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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第3章:海にも及ぶ異変
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第16話:海の民との出会い

 港を行き交う人々の間を縫いながら、私達はシップジャーニーの巨大帆船に辿り着いた。遠くから見てもかなりの大きさだったが、近くで改めて見るとより大きく見えた。船からは乗り込み用の木の板が港へ繋がれており、どうやらそこから出入りする様だった。

 その足場の前には一人の女性が立っていた。綺麗な銀髪をした綺麗な女性で、腰にはとてもその見た目に似つかわしくない剣が差してあった。しかし、私にとってはそんな事は気にする程の事ではなかった。それよりも更に気になる事があったからである。


「ねぇプーちゃん……」

「……」


 やっぱりプーちゃんも気付いてるみたいだ。あの女の人、どことなくお母さんに似てる。髪の色は全然違う、お母さんは私達と同じで栗色だった。でもあの人は銀色だ。でも、顔が似ている気がする。


「どうしたんだ二人共?」

「い、いえ……何でもないです」


 私は何とか誤魔化しながら、シップジャーニーに入るために女性へと近付く。女性はこちらに気付いたらしく、視線をこちらに向けてきた。しかし腕は後ろに回したままで、背筋はきっちりと伸びていた。


「あのすみません」

「はい、何でしょうか?」

「えっと、実は人探しをしてるんですけれど、ヴァッサ・ヴュステって人を知りませんか?」

「……あなた方とその方の関係は何ですか?」

「親子です」


 女性は口元に手を当て、何やら考え始めた。

 この反応を見た感じだと何か知ってるみたいだね。もしかしたらお父さんはこの船の中に居るのかも。だとしたら何とかして説得してここを通してもらわないと……。


「あのお願いします。どうしても会いたいんです」

「……すみませんが、レレイからの命令です。ここをお通しする訳にはいかないのです」


 シーシャさんが私の前に出る。


「君の都合があるのは分かるが、こっちにも都合があるんだ。ただこの子達が彼に会えればそれでいいんだ。通してくれ」

「あなたは?」

「私はシーシャ・ステイン、ダスタ村の生まれだ。水の精霊を見つけるために同行してる」

「水の精霊、ですか? その様なものが実在するとは思えませんが……」

「それは私が自分の目で決める事だ。それより、ここを通してくれ」


 女性は腰の剣に手を掛ける。


「……お下がりください。レレイからの命令なのです。ここを通す訳にはいかないのです」

「あの、お願いです! ただお父さんに会えればいいんです!」

「申し訳ございませんが、命令なのです……お願いです」


 その様子を見てか、プーちゃんは私とシーシャさんを押し退ける様にして前に出る。

 まずい……あの人はもう剣に手を掛けてる、いつでも抜ける状態だ。まさか本当に斬りかかるとは思わないけれど、刃物なのは間違いないし危ない……!


「プーちゃん下がって!」

「……お願いです。下がってください」


 女性はついに剣を抜く。場所が場所という事もあってか、周囲の人から注意を引いてしまっていた。


「斬りますよ……?」

「……」

「私は命令を遂行するだけです。あなたが子供かどうかなんて関係ありません」

「……」


 プーちゃんは女性からの脅しに屈する事無く、ただその場に俯いたまま立ち続けていた。女性は明らかに動揺している様だった。


「プレリエ下がれ!」


 プーちゃんはシーシャさんの言葉をまるで聞こえていないかの様に無視すると、女性に抱きついた。その動きはあまりにも予想外のものであり、女性は手に持っていた剣を落としてしまっていた。


「な、何を……」

「何で通してくれないのさ……」

「いえ、ですから……」

「お母さんは聞いてくれてたじゃん……」


 私は近寄り、プーちゃんを引き離そうとする。


「ほらプーちゃん?」

「やだ……」

「分かってるでしょ? 違うって……」

「……」


 女性は状況が飲み込めず、困惑していた。


「あの、これはいったい……」

「えっとすみません。お母さんに少し似てるもので、ちょっとこの子が懐かしくなっちゃったみたいで……」私は可能な限り分かりやすい様に説明した。

「……そういう事でしたか」

「はい。お父さんを手伝って、お母さんを見付けるのが目的なんです」

「……分かりました。少し報告をしてきます。待っていてください」


 そう言うと女性は落とした剣を拾うと船の奥に入っていった。プーちゃんは辛そうな表情をしており、拳を握り締めていた。


「ね、プーちゃん……」

「何……」

「私も驚いたよ。あの人本当によく似てたもん。でもさ、駄目だよあんな事しちゃ。ビックリしちゃってたよ?」

「ごめん……ヴィーゼ……」


 私はプーちゃんの手を握る。


「うん。大丈夫だよ、お母さんちゃんと見つけようね」


 やっぱりお母さんが一番なんだね。当たり前といえば当たり前かな。私じゃお母さんの代わりにはなれないよね……私じゃ完全にはプーちゃんの心を癒す事は出来ない、よね。


「ヴィーゼ、彼女はそんなに母親に似てるのか?」

「そうですね。顔は瓜二つと言ってもいいと思います」

「あまりヴィーゼやプレリエには似てない様な気がするが」

「そうですね。私達はお父さんお母さんのどっちかに似てる訳じゃないんですよ」


 よく街の皆からはお父さんとお母さんのそれぞれに似てるって言われてた。人によってどっちに似てるか意見が分かれる事があった。


「……そうか。彼女は二人の母親の親戚なんじゃないか?」

「どうなんでしょう。特に親戚が居るっていう話は聞いた事が無いんですけれど……」

「お母さん、姉妹は居ないって言ってた……」

「そうだね。そう言ってたよね」


 偶然なのかな……世の中には自分に似てる人が三人は居るって聞いた事があるし、そこまでおかしい事では無いのかな……。あの人は偶然似てるだけで、お母さんとは特に関係無いのかな?

 そんな事を話しながらしばらく待っていると、あの銀髪の女性が船から戻ってきた。


「お待たせしました」

「あの、どうですか?」

「レレイから許可が出ました。入っても問題ない様です」

「ありがとうございます!」

「すまないな」

「……ありがと」


 何とか入れるみたいで良かった。この人自体もそこまで悪い人じゃなさそうだし、シップジャーニーの人達もきっと怖い人じゃないよね。


「ではこちらからどうぞ、案内します」

「はい、お願いします」


 私達は女性の後に付いていき、船の中に入っていった。



 船の中は外から見た通り、かなりの広さだった。途中通った廊下にはいくつか扉があり、いくつも部屋がある様だった。更に奥へ奥へと進んでいくと、広い部屋へと出た。床には絨毯が敷いてあり、シップジャーニーの住人と思しき人々が話し合っていた。そして、その中にはお父さんの姿もあった。


「お父さん!」


 お父さんを見付けたプーちゃんは突然私の手を離すと走り出した。こちらに気付いたお父さんは酷く驚いた様子で目を見開いていた。プーちゃんはお父さんにそのままの勢いで抱きつく。


「何で勝手に行っちゃうのさ!」

「ぷ、プレリエ……どうしてここが……」

「追っかけてきたんだよ」


 私とシーシャさんは銀髪の女性の後に付いたまま近寄った。


「レレイ、お連れしました」

「ええ、ありがとうリオン」


 レレイと呼ばれた女性は綺麗な黒髪をボブカットに切り揃えており、全体から聡明な印象を放っていた。しかしそれでいて、その場に居る全員の中で一番背が低く、見た目だけなら私達よりも幼く見えた。

 この人、多分年上だよね? 見た目で人を判断するのは良くないけれど、パッと見ただけなら年下に見えちゃうな……。それとあのお母さんに似てる人、リオンさんって言うんだ。名前はお母さんとは全然違うから、多分他人の空似だよね。


「始めまして。私はレレイ・マールシュトローム、ここの副官よ。こっちは防衛隊隊長のリオン」

「えっと防衛隊っていうのは……?」

「どうしても海の上で暮らしてると海賊とかに狙われる事があるのよ。そういう時に戦うのが防衛隊よ」

「なるほど……」


 私が納得しているとレレイさんは近くに居る男性の方へと手を向ける。


「それで彼がヴォーゲ・マールシュトローム。このシップジャーニーを取り仕切るリーダーよ」

「始めまして」


 ヴォーゲさんは海の男というだけあって、かなり体がガッシリしていた。腰に巻いているベルトには望遠鏡が引っ掛けてあり、着ている服も動き易さを重要視してか軽装だった。

 レレイさんと苗字が同じだったけれど、兄妹だったりするのかな?

 私はヴォーゲさんが差し出した手を握り、握手をする。


「ヴィーゼ・ヴュステです。あっちの子は妹のプレリエ、二人で錬金術士をやってます」

「ほう、錬金術士を……」

「こちらはシーシャさんです。私達に同行してくださってるんです」

「ダスタ村のシーシャ・ステインだ」


 それを聞いたヴォーゲさんは深刻そうな表情になる。


「ダスタ村の方でしたか。お話はヴァッサ先生から聞いております」

「……そうか」

「村の事は本当に残念としか……」

「別にあなたが気にする事じゃない。それに私はまだ諦めた訳じゃないからな。あの村は必ず復活させる、そのつもりだ」

「そうですか……」


 そんな真面目な話を遮るかの様にプーちゃんが口を開く。


「それでお父さん~? ここで何してたのかな~?」

「ああえっとね、ここでも未知の生物が見つかったみたいでね。調査を頼まれたんだ」


 やっぱりそうだったんだ。ここで見つかったって事はつまり漁をしてる最中に見付けたって事だよね。海でもそういうのが見付かり始めてるんだ……。


「正確に言いますと、数年前に一度捕獲はしていたんです。ですがその時はただの突然変異か何かだと思っていたのです。ですが、最近同じ種のものが見付かり始めて……」

「確か、魚の姿をしてるんでしたね?」

「ええ」


 レレイさんはリオンさんに指示を出す。


「リオン、持ってきてくれるかしら」

「畏まりました!」


 数分後、リオンさんはレレイさんに頼まれたものを持って戻ってきた。その手の中には一匹の小さな魚が乗っていた。既に息は絶えてしまっている様だが、その見た目はそんな事が気にならなくなる様な異様な見た目だった。

 全体は鯛の様な普遍的な魚の形をしていたが、その臀部からは枝分かれした突起が生えていた。ひれが変形して出来たというものでは無く、明らかに鰭としての形を成していなかった。


「これが獲れたのです。見てみてください」

「ええ、それでは失礼します」


 お父さんはリオンさんから魚を受け取ると、じっくりと観察し始めた。


「最初に見たのはいつでしたか?」

「確か5年程前でした。これよりも遥かに巨大な個体が獲れたんです」

「その時はそれ一体でしたか?」

「ええ、それ一体でした」


 という事はこの魚はまだ子供って事なのかな? まだまだこれから大きくなっていくって事なのかな? それにこの突起みたいなのは何なんだろう。何に使うものなんだろう?

 そうやって皆で見ているとプーちゃんが口を開いた。


「その突起さ、クラゲのやつに似てない?」

「プーちゃん?」

「ほらヴィーゼ、図鑑に載ってたじゃん。クラゲにとっての卵みたいなやつで、そこからクラゲが半永久的に作られるって」


 もしかしてポリプの事を言ってるのかな? 確かクラゲはポリプっていう植物みたいなものから生まれる。そのポリプがある限り、何匹でも生まれるって書いてあったっけ。


「……プレリエの言う通りかもしれないね。この形、ポリプによく似てる」

「おっ! 当たり?」

「確定的ではないけど、可能性は高いよ。ただこういうものが魚から生えてたとか、こういうものを使って増える魚が居るという話は聞いた事が無いな」

「それじゃあその魚は誰かが意図的に生み出したって事でしょうか?」

「そうですねレレイさん。その可能性は十分にあると思います」


 お父さんは観察を終えたのか顔を上げ、ヴォーゲさんを見る。


「やはり未知の生物と判断してもいい様です。もし宜しければサンプルとして頂いても?」

「どうぞ持っていってください。何でしたら研究用に部屋をお貸ししますよ?」

「いえ、流石にそこまではお世話になる訳にはいきませんよ」

「そうですか。ではこれからどうされるので?」

「しばらくは研究のためにこの街に滞在しますよ。宿が決まったら連絡をしますので、必要な時はその連絡先を訪れて頂けると……」

「分かりました。ではお願いしますね」


 お父さんとヴォーゲさんは力強く握手を交わした。それを終えたお父さんは他の人とも握手をすると出入り口に向かって歩き出した。私達は慌ててシップジャーニーの人々に頭を下げると急いでお父さんの後を付いていった。

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