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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第1章:ヘルムート王国の双子
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第2話:この汚い世界を真っ白に

 準備を終えた私達は小鳥達の鳴き声で目を覚ました。普段から早く起きる様に気を付けている私はいつもの様に起きれたものの、プーちゃんはまだベッドの上で倒れていた。


「プーちゃん、朝だよ」

「……」


 プーちゃんはいつもは元気一杯で活発なのに、朝になると途端にこうなってしまう。どうも起きてすぐは頭がちゃんと働かないらしく、ベッドから起きられないらしい。


「ほら、お父さん出ちゃうよ?」


 とりあえず起こすためにそう言ったものの、恐らくお父さんは既に家を出ていた。ここから見ると机の上には手紙が置かれていて、地下の方からは人の気配がしなかった。


「んー……」

「ほらしっかり……」


 私は一先ずプーちゃんの体を起こし、台所に移動するとコップに井戸から汲んでおいた水を入れ、まだ寝惚け眼な妹の下へ持っていった。


「これ飲んで」

「ん……」


 プーちゃんはおぼつかない手付きでコップを掴むと顔に引っ掛けてしまいそうな動きで口元に持っていき、チビチビと飲み始めた。私はその間に机の上に置かれていた手紙を読み始める。


『二人へ

  調査に行ってきます。いつ戻れるかは分かりません。戻れそうになったらまた手紙を送るね。

                                      お父さんより』


 とてもシンプルでいかにもお父さんらしい手紙だ。お父さんって手紙を書く時、やたら簡潔に書くんだよね。余計な事は書かないっていうか……。男の人って皆こうなのかなぁ?

 手紙を読み終えた私は昨晩準備した荷物を確認するために手紙を持ったままベッドの下へと戻った。プーちゃんは少しは目を覚ましたらしく、閉じてしまいそうな目でこちらを見ていた。


「おはよ……」

「あ、プーちゃんおはよう。もうお父さん出たみたいだよ?」

「…………はぇっ!?」


 プーちゃんは私の言葉を聞き、一瞬にして目が覚めたのか目をパッチリと開いた。


「もう、出たぁ!?」

「うん。お手紙が置いてあったから」

「見せて!」


 私から手紙をひったくったプーちゃんは紙に引っ付いてしまいそうな程顔を近付け、短い手紙を読み始めた。


「く、く……まさかお父さんがここまで速いとは……」

「行くなら早く行こうよ」

「当たり前! 全くお父さんはホントにお父さんなんだからっ!」


 プーちゃんはプリプリ怒りながら手紙を鞄に突っ込むとそれを背負い、立ち上がった。


「追いかけよう! どうせあの廃墟のとこに居るんだろうし!」

「うん。行こうか」


 鞄を持った私達は家を出ると休みの看板を出し、急いで国の外へと繋がる門へと走り出した。



 門の前へと辿り着いた私達はお父さんを追うために外へと出た。元々外部との戦争などが起きた事が無い国という事もあって、門の側には見張りをしている人は配備されていなかった。


「えっと、この先の道を真っ直ぐ行ったらあるんだっけ?」

「そそ! ヴィーゼはあんまり行ってなかったよね?」

「そうだね。私は家に居る事が多いし、採集は大体プーちゃんに任せちゃってるから」

「じゃ、迷わないようにあたしにしっかり付いて来てよ!」


 そう言うとプーちゃんはズンズンと進みだした。その歩みには一切の迷いが感じられず、自信に満ち溢れている様な感じだった。

 プーちゃんはいつも文句も言わずに材料の採取に行ってくれてるけど、やっぱり私も行く様にした方がいいのかな……。一応私の方がお姉ちゃんだし、家に引き篭もってばかりだと体も弱くなりそうだし……。


「ねぇプーちゃん、採取大変じゃない?」

「え? 別にそうでもないけど?」

「でもさ、いつも頼んじゃってるし……」

「ヴィーゼ何気遣ってんの? 今更そんな事気にしなくてもいいって」

「でも怪我とかしたら……」

「あーもー! むしろ採取に付いて来られたら困るよ! 何でもかんでもヴィーゼみたいに慎重にやってたら日が暮れて帰れなくなるし!」


 い、言われてみればそれもそうかも……。昔、私が一人で採取に行った時、慎重にやり過ぎたせいで夜になっちゃって、帰れなくなって泣いちゃった事があったっけ……。あの時はお父さんが迎えに来てくれたけれど、今思えば、あれかなり危なかったんだよね……。


「ごめん、プーちゃんの言う通りだね」

「でしょ? ヴィーゼは家で調合してくれればいいの」

「うん、そうだね」


 そうだ。私達は双子、それが他の人とは違うところだ。離れてても心は通じるし、分担して作業が出来る。それが私達の強みだもんね。

 しばらく歩き続けた私達は、やがて見覚えのある場所に辿り着いた。私自身が来たのはもう随分前になるけれど、あの時からあまり変わっていない様に見えた。道の外れにある廃墟の側には小川が流れており、その廃墟の周りにはプーちゃんが採ってきたものと全く同じ見た目の白い花が咲いていた。


「やっと着いたね」

「うん。でも、お父さんどこに居るんだろ?」

「確かに……」


 プーちゃんの言う通り、周りにはどこにもお父さんの姿は無く、人が居る気配すら感じられなかった。


「もう行っちゃったとか?」

「ありえるかも……お父さんこういう時は速いし……」

「んー……下手に追うのも危ないっちゃ危ないか。とりあえずあたし達もこの辺見て周ろっか?」

「うん」


 私達は一先ずお父さんがここでどういう調査をしたのか、何を見つけたのかを調べるために周辺の調査を始めた。

 私は花の前にしゃがみ込む。

 プーちゃんが採ってきたのと全く同じものに見える。白くて綺麗な花弁をしていておしべと雌しべが無い。それなのにこんなに大量に群生してる……いったいどうやってるんだろ? それに、何でこの廃墟の周りだけに生えてて、他の所には全然生えてないんだろう? 普通なら種とかが風で飛んだり動物の糞に紛れたりして離れた所にも芽を出す筈なんだけれど……。


「あーやっぱヴィーゼもおかしいと思った?」

「プーちゃん?」

「それさぁ、そこだけに生えてるのやっぱりおかしいよね?」

「うん。何か、ここの廃墟を守ってるみたいな、そんな感じの生え方だよね」


 ここを守ってる。何だか変な表現だけれど、もしかしたらこの花は本当にそれが目的なんじゃ……そもそもこの花自体が新種というか未知のものらしいし、私達が知らないだけでそういう特性が本当にあるのかもしれない……。


「もうちょっと見てみるよ」

「ん、分かった。じゃああたしは川の方見てみるね」


 そう言うとプーちゃんは廃墟の裏にある小川の方へと歩いていった。私はこの植物の事を調べるために一本引き抜こうとした。しかし、向こう側から無理矢理止められているかの様にビクともせず、引き抜く事が出来なかった。


「あれ……?」


 何で抜けないんだろう? プーちゃんが持ち帰ったんだから、ここから持ち去れないって事は無いと思うんだけれど……。

 試しに鞄に入れておいた採取用のナイフを取り出し、引っ張りながら根元の部分を切ってみるといとも容易く切れ、思わず私は引っ張っていた時の勢いで倒れてしまう。


「いたた……」


 まさかこんなに簡単に切れるなんて。もしかして抜く事が出来ないだけで、採る事自体は出来るって事かな? 何で抜く事が出来ないのかは謎だけど……。


「おーい! ヴィーゼー!!」


 そんな中プーちゃんの声が小川の方から聞こえた。あの感じは何か見つけた時だ。


「はーい! 今行くよー!」


 私は手に入れた花を鞄の中にある専用の小さい容器に入れ、急いで小川へと駆けた。


 小川に着くと、プーちゃんが腕を組んで川を眺めていた。


「どうしたの?」

「ねぇヴィーゼ? 前にヴィーゼがここに来た時ってさ、この川こんなに綺麗だった?」

「え?」


 言われてみれば私の中の記憶にある川と比べると違う気がする。元々ここは染料の流出による環境汚染が問題になって閉店になった場所だ。あの時は確か、もっと川が絵の具を混ぜたみたいにぐちゃぐちゃな色になっていた気がする。こんなに魚達が泳げる様な澄んだ川じゃ無かった。


「ううん、もっと変な色してたと思う」

「……そっか。あたしが一人でここに来る様になってからはずっとこんな感じだったんだ」

「じゃあ、こんなに綺麗だったの? プーちゃんが最初に見た時は」

「うん。まあそこまで気を張ってた訳じゃないから正確には分かんないけど」


 どういう事だろ? お父さんから聞いた話だと、染料が原因になった汚染はかなりの問題になったらしい。それこそ『何年も浄化するのに時間が掛かる』って。それなのに、たった数年でここまで綺麗になるのかな?


「それとさ」

「何?」

「実はそこの廃墟の中もさ、ちょっと変と言うか……」


 私はプーちゃんに案内されるがままに廃墟の中に入った。中は服作りに使う機械などが全て持ち出されているからか、酷く殺風景だった。しかしそれよりも遥かに気になったのは、その壁や天井や床だった。どれも異常な程に真っ白になっており、壁と床、壁と天井の境目すらもどこにあるのか分からない程だった。


「変、だよね?」

「うん……ここまで綺麗な筈無いよね……」

「いや綺麗とかそういうのじゃなくてさ、普通家の壁とかを塗る時にこんなに何でもかんでも白にはしないでしょって事だよ」

「あ、そ、そうだね、うん」


 言われてみればそうかも……。ここまで白くする意味が無いもんね。だとしたら、後から白くされたのかな? でも何のために?


「プーちゃん、いつからこんな感じだったの?」

「分かんない」

「え? でも最近はプーちゃんがここに来てたんだし、知ってるから教えてくれたんでしょ?」

「いや今日始めて知ったけど?」

「え、今日? 今までここには入って無かったの?」


 プーちゃんは涙目になりながら突然声を荒らげた。


「怖かったの!! 廃墟だよ!? こんなの一人じゃ怖いに決まってんじゃん!」

「わわっごめんごめん! そ、そういう事だったんだね……」


 そっか……そういえばプーちゃんオバケとか苦手だもんね。こういう所はいかにも出そうな感じあるし、まあ無理か……。


「ったくさぁ……まあそれでさ、ちょっとこっち来て欲しいんだけど」


 そう言うとプーちゃんは廃墟の奥にあるもう一つの部屋へと私を連れて行った。その部屋の中は相変わらず不気味な程に真っ白でだったが、一つだけさっきの部屋とは違う所があった。


「ほらあれ」プーちゃんが指差したのは部屋の真ん中で、そこにはあの白い花が咲いていた。

「あれ?」

「あれだけさ、床をぶち破るみたいに生えてるんだよね」


 確かに床にはヒビが入っており、そこから生えている様だった。


「タンポポみたいな感じなのかな?」

「でもタンポポってさ、もっとこう、端っこの方に生えてない?」

「確かにそういうイメージあるけど……」


 プーちゃんは顎を触りながらいかにも頭が良さそうな風で話し始める。


「……これはあたしの考えなのだがねヴィーゼ君……」

「何?」

「恐らくこの白い部屋は、その花が作り出したものだと思うのだよ」


 この花が? でもどうやって……。こんな風に周りを白く出来るって、可能なのかな?


「ちょっと突拍子も無さ過ぎじゃない?」

「……まっ、それもそうか」

「どうしようか?」

「まずは、だよ……あれを持って帰ってみるっていうのはどうかな?」

「……今の私の真似?」

「うん」

「そ、そう……」

「……」

「……」

「も、持って帰ろうか」

「……うん」


 何とも微妙な空気の中、私はあの不思議な花を採取し、プーちゃんと共に一旦外へと出た。外には相変わらずあの白い花が咲いていて、周りを取り囲んでいた。私は鞄から朝食用のパンを二つ取り出し、片方をプーちゃんに分ける。


「はい」

「あっ、しまった忘れてた……」

「まあ忘れるとは思ってたよ……」


 私達は木陰に移動し、そこで腰を休めながら食事を始めた。

 ここの変な感じも気になるけれど、お父さんの方も気になるなぁ……。元々私達が付いて行くって事は知らなかった訳だから、待ってくれる訳は無いんだけれど、どこに居るのか分からないのは何だか不安だな……。


「どーするヴィーゼ? 一旦帰る?」

「どうしたの?」

「いやさ、お父さん、長いこと旅に出るかもって言ってたじゃん? それこそいつ終わるか分からないって」

「うん」

「だからさ、後を追うってなったらあたし達の持ってるお金じゃパンも買えなくなっちゃうしさ、あれ持ってった方がいいんじゃないかなって」


 まさか、『あれ』って錬金釜の事言ってるのかな……? あれ、相当な重さがあると思うんだけど、どうやって運ぶつもりなんだろう……。


「錬金釜の事言ってる?」

「うん。あれがあればさ、物作り放題じゃん」

「いやいや、どれだけ重たいと思ってるの? 私達二人でも持ち上げられるかどうか……」

「はーっ! ヴィーゼはホンットお堅いなぁ頭がさぁ!」


 プーちゃんは近くに落ちていた枝を拾い、絵を描き始める。


「こーんな感じのさ、手袋だよ手袋。こういうの作ればさ、運べるじゃん?」

「いやただの手袋だったら……」

「ちーがうってば! ほらあれだよ、あの……錬金術のレシピが書いてある本があったでしょ? お母さんがまとめてくれてたやつ。あれにこんなのが描いてあったんだよ。重いものを持ち上げられる手袋がさ!」


 そういえばあった様な無かった様な……。もし本当にそれを作れるなら、まあ運べるっちゃ運べる、かな? 正直こういうやる気になってるプーちゃんは何言っても聞かないだろうし、やるしかないかな。


「分かったよ。じゃあ一旦帰って作ってみようか?」

「流石ヴィーゼ! 分かってくれるねぇ! 自慢のお姉ちゃんだよ!」

「随分と簡単に評価しちゃうんだね……」


 話を終えた私達はパンを呑み込み、急いで家へと帰る事にした。

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