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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第17章:彼奴の闘争、我らが闘争
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第141話:不完全な平和

 アルフレッドが作った巨大兵器『イェソド』を浸水によって破壊することが決定したものの、まだ具体的にどうするかというのは決まっていなかった。

 あの金属は恐らく何らかの条件で流体になることが出来、アルフレッドはそれを利用してあの内部へと入り込むという芸当をやってのけた。あの流体の状態だとあの金属を破損させることは不可能に近い。しかしかと言ってあの金属に浸水させるだけの大きな傷を付けられるのかという問題もある。


「ヴィーゼ、どうやってあれ浸水させればいいの? 金属削るの難しいってあたしでも知ってるよ……?」

「船の大砲……いや、それは向こうも想定してるかな……」

「アルフレッドもそれは想定してる。わたしもそう思う」


 大砲でも傷つかない可能性がある硬さ、そもそも衝撃を逃がす可能性がある流体、その両方の性質を併せ持っている金属をどうすれば損傷させられるだろうか。単純な火力だけでどうにか出来る相手だとは思えない。


「レレイ、対象が迫っています。他の船に避難指示を出すべきかと」

「……そうね」


 レレイさんが声を張り上げる。


「本船以外の船に退避命令を! 東に無人島があります! そこで集合命令を!」


 レレイさんの指示で巨大船の周りを航行していた船達が一斉に散らばり、別々の方向に逃げるような動きをし始めた。しかし『イェソド』はそれらには目もくれず、真っ直ぐにこの船を追って来ている。恐らく私達が一番の脅威だということは認識しているのだろう。もしアルフレッドが『新人類』なのだとすれば、私達の血に直感で気がついているかもしれない。


「ヴィーゼさん、プレリエさん、お二人が作った道具……あれを使えませんか……?」

「それも考えてるんですけれど、距離が……」


 私達が作った『依代瓶』はかなりの距離を詰めなければ使えない。瓶の中に概念を掬い上げるというやり方で概念を封じ込めるため、この距離ではどうやっても使えないのだ。更に言えば、『イェソド』に使用されている金属が錬金術で作られたものである以上、どんなもので作られているのか全く分からない。この状態で使用しても、完全に機能を停止させるというのは難しいかもしれない。


「おい備えろ! 来るぞ!」


 シーシャさんの言葉を聞き『イェソド』を見てみると、再び口らしき箇所を開いていた。直後、海水を圧縮したものをこちらに向けて発射してきた。しかし一瞬にして景色が変わり、いつの間にか船そのものの位置が変化していた。

 何が起こったのか分からず困惑していると、ヘルメスさんの姿が目に入った。彼女の手には羽根が一枚握られており、その羽根は以前私達が見たものと同様のものだった。空間を飛び越えて離れた場所へと転移出来るというものだ。ヘルメスさんはそれを使って船の位置を少しだけズラし、水圧攻撃を回避したのだろう。


「ヘ、ヘルメスさん……」

「こ、攻撃の回避は私に任せてください……!」

「あ、ねぇヴィーゼ! あれ使えば一気に近づけるんじゃない!?」

「確かに……」

「そ、それは難しい、です」


 ヘルメスさんによるとこの羽根は座標を基に転移を可能としているため、動いている相手にぶつからないように正確に転移するというのは難しいのだという。実際に作ったことがあるため、そう言われるとそれがどれほど難しいのかというのはすぐ理解出来た。

 しかし、逆に回避するためであれば動いているものの近くに転移する訳ではないため容易い。ひとまず『イェソド』からの攻撃を回避する方法があるだけでも心強い。問題はどうやって近づき瓶を使うかだ。


「よ、避けるだけなら大丈夫です!」

「そっかぁ……でもヘル姉がいれば安心ってことだね!」

「そうとも言えない。わたし達はまだアレの武装全てを見てない。油断は出来ない」


 コニーさんの言う通り、私達はまだ『イェソド』がどれだけの事が出来るのか知らない。どんな攻撃をしてくるのか、どんな動きをしてくるのか、どこまでも未知数だ。


「……近づけないなら近づかせればいい」

「コニーさん?」

「その人の言葉通り回避出来るなら、あいつは間違いなく近づいてくる」


 コニーさんの考えでは、アルフレッドは遠距離攻撃が通用しないと悟ると接近戦を仕掛けてくる可能性があるのだという。いくら羽根による転移が可能だとしても、接近戦になると即座に回避するということが難しくなる。回避した先に遠距離攻撃を先読みして撃ってくる可能性を否定出来ないのだそうだ。


「待ってください。それは防衛部隊隊長としては容認出来ません」

「リオンだっけ。でもそれしかない。それが事実」

「ですが近付かれるということは、この船そのものを危険に晒してしまうということです」

「私もリオンと同じよ。ある程度頑丈には作ってるけど、あんなのにぶつけられたらひとたまりもないわ」


 シップジャーニーの巨大船はどれだけ頑丈に作られていても木造だ。そこにあの金属製の巨体がぶつかれば簡単に破壊されてしまうだろう。修理も決して容易ではない。しかしコニーさんの言う通り、『イェソド』がこちらに近づいてくるのは時間の問題だろう。そうならないのが一番だとは思うが、それしか方法が思いつかない。


「……なるべくわたしが致命傷にならないように動く」

「コニー、お前何言ってるんだ?」

「アルフレッドが一番消したいのはわたし。それが事実。それ以外は多分ついで扱い」


 コニーさんとアルフレッドは親子関係だった。お互いに分かり合えない人物として認識しているような話し方で、きっと二人の間にある溝は永遠に埋まらないものなのだろう。

 ヘルメスさんの下に近寄ったコニーさんは彼女の目を見つめる。


「ヘルメスだっけ。あんたに頼みたい」

「わ、私ですかっ……!?」

「そう。わたしも無駄死にしたくない。だから近寄られた時は、それで避けるの手伝って欲しい」

「で、でも動いてる船の上で自分達の体だけを動かすのは……」

「よく知らないけど難しい。そうでしょ? でもあんたにしか頼めない」

「……わ、分かりました」


 コニーさんが狙われた時にはヘルメスさんが回避させる。そういう作戦らしい。

 船尾から『イェソド』を観察し続けていたシーシャさんが声を上げる。


「さっきより動きが速くなってるぞ!」

「……来るか」

「皆さん、自分が先頭に立ちます! ヴィーゼさんプレリエさん、お二人のタイミングでお願いします!」

「は、はい!」

「な、何とか頑張る!」


 直後、水が破裂するような音が響いた。『イェソド』が居た方向を見てみると、さっきまで存在していた筈の『イェソド』が姿を消しており、次の瞬間には爆発するように船の近くの海が跳ね上がった。船が大きく揺れる中お父さんに支えられ顔を上げてみると、そこには『イェソド』の姿があった。離れたあの位置から大きく跳ねてここまで飛んできたのだろう。


「総員! 戦闘態勢!!」


 リオンさんの指示により防衛部隊の人達が動き出し、先頭に立っているリオンさんの隣にコニーさんが並ぶ。彼女の顔は巨大な『イェソド』を見上げており、ヘルメスさんはその後ろで羽根を構えておどおどとしている。


「アルフレッド。警告。今降伏するなら殺さない」

「さっきも言ったはずだぞコニー。動物の本質は暴力なのだ。平和は歩いてこない。だから私がその第一歩を踏みしめるのだ」

「お前がやってるのはただの支配だよ。平和じゃない」

「やはりお前はいつまで経っても青臭い子供だな。真の平和とは支配なのだ。お前の言っている平和は闘争の間の混乱期に過ぎない」


 リオンさんが声を張り上げる。


「失礼ですが、我々はシップジャーニー防衛部隊です! これ以上我々の船団に攻撃を仕掛けるのであれば排除対象になります!」

「お前達のことも知っているぞ。ただの交易船団が口を挟むべきではないのではないか? 邪魔をしないのであれば命は取らない」

「説得力ない。さっき撃ってきたくせに」


 コニーさんはナイフを取り出す。


「今ので分かった。お前はもうどうしようもない」

「交渉決裂か。ではコニー、お前を踏み台に平和に一歩踏み出そう!」


 『イェソド』がコニーさんを殺そうと動き出したのを見た瞬間、防衛部隊から矢が放たれる。矢は『イェソド』の体に当たりはするものの、どれも致命的な攻撃にはなっていなかった。コニーさんはヘルメスさんの羽根によってマストへと転移させられ、『イェソド』の攻撃をそちらに誘導しようとする。船そのものがやられるよりもマスト一本を犠牲にした方がいいと考えたのだろう。


「わ、私達も行こう!」

「あ、あいつの気があっちに向いてる内にやらなきゃだよね……!」

「二人共、絶対に無理はしないでくれ」

「うん。大丈夫」

「任せてお父さん。無茶あたしも嫌だし……」


 シーシャさんが私達の先頭に立つ。


「私が先陣を切る。出来る範囲で守るから、そこから先は二人に任せるぞ」

「はい!」

「あいつが身を乗り出したりしたらチャンスだね!」


 『イェソド』の気がコニーさんに向いている時に近づき、何かの概念を奪うというのが私達の作戦だ。あれから兵器としての概念を奪うだけでは、根本的な解決は出来ないかもしれない。ただ移動するだけで建物を破壊してしまえるのだから、もっとそれよりも根本的な概念を奪わなければならない。『イェソド』の存在意義を揺るがすようなものを奪えば、完全に破壊能力を失うことになるだろう。

 シーシャさんを先頭に『イェソド』の視界に入らないように動き始める。


「……ねぇねぇヴィーゼ。あたしいいこと思いついちゃった」

「どうしたの?」

「あれを奪っちゃえばいいんだよ。そうすれば、あいつも『イェソド』もどっちも同時に倒せるよ」

「……そっか。そうだね、それなら……」


 プーちゃんが何を考えているのか自分にもすぐに分かった。『イェソド』を兵器として見るのではなく象徴として見れば、完封させるために何の概念を封じ込めればいいのかが分かる。それさえ封じ込めてしまえば、アルフレッドが次にどんな手を打ってきても問題無くなる。

 私達はアルフレッドが提唱する支配による世界平和を止めるためにその巨体へと歩みを進めていった。

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