第132話:終焉をもたらすもの
ヴォーゲさんに頼んだ通り、シップジャーニーの船団は近くにあるというオステン島へと進み、数日程するとその火山島へと到着した。火山から噴出したマグマが固まった事によって陸地が形成されており、長い年月を掛けてこうして海上に姿を現したらしい。そんなオステン島は事前に聞いていた通り、どこにも人が住んでいる様子は無かった。陸地はどこもごつごつとしており、草木の姿は一切無く、確かに人が住める様な環境ではなさそうだった。
あまり近づくのは危険だという事で、離れた場所から小舟に乗って島へと上陸する事になった。小舟には私とプーちゃん、お父さん、そしてヘルメスさんが乗る事になった。シーシャさんも付いて行くとは言ってくれていたが、まだ虫達によって付けられた傷が完治していないので大型船で待機してもらう事にした。傷自体は大したものではなかったが、何が仕掛けてあるか分からない以上は同行させる訳にはいかない。
「……よし。とりあえずこの辺りに泊めておこう」
「あ、あのっ……わ、私も手伝います……」
「いや。こっちは僕がやるから、君は二人を頼んでもいいかな」
「あ、はい……」
「行こ、ヘル姉」
お父さんが船を陸地に上げている間、私達は数歩分だけ歩みを進めて周囲を見渡した。上陸前の様子と特に違いは無く、生物らしい生物は見られなかった。植物が無いため虫や草食動物も存在せず、当然それを狙う肉食動物の姿も見られない。虫一匹の姿すら確認出来ない以上、ここに人が住むのは不可能だろう。これでは釣り一つ出来ない。
「ヘルメスさん。もしヘルメスさんなら、ここにどんなものを仕掛けます?」
「わ、私ですか……? うーん……そ、そんな事言われてもぉ……」
「あっ、あたし思いついた」
「何プーちゃん?」
「例えばさ、そのマグマってやつが出てこない様に塞いじゃうんだよ。それで、しばらく経ったら溜まった分を解放してドッカーンってやるの。あいつらそれくらいやるよ、うん」
確かにそのやり方であれば大規模なエネルギーの解放によって高い破壊力は得られる。しかし『新人類』や『先駆者』の目的は人類の抹殺や支配だ。人口が多い場所でそれだけの事をやれば効果はありそうだが、周囲にこれといった国などが無い場所でやっても何の意味も無いだろう。
「やりそうではあるけれど……でもそれだとここでやっても効果は薄いかも」
「そ、そうですね。人口密集地でなければあまり意味を成さないかもです、はい……」
「んーそっか。じゃあやっぱり上まで行って見てみるしかないかもだね」
そうして話していると小舟を陸に上げ終わったお父さんがこちらにやって来た。これによって全員揃った私達は足元に気をつけながら少しずつ上へと登っていった。流れ落ちるマグマが固まって出来た陸地という事もあって表面は凸凹しており、踏む場所を誤れば転倒してしまいそうだった。
そんな不安定な足場を踏みしめながら登っていくと、やがて頂上へと辿り着いた。火口付近は流石に下よりも熱く、鼻を通して肺に熱気が入ってくるのを感じた。
「二人共、あんまり近寄らない方がいいよ。落ちたら、まず助からない」
「う、うん。ヴィーゼ、もうちょい下がろ」
「うん。ヘルメスさんも危ないですから下がりましょう」
「は、はい。……あれ?」
「どうしたんですか?」
「いえ……え、えっと、見覚えのある物が……」
そう言うとヘルメスさんは目を細めて火口の奥へと視線をやっていた。しかし少しするとあっと声を上げ、私達に急いで船へと戻る様に告げた。ヘルメスさんの只事ではない様子を見て、私達は何が何だか分からないままに急いで駆け下りて小舟に乗り込んだ。
お父さんが櫂を使って漕いでいる間、ヘルメスさんは何を見たのかを教えてくれた。彼女曰く、火口の奥底に見覚えのある装置を発見したのだという。
「あれは……『降廃装置』です、はい」
「こーはい……?」
「昔まだ、私が『新人類』としての使命を果たそうとしていた頃……仲間の一人があれを作ってるのを見たんです……」
「どういう装置なんですか?」
「あれは……完成させられなかった危険すぎる装置だったんです……」
ヘルメスさんによると、その装置からは灰によく似た見た目をした物質が放出されるらしい。その灰には非常に高い毒性が含まれており、接触した生命体の生体機能を停止させる力があるのだという。つまりもしそれが人間の体に触れると、体の成長がそのタイミングで停止した上に肉体が日を追うごとに老化していくのだという。更に食べ物を食べても内蔵そのものの機能が弱っているため消化が出来ず、心臓も少しずつ衰弱する様にして弱って最終的に死に至るそうだ。
「な、何なのさそれ……」
「でも完成しなかったんですよね?」
「そ、その筈です、はい……! でも、あれは多分……」
「あ、えっとさ、何で完成しなかったのか一応聞いてもいい?」
「は、はい」
『降廃装置』が完成しなかった理由、それは単純に効果が高過ぎるからという事だった。確かにその装置から発生する物質を使えば人類を追い込んでいく事は簡単だった。しかし製作者の意図に反して、その灰の様な物質は毒性が強すぎたのだ。人類意外の全ての生命体に対しても有毒であり、これを使うとその一帯は草木も生えない土地になったそうだ。それこそ、あのオステン島の様に。
「それだと、例えばどこかの国とかで使えば人間だけを滅ぼせたんじゃないですか? もちろん、そんな事するのは良くないですけれど……」
「い、いえそれが…………わ、私達ですら、ダメだったんです」
「ヘル姉達でも?」
ヘルメスさんによると灰が持つ毒性は私達『新人類』にも高い効果を示したのだという。ありとあらゆる生命体にとって有害な反応を示す恐るべきそれは、最早『新人類』でも手に負えるものではなくなっていたのだ。それこそ装置の製作者ですらもその毒性を止められなかったらしい。
「だから、その計画は無しになったんです……あの時の私は残念に思ってましたけど、今思えば……何て恐ろしい……」
「でもでも! それならますます変じゃん! 何でその装置があるの?」
「それが私にもさっぱりなんです……あれを使えば危険なのは彼も分かっていた筈……」
ヘルメスさんは彼女自身の目でその装置が廃棄されるのを目撃したらしく、その時の記憶によると再度組み立てるのは不可能だったそうなのだ。装置に使われていた部品の一部は錬金術のための素材として既に使用されていたという。もちろん作ろうと思えば作れなくもないが、わざわざそこまでする理由が無いのだ。生み出した本人ですら制御出来ないのだから。
「お、お父さん、そんな物質、ほんとにあるのかな?」
「……僕の知識には覚えが無い。だけど、オステン島に生物が一切存在しない事から考えると、彼女が言っている装置が実在するのは確かなのかもしれない」
「ヘルメスさん、どうすれば止められるんですか?」
「ぶ、分解するのが一番ですが……でも位置的にあそこまで行くのは危険です、はい。なので何か別の方法を考えた方がいいかもしれません」
「ヴィーゼ、プレリエ、僕から一つ意見を出していいかな」
「うん、どうしたの?」
「僕の考えが正しければだけど、あの火山にそういった装置が仕掛けられてるのには意味があると思う。確かこの辺りは一定の季節になると強い風が決まった方向に吹くんだ」
お父さんによるとその風は丁度今のこの時期に吹くらしく、一部の地域ではその風に乗って遠くの島の砂が飛んでくる事があるのだという。それは毎年の様に起こっている事であり、今まで例外は一度も無かったらしい。
「もし、もし火山が噴火してその装置が起動したら……きっと灰はその風に乗せられて遠くまで飛んでいく事になると思う。風が強く吹けば吹くほど、飛距離は伸びる事になるんじゃないかな」
「それじゃあまさか……」
「あくまで僕の憶測だから必ずしもそうとは言い切れない。でも可能性としては捨てきれないと思ってるよ」
小さい頃、プーちゃんがあるイタズラをして怒られていた時の事を思い出す。あの時プーちゃんは薄い紙を使って風船の様な物を作り、料理中の鍋の上にそれを放った。すると丁度鍋から上がっていた湯気がその風船を押し上げたのだ。何かの本で読んだ記憶によると、熱は上昇気流というものを生み出すらしい。つまり軽い物であれば、上へと昇る空気の流れによって浮遊するのだ。
「ありえるかも……上昇気流に乗せれば遠くまで飛んでいく筈だよ。軽ければ軽いほど……」
「だったらまずいよヴィーゼ! いつ噴火するか分かんないんだよね!?」
「うん……ヴォーゲさんが言ってた周期が正しいなら、多分いつ噴火してもおかしくない」
「い、急いだ方がいいかもしれませんっ……何とかして止める方法を考えましょう……!」
「そうですね。まずは、だよ……灰に対する対策を考えないと」
火口に仕組まれた装置の目的を察した私達は、すぐに対処をするために急いでシップジャーニーの大型船へと戻っていった。




