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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第3章:海にも及ぶ異変
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第24話:爆弾を作ろう!

 レシピ集に目を通していた私達はやがてあるレシピを見つけた。それは解体作業等に使われる爆弾だった。そこに描かれている爆弾の絵の横にはバツ印が描いてあった。私達が迂闊に作らない様にお母さんが付けていてくれたものだった。


「これとかいいんじゃない?」

「でも、バツが付けてあるよ?」

「ヴィーゼヴィーゼヴィーゼ~……そりゃ小さい頃のあたし達だったら危なかったかもしれないけどさ、もう大きくなったんだよ? もうこういうのも作っていい年だと思うなー」

「まだ15歳だよ? まあ注意すれば大丈夫だと思うけれど……」


 他のページを軽く見てみたものの、他に建築物を破壊するのに使えそうな物は見当たらなかった。


「しょうがないかな……じゃあ、これで行こうか」

「よし! じゃあまずは素材集めだね!」

「うん。まずは、だよ……」


 爆弾を作るのに必要な素材を確かめてみると、必要なのは火薬、粘土、木材の三つだった。


「火薬、粘土、木材だね。木材とかは簡単に手に入りそうだけれど、粘土が……」

「粘土かぁ……どこにあるんだろ? ヘルムート王国に居た時は雑貨屋とかで買えたけど」


 私はお父さんに尋ねる。


「お父さん、粘土ってどこで見付かるかな?」

「粘土か。街によっては売ってるかもしれないね。ただ、地中からも採る事が出来るから無理に買わなくてもいいかもしれない」


 確かに言われてみれば、粘土は地層から採れるって本に書いてあるのを見た事がある。でも、地層がある場所じゃないと採れないだろうし、そういう地層がどこにあるかも分からない。やっぱりどこかで貰ったり買ったりした方がいいのかな……。


「見付からない時はどうしよう?」

「……僕の記憶が正しければだけど、この船に搭載されている兵器の中に粘土を元に作った素焼きの爆弾があった筈だよ」

「お父さんナイース! ヴィーゼ! 早速探しに行こうよ!」

「うん、一応見てみようか。お父さん、ありがとう。ちょっと出てくるね」

「うん。迷惑にならない様にね」


 私達は爆弾の素材を探すために部屋を出た。

 まず最初に何を探そう? やっぱり火薬かな? この船は結構大きいし、大砲とかもあるかな? ヴォーゲさんに聞いてみようか。


「プーちゃん、まずは火薬を探そう。ヴォーゲさんに聞けば分かるかも」

「いいよ。行こう行こう!」


 私達は廊下を抜け、広間に辿り着いた。しかし先程までそこに居た人達は一人も見当たらなかった。


「あれ? どこ行ったんだろ?」

「甲板かな?」


 私達は船内をあちこち周り、甲板へと続く階段を見付けた。その階段を上ってみると、広い甲板に出た。元々船には乗った事が無かった私だったが、この船が他の物と比べると明らかに大きい物だと改めて感じた。甲板では船員達があちらこちらで作業をしていた。操縦桿の方を見てみると船員の一人が舵を握っていた。その隣にはヴォーゲさんが立っていた。私達はそこに近付く。


「ヴォーゲさーん!」

「ああ、お二人ですか。どうしたんですか?」

「あのねあのね、この船ってさ、大砲とかある?」

「ありますが……どうしたんですか?」

「実は……」


 私は爆弾を作るための素材を探しているという旨を伝えた。聞き終わったヴォーゲさんは少し渋った様な表情をしていたが、やがて近くに居た船員を呼び、何かを伝えた。何かを伝えられた船員は駆け足で階段を下り、下へと駆けて行った。


「あるにはあります。ですが、正直な話、危ないから近寄って欲しくは無いんです」

「あるんだね」

「ええ。ですから、今防衛隊隊長へと確認を取りに行かせました。あそこにある兵器は彼女が管理をしてますから」


 防衛隊隊長、確かリオンさんだったかな? 隊長をやってるって事はそういう物の扱いに長けてるって事だろうし、納得かな?

 しばらく待っていると船員が戻ってきた。


「提督、問題無いそうです」

「そうか、ありがとう。元の業務に戻ってくれ」ヴォーゲさんは船員を元の配置に返すと軽く息を吐いた。

「私としては危険なので行かせたくはありませんが、彼女が許可したのなら大丈夫でしょう。どうぞ兵器倉庫へ行ってください」

「場所は?」

「先程こちらに入らした時に上っていただいた階段を下った後、廊下を真っ直ぐ行ってください。その後突き当たりを左に曲がれば廊下の奥に階段がありますので、そこを下っていただければ着きます。見張りを置いてますが、多分話は通っているでしょう」

「ありがとうございます。それでは少し失礼しますね」

「ええ。お気を付けて」

「じゃあねぇ~! ありがとー!」


 私達は言われた通りに階段を下り廊下を歩いていった。私達の部屋があった廊下と同じ様にいくつも扉が並んでおり、『海図室』や『栽培室』等の興味を引く名前が書かれた板が扉の上に張られていた。


「凄いね。色んな部屋があるんだ」

「うん。それよりもさヴィーゼ、さっきの聞いた?」

「何が?」

「さっきさ、あの人『提督』って呼ばれてたよね! 何かカッコイイ響きだよね!」

「そういえば呼ばれてたね。シップジャーニーの船団を率いてる人だからじゃないかな?」

「何かこう、ロマンのある呼び方だね!」


 そうなのかな? 私にはよく分からないけれど、プーちゃんにとってはかっこよくて痺れる響きなのかな?


「プーちゃんそういうのになりたいの?」

「いや? ただカッコイイなって思っただけ。あたしは夢はヴィーゼと一緒に一人前になる事だよ」


 それを聞いて少しホッとした。もしかしたらプーちゃんは錬金術に興味が無くなってしまったのではないかと思ったからである。


「そっか。いつか、なろうね?」

「もちろん! 絶対なれるよ! あたしとヴィーゼの無敵コンビならさ!」


 プーちゃんは何の根拠も無しに得意気に笑う。

 いったい何がそれだけの自信に繋がるのか私には理解出来ないけれど、でも私はこのプーちゃんの根拠の無い自信に何度も助けられてきた。どんなに挫けそうになっても、この笑顔と自信を見るだけで悩んでいた事が全部馬鹿馬鹿しく思えてしまう。


 言われた通りにしばらく歩いていると、話に出ていた通りの階段が見えてきた。階段前には腰に護身用と思われる剣を携えた船員が立っていた。私達はその人に近付き、要件を伝える。


「あの……ちょっといいですか?」

「はい。ヴィーゼさんとプレリエさんですね? 隊長からお話は伺っています。どうぞお進みください。ここから先は一本道ですので迷う事は無いかと」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとねー」


 私達は船員の横を通り、階段を下っていった。その先は薄暗く、今まで通っていた廊下とは違った雰囲気ではあったが、全く足元が見えないという程の暗さではなかった。

 周りを見てみると壁の横に大砲がいくつも並んでおり、必要な時には壁が開く仕組みになっている様だった。その大砲の近くでは戦闘員と思われる人々が大砲の整備や点検等を行っていた。更に壁には緊急時の脱出経路が描かれており、いざ何かあった時にはすぐに逃げられるようになっている様だった。


「何か変な匂いするね」

「大砲とかの匂いじゃないかな? 初めて嗅ぐ匂いだから断定は出来ないけれど……」


 そうして進んでいると道が左へと曲がっていた。どうやら私達が居たのは左舷側らしく、ここから直接右舷側にも行ける様だった。右舷側へ行くために曲がろうとしたその時、私達は突然角から現れた人にぶつかってしまう。しかし、私達が尻餅をついてしまう前にその人物は素早く私達の胴に手を回し、体を支えた。


「すみません。大丈夫でしたか?」

「あっ……リオンさん」

「何だリオン姉かぁ……ビックリしたよもう」

「すみません、少し考え事をしていたもので。それよりも、ここに用事があるんですよね?」リオンさんは私達から手を放す。

「はい。調合に使う火薬を探してて」

「火薬、ですか。一応大砲に使う用の物はありますが……」

「どしたの?」

「いえ……やはり火薬ですので、お二人に使わせるのは危険かと思いまして……」

「大丈夫だって~、危なくないよ。こう釜の中に入れてグルグル~ってすれば出来るんだから」


 リオンさんは少しの間悩んでいたが、やがて口を開いた。


「……分かりました。では、瓶か何かに入れて慎重に取り扱って下さい。決して溢さない様に」

「分かりました。あっ……でも、今ちょっとそういう瓶は手元には無くて……部屋に戻れば調合用の物があるんですけれど……」

「でしたら後でまた来てください。こっちで使ってもいい用の火薬は用意しておきますので」

「ありがとうございます。後、それとですね……」私は他に必要な素材をリオンさんに伝える。

「なるほど。木材でしたら修理用の物がいくつかありますからそれをどうぞ。ですが粘土は……」

「えっと、お父さんがここで使われてる兵器の中に粘土を元に作った素焼きの爆弾があるって聞いたんですけれど……」

「あっ、それでもいいのですか? でしたら一つだけなら持って行ってもいいですよ」

「リオン姉、それってどこにあんの?」

「今から案内します。付いて来てください」


 そう言うとリオンさんは丁度私達が曲がった通路にあった扉の中に案内した。その中は兵器庫になっているらしく、鉄の匂いや火薬の匂いで満たされており、あまり長く居たいとは思えない場所だった。リオンさんは倉庫の中に並んでいる箱の内の一つを開けると、そこから茶色の球体を取り出した。その見た目は以前プーちゃんが使った異臭の詰まった球によく似ていたが、そこからは今までに匂った事の無い独特の匂いがした。


「これです」

「これが爆弾? 爆弾って、導火線とかが付いてる物じゃないの?」

「これは少し違う物なのです。中には特殊な液体が入っていまして、空気に触れると発火する様になっているんです」


 だから素焼きなんだ。投げつけて簡単に割れる様にしてあるんだ。確かにこれなら咄嗟に相手の船に投げつけて攻撃する事が出来る。あんまりそういう事態には巻き込まれたく無いけれど……。


「それ、危なくないですか? そんな木箱に入れてたら何かの拍子に割れちゃったり……」

「ええ、ですからこの箱の中には大鋸屑おがくずを入れてるんです。これなら航海での揺れの衝撃も吸収してくれますから」

「んー……でもでも、レシピにはその危ない液体の事書いてなかったよね? 一緒に入れちゃっていいの?」

「確かに……空気に触れて燃えるなら、どうやって分ければ……」

「ああ、簡単な方法で出来ますよ? これを水に浸けた状態で分解すれば、炎上する事はありませんから」

「そ、そうなんですか? でもそれって海の上で使うには致命的な弱点なんじゃ……」

「えーとですね、何か勘違いされている様ですが、我々は海賊でも無ければ海軍でもありません。ただ海の上で生活をし、様々な国や街と交易を行う行商人なのです。ですから、これはあくまで相手への威嚇用です。そのために水で簡単に鎮火出来る物を使っているのです」

「ふーん、やっぱ出来れば戦いたくないって感じ?」

「ええ。争いなど無いのが一番です」


 何だか少しホッとした。お母さんに似てるこの人が戦うのが大好きな怖い人だったらどうしようって少し思ってたけれど、そうじゃないみたいだね。防衛隊っていうのは本当にその名の通りの活動しかしないみたいだ。必要最低限、自分達の身を守るって事をやってるみたいだ。

 リオンさんはその爆弾を私に渡すと、開けていた箱の蓋を閉め、手に付いた大鋸屑を掃った。


「さて、必要な物は以上でしょうか?」

「そうですね。火薬は後で取りに来ます」

「ええ。木材に関しては部下に古くなった余りの物を部屋に持って行くように言っておきますので」

「それじゃあ、部屋に戻る?」

「そうだね。フラスコとかを持って来ないと」


 私達はリオンさんと共に兵器庫から出るとお礼を言い、元来た道を戻って行った。戻っている最中も相変わらず興味を引く部屋に思わず目が行ってしまいそうになったが、好奇心を何とか抑え、部屋に到着した。


「ただいまー」

「ああ、おかえり。お目当ての物は見付かった?」

「うん。後でもう一度取りに行く予定だけれどね」


 持って帰った爆弾が壊れないようにベッドの上に置いた私はある事に気が付いた。


「あ、お父さん、シーシャさん帰ってきてないの?」

「そういえば、部屋を出たきり戻ってないね。途中で会わなかったのかい?」

「会ってないよねヴィーゼ?」

「うん。見てない気がする」


 どこに行っちゃったんだろう……確かヴォーゲさんの所に行くって言ってたけれど、ヴォーゲさんに聞けば分かるかな?


「お父さん、ちょっと火薬を取りに行くついでに探してくるよ」

「あっ、あたしも行くよ!」

「分かったよ。僕はこの本に載ってる事をもう少し読んでみるよ。今各地で起きてる事に関する物が見付かるかもしれないし」


 私は鞄からフラスコを取り出し、プーちゃんと共に火薬を取りに行くついでにシーシャさんを探しに行く事にした。

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