第137話:反逆の種火
コニーさんに導かれるままに井戸の地下にある秘密基地へと案内された私達はしばらくの間そこで待ち続けた。座るようにとは言われていたが、まだ本当に信頼しても大丈夫な人なのかどうか分からないという事もあったか、私だけでなく誰一人として座ろうとしなかった。
そうしてそんな状態がしばらく続いた頃、私達が通って来た通路から複数の足音がコツコツと響いてきた。もしもに備えてシーシャさんは腰のナイフをいつでも抜ける様にと臨戦態勢に入っていたが、そこに姿を現したのはコニーさんよりも幼い10人程の子供達だった。私達よりも年上そうな子も居れば、まだ年齢が二桁にも満たない様な見た目の子も居た。
「子供……?」
「皆、待ってた」
「コニー、そいつら誰?」
子供達の中で最初に口を開いたのは私とプーちゃんよりも少し年下に見える男の子だった。着ている服は煤の様なもので薄汚れており、とても年下とは思えない程に目つきが鋭い子だった。
「目的が同じ人達。仲間」
「あ、あの~……私達、いつの間に仲間にカウントされたんでしょう……?」
「マジであんたらは同じ目的。リジオイエの人達の事。でしょ?」
「待て。どうしてお前がそれを知ってる」
「街の人達、皆に聞いてた。わたしには筒抜け。それが決まり」
鋭い目つきをした少年がズボンのポケットから折り畳みナイフを出し刃をこちらに向ける。
「やっぱりテメェら怪しいぞ! 見ない顔の奴ら……つまり外の人間って事だ。外の奴らが知ってる訳ねェ!」
「ザック、そいつらてきなのか?」
「ザックさっさとやっつけちゃってよ!」
少年の名前はザックと言うらしく、後方では他の子供達が私達を排除しようと囃し立てている。
「コニー、こいつらがどっから来た奴らなのかも分からねェのに入れたのかよ!」
「ザック。こいつらは敵じゃない。分かる。嫌な臭いがしないから」
「またそれかよ! 臭いとかどうとか俺らには分かんねェんだよ!」
コニーさんは椅子から立ち上がると一度ザックへと近寄り匂いを嗅ぎ、その後こちらに近寄って私達四人の匂いを嗅いだ。
「間違いない。悪い奴じゃない。マジで」
「俺らにはもう時間が無ェ! 少しでも怪しい可能性があるなら、ここで消すべきだぜ」
どうやらザックは相当警戒心が強い子らしい。彼らが集まっている目的はコニーさんが言っていた様に謎の兵器の破壊なのだろうが、それ故に何故か部外者である私達がここに居るというのが気に食わないのだろう。もし何らかの作戦を立てているのだとすれば、私達のせいで作戦がバレたり、何ならスパイの可能性だってあるのだから無理もない。
「君は、ザックと言ったか?」
「あ? 何だテメェやる気か!? どこの民族だか知らねェがな! ガキだからってナメてると血ィ見る事になるぜ」
「私はシーシャ。君より何年も生きてるから警告しよう。蛮勇は勇気とは違うぞ」
「テメェ何言って――」
瞬間、シーシャさんは近くにあった椅子を軽くザックの方へと放り投げると、彼が怯んでいる隙に距離を詰めてナイフをいとも容易く取り上げてしまった。
「私じゃなければ死んでたな」
「なっ――」
「し、シー姉!?」
「……信用しろというのは難しいかもしれないが、私達はここで起きてる問題を調査しに来てる。だが、正直知らない事も多い。まだ君達の組織がどんな事をしようとしてるのか知らないんだ。だから腰を落ち着けて話をしたい。いいな?」
「……っ」
「……皆、座って。あんたらも。話そう」
他の子供達はザックが一瞬にして無力化されたという事もあってか誰も反論せず、コニーさんの言う通り従った。恐らく年上の子達でさえもシーシャさんの動きを見て勝ち目が無いと考えたのだろう。正直これにはホッとした。あまり必要以上の騒ぎは起こしたくなかったのだ。
全員が椅子に座ると、まずは私達に事情を話すようにとコニーさんが促した。それを受けてお父さんが『群智虫』の事について説明を始めた。本来であれば『新人類』や錬金術の事も話すべきではあるのだろうが、下手に話しても混乱させたり怪しまれるかもしれないと考えて私は口を出さなかった。もちろん、それを聞いた子達がうっかりどこかで漏らすのを防ぐためでもある。
「お、おい待てよ何だよそれ。あ、集まって賢くなる虫……?」
「そう。僕達が確認してる限りだとルステン湿地に彼らは居た。そしてその湿地帯にあった家の中で、僕らはこれを見つけたんだ」
お父さんはあの場所で回収していたドリームキャッチャーを取り出す。
「北に住んでる人達の装飾品」
「リジオイエに、それがあったのか……?」
「見つけたのは私だ。少なくともあの場所にあったし、誰かが住んでいた痕跡もあった」
「ザック。どう?」
「……同じもん、だと思う。なぁ、誰かそこに居たりしたか?」
「居なかった。あの時あの場所に居た人間は私達だけだった筈だ」
それを聞いたザックは座ったまま俯き、何も喋らなくなってしまった。彼より幼いであろう子供達はそんなザックを心配し、彼や私とプーちゃんよりも年上そうな子達は各々黙ったまま話を聞いていた。
「何か知ってるのかい?」
「……」
「……わたしが代わりに言う。ザックの両親はリジオイエ族だった。もちろんザックもそう」
「え……」
それを聞いて私は全てを話す訳にはいかないと感じた。まだ仮説段階ではあるもののルステン湿地は『群智虫』の実験場として使われた可能性が高い。もしそれを話してしまえば、ザックは酷く動揺するだろう。それにこんな幼い子に両親が亡くなってるかもしれないだなんて言える訳がない。あまりにも惨すぎる内容だ。
コニーさんは立ち上がると近くにあった木箱を開け、中から新聞を一枚引っ張り出した。
「五年前、リジオイエ族が居なくなった。偶然近くを通りかかった狩人によって報告された」
「えっと、さ……ちょっといいかな? ザックだっけ? のお父さんとお母さんも居なくなってるの……?」
「そう。ザックだけが助かった」
コニーさんによるとザックはその日、偶然街の方へと遊びに来ていたらしい。リジオイエの人達にとって後からこの場所にやって来た人々は危険で警戒すべき存在として考えられていたらしい。しかしまだ幼かったザックはその言いつけを無視し、こっそりと遊びに来ていたのだ。そして皮肉な事にそれが理由で彼だけが助かったのだ。
「ザックから聞いて、わたしは調べ始めた。この街で作ってる何かが関係してるかもしれないから」
「変な兵器を作ってるかもしれないって話でしたよね」
「確証無し。だけどきっとそう。空気が悪くなり始めた時期と同じだから」
コニーさんは壁にナイフで貼り付けられている一枚の写し絵へと目線を向ける。
「あの絵の人、あの人が関係してるんですか?」
「きっとそう」
「誰なんだ、そいつは」
「アルフレッド・カーソン」
少し離れた所に座っていた私達よりも年上の少女は椅子から立ち上がると、壁に刺さっていたナイフを抜いてその写し絵をコニーさんの前へと放った。
「コニー。やっぱりザックの親を連れ去ったのはあいつよ。あんたの気持ちも分かるけど、いい加減に覚悟決めなさい」
「ジーナ……」
「えっと、ジーナさん? その人、誰なんですか? ここに来た時にも目には入ってたんですけど、全然どういう人なのか分からなくて……」
「なんかヤバイ奴っていうのは分かるんだけどさ」
「コニー、話していいわね?」
「好きにして。それが決まり」
「……分かった」
ジーナさんによると、アルフレッド・カーソンというのはこのメリアンナ国を治めている統治者らしい。元々ここに移り住んできた武器商人の一族であり、様々な国などに武器を売り捌く事によって莫大な富を手に入れ、それによってコネなどを作り国のトップにまで上り詰めたそうだ。今のメリアンナ国がここまで発展したのも彼の力が大きいという。
だがアルフレッドが統治者になってからおかしな事が立て続けに起こっているらしい。リジオイエの人々の集団失踪、大人の誰もが語りたがらない秘密の兵器工場、貧富の差の拡大など上げ出したらキリが無いそうだ。
「大人達は皆あいつの言いなり。歯向かった人達は全員殺されて、残ったのは腰抜け連中ばっかりよ」
「そのアルフレッドとかいうのは、その謎の工場の秘密のために人を殺してると?」
「ええ。アタシの知り合いにも殺された人が居る。何度警察に掛け合っても事故だったの一点張り。全員があいつの悪行を知ってて黙ってる」
「じゃあ君達はその人物を倒すために地下で活動してる、と考えてもいいんだね?」
「情けない話だけどね。人数が居れば全員で正面から殴り込み掛けられるんだけど」
「ジーナ。それはしない約束。それが決まり」
「分かってる。アタシはともかく、この子達にそんな事はさせられないわ。だけど、いつまでもグズグズしてる訳にはいかない」
アルフレッドは一体何を作っているのだろうか。彼が元武器商人だという事は子供達ですら知っている事実なのに、そこまで隠さなくてはいけない兵器とはどんなものなのだろう。恐怖で大人達を抑えつけないといけない程の秘密は一体何を目的として作られたというのか。
「……話をまとめさせてもらうぞ。そのアルフレッド・カーソンとかいう奴がこの街をこうした張本人で、リジオイエ族の失踪にも関わっているかもしれない。そうだな?」
「そう。あのクズを殺さない限り、どうせ何も変わらない。だから何とかするためにこうやって集まってるのよ」
「どうにかするとは?」
「……コニー。あんたが説明しなさいよ」
コニーさんは数秒の沈黙の後、別の木箱から丸められた大きな紙を取り出すと、それを床の上いっぱいに広げた。
「アルフレッドはこの街の中心地にある邸宅に住んでる。守りは固い。侵入経路はほとんど無い」
「まさか、こ、殺しちゃうんですか?」
「交渉が出来れば交渉。無理ならそこまで。それだけ」
プーちゃんが手を震わせながら私の服を掴む。
「あいつんとこに入るには混乱を起こしゃいいんだよ。そうすりゃ少なくともサツ共の動きをある程度制限出来る」
「それが最初の準備。警察の陽動は重要」
コニーさん曰く、堂々と動けば必ず人目に付いて警察に捕まってしまうリスクがあり、そうなれば今後は子供でも容赦なく消されるかもしれないそうなのだ。そのために騒ぎを起こしてそちらに視線を誘導しようというのだ。
「資材置き場に火を点けて放火する。火事になりゃあサツの目もそっちに向かざるを得ないだろうぜ」
「そうしている内に接近。後は――」
そこからはコニーさんによって計画が語られた。
この国で起きている事に錬金術が関連しているかどうかが定かではないが、アルフレッドを止めなければ私達も長居は出来ないという事だ。
私達はひとまずアルフレッド関連の事態を落ち着かせるためにコニーさんの計画を最後まで聞く事にした。




