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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第1章:ヘルムート王国の双子
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第3話:準備を終えた二人

 プーちゃんが言っていた手袋を作るために、私達は一旦家へと戻っていた。こうしている間にもお父さんとの距離がどんどん離れていると思われたが、プーちゃんはその事に気付いているのかいないのか、割と暢気そうにしていた。

 家に到着した私達は鞄を置き、本棚からお母さんが作ってくれたレシピ集を引っ張り出した。そこには今までお母さんが作ったと思われる物のレシピが載っており、中にはまだ私達が作った事が無い様な物も載っていた。


「どこに載ってるの?」

「えっと確かぁ……」


 プーちゃんは適当にページを捲り続けていたが、やがてあるページでその手を止めた。


「おっ、これこれ! 『剛力の手袋』だって!」


 そこには調合に必要な素材の名前だけでなく、完成品の簡単な挿絵も描いてあった。恐らく、まだ幼かった私達でも分かる様にこうやって描いてくれていたのだろう。


「えっと……なめし皮と羽毛……後は金剛石?」

「ん~? 何だっけそれ? 聞いた事無いなぁ……」

「確か鍛冶に使う物だったかな? 鍋とか鎧とか作る時に使うと頑丈なのが出来るって聞いた事あるよ」

「それってあれ? 鍛冶屋のロッシュのおっちゃんから聞いたの?」

「うん。前に依頼品を持っていった時にね?」

「あのおっちゃんお喋り大好きだもんね~……」


 ロッシュ・シュタインさん、このヘルムート王国で鍛冶屋をやっている人だ。家で使っている包丁も鍋も全部そこで作ってもらった。明るい人ではあるんだけれど、お話が長いからちょっと大変なんだよね……。


「うん。多分だけど、行けば教えてくれるかも」

「そだね! よし、そんじゃあ行こう!」

 レシピ集を本棚に戻した私達は『金剛石』の事について聞くべく、家を出た。まだ朝という事もあってか、通りには人が多く、賑わっていた。今まで他の国には行った事が無いけれど、多分ここは豊かな国なのだろう。

 道行く人と挨拶を交わしながら道を行き、やがて鍛冶屋に辿り着いた。そこそこ長くやっているからか、外壁は少し汚れていた。


「おーいおっちゃーん!」


 プーちゃんは無遠慮に扉を開き、図々しく中へと入っていった。私は慌てて後を追う。


「ちょ、ちょっとプーちゃん!」

「おう、お前ら今日はどうした!」


 ロッシュさんは丁度仕事の最中だったらしく、真っ赤になっている金属を叩いていた。その度に店の中にどこか心地良い音が響いた。


「えっと、急に来てごめんなさい。ちょっと聞きたい事がありまして」

「おし、いいとも聞こうじゃねぇか」


 ロッシュさんは叩いていた金属を片付け、受付にある椅子へと座る。


「あの……いいんですか? 今お仕事してたんじゃ……」

「あーいいんだいいんだ。ちょっと個人的に作ってただけだしよ」

「あー、おっちゃん仕事道具の私的利用はいけないんだよ~?」

「ここは俺の店だからいいんだよ」


 プーちゃんにしてはまともな事言ってる……。私的利用なんて今まで言った事も無いのに。どこかで読んだり聞いたりしたのかな?


「で、どんな用なんだ?」

「あっ、えっとですね。『金剛石』が必要なんですけど、どこで買えますかね?」

「何だ、何か作るのか?」

「手袋作るんだよ! それもちょ~凄い手袋をね!」

「手袋に? 石を使うのか? ほ~ん……やっぱり錬金術ってのは分かんねぇなぁ」

「でさ、教えてよ!」

「ん、ちょっと待ってな」


 そう言うとロッシュさんは椅子から立ち上がり、店の奥の方に行ってしまった。プーちゃんは暇を潰そうとしているのか仕事場の方を凝視している。

 しばらくすると、ロッシュさんは手に何かの袋を持って戻ってきた。


「ほらよ」

「何それ?」

「何それじゃねぇよ、欲しかったんだろ?」

「えっ……あの、場所を教えて頂ければ自分達で買いに行きますから……!」


 戸惑う私の手にロッシュさんは無理矢理袋を持たせる。


「まあいいだろ、ほら持ってけよ」

「で、でも……」

「普段からお前さんらには世話になってるからな。たまにはいいだろ、たまには」

「よっ! おっちゃん太っ腹ーっ!」

「だろ?」

 ロッシュさんは得意気な笑顔を見せた。

 どうしよう……まさか貰えるなんて思ってなかった。でも、ここで断ったらそれはそれで失礼な気もするし、ここはご好意に甘えておこうかな?


「ありがとうございます。助かります」

「いいって事よ。それより、他の材料とかは足りてんのか?」

「どうだっけヴィーゼ?」

「えっと……なめし皮も羽毛もまだあったかな。大丈夫だと思うよ」

「それなら安心だな。ほら急いで帰んな」


 おかしいな……いつもならここでとんでもなく長い話が始まる筈なんだけど……。


「いいの? 今日は珍しく長話しないんだね?」

「ああ……実は女房に怒られちまってな……。お客さんに迷惑だからすんなってよ」ロッシュさんは少ししょぼくれた顔をする。

「あらら、そりゃ大変だね」

「だろ? まぁでも、あいつが言うんじゃしょうがねぇからな」

「なるほどねー。まっ、たまにだったらあたし達がお話してあげるよ! ね、ヴィーゼ?」

「えっ? あ、うん、そうだね」

「泣かせる事言うじゃねぇか……。ったく……そんじゃあな! 気を付けて帰れよ!」


 私達はロッシュさんに別れの挨拶とお礼をすると、店を出て家へと歩き出した。持たされた袋は小さい物であるにも関わらず、少し重かった。


 家に着いた私達は早速調合を行うべく、レシピ集と素材達を引っ張り出し、釜の側に並べた。


「よぉっし! そんじゃ始めますか!」

「うん。えっと、まずは……なめし皮からだね」

「ほいほい!」


 適当にそのまま入れようとするプーちゃんの腕を慌てて掴む。


「ちょ、ちょっと! ちゃんと量とか量らないと!」

「えー、別に良くない? 量が多くても完成品の数が増えるだけじゃん」

「良くないよ! あんまり無駄使いとかしたらいざって時に足りなくなっちゃうよ?」

「まあまあ、どうせ調合のお仕事でそこそこ貰えるんだからさ、そんなケチケチするのはやめようよ」


 そう言うとプーちゃんは私の非力な腕を掴むと簡単に引き剥がし、そのまま材料を釜の中に入れてしまった。


「あっ……!」

「だーいじょうぶだって、心配無いよ」

「はぁ……」


 溜息をつく私の隣でプーちゃんは引き続き羽毛を適当に入れてしまう。釜の中では緑色の液体が茹っており、幸いにも問題は無いと示していた。


「そんで次はこれっと」


 プーちゃんは袋に手を突っ込み、中に入っていた物を取り出す。それは黄金色をしており、トゲトゲとした凹凸のある球形をしていた。


「おーっ、これが金剛石かぁ!」

「まだ入れちゃ駄目だよ」

「何で?」

「ほら、それ初めて使う素材でしょ? きちんと記録しておかないと」

 私は個人的に使っているノートと羽ペンをベッド脇のテーブルから持ってくると、金剛石の見た目や特徴を記録し、スケッチした。

「ホントヴィーゼは細かいなぁ」

「プーちゃんが適当過ぎるだけでしょ」

「そーかな?」

「そうだよ」


 スケッチを終えた私はノートとペンを元の位置に戻し、釜の側へと戻った。


「いい? もう入れていい?」

「うん、いいよ」

「よっしゃ!」


 プーちゃんは小さい子供の様にはしゃぎながら釜の中に金剛石を投下した。初めての素材だったためドキドキしながら見守っていたが、幸いにも異常な反応は起きず、釜の中は安定している様だった。


「じゃあ混ぜるね」

「うん、今日はヴィーゼに任せるよ」


 私はとにかく慎重に、お母さんから教わった通りに掻き混ぜた。最初はゆっくりと混ぜて素材の中の成分を釜の中に分散させる。そしてある程度混ぜたら今度は少し速めに掻き混ぜる。これで釜の中で成分が引っ付き合い、また別の物が出来るのだという。

 プーちゃんは椅子に座ってこちらを眺めている。


「ヴィーゼはのんびりやさんだなぁ」

「お母さんから教えてもらった通りにやってるだけだよ。プーちゃんも教えてもらったでしょ?」

「そうだけどさぁ、あのやり方はいまいちあたしには合わないっていうか、難しいんだよね」

「……未だに何でプーちゃんがちゃんと調合出来るのか不思議でしょうがないよ」


 掻き混ぜ終わった私は釜に蓋をし、レシピに目を通す。


「えっと……後は5分待つだけか」

「結構長めなんだね」

「そうかな? 短いと思うけど」


 レシピ集を本棚に戻した私はプーちゃんの後ろに周り、櫛で髪を梳かし始めた。


「ちょちょ、何やってんの?」

「何って……今朝プーちゃん髪のお手入れしてないでしょ?」

「別にいつもそんなにしてる訳じゃないけど」

「駄目だよ、お母さんも言ってたでしょ? 『女の子は綺麗にしてなくちゃ』って」

「……そうだけど、いっつも櫛持ち歩いてるのはどうかと思うよ?」


 どうしてこの子はお手入れとかをちゃんとしないんだろう。折角お母さん譲りの綺麗な髪をしてるのに、これじゃあ勿体無いよ。ちゃんとしてたら可愛いのに……。


「それにさぁ、今朝はヴィーゼだって髪梳いてなかったじゃん」

「そ、それはまぁ……確かに」

「そんなヴィーゼの言う事は聞きませーん」


 そう言うとプーちゃんは櫛が髪から離れた一瞬の隙を突いて椅子から立ち上がり、離れてしまった。


「あっ、まだ駄目だよ!」

「あたしはこれでいーの! それよりヴィーゼこそ自分の髪手入れしたら?」

「もう……」


 これ以上言っても聞かないと思った私は鏡の前に行き、髪を梳き始める。

 ずるいよプーちゃんは……。ちょっと髪を梳いただけであんなに綺麗になっちゃって……。私なんて何回も何回もやらなきゃ駄目なのに……。


「ていうかヴィーゼはさぁ、ちょっと気にし過ぎなんだよ」

「そんな事無いよ。ちゃんとお手入れはしないとだし……」

「そんな事無いって。ほら」プーちゃんは私の隣に来ると、一緒に鏡に映り込んだ。

「姉妹!」

「え?」

「だーかーらー、あたし達は双子でしょ? 顔だってよく似てるじゃん。こんなに可愛いあたしのお姉ちゃんなんだからさ、可愛いに決まってるでしょ?」


 予想外の言葉に思わず顔が熱くなる。


「なっ、何言って……!」

「何赤くなってんの?」

「だ、だって今可愛いって……」

「事実じゃん。美少女双子錬金術師のヴィーゼとプレリエでーす!」


 プーちゃんは私の肩に手を回すと頬をピタリと引っ付けて鏡越しにピースをした。鏡には赤くなっている私とよく似た顔をした少女が楽しげにしている様子が映っていた。


「ね、だから気にする必要無いってば。今のままで十分可愛いんだしさ」

「わ、分かったよもう……」


 私は櫛を仕舞うと両手で顔を覆い、擦るようにして何とか調子を戻そうとした。


「ヴィーゼは恥ずかしがりやさんだなぁ」

「そんなんじゃないから……」


 何とか落ち着いた私は深呼吸し、釜の方を向く。


「そろそろじゃない?」

「おっ! そだねそだね!」プーちゃんは私から離れるとスキップしながら釜へと近付いていった。

「な~にがでっきたっかなぁ~?」

「プーちゃん、危ないよ」

「へーきへーき」


 そう返事をすると同時にプーちゃんは釜の蓋を開け、中に手を突っ込んだ。その後少しもぞもぞと動いたと思うと、中から3セットの手袋を取り出した。その手袋はレシピ集に描かれていた物とよく似ていて、見た目にはあまり普通の物とは違いが無い様だった。


「何か地味だね」

「一応作業用に使う物だし、あんまり装飾は無い方がいいんじゃないかな?」

「それもそうか」プーちゃんはその内の1セットを手に付け、手をニギニギする。

「付けた感じもそんな変な感じは無いね」

「変な感じしたら使い難いからじゃないかな?」

「なるほどねー」


 そう言うとプーちゃんは突然私の腰に手を回し、勢い良く持ち上げた。突然の事で私も反応が遅れ、バランスを崩しそうになってしまう。


「わわわっ!?」

「おー! これ凄い! あのヴィーゼもこんなに簡単に持ち上げられる!」

「わ、私が重いみたいに言わないで!」

「いやでも、これ予想以上だよ。ほらほら」


 プーちゃんはこっちの気などお構い無しに上下に揺さぶる。私は恐怖のあまり、ただただプーちゃんの頭を掴むのに必死だった。


「やめ、や、止めて止めて!」

「あはは! ヴィーゼが持ち上がってる! まるで小さい子みたい!」

「ひっ、ひぃぃ……ちょ、ちょっと本当に怖いからっ……」


 ひとしきり私で遊んだプーちゃんはようやく満足したのか、私を下ろした。長い間揺さぶられていたからか、私は血の気が引いてしまっており、喋る事も出来なかった。


「あー楽しかった! ごめんねヴィーゼ?」

「…………」

「ヴィーゼ?」

「……っか」

「うん?」

「このバカっ……!」私は自分が持ち得る可能な限りの力でプーちゃんの頭を叩いた。

「あいたっ……」

「もう! 止めてって何度も言ったじゃん!」

「だからごめんってば。楽しくなっちゃったんだよ」

「も、もう本当に、死んじゃうかと思って……私……私……」


 その言葉を聞いた瞬間、突然プーちゃんの表情が変わった。さっきまでおちゃらけていた人物とは思えない程に慌てた表情になっていた。


「え……ヴィ、ヴィーゼ、どっか痛いの……?」

「え? い、いや痛くはないけど……」

「じゃ、じゃあぐ、具合悪いとか……?」

「ま、まあさっきはちょっと悪かったけど、今は大分持ち直したというか……」

「け、怪我してるとか……?」

「いやそれは無いけど……」


 プーちゃんはその場で左右に行ったり来たりし始め、酷く焦燥している様子だった。


「どうしよ……えっと軟膏? いや飲み薬……? いやでも違う、違うか……えっとえっと……」

「あの、プーちゃん? 別にそんな大事じゃないよ?」

「いやでも、さっき死ぬかと思ったって……」

「あ、あれは例えみたいなものだから……」

「じゃ、じゃあ死んだりしない? あたしの事置いてったりしない……?」


 どうやらプーちゃんはさっき私が言った『死ぬかと思った』って言葉を本気で受け取ってしまったみたいだ。お母さんが居なくなった時も、一番大泣きしてたのがプーちゃんだったっけ……あの時はプーちゃんを宥めるので手一杯で、とても泣ける感じじゃなかったなぁ……。でもあの時、私がこの子を守ってあげなきゃって思ったんだ。お姉ちゃんとして、ずっと……。


「……うん。大丈夫だよ。今までもずっと一緒に居たんだもん。置いて行ったりしないよ」

「死んじゃったりも……?」

「うん。あれはちょっと言い過ぎだったかな? 気分悪くなったのは事実だけど」


 プーちゃんは目元を拭うと、いつもの調子に戻った。


「はーっ!! 心配して損した!! いやまあ? あたしは? 分かってたけどね? 分かってたけどね!!?」

「えぇ……その言い分はちょっと厳しいんじゃ……」

「…………っ!」プーちゃんは手袋を付けたままこちらににじり寄る。

「ご、ごめんごめん冗談だよ。そうだよね、プーちゃんにはお見通しだったよね?」

「ったりまえじゃん!! この天才美少女プレリエ様にはぜーんぶお見通しだし!!」


 この子は昔からこうだなぁ……本当は寂しがりやなのに、それを指摘されたりするとすぐにムキになって変な言い訳したり、本当困った子だ。でも、こういうところがあるからほっとけないないのかな……。


「そうだね。天才美少女だね」

「……バカにしてない?」

「してないよ全然。それよりもほら、お父さん追いかけるんでしょ?」

「あっ、そうだった! 危な……忘れるところだった……いや忘れてないけどねうん!!」


 丸聞こえだよプーちゃん……。


「よし、じゃあ釜持ち出すよ! ヴィーゼそっち持ってね!」

「うん」私は手袋を付け、プーちゃんの反対側に移動すると、釜の下に手を添えた。

「いい? 行くよ? せーっのっ!」

「っ!」


 二人して力みながら持ち上げたものの、錬金釜はいとも容易く持ち上がった。いつもの私達なら絶対に出来ない事だったため、妙な感動を覚える。


「何か力持ちになった気分だね」

「うん。まずは、だよ。一先ず外にある台車に乗せようよ。荷物も持たなきゃいけないし」


 私達はお父さんの後を追うために家の扉を開き、外へと錬金釜を運び出した。

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