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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第3章:海にも及ぶ異変
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第31話:遺跡に眠るもの

 外で待っているとシーシャさんとリオンさんが戻ってきた。二人共全身ずぶ濡れになっており、体を拭く物が無かったらしかった。


「すまない、遅くなった。……どうしたんだ?」

「実は……」


 私は遺跡内部で感じた事、その感覚のせいで外に出た事を伝えた。二人はその様な感覚は感じていないらしく怪訝な表情をしていたが、私達の発言を疑ってはいない様だった。


「つまりその……遺跡内で誰かに見られていた、という事ですか?」

「本当に見られてたのかは分からないですけれど……でも、そんな感じがしました。それに……誰かに呼ばれてる様な感じもしたんです。声は聞こえなかったんですけれど……」

「僕には何も感じなかった。でも、二人がこんな嘘をつくとは思えないんですよ」


 お父さんが言う様に、プーちゃんはこんな嘘をつける子じゃない。イタズラのためにちょっとした嘘をついたりはするけれど、はっきりと嘘と分かる嘘をつく。それに今回は……私もプーちゃんと同じ感覚を感じたんだ……。

 シーシャさんは険しい顔つきになる。


「……どうするんだ? 二人が無理なら、私が代わりにそれを起爆しに行くが」


 私は抱えている爆弾に視線を移す。

 ……これは私達が行かなくちゃいけない。水の精霊は、きっと私達の事を信じてくれたからチャンスをくれたんだ。ここで投げ出すのは簡単だけれど、でも……ここで投げ出すのはその信頼を裏切る事になる。それに私は、錬金術がどういう風に悪意ある使われ方をしたのかが気になる……。


「いえ、私が行きます……きっとこれは私達がやるべき事だと思うので……」

「ヴィーゼがそう言うのなら構わないが、プレリエの方はそれでいいのか?」


 プーちゃんは一瞬チラッと私の方を見ると視線をシーシャさんの方へ戻した。


「……出来ればあんま行きたくないけどさ、でもヴィーゼが行くならあたしも行くよ」

「……そうか。なら出来るだけ無理はするなよ」

「何かお手伝い出来そうな事があれば私に仰ってください! 微力ながらお力になりますよ」

「は、はい! 行きましょう……!」


 こうして覚悟を決めた私達は再び遺跡の中へと足を踏み入れた。予想通り、あの場所へと近づいていくに連れて、あの妙な感覚は大きくなっていった。誰かから常に監視されているかの様な感覚を覚え、また頭の中に話しかけられている感覚もあった。プーちゃんは不安そうに私に引っ付き、なるべく離れない様に歩みを進めていた。


「ヴィーゼ、プレリエ、頼むから無理はしちゃ駄目だよ。少しでも危険だと思ったら、すぐに僕に言うんだよ?」

「だ、大丈夫だし……心配しなくていいよお父さん……」


 やっぱりプーちゃんは無理してる……皆の手前あんまり弱いところを見せたくないから無理してるんだ。きっと本当は凄く怖い筈……私だって怖いんだから、プーちゃんが怖くない筈がない。それでもこの子は頑張ってるんだ。私もプーちゃんのためにしっかりしないと……お姉ちゃんなんだから……。


 しばらく遺跡の中を進み続け、ようやく私達はあの場所へと辿り着いた。視線や声はまだ続いており、今までの中で最も大きくなっていた。しかしそれにも関わらず、何と言っているのかもどこから視線が来ているのかも全く分からなかった。


「ここだな?」

「はい……」

「まだ声は聞こえるのですか? 私には何も聞こえませんが……」

「聞こえます……しかも今まで一番大きく聞こえる……」

「……ヴィーゼ、貸してごらん」


 そう言うとお父さんは私から爆弾を受け取るとそれを声や視線の発生源と思われる壁の前に置いた。


「ここだね?」

「う、うん。でも何で分かったの?」

「……二人がさっきからこの壁の方を見つめてたからね。多分ここだと思ったんだよ」


 確かにあそこから違和感を感じてた。でもまさかそんなに見つめてたとは思わなかったな……それだけ意識しちゃってたって事なんだろうけれど……。


「さあ、火を点けよう。悪いんだけどプレリエ、塗り火薬を少し貰えるかな?」

「う、うん……ちょい待ってね」プーちゃんは鞄から塗り火薬の入った瓶を取り出し、お父さんに手渡す。

「もうあんまり無いから使い過ぎないでね」

「うん、ありがとう。さあ皆下がってて」


 お父さんは持っていた紙を捩じって細長くすると、そこに塗り火薬を塗って爆弾に接触させる様に置いた。そしてそこに息を吹きかけ、急いでその場から離れる。


「皆もっと離れて!」


 そう言われ、私達は慌てて今居る場所よりも更に離れた。数秒後、紙から引火した火は爆弾に接触し爆発を起こした。一見するとただの木箱だったが、その見た目からは予測出来ない程の爆発だった。恐らくお父さんが言っていた様に爆発と同時に内部の素焼きが飛び出し、それが連鎖する様に爆発が起きているからこうなったのだろう。

 お父さんは私とプーちゃんを守る様にして身を伏せていたが、爆発による揺れが収まると体を起こした。


「……収まったかな」

「す、凄かったね……プーちゃん、大丈夫?」

「何とか……それより、声聞こえなくなった……」


 言われてみればそうだ。直前までは聞こえてたのに急に聞こえなくなった。やっぱりあそこが声や視線の発生源だったんだ。

 身を起こして壁の方を見てみると爆発の影響で大きく破壊され、瓦礫塗れになっており、近くにあった机も粉々になっていた。シーシャさんとリオンさんは既に立ち上がっており、爆発で崩れた壁の側に居た。


「シーシャさん、リオンさん、どうしたんですか」

「……三人はそこに居てくれ」

「あの、何か見つけたんですか?」

「……ああ。人の……死体だ」


 プーちゃんから小さな悲鳴の様なものが漏れたのが聞こえる。

 ……死体? もしかしてあの壁の中に誰か埋められてたの……? でもいったいどういう目的で……? そんな事をして、いったい何の得があるの?


「来ない方がいい。損傷が激しい」

「そうですね……相当昔に埋められた様です。ここまで損壊の進んでいる死体は私も見た事が……」


 私は震えるプーちゃんを抱きしめ、考える。

 もしかして視線や声ってその人が出してたのかな……私達に気付いてもらうために……。でもどうして私達だけが感じ取れたんだろう? やっぱり水の精霊が言ってた『純正の血』が関係してるのかな……錬金術士の純正の血……。


「……すまないが三人は外に出ててくれないか。この人を、埋葬する」

「……行こう、ヴィーゼ、プレリエ」


 お父さんに促され、私達は外に出る事になった。爆発の威力はそこまででも無かったのか、外部から見ると遺跡はどこにも異常を来たしていない様に見えた。


「……お父さん、どういう事なのかな、あれって?」

「僕にも分からない……ただ考えられるのは何らかの宗教的な儀式、もしくは何らかの人柱」

「どういう事?」

「宗教によっては、生贄を捧げる事によって神の力を借りる事が出来るというものがあるんだ。少なくとも僕が今まで行った事がある場所ではそういう宗教は見た事が無かったけど、この遺跡が作られたのが相当昔ならありえたかもしれないよ」


 プーちゃんは声を震わせながら口を開く。


「そんなのおかしいよ……そんな事のために何で人殺すの……? どうしても叶えたい事とかがあるんなら、自分で頑張ればいいじゃん……」

「プレリエ、人は時に超常的な事に縋りたくなる事があるんだ。人は僕らが思ってる以上に弱い存在なんだ」


 プーちゃんの考え方は理解出来る。私だってそんな事をするなんておかしいと思う。だけれど、それが文化なんだと言われてしまえば何も言い返せないと思う。その文明はそうやって栄えてきたんだろうから……。


「お父さん、それじゃああの人が埋められてたのはそういう宗教的な目的なのかな……?」

「他にも可能性はあるけど、一番可能性として高いのは宗教だろうね」

「でも、どういう宗教なんだろう……」

「僕にも分からない。船に戻ったら調べてみよう」


 そうしてしばらく待っているとシーシャさんとリオンさんが戻ってきた。


「……埋めてきたんですね?」

「ああ、ヴァッサさん。少し離れた所に埋めてきた。本当なら故郷に埋めるのが一番だとは思うんだがな……」

「ですがこうするのが現状では一番良かったと思います。少なくともあのままよりは……」


 どうやらキチンとした埋葬ではなかったらしく、シーシャさんもリオンさんもやや不服そうな表情をしていた。


「それでどうするんだ? 一応ここを壊すんだろう?」

「はい。爆弾はまだあるんですけれど……」私はプーちゃんが持っている爆弾を見る。

「でももうこれ以上塗り火薬を使うのは避けたいというか……」


 これ以上はあれを消費する訳にはいかない。もうかなり残りが少ないし、塗り火薬を作るには錬金釜が必要になる。現状ではこれが一番消費する訳にはいかない物になってるんだ。


「では私がやりましょうか?」


 そう言って手を挙げたのはリオンさんだった。


「えっ? あの……やるって何をです?」

「何をって、遺跡を壊す事です。先程の爆弾を使うのが不可能ならば私が代わりにやろうかと」


 何を言ってるんだろうこの人は……? 代わりにやるって言ってるけれど、どうやってやるの……? こんなの人の手で道具も使わずに壊せるものじゃないって思うんだけれど……。


「先程少し柱の構造を見てみたのですが、爆発の影響でかなり脆くなっている様なのです。上手くやれば壊せそうでした」

「ま、待ってください! 無茶ですよリオンさん! 道具も無しにどうやって……」

「どうも何も……こう、真っ直ぐに拳をこう……」


 そう言うとリオンさんは目の前でパンチをする。

 この人、本気で言ってるのかな……? あんまり冗談とかは得意なタイプじゃない様な気がするし、こういう状況でふざける様な人じゃない。という事は、本気なのかな……?


「僕としてはリオンさん、あなたがそう言うなら任せたいです。あまり娘達に不安になって欲しくない」

「ええ、では行ってきますのでここでお待ちください」


 そう言うとリオンさんは遺跡の方へと戻っていき、外にある柱の側に立った。リオンさんは柱に手を当て何かを確認している様だったが、やがて腰の辺りで低く拳を引いて数秒停止するといっきに拳を突き出し、柱に打撃を叩き込んだ。その速度は尋常なものではなく、離れた所に居る私達からは腕の動きを認識するのも困難な程だった。

 リオンさんの一撃の影響からか柱はまるで何かに弾き飛ばされたかの様に粉々に吹き飛ばされた。それによって支えを失ったのか、遺跡は音を立てながら揺れ始め、ついには崩れ始めた。リオンさんは急いでその場から離れ、こちらに駆けてきた。

 リオンさんが戻ってきた頃には遺跡は完全に崩壊していた。


「お待たせしました」

「何だ……今のは」

「そ、そうですよ……今のはいったい……」

「何だと申されましても……爆発で弱っていた柱を破壊しただけですが……」


 もしかしてリオンさんの力って、私達が想像してるよりも凄まじいものなのかな……? リオンさんは当たり前の様にやってのけたけれど……。

 若干落ち着きを取り戻していたプーちゃんが口を開く。


「多分、何かの魔法とか使ったんでしょ」

「そうなんですか、リオンさん?」

「いえ、魔法ではありませんが……」


 お父さんはリオンさんが遺跡の破壊に使った方の腕に視線を向ける。


「ではリオンさん……あなたは魔法も何も使わずに今のをやったんですね?」

「ええ。生まれつきああいうのが出来たのです」


 私達からすれば明らかにおかしい発言だったが、私もプーちゃんもシーシャさんも何も言う事が出来ず、お父さんはそれ以上質問しようとはしなかった。


「……あの、皆さん? そろそろ戻りませんか? レレイ達をあまり待たせるのも……」

「え、あっ! そ、そうですね。戻りましょうか」


 こうして私達は、リオンさんの力に違和感を覚えつつも、遺跡を破壊するという目的を達成したため船に戻る事にした。

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