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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第5章:豊かさと罪
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第43話:狭間の絵筆

 筆を釜の中に投入した私は首からぶら下げていたあのネックレスを外す。一見するとどこにでもある何の変哲も無い普通のネックレスであり、何か特殊な雰囲気が出ているといった事も無かった。


「何かあれだね、いざ入れるってなると名残惜しいね。それ一個しか無い訳だし」

「ま、まあ貰い物だしね。でも多分私達の考え方は間違ってないと思う。きっとこれで上手くいく筈……」


 多少の名残惜しさはありつつも、私は釜の中へとネックレスを投入した。投入後、ゆっくりと釜の中を混ぜ始めた。自分達で作った初めてのレシピだったものの反応は安定しており、問題なく調合を進められそうだった。


「上手くいくかな?」

「分からないけれど、今の私達が出来るのはこれ位だと思う……。もしかしたらもっと効率的な物が作れるのかもしれないけれど、全然思いつきそうにないし……」


 融合時の反応を安定させるために中和剤を投入し、蓋を閉める。


「……よし、後は待つだけかな」

「どれ位掛かるかな?」

「筆だしそこまで長くは掛からないと思う。ちょっと待ってよう」


 調合が終わるまで私達はルーカスさんがくれた本に目を通す事にした。あの遺跡が載っていたページを開いて見たものの、プーちゃんは怯えた様子を見せたりはしなかった。

 ……もう大丈夫みたい。多分あの遺跡が壊れたからかな。でもきっと他にもシルヴィエさんが言ってた様な人達が居るんだ……世界を守ろうとして管理個体として閉じ込められた人達が……。


「プーちゃん、もう大丈夫そう?」

「うん。何とかね」

「もしまた変な感じがしたら言ってね?」

「うん。まあ無いのが一番なんだけどね」


 そう……無いのが一番、その通りだよ。その通りなんだけれど、でもきっと……そうはいかないんだろうなぁ……。

 しばらくの間本を読み続けていたが、やがて釜から湯気が出ていない事に気付いた私は本を閉じ、蓋を開ける。


「出来たっぽい?」

「多分ね。ちょっと待って……」


 お母さんの言いつけ通り釜の中を覗かない様に腕を突っ込み、中から筆を取り出す。見た目は入れた時からあまり変わっておらず、一見すると何の変哲も無い筆にしか見えなかった。


「……失敗した?」

「……どうだろう。ちょっとどこかで試してみようか」


 何か適当な物を探して部屋の中を動き回った私は、最終的にお父さんが使っていた紙を使う事にした。まだ何も書かれていない白紙のものを選び、机の上に置くとその上に筆先をそっと置く。この段階では特に何も起こらず、ただ筆で触れているだけといった状態だった。


「いくよ」

「う、うん……!」


 思い切って筆を横にスッと動かすと、今までに見た事のない虹色の線が引かれた。その色はまるで吸い込まれてしまいそうな程綺麗で、とても絵の具などでは出せそうにない色だった。


「お~綺麗だねぇ」

「うん。でもこれでいいのかな?」


 私は紙の端の部分を千切ると筆で触れた部分にそっと近付けた。するとまるで紙の奥に更に空間が広がっているかの様に切れ端は紙の中へと入り込んだ。


「ヴィーゼ、これ成功じゃない?」

「うん、多分」


 自分達で作っておいてなんだけど、こんな事が出来るんだ……。この虹色の軌跡奥がどれだけの広さを持っているのかは分からないけれど、もしこれが無限大に広がってるんだとしたら、この筆って結構な発明になるんじゃ……。


「……これって向こう側はどうなってるんだろう?」

「どうなってるって……そりゃ隙間の空間があるんでしょ?」

「それはそうだろうけれど、広さだとかそういうのはどうなんだろうって……」

「うーん……そこまでは分かんないけどさ、でもあんまし深く考えなくてもいいんじゃない? 一応必要な物は作れた訳だしさ」


 プーちゃんは紙を摘まみ上げ、裏面を覗く。当然ではあるが裏には虹色の軌跡は存在せず、片面にだけ存在している様だった。

 確かに細かく考えすぎるのは良くないかもしれないけれど、でもこの筆結構危険な物の気がする。使い方を間違えたら多分相当危ない。それこそ水涸れどころじゃ済まない様な事になりそう……。


「プーちゃん、その紙ちょっと貸して」


 プーちゃんから紙を受け取った私は再び机の上にそれを置き、その真上から筆を垂直に落下させた。筆は真っ直ぐに落ち、跳ねる様に転がった。先程とは違い、紙には何の後も残っておらず、虹色の軌跡もさっき付けたものしかなかった。


「何してんの?」

「一応確認しただけだよ。この感じだと取り合えず安心かな……多分手で持って使わないと本来の力は発揮出来ないんだと思う」


 これで一安心かな……もし筆先がどこかに触れただけであんな風に『隙間』への入り口が作られるなら、管理するのが相当困難だけれど、手で持ってないと使えないなら普通に持ち歩いても大丈夫かな。


「んー……確かにさっきと違って跡が残ってないね」

「うん、安全性も高いしこれでいこう」


 私は紙と筆を持ち、プーちゃんと共に部屋の外に出る。念のため人目に付かない様に注意を払いながらシーシャさんの部屋へと移動し、扉を叩く。顔を出したシーシャさんは静かに頷くと、私が持っている紙や筆が見えない様に私達の前に立って船の出入り口へと歩き始めた。


「出来たんだな」

「はい、多分これで大丈夫かと」

「どういう道具なんだ?」

「えっと……この筆で触れた場所に隙間を作る道具です」

「……すまないが意味がよく分からない。どういう意味なんだ?」


 まあそう言われるよね……。私だって他の人から『隙間』がどうこうと言われてもきっと理解出来ない。プーちゃんが気付いてくれて、そこで説明をしてくれたから理解出来たけれど、普通なら無理に決まってる。


「その、どう言ったらいいのか……」

「あのねシー姉、紙に書かれてる文字とあたし達が居るこの場所の間には隙間があるんだよ。境界って言うのかなぁ、そこへの入り口を作るのがこの筆なんだ」

「……余計に分からないな」

「あまり気にしないでくださいね。正直私達も上手く説明出来ないですし、完全に感覚的なものなので……」

「あ、ああ。そうだな」


 やがて街の方へと出た私達はノルベルトさんの居る場所へと真っ直ぐに歩き続ける。人々は他愛のない世間話をしていたり、各々の仕事をしていたりと一見すると本当に平和そうだった。しかしその豊かさが人の悪意で出来上がっているものだと思うと酷く不気味に感じられた。


「……よし、着いたぞ」


 ようやく到着した私達は扉に手を掛けて開けようとしたものの、鍵が掛かっているらしく全く開かなかった。


「あれ?」

「どーしたのヴィーゼ?」

「開かない……鍵が掛かってる……」

「……ヴィーゼ、窓の方から来いという意味じゃないのか?」

「あっ……」


 言われてみればそうかも……。もしここに余所者の私達が入ろうとしてる所が見られたら他の人達に怪しまれるかもしれない。そうなったら計画が全部台無しになるかもしれない……。


「一応窓の所に行ってみましょう」


 確認のために窓の所へと行ってみると窓が開けられており、いつでも入れる様になっていた。先程は気付かなかったが、その場所は丁度通りからは死角になっており、ここからなら怪しまれる事も無さそうだった。


「ヴィーゼ、プレリエ、念のために私が先に行く。後から引っ張るからそこで待っていてくれ」

「はい」

「うん、お願い」


 シーシャさんは窓へとよじ登り中に入ると、数秒後窓枠を掴みながら顔を出し、私達を一人ずつ中へと引っ張り入れた。

 中ではノルベルトさんが壁にもたれる様にして立っていた。その顔からは期待の様なものが強く感じられた。


「やあ来たね。早かったじゃないか」

「はい、何とか上手く出来たと思います」

「それじゃあ見せてくれるかな?」


 私は手に持っていた筆を慎重に手渡す。


「気を付けてください。手で持っている時はなるべく筆先がどこにも触れない様にしてくださいね」

「ほう……どういう力を持った道具なのかなこれは?」

「あのね、隙間を作るんだよ。正確には隙間への入り口だけど」

「隙間?」

「えっと……こんな風になるんです」


 私は『隙間』が作られた紙をノルベルトさんに見せる。あの軌跡はまだしっかりと残っており、変わらず綺麗な虹色を放っていた。


「これは……」


 ノルベルトさんは興味深そうに近づいてくると、『隙間』に向けて指を近付ける。


「あ、危ないですよ! 生き物が入ったらどうなるか分からないですし、向こう側がどうなってるかも分からないんですから!」

「大丈夫さ……何の問題も無いみたいだ」


 そう言われ覗き込んでみると『隙間』の奥へと指が入り込んでいた。紙の裏側に指が突き抜けるといった事は起きておらず、完全に別の空間に入っている様に思えた。


「素晴らしいなこれは……完璧だよ、全く完璧だ! やはり君達に頼んで正解だった!」

「えっとじゃあこれでいいですか?」

「ああ、いいとも。後は起爆させるための導火線だな。本当は時間になったら勝手に起爆する様なのを作って欲しかったが、これでも十分だ」


 ノルベルトさんは足を引き摺る様にしながら足早に部屋の奥に向かうとあれこれと引っ張り出していた。


「ありがとう、後はこちらで作る。導火線に必要な材料は全て持ってる」

「えっと……じゃあもういいんでしょうか?」

「そうだな……じゃあ明日の事を伝えておこうか」


 ノルベルトさんは机の上に道具一式を置くと近くの窓から外を窺う。


「いいかな、作戦は明日だ。私の見立てによると君達の船の修復は明日には完了する。そうなれば君達はすぐにでも出航するだろう。その時私も乗せていって欲しいんだよ。それとリュシナの副官もね」

「その副官はどうやってあの船に乗るんだ? そいつは艦隊を任されてるんだろう?」

「隙を見て脱出様の小舟で逃げるつもりらしい。そこを上手く拾ってくれればいい。幸いシップジャーニーのほとんどの船はただの漁船だ。あの巨大船で引き上げるのは困難だが、漁船なら簡単に出来るだろう? それに彼らは私達の計画は何も知らない。特に疑う事無く拾ってくれるだろう」


 かなり危険なやり方な気がするけれど大丈夫かな……それしか方法が無いのかもしれないけれど……。


「さああまり長居されると怪しまれる可能性も出てくる。もう帰った方がいい」

「分かりました。あの……くれぐれも気を付けてくださいね?」

「勿論だとも」


 話を終えた私達は再び窓から外に出ると通りを抜けて港へと戻って行った。


 港に戻ってた丁度その時、お父さんが戻ってきた。


「遅くなってごめん」

「あっ、おかえり。どうだった?」

「何も無さそうだったよ。まあ、何も無いのが一番いいから一安心かな?」

「そっか、良かった」


 本当はそれとはまた違った問題が起こってるんだけれど、言わない方がいいよね……。明日になったらもうここを出る事になるんだし……。


「シーシャさん、二人をありがとうございました」

「いや、気にしないでくれ。私もいい息抜きになった」

「それじゃあそろそろ戻ろうか。ヴォーゲさんによると明日にはもう出航出来るらしいから、早めに休もう」

「う、うん」


 そうして私達は各々の部屋へと戻って行った。ノルベルトさんの作戦が上手くいくかどうかという不安はあったものの、今の私にはこれ以上はどうする事も出来ないと感じ、ただただ被害が少なく済む様にと祈るしかなかった。

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