくれ。私にとってあなたが母である様に、彼は私にとって父なんだ」

「シーシャ、いい加減分かってくれないかね。この問題をここまで放置してたのはあいつなんだ。信頼出来る訳ないだろう」

「放置してた訳では無いんだ! 村長は色々やってはいた。ただ、それが効果を出さなかっただけなんだ!」

「シーシャ、世の中はね、頑張ってるから評価されるなんて事は無いんだよ。結果が出せなけりゃあ、何もやって無いのと同じだ」


 プーちゃんが声を上げる。


「あのさぁー! そういう話は外でやってくれる!?」

「プレリエ、そういう事言っちゃ駄目だろう?」

「むぅ……」


 お父さんはむくれるプーちゃんを優しき離すと、本を拾って立ち上がった。


「トヨさん、残念ながら僕にも分かりません。恐らくこれは科学だけでどうこう出来る問題ではありません」

「どうしてそうやってもいない事を無理だって言い切れるんだい?」

「僕は腐っても学者です。知識と経験則で分かります」


 私もお父さんと同意見だった。まだ何かした訳じゃないけれど、科学的な方法だけじゃ意味が無い気がする。根本的な解決をしない限り、また繰り返しになってしまう。

 私は鞄からお母さんが作ってくれたレシピ集を取り出し、お父さん達が話してる間に目を通す。レシピ集はちゃんと分類毎に分けて書いてあるため、こういう時に使いやすい。私は園芸関係の項目に目を通す。そこには植木鉢のレシピや土壌の持っている力を引き出すジョウロなどが載っていた。

 このジョウロを使えばもしかしたらこの土地をどうにか出来るかも……。でも、お母さんの書いたレシピの横には小さなバツマークが入ってる。小さかった頃の私達が危ない物を作らない様にそうしてくれてるらしいけれど、何でこのジョウロが危険なんだろう? 作りたいのが本音だけれど、お母さんがこう書いてるんだし、止めといた方がいいのかな?

 そうして読み進めている内に、あるレシピに目が留まった。『栄養剤』、スポイト様な物に液体が入っており、レシピによると紫色の液体らしい。この液体には生物の活動を活性化する効能があるらしく、人間だけでなく、植物にも効くらしい。バツマークも付いておらず、使っても安心な物らしかった。


「あ、あのっ!」

「何だい、今この先生と話してるんだ」

「もしかしたら、一時的にですけれど、何とかなるかもしれません!」

「その言葉をどこまで信じればいいんだい。初対面のあんたの言葉を」


 プーちゃんは私の隣に来ると鼻を鳴らした。


「全部だよぜーんぶ! ヴィーゼはね、ちょー頭いいんだから! そんなヴィーゼが頭働かして言ったって事は、それだけ自信がある事なんだよ。ねっ? ヴィーゼ?」

「そ、それはちょっと買い被り過ぎかな……? でも、自信があるのは本当です! その場しのぎにはなるかもしれません!」

「ヴィーゼ、この問題は僕らにもどうにも出来ないかもしれない問題なんだ。それこそ、この現状が大地の答えなのかもしれない。それでも、やるんだね?」


 お父さんは私の心に確認を取ってきた。確かにその場しのぎじゃ意味が無いかもしれない。でも、今この村は飢餓に苦しめられてる。だったら、一時的にでも何とか出来れば、少しでも時間稼ぎが出来れば……。


「……うん。私にはお父さんがやってる様な専門的な事の知識は無いから、自分が出来る事をやってみるよ。きっとお母さんなら、こんな時そうしたと思うし……」

「そうだね……彼女なら、きっとそうしただろうね。うん、分かったよ。ここは二人に任せよう」


 シーシャさんが頭を下げる。


「私からも、どうか頼む!」

「……フンっ……まあ、ガキンチョがどこまで出来るのか、見る位はしてやるかね」


 皆の反応を見て、プーちゃんは私に抱きつく。


「やるねぇヴィーゼ! 流石あたしのお姉ちゃんだよ!」

「プーちゃん、まだ作って無いしどうなるか分からないんだから、喜ぶのは後からだよ。まずは、だよ……これを作るための材料を手に入れないと」


 お父さんは家の出口に向かう。


「じゃあ僕は釜の準備をしておくよ。材料の採取は二人で大丈夫かな?」


 どうだろう? 今までは近くの採取はプーちゃんが行ってくれてたけれど、この辺りは普段来ない場所だしなぁ……。どんな生き物が居るかも分からないし、それこそこの前みたいな凶暴な怪物みたいなのも居るかもしれないし……。

 そう考えているとシーシャさんが手を上げた。


「ならば私が二人に同行しよう。野生動物位なら簡単に追い払えるぞ」

「そりゃ頼もしいね、間違えてその弓矢であたし達撃たないでよ?」

「こらプーちゃん!」

「フフ……ああ、問題ないさ。この村を救うためでもあるんだ。私も全力でサポートするよ」


 トヨさんは小さく溜息をつく。


「やれやれ……それじゃあ私は、あのクソジジイに話でも付けに行くかね……」


 これからやるべき事が決まった私達は一つの目的のために、各々が行動を開始した。

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