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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第16章:舞い散る死
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第133話:原始より残りし者達

 船へと戻った私達は部屋に集まり、あの『降灰装置』をどうやって停止させるかを考える事にした。いつ火山が噴火しあれが起動するか分からない以上、迂闊に近寄って対処するというのは現実的ではない。あの装置から発生する灰は接触するだけで、あらゆる生命に有害な毒性を発揮するのだ。空から舞い散る小さな灰を避ける事など、とても出来るとは思えない。


「そ、装置をどこかに封じ込めてしまう、というのはどうでしょう……?」


 ヘルメスさんの出したこの意見は効果的な方法と言える。実際、私達は『狭間の絵筆』を作って、その効果も自分達の目で見ているのだ。しかしあの絵筆を使って異空間への入り口を作るには、直接絵筆で線を引く必要がある。火口の下にある装置に近づかなければ意味が無いのだ。


「じゃさじゃさ、柔らかいもので包んじゃうっていうのは? 粘土みたいなので包んじゃえばさ」


 プーちゃんの出した意見も効果的と言える。硬質な物で包んで封じ込めるよりも、柔軟な物の方がいざという時に対応が出来る。柔らかいという事は伸縮もある程度は自在という事だ。しかしこれもまたヘルメスさんの案と同じ問題がある。仮にそういった道具を作る事が可能になったとしても、やはり『包む』という性質上、接近する必要が出てきてしまう。装置の位置から考えても近づくのは不可能に近い。


「確かにヘルメスさんの意見もプーちゃんの意見もいいと思う。でも、問題はどうやって近づくか、だよ」

「大砲みたいなの作ってさ。ドッカーンって飛ばすとかは?」

「もしその衝撃で装置が起動しちゃったらまずいよ」

「あ、あの……私が羽根を使って、転移して仕掛けるというのは……」

「それは絶対ダメです。その羽根が便利なのは実際に見たから知ってますけれど、そんな危ない事させられません」


 対処するための方法は浮かんできているというのに、それを実行に移すための最後のピースが足りないという状況が続いていた。そんな中、黙って話を聞いていたお父さんが口を開いた。


「……つまり、なるべく装置に衝撃を与えずに、遠距離から物を運搬出来ればいいんだね?」

「うん。まだ何を作るか決めてないからそこも決めなきゃだけど……」

「一つ、使えるかもしれない生物が居るんだ」

「え? 生物?」


 お父さんが言うその生物とは、粘菌と呼ばれるものだった。それは本来かなり小さい生物らしいのだが、餌の捕食を行う過程で成長していき、やがてキノコの様な形へと変化するという性質があるらしい。そして生物学者であるお父さん曰く、粘菌を用いた実験で彼らが迷路の最短ルートを通って餌に辿り着いたという研究論文があるらしいのだ。まだ詳しい理由は分かっていないらしいが、その性質を上手く使えれば衝撃を起こす事なく、連続した運搬も可能かもしれないそうだ。


「あの論文によると、粘菌は迷路全体に一度広がった後、餌が置かれた最短ルートだけに管を残したんだ。それ以外の部分はその管を形成するために使われた。一度もバラバラにはならずに、一つの個を維持したままそういった動きをしたんだよ」

「ねぇヴィーゼ。例えば柔らかく包み込む道具を液体状にしてさ、それをその粘菌の管の中とか上を通せば安全に運べないかな?」

「確かに使えそう……。でもどうやってその粘菌を装置まで行かせればいいんだろう? 粘菌だって見つけてこないといけないし……」

「粘菌なら近場の島で見つかると思う。それに、自然界には金属すらも捕食出来る菌が居るんだ。まだまだ未解明な部分は多いけどね」


 錬金術で生物を変化させる事が出来るのはママ・エンリルの件で既に証明されている。自己複製能力を持った巨大魚を作れるほどの力が錬金術にはあるのだ。レシピを作ってみない事には何とも言えないが、少なくとも特殊な性質を持った生物を作る事自体は可能なのだ。お父さんの言う粘菌の特性を少し改変して利用出来れば、『降灰装置』を封印する事が出来るだろう。いや、場合によっては機能停止まで持ち込めるかもしれない。


「もちろん、僕には錬金術の事は分からない。だからどうするかは二人に任せるよ」

「ヴィーゼどうする?」

「……やってみよう。包むための道具と金属を餌にする粘菌。この二つを作ろう」

「あ、あの……手分け、しませんか? 私が道具の方を作ってみます。なので、え、えっと……」

「ありがとうございますヘルメスさん。それじゃあそっちはお願いします。そういう道具関連はヘルメスさんの方が得意でしょうし、私達は粘菌の方をやってみますね」


 こうして私達は『降灰装置』を封じるために動き出した。まず私とプーちゃんは粘菌を手に入れるためにお父さんと共にヴォーゲさんの所へと向かい事情を話した。お父さんによると粘菌は倒木や枯れ葉の積もった腐葉土などに棲息しているらしい。そのためヴォーゲさんは近くにあるという無人島へと向かって出航してくれた。そこには誰も住んではいないものの、それ故に手付かずの自然が豊富に存在しているのだという。恐らく火山島の被害を受ける可能性があるため、誰も住もうとしないのだろう。

 そうして新たな行き先が決まった私達は部屋へと戻ると、粘菌を改良するためのレシピを作り始めた。何となく頭の中に全体図は出来ていたものの、肝心な食性の変化を与える方法がまだ浮かんでいなかった。


「金属が美味しいよ~って思わせてあげないといけない訳だよね?」

「というより、金属をエネルギーに変換出来る体質にしてあげないといけないのかも。例えば金属を別のものに変換したりとか……」

「変換って、そんなの出来るの?」

「金属って腐食したりする事があるでしょ? あれには何か理由があるんだと思うんだけど……」


 何かの本で読んだ記憶があるが、金属は水や酸などの影響を受けて腐食しやすくなるらしい。腐食した金属は脆弱になったりと本来の機能を果たさなくなる。粘菌にそういった金属を腐食させる水や酸の性質を持たせる事が出来れば、装置を機能停止させられるのではないだろうか。そしてそれを本能に組み込めれば装置まで向かわせる事が可能になる。


「……そうだ。材料は意外と少なくていいのかも」

「どういう事?」

「水とかは金属の腐食を早めるらしいんだけれど、原理が分かってなくても錬金術ならその特性だけを他のものに移す事が出来るでしょ? だったら錬金術で金属を腐食させる性質を埋め込んで、それを学習させる事が出来れば上手くいくかも」

「学習させればって、どうやるのさ? 犬とかじゃないんだよ? 脳味噌とかだって入ってるかも分かんないだし」

「いや、その点は大丈夫だよプレリエ」


 お父さんが意見を述べる。


「粘菌には確かにそういった脳みたいな器官は発見されてない。だけど、それでも非常に高い学習能力を示したんだ。つまり彼らはかなり原始的でありながら、それ故に高い判断能力があるという事なんだ」

「でもどうやって覚えてるのかな? いまいちその辺が分かんないんだけど……」

「そこは僕達学者の中でもまだ意見が割れてる。見えてないだけで脳に該当する器官があるとする者も居れば、まだ僕達には計り知れない未知の手段を使ってるという意見もある。僕も正直判断に困ってる段階だよ」

「だけど粘菌がそれだけの知能を見せてるのは確か。そういう事なんだよね?」

「そうだねヴィーゼ。少なくとも彼らには迷路の原理や最適解を導き出すだけの知能があるのは確かだよ」


 今はそういった細かい事を考えても仕方がない。少なくとも私やプーちゃんには専門外過ぎて分かりようがない。今はとにかく粘菌に特性を与えて金属を腐食させたり捕食させる事を学習させるのが最優先である。それに成功すればヘルメスさんが作ってきてくれるであろう装置を包み込むための道具を火口奥まで運搬する事が可能になる筈だ。


「よく分かんないけど、お父さん達でも分かんないならあたしには余計分かんないや」

「プーちゃん、まずは、だよ……今私達がしなくちゃいけないのは粘菌を改良する事だよ」

「だね。よし、そんじゃあレシピ書いちゃおっか。次の島に着くまでには出来るっしょ」


 『降灰装置』に対する対処法が見えてきた私達は、全生物の未来を守るためにレシピを書き上げる事にした。

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