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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第4章:終わらない村
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第38話:終わる村

 倉庫へと戻ってきた私達は手分けして石鹸を探し始めた。ここに来るまでの途中、誰とも会わなかったため慌てて探す必要は無いが、早いに越した事は無い。


「どう、見つかった?」

「いや全然……交易品が置いてあったって事はここにある筈なんだけれど……」


 どこかにある筈……石鹸なら輸出したり輸入したりする価値があるものだもん。少なくとも一つは絶対にある筈なんだ……。

 それからしばらくの間倉庫の中を探し回り、いくつ箱を開けたか最早はっきりと覚えていない程経った時、ようやく目的の代物は目前の箱の中から顔を覗かせた。


「あった! あったよプーちゃん!」

「よっし! でかしたヴィーゼ! 早く戻ろうよ!」


 そうして急いで部屋へと戻ろうと扉を開けた瞬間、私とプーちゃんは何かにぶつかってしまう。


「おっと……大丈夫ですか?」


 倒れそうになった私達を支えてくれたのはこの船団を率いている総帥、ヴォーゲさんだった。その隣にはレレイさんとリオンさんが立っていた。

「あっ、えっとすみません。えっとですね……」


 今この場所に居る正当な理由を何とか吐き出そうとしたが、それを遮る様にレレイさんが話し始めた。


「話はしておいたわ」

「レレイから話は伺いました。まさかこの村であんな事が起こっているとは……」


 プーちゃんが落ち着きなく体を揺さぶり始める。


「あーえっとえっとぉ……ちょっと急いでるんだよね。答えだけ言ってくれると嬉しいんだけどなー?」

「ちょっとプーちゃん……!」

「いえ、お気になさらずに。実際、早急に対処しなければならない事でしょう」

「あの、ヴォーゲさん……本当にいいんですか? ここの皆さんにとっては大事な取引相手なんじゃ……」


 ヴォーゲさんは顎を擦る。


「……確かに大事な取引相手ではあります。ですが、お三方に協力する事になった時に申し上げましたが、我々は古くから海で過ごしてきた一族なのです。本来なら介入すべき事では無いのでしょう。ですが、一度命を落とした生物が蘇るというのは自然の理に反する事です。止めなければなりません」


 レレイさんも言ってた。『自然の理に反する』って……。自然と共に生きてきた人達だからこそ、そういう風に考えるのかな? それとも、一人の人間としての答えなのかな? 私は……どっちなんだろう?


「我々シップジャーニーはこの件に賛成です。もし必要ならいつでも声を掛けてください」


 ヴォーゲさんは真っ直ぐに私とプーちゃんを見つめた。その瞳には一切の迷いが無く、一つの集団を束ねるリーダーとしての覚悟を感じられた。


「あの……!」


 私は今から行おうとしている事、そしてそのために黙って倉庫から石鹸を持ち出そうとした事を正直に話した。真っ直ぐな覚悟を見せられて、嘘をつこうと思えなくなったからだ。

 全てを話し終えた私達は石鹸を持って部屋へと戻った。ヴォーゲさん達は私達が動き易い様に村人の注意を惹くために外へと出て、もう決して成立しなくなる取引の話を始めていた。

 申し訳ないっていう気持ちが強い……けれど、私達がやらないとこの問題は解決しない。もしこの件にも錬金術が絡んでいて、水の精霊が言ってた『人間の罪』に当て嵌まってるなら、絶対に何とかしなきゃいけない。そうしないとシーシャさんの願いも叶わない……。


「ヴィーゼ!」

「あっ、えっ……?」

「何ぽあっとしてんの? ほら、もう出来てるみたいだよ!」


 そう言うとプーちゃんは私の鞄の中からフラスコを引っ張り出すと、釜の中を覗き込む様な形で手を突っ込む。

 気が付いた時には体が動いていた。私はプーちゃんの体に手を回し、尻餅をつくのも構わずに後ろに引っ張った。


「いたた……」

「び、びっくりたぁ……何、どしたのヴィーゼ?」

「ど、どうしたのじゃないよ……お母さんから言われてたでしょ? 中から取り出す時は絶対に覗き込んじゃ駄目って……」

「あっ……」


 本当に寿命が縮んだかと思った……実際に覗き込んだら何が起こるのか全く予想がつかないけれど、お母さんがああ言ってたんだから守った方がいいに決まってる……。


「気を付けてね……生きた心地がしなかったよ……」

「う、うん。ごめん……」

「今後は気を付けてね……。じゃあ続きやろうか」


 その後の調合は簡単なものだった。出来上がった粘着剤と石鹸を釜に入れて、後はただ待つだけというものだった。中和剤を必要としない事から、そこまで複雑な合成は行われていない様だった。


「完成するまでそんなに時間は掛からないみたいだね」

「そだね。出来上がったらすぐ持ってこうよ」

「うん」


 港にはまだヴォーゲさんやシーシャさん達が居るだろうから、持っていく時は声を掛けなくても気付いてくれるだろうし大丈夫かな。

 それから少し経ち、完成した剥離剤をフラスコに入れると急いで部屋を出て港へと向かった。しかし、港ではシップジャーニーの人達と村の人達が睨み合っていた。

 ……何が起きてるの? 私が最後に見た時には普通に取引をしてた筈なのに……。

 私達が出て来た事に気付いたリオンさんは私達を守る様に立つ。


「あ、あの……リオンさん……」

「……気付かれました」

「え?」

「ヴィーゼやプレリエ、ヴァッサの予想は当たっていた様です。彼らは……作られた存在です」


 気付かれた……? 特に怪しい行動はしてなかった筈……いったいどこで気付かれたの……? この人達は、私達をどうする気なの……?

 村人達の先頭に立っている老人がゆっくりと話し始める。


「儂らが生きていて、そちらに何か不利益をもたらしましたかな?」


 ヴォーゲさんが答える。


「……利益不利益の問題ではありません。貴方方は、生物としての領域を超えてしまっています。どんな生物でも到達していない、到達してはいけない『死なない』という領域を」

「誰しもが考える事ではないですかな? 永遠の命を手に入れたいと……」


 プーちゃんは私の後ろに隠れる様に立ち、力強く服を掴んだ。

 ……考える事かもしれない。ずっと生きていたい。それこそ、病気で先が長くない人とかだとより強くそう思う筈だ。でも、それは生きる事を否定する事なんじゃないかと思う。死があるから生きてるって言えるんじゃないのかな……。そして周りの人達はその人の死を乗り越える事でちょっぴりだけれど、強くなれる……。


「リオン……」


 レレイさんが囁く。


「……頼んだわよ」

「……お任せを」


 リオンさんがそう返事した直後、レレイさんの手元から光の様なものが放たれ、数秒の間周囲を光に包み込んだ。恐らく魔法か何かなのだろう。昔から二人揃って魔法の才能が無かった私達にとっては、あまり見慣れない現象だった。

 光に包まれている間に私の体は力強く抱えられ、その場から移動を始めた。隣からプーちゃんの驚いた声が聞こえた事から、私達を運んでいるのはリオンさんだと気付けた。

 数秒後目を開けると、私達はあの卵がある場所へと続く海岸沿いに居た。リオンさんは私とプーちゃんをその場に下ろすと周囲を見渡した。


「あ、あのリオンさん……」

「時間がありません。手短に説明します」足早に歩きだしたリオンさんの後へ続く。

「……ヴァッサが捕まりました」

「えっ!?」

「お父さん……?」


 安心させるためにプーちゃんの手を繋ぐ。


「……私が付いているべきでした。まさかこうなるとは……」

「え、えっと! どうしてお父さんが!?」

「ヴァッサは二人が言っていたその卵の様なものを調べていた様なのです。それが、ここの村人に気付かれてしまいました」


 私達が最初に倉庫から戻った時、その時既にお父さんは部屋に居なかった。多分あの時にはもう卵を調べに行ってた筈……だとしたらその最中に……。


「おっ、お父さんは大丈夫だよね……?」

「彼らの目的はあくまであの卵を守る事なのでしょう。それだけが目的なら、必要以上の攻撃は行ってこない筈です。それに……」

「な、何ですか?」

「恐らくヴァッサは人質になっている筈です。もし人質を殺害してしまったりすれば、人質としての価値が無くなってしまいます。ですから、恐らく無事です」


 村の人達はお父さんを解放する代わりに私達が何もしない様に取引するつもりなんだ……。

 リオンさんが足を止める。


「……居ましたね」


 その視線の先には5人の村人と、縄で腕を後ろ手に縛られているお父さんが居た。村人の内一人が前に出る。見た目は青年の様だった。


「そこで止まれ!」

「……私達シップジャーニーは、貴方方に危害を加えるつもりはありません。その人を解放してください」

「タダでという訳にはいかない! この余所者……こそこそ嗅ぎまわりやがって……」


 結構距離が離れてはいるけれど、ここからお父さんを見た感じだと少なくとも怪我はしてなさそうだ。

 村人からの返事を聞いたリオンさんは、人間離れした速さで足元に落ちていたウニを投げつけた。投げるまでの動きも投げられたウニもどちらも目視出来なかった。

 ウニが相手の顔に当たった時には、既にリオンさんが至近距離まで近づいており、5人の村人達はたった一人のリオンさんに成す術も無く倒された。

 それを見た私とプーちゃんは急いでお父さんの側へ駆けつけた。


「お父さん!」

「ああごめん、まさか捕まるなんて」

「すぐに解きます」


 リオンさんがお父さんの縄を解くと、真っ先にプーちゃんが抱きついた。何も口には出さなかったが、その抱きしめ方はかなり強いものに見えた。

 プーちゃんの頭を軽く撫でたお父さんは立ち上がった。


「再会を喜ぶのはこの件が片付いてからだよ。ヴィーゼ、準備は出来たんだね?」

「う、うん。この剥離剤なら行けるはず……」

「よし、じゃあ早速やってみて。港の方が後どれだけもつか分からないから」

「分かった」


 返事を返した私は皆と共に卵の側へと寄った。相変わらずあの卵はそこに張り付いており、また少し大きくなっている様に見えた。

 成功する事を祈りつつ、私はフラスコに入れていた剥離剤を卵に向かって少量垂らした。すると卵の表面がすぐさま小さく泡立ち始めた。それは数秒程続いたが、ついにはピタリとその反応が止まり、ナイフで表面を撫でてみると表皮の様なものがポロポロと剥がれ落ちた。


「お父さん、これ!」

「うん。どうやら表面をカバーしてるって推測は当たってたみたいだね。それにこの状態なら……」


 そう言ってお父さんが卵の表面を指で強く押してみると、まるで今までの固さが嘘の様にプチっと潰れてしまった。それと同時にリオンさんに叩きのめされていた村人の体が、まるで水に溶けた絵の具の様にドロドロと溶け始めた。その後、その場に残ったのは元が人間だったと言われても信じられない様なドロドロの液体だけだった。


「こ、これで終わったの?」

「……多分ね。わざわざ表面を硬質化するって事は、本体そのものは弱いって事だからね。多分これで全部終わったんだよ」


 プーちゃんはお父さんに抱きついたまま不安そうな表情をして村人の残骸を見ない様に顔を背けていた。

 私がやった事が正しい事だったのかは分からない。見方を変えれば、殺人とも取れる。でも今は自分がやった事が正しい事だと信じるしかない。間違った事を正しているだけだって信じるしかない。


「戻ろう」


 すべき事を終えた私達は港へと向かって歩き出した。

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