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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第17章:彼奴の闘争、我らが闘争
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第136話:煙る国

 オステン島から脱出した私達はヴォーゲさんに事が済んだことを伝えると次の場所へと向かってもらった。その場所はルステン湿地で発見したドリームキャッチャーを作っている人達が住んでいるというメリアンナ国だ。

 メリアンナ国は広大な敷地を有しており、私達が暮らしていたヘルムート王国やレーメイ女王が統治していたトワイライト王国とは比較にならない程だ。当然国民の数もそれに比例して多く、いくつもの産業や漁業、林業などが発展しているという一大国家だ、というのをヴォーゲさんから聞いた。

 そして数週間の船旅を経て辿り着いたその街は、まさに聞いていた通りの場所だった。今まで生きていた人生の中で最も発展している国であり、住宅の多さだけでなく工場の多さも過去一番だった。


「ヴィーゼ、あれ何?」

「何って……煙突でしょ」

「ややや、そうじゃなくてさ。煙突ってあんな黒い煙が出るものだっけ?」

「まあ……確かにあそこまで黒い煙は見た事無いかも……」


 船の甲板から見えた複数の煙突からは黒煙が立ち上っており、それらが上空で停滞する事によって大きな雨雲の様なものが出来上がっていた。私達の国にも煙突はあるがあそこまで黒い煙が出ているのは見た事が無かった。


「二人共、少しいいか?」


 甲板からメリアンナ国を眺めていた私達の声を掛けてきたのはシーシャさんだった。普段の彼女にしては珍しく眉間に皺が寄っていた。


「本当にここに上陸するのか?」

「え? はい。リチェランテさんのメモによるとここにも錬金術で作られた道具があるみたいなんです。それにあの湿地にあったドリームキャッチャー……あれを作った人達が住んでるのもここみたいですし」

「どしたのシー姉」

「いや……どうにも嫌な臭いがするんだ。上手くは言えないんだが、とにかく嫌な臭いだ」

「そうかな?」

「私達には特に臭いませんけれど……」


 どうやらシーシャさんは何かの臭いを感じ取っているらしい。元々シーシャさんは鼻が鋭いから感じているのかもしれない。しかし何か嫌な臭いがしているという事はこの国に何かがあるのだろう。それが何なのか分からない以上、早めに対処しなければならない。あの降灰装置の様に一度起動すれば大変な事になってしまう道具かもしれないからだ。


「出来れば行かない方がいい」

「でも、何かあるのは間違いないんです。ここに来てあの人が嘘をつくメリットなんてありませんし……」

「だね。あいつはムカつく奴だけど、この件に関しては嘘ついてないと思うよ。何であのドリームなんちゃらがあの湿地にあったのかも知りたいし」

「どうしても行くのか?」

「はい。まずは聞き込みからですけれど、確かめてみようと思います」

「……そうか。なら、私も付いていってもいいか?」

「え? 大丈夫なんですか? シーシャさんつらそうですけれど……」

「大丈夫じゃないが、私も行った方がいいかもしれん。ここの臭いは、今までのどの場所よりも異常だ。私なら臭いの元を辿れるかもしれない」


 私達がここに来たのはドリームキャッチャーがあの湿地にあった真相を知り、そしてここにあるとされている錬金道具を破壊する目的だ。もしルステン湿地が『群智虫』の実験場であり、メリアンナ国の北部に住んでいるリジオイエの人達を誘拐して実験台にしたのなら、何か証拠が見つかるかもしれない。少なくとも彼らが自分達であの湿地帯に移り住む理由が現段階で存在しないのだから。

 その目的を果たすためにはシーシャさんの力も必要になるかもしれない。鼻が利き、更にある程度腕も立つシーシャさんが居てくれれば初めての土地でも安心出来る。リオンさんも頼りにはなるが、あくまで防衛部隊の隊長という立場である彼女をあまり連れ出すべきではないだろう。


「シー姉がいいならあたしはいいけど。ヴィーゼはどう?」

「私もシーシャさんがいいならお願いしたいかな」

「それなら行こう。どうもこの臭いは好かない。こんなものが他の地域にまで広がったら困るからな」

「錬金術とは全然関係ない臭いかもしれないですけれどね……」


 こうして話を終えた私達はお父さんも連れて四人でメリアンナ国へと上陸した。ヘルメスさんの力も借りようと声を掛けたのだが、どうやらシーシャさん以上にここの臭いがダメらしく上陸は出来そうになかった。錬金術を使える仲間として力を借りたかったが、今回は難しいかもしれない。


 メリアンナ国へと上陸した私達は、まずは街中を歩いている人々へと聞き込みを行った。リジオイエという民族の人達を知っているかどうか尋ねたのだ。しかしどこの誰に聞いても知らないの一点張りであり、その際の様子から知らないのではなく何かを隠しているのが窺えた。


「断言していいね。ぜっったいここの人達嘘ついてる」

「私もそう思う。変に言葉に詰まる人も居たし……」

「ああ。さっき話してる最中に少し視線を動かしてみたいんだが、目が合った他の奴が露骨に目を逸らしていた。何か隠してるのは間違いないな」

「僕らを相当警戒してる様な感じだね」

「でも何を隠してるんですかね? 国の人達総出で隠さないといけないものって何なんでしょう?」

「きっとやましい事してるんだよ!」

「い、いやそれは決めつけが過ぎるよプーちゃん……」


 どうしたものかと話し合っていると、離れた所からこちらに小さく手招きしている人物の姿が目に映った。その人物はボロボロの服を身に着けており、地面に俯く様に座った体勢をしたまま手招きをしていたのだ。


「あの、シーシャさんあの人……」

「……知り合いか?」

「い、いえ。でもさっきから手招きしてて……」

「地面に座っちゃって怪しいなぁ……。無視する?」

「……行ってみるか?」

「行くなら僕とシーシャさんが先頭で行こう。二人は僕達の後ろに居るんだ。いいね?」


 そう言われお父さん達の後を付いていき、そのボロボロの服を着た人物の下へと辿り着いた。その人物は女性でくすんだボサボサのブロンドヘアをしており、服には所々ツギハギが確認出来た。髪が短いため遠目からだと男性にも見える。


「……」

「何だ。何の用だ」

「あんたら、外から来た人間……だろ?」

「だったら何ー?」

「悪い事は言わないから詮索とか、しない方がいいよ。マジ。ほんとヤバイからさぁ」

「あの、何か知ってるんですか?」

「知ってると言えば知ってる。みーんな知ってる。でも話すのはタブー。そういう決まり」

「……すまないが君に時間を割けるほど暇じゃないんだ。用が無いなら帰るぞ?」


 女性は少し沈黙すると背後から錆びついた缶の様な物を取り出した。


「……」

「何のつもりだ?」

「金。金だよ。金は天下の回り物。あんたらが払うなら、欲しい情報を上げる。そういう仕事」

「えっとつまりぃ……お姉さんは情報屋――」

「プレリエ」

「しーーーーーーーー……っ。ナンセンス。無粋だし賢くない行為」

「本当に、教えてくれるんだね?」

「もちろん。それがわたしの仕事だよおじさん。完璧な、ね」


 お父さんは財布から貨幣を一枚取り出すと缶の中へと投げ入れた。すると女性はふらっと立ち上がり、そのまま近くにある路地裏へと入っていった。周囲には他の住人の姿もあったが、女性はとにかく来る様にと手招きをしている。


「……行こう」


 四人で彼女の後を追って路地裏に入って奥へと進んでいくと、蓋を閉められた古びた井戸の姿があった。しかし女性が蓋を開けるとそこには梯子が掛けられており、井戸であるにも関わらず下へと降りていける様になっていた。


「どこに行くつもりだ」

「知りたいんでしょ? 情報。案内するよ、あんたらには」


 女性は先に梯子を降りていき、シーシャさん、プーちゃん、私、お父さんの順番に降りていった。降りた先は井戸の筈だというのに水気や湿気などは全く無く、人工的に作られた通路の様になっていた。女性は入口に置かれていたランタンを手に取ると、案内をする様に先頭を歩き始めた。


「あの、ここってどこに繋がってるんですか?」

「秘密。秘密の場所。いや、知ってる人間の方が多いかも?」

「それって秘密じゃなくない? どういう意味なのさ」

「秘密っていうのは、知られたくない相手が居るって意味。沢山の人間にとって、秘密にしておきたい場所って事。マジで」


 地下通路は迷路の様になっており、途中で何度もいくつもの分岐路が存在していた。女性は慣れているのか何の迷いもなく足を動かし続けている。


「僕からも質問をいいかな。君は、情報屋という事でいいんだね?」

「そう。少なくともそういう役割。わたし以外にも役割を持つ人は居るけど、情報屋はわたし」

「君以外にも居るという事は、君は何かの組織に所属していると見ていいのかい?」

「そんなに凄いものじゃないけど、所属って意味ならそう。皆がマジでそうしたいから、そうしてる」


 しばらく歩き続けていると、やがて私達は大きく開けた空間へと到着した。そこには机や椅子などがいくつも置かれており、隅の方には大きな木箱も同じ様に複数個置かれていた。そして何より目を引いたのは、壁にナイフで貼り付けられている一枚の写し絵だった。


「到着」

「ここは?」

「レジスタンス本部。少なくとも皆はそう言ってる」

「レジスタンス……じゃあ君達はこの国に対する抵抗軍なのかい?」

「それってこの国を崩壊させようとしてるって事?」


 女性は薄汚れた頬を擦る。


「このままだと、ここはダメになるから。報いが来る前に、わたしらでどうにかする。それが決まり」

「ダメになるっていうのはこの臭いの事か? 地下でも臭ってくるが……」

「うん。この国、工場で武器を作ってる。それが仕事。だけど、裏で別の物も作ってる。秘密の工場」

「あの黒い煙が出てる煙突のとこじゃない?」

「その中の一つ。ほとんどは普通の武器。だけど良くない臭いは毎日強くなってる。このままだと報いが来る」


 どうやら彼女はシーシャさんと同じで私達以上に嗅覚が鋭いらしい。そしてこの国で作られている何かが完成する事を恐れている様だ。それが完成すれば報いが来ると考えている。


「あの、何を作ってるのかは分かってるんですか?」

「わたしは知らない。でも良くない臭い。止めないとダメな臭い。あいつも、止めないとダメ」

「あいつって……あの壁の絵の人?」

「うん。夜もずっと働かせる。皆、金が要るから逆らえない。でも知ってる。分かってる。皆、ほんとはダメってマジで分かってる」


 女性は手近な所にあった椅子を引き寄せると、そこにドカっと腰を下ろす。


「座って。皆が来るまで待と」

「……言っておくけど僕達は君達のレジスタンス活動に協力するつもりは無いよ」

「それは今決めるべき事じゃない。それにきっとあんたらは協力する。分かるから」

「何でそんな事言えんのさ? えっと……」

「コニー。コニーだけ。それがわたしの名前」

「苗字とかは?」

「無い。最初から無い。コニー。これだけあれば十分だと思う。皆もそう言ってたし」


 未だ味方と考えていいのか不明なコニーさんと共に、私達はこの秘密の場所で待つ事となった。

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