第138話:レジスタンスの覚悟
コニーさんから語られた計画はこうだった。子供達を街の各地に分散させて、目立つ場所で火を放ち遠くからでも見える様に空に煙を上げる。これによって警察の動きを分散させる事で目的地である工場の警備を少なくする。もちろん警察全員が動く訳がなく、何人かは残ることは想定済みらしい。
「多分一番奥、あそこで何か作ってる」
「何を作ってるかまでは分からないんですよね?」
「そう。一部の大人達しか知らない。聞いても答えてくれないけど」
工場地域への入り口は一つしか存在しないらしく、そこからは少しでも警備を掻い潜りながら正面から進んでいくつもりだという。当然、大人と子供では力の差は圧倒的である。数の面でも恐らく大人の方が多いだろう。
「少し待て。私達はここの事をあまり知らないが、大人の方が人数が多いんじゃないか?」
「もちろんそう。わたし達の方が圧倒的に少ない」
「それはアタシらも分かってる。だから、これを使う」
そう言ってジーナさんが懐から取り出したのは小さな爆弾のような物体だった。握り込めば片手で簡単に隠せてしまう程に小さいそれからは、導火線の様なものが一本生えていた。
「そ、それ何?」
「煙幕。時間稼ぎくらいは出来る」
「それを使って奥まで進むつもりなんですか?」
「わたしの計画ではそう。アルフレッドも何とかしないといけない。だけど兵器の方が先。それが決まり」
コニーさんとしては、秘密兵器の方を先に対処しない限り、アルフレッドを倒しても誰かがそれを使う可能性があるのだそうだ。誰もその兵器が何なのかは知らないが、ここまでして秘密が守られているという事は相当な物なのだろう。
「それでもし奥まで行けたとして、その問題の兵器はどうやって壊すつもりなんだい?」
「……これ」
そう言ってジーナさんが近くに置かれていた木箱を開ける。そこにはおがくずに包まれた直方体の何かがいくつも詰められていた。どうやらそれは煙幕とは違い正真正銘爆弾らしく、ひっそりと搔き集めた火薬によって作られた物なのだそうだ。兵器がどんな見た目でどんな存在なのかは分からないが、とにかく爆弾の一斉爆破で完全に破壊してしまおうという算段らしい。
「そ、それ大丈夫なやつ? あたしあんま詳しくないけどさ、火薬の量間違えたらヤバイんじゃ……」
「実験はしてない。もし爆発音を大人の誰かに聞かれれば、アタシらの活動がバレる可能性がある。だから、一か八かの賭けになる」
「馬鹿な。いくら何でも無茶が過ぎる。悪いが素人の私から見ても無理のある作戦だぞ」
「無理は承知よ。アタシは……この街の平和とこの子達の未来が守れるなら、それでいい」
「このまま黙ったままでアルフレッドの暴挙を許すか、少しの希望に賭けるか。わたし達に残されたのはその二つだけ。ただそれだけ」
確かに無茶な作戦としか言いようが無かった。もし仮に計画通りに進んだとしても、突入部隊に選ばれた子供達からは死人が出てもおかしくない。今残っている大人達はアルフレッドの言いなりになっている人間だけで警察すらも頼りにならない。下手をすれば秘密を守るために皆殺しにされる可能性だって十分にある。
「ま、待ってください。シーシャさんの言う様に危険ですよ。何か、他にいい方法が……」
「俺達にはもう後がねぇんだよ!」
「ザック」
「俺は、あいつら全員殺してでも――」
「ザック。やめなさい」
「でもジーナ!」
「……アンタ達に殺しはさせない。やるとしても、アタシやコニーだけよ」
「……っ」
「ヴィーゼ、だっけ。あんたの言う事にも一理あるよ。だけどこれ以外にいい方法が無いのも事実。それが事実」
この街の事は間違いなくコニーさん達の方が詳しいと言える。部外者の私達にはどの道がどこにどう繋がっているのかは何も分からない。戦いに関する知識もほとんど無いに等しい。しかし、もし作られている兵器が錬金術を利用したものだった場合は話が変わってくる。今この場に居る全員の中では、私とプーちゃんの方が詳しいということになる。
「それでも、その計画を実行に移すにしても少し待って欲しいんです。上手くやれば、被害を抑えられるかも……」
「私もヴィーゼに賛成だ。お前達とは今日会ったばかりだが、幼い子供が無駄死にするのは見過ごせない」
「じゃあ教えて。あんたらの作戦……計画を」
「作戦面に関しては私には何も浮かばないです。ただ、兵器の破壊方法は他にいいやり方があるかもなんです」
「どんな?」
ここで一番警戒しておかなければいけないのは、その兵器が何なのか分からないという点だ。爆弾で破壊出来る程度であれば今の作戦でも有りかもしれないが、もしそうでなかった場合は全てが無駄になってしまう。いや、わざわざ秘密にする程の兵器と考えると、これまでの常識には当てはまらない存在と考えた方がいいかもしれない。破壊するのではなく、二度とその存在が使えない様に封じ込める方向性の方が正しいのではないだろうか。
「……あんまり詳しくは言えないんですけど、私達色々作ったりするのが仕事なんです。だから、兵器への対処に関しては少し待ってもらえませんか?」
「時間はあまり無い。いつ完成するか分からない。でもあんたらがそう言うなら少し待つ。今日の夜まで」
「コニー、いいの?」
「犠牲が少なく済むならそっちの方がいい。それに計画は二つあった方がもしもの時安心」
「……分かった。アンタがそう言うならそれに従う」
「うん。それじゃあ待ってる。もし夜までに来なかったら、今夜中に決行する。来ても決行するけど」
コニーさんにお礼を告げると、私達は彼女達の案内を受けて裏路地の井戸から外へと出た。街を歩いている大人達はこちらを時折横目で追ってはいたが、特に何か尋ねてくるでもなく歩みを止める事も無かった。しかし船へと戻る途中、突然シーシャさんが私達に先に行くように言い、一人で街へと戻って行ってしまった。何があったのかは分からないが、少し一人になりたいとの事なので心配ではあるが私とプーちゃん、そしてお父さんの三人で船へと戻った。
「ヴィーゼ、どうするつもりなんだい?」
「あの人達は破壊してどうにかしようとしてたでしょ? でも、それより安全ないい方法があるんじゃないかって思って」
「あたしにはヴィーゼの考えてる事、何となく分かるよ? でも、危なくない……? 錬金術が関わってるかもしれないけど、あたし……これ以上はヤバイ気がする」
「プーちゃんの気持ちも分かるけど、何を作ってるか分からない上にここに何かあるのは確かだよ。もし放っておいて私達の国にまで攻撃されたら、その時はもう対処出来ないかもしれない」
アルフレッドという人はコニーさん達の話によれば元武器商人だ。リジオイエ族の集団失踪にも関与している可能性がかなり高い。下手をすれば『群智虫』を作ったのも彼である可能性がある。そうなればアルフレッドもまた、『先駆者』によって作られた『新人類』という事になる。それも私達やヘルメスさんとは違う、使命を全うして人類を滅ぼそうとする者の一人。
「アルフレッドさんが『新人類』の可能性があるなら、ここで止めないと何をするか分からないよ。だからせめて、その秘密兵器だけでも止めないと」
「……封印するってやり方で?」
「うん。プーちゃんが考えてる通り。破壊するんじゃなくて封じ込める。存在そのものをね。誰にも使えないようにして封じる。これなら破壊出来なかった場合でも問題ないと思うんだ。封印の前には頑丈さも破壊力も関係無いから」
「しかしヴィーゼ、僕の埒外だからかもしれないが、どうやって封印というのをするつもりなんだ? その兵器の大きさも分かってないのに」
「お父さんが言う様にそこが問題なの。だから、やるなら物質的に封印するんじゃなくて、存在……いや、その実在性そのものを封印しなきゃいけないと思う」
「実在性? それってさ、概念的にって意味?」
「うん。難しい調合になるかもだけれど、それならどんな相手でも対応出来るし、何なら量産されてても完全に封じられると思う」
概念そのものを封印する。そんな事は今まで一度もやった事は無かったが、私の計算によれば不可能ではなかった。私達に流れる純血を使えば思い通りの特性をある程度持たせる事が出来るからだ。しかしあくまでそれは特性を補強するための手段に過ぎない。何と何を組み合わせれば封印する力を持った道具を調合出来るのかというのを考えないといけない。
「まずは、だよ。一旦考えてみよう。レシピさえ出来れば、血で補強出来る筈だから」
こうして私達は『概念的に封じる道具』を作るために行動を開始した。




