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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第15章:我ら群れる故に我は個なり
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第131話:ルステン湿地の真実

 湿地帯へと戻った私達は、最初は行けなかった奥へと方へと歩いて行き地面に落下している人工太陽を回収した。落下の際の衝撃で回転機構は破損してしまっており、もう一度これを動かす事は難しそうだった。一方で人工太陽の方は表面に少しヒビが入っており、そのまま使えば内部の光が想定外の形で漏れてしまいそうだったため、これもまた再利用は不可能と言える状態だった。

 回収後はお父さんとシーシャさんに同行する形で何か怪しい物はないかと探索したが、特にこれといって目ぼしい物は見当たらなかった。かつては人が住んでいたのであろう高床式の住居も完全にもぬけの殻であり、あの虫達を作った人物や場所の特定も出来なかった。


「シーシャさん、あの時に見つけた壁に掛けられる装飾品……あれ、他の所にもありました?」

「ああ、ほとんどの家から見つかってる。ただ、触った感じは特に変わった点は無かったな。普通に人間の手で作れる範囲だ」

「じゃあ本当にただの装飾品ってだけで、あの……キモい奴らとは関係無かったのかな?」

「お父さんはどう思う?」


 そう尋ねてみると、お父さんは少し周囲を見回してから口を開いた。


「妙な感じがするよ」

「どういう事?」

「僕は今まで色んな所に行った。調査っていう形でね。だからこそ言えるんだけど、ここからは生活感が感じられないんだ」

「でもさ、シー姉が服とかあったって言ってたよ?」

「うん、それは僕も見たし人が居たのは確かだと思う。でもそれにしたって妙だ。あの家だって数がそこまで多くないし、道の整備もされてない。こんな湿地帯なら、まずは最低限の整備はする筈なのにね……」


 お父さんの言いたい事が何となく伝わってきた。本来であれば、ここは人が住んでいなかった土地なのだ。だから生活感が感じられない。つまりそれが意味するのは一つしかない。


「もしかして……ここって実験場、だったのかも」

「え? どういう意味ヴィーゼ?」

「あくまで予想なんだけど、ここはあの虫達の力を確かめるための実験場だったんじゃないかなって思ってさ」

「待って待って! じゃあここに住んでた人達は!?」

「……殺され、ちゃったんだと思う」

「……有り得なくはないな。あの虫達の知能は自然と身に着いたものとは思えなかった。誰か人間が教えなければああはならないだろうな」

「……っ」


 プーちゃんは目を閉じて呼吸を落ち着かせると再び口を開いた。


「誰がそんな事、したんだろ」

「そこまでは分からないよ。でも私達やヘルメスさんみたいな、錬金術が使える『新人類』なのは間違いないと思う」

「人の多い村や国で試すより、数人誘拐して人の目が無い場所でやった方が騒ぎにはならないだろうな。ヴィーゼの予想は可能性としては十分有り得る」

「僕もその可能性は視野に入れるべきだと思う。少なくとも、あの装飾が何を意味しているものなのかは調べる必要があると思うよ」

「うん。プーちゃん、一回戻ろう。今日は疲れちゃったよね」

「うん……」


 私達は太陽をモデルにしているであろう装飾品を手に入れると全員で船まで戻った。プーちゃんは虫を相手にしなければならなかったせいか酷く疲れていたため、お父さんに任せて私一人で資料室まで向かった。室内にはヘルメスさんの姿があり、あの虫達の事や湿地帯が実験場だったかもしれないという自論を話した。

 ヘルメスさんは話を聞き終えると一冊の本を本棚から引っ張り出してきた。それは世界各国で売られている民芸品などをまとめた本であり、ペラペラと捲られたページの先にはそっくりな見た目をした装飾品の姿があった。


「こ、これはドリームキャッチャーという物です、はい」

「ドリームキャッチャー?」

「一部地域……この本によるとメリアンナ国の北部に住んでいる少数民族、リジオイエの方々が作っている魔除けの一種だそうです」

「名前から考えると、夢を捕まえておく物なんですかね?」

「は、はい。悪夢を捕える事を目的としているみたいです、はい。も、もちろん、迷信の一種ですけど……」


 メリアンナ国とはかなり大きな敷地を持つ国家である。一度も行った事が無い国ではあるが、私でも知っている程の国だった。しかしリジオイエという民族の名前は聞いた事が無く、恐らく本当に極一部の地域に住んでいる人々なのだろうと感じた。

 念のためヘルメスさんにも私達が回収したドリームキャッチャーらしき物を見てもらったが、やはり特に異常な点は無いらしかった。錬金術が使われた痕跡はどこにも見られず人の手によって作られた可能性が高いそうだ。つまり、本当にこれを所有していた人達はあの場所へと誘拐された可能性が高くなったという事だ。メリアンナ国の人間がわざわざあの湿地帯に少数で移り住む理由が無いのだから。


「あの、ヘルメスさん。そのメリアンナ国に行った方がいいんでしょうか?」

「ど、どうでしょう……ここからだと距離がありますし、私からは何とも言えません……」

「そうですか……。えっとじゃあ、この中からだとどこが一番近いですかね?」


 そう言いリチェランテさんから教えてもらった地域を書いたメモを見せる。リチェランテさん曰く、彼が知っている錬金術によって作られた道具の数は全部で五つであり、002さんからも残っている錬金術関連の存在は五つだと教えられていた。その内、『血吸いの槍』『群成す虫』の二つは対処が出来ているため、急いで残りの三つを潰していかなければならない。

 ヘルメスさんは資料室の中にあった海図を机の上に広げると、海上にポツンと描かれている小さな島を指差した。


「ここ……オステン島が一番近いと思います、はい」

「結構小さい島なんですね。ヘルメスさんは上陸した事は?」

「な、無いです。この島はか、火山島で、人が住める様な場所ではないんです、はい」


 ヘルメスさんによると、火山島というのは海底にあった噴出口から火山噴出物が噴き出し、それが溜まって重なっていく事で形成された島の事を言うらしい。海の底にも火山があるとは今まで知らなかったが、あのマグマと呼ばれる熱い噴出物が海水で冷やされれば島を形成するのに十分な素材になるだろうと納得出来た。


「でも何があるんでしょうか? 『新人類』の目的は人類の抹殺や支配なんですよね? 火山ならもっと他の場所にもある筈ですけれど……」

「わ、私にも分かりません。でも、行くなら気をつけた方がいいと思います。ひ、人目が無い場所ならどんな仕掛けでも自由に仕掛けられますから……!」

「そうですね。その……もし良かったらヘルメスさんにもまた頼ってもいいですか……?」

「は、はい! 私で良ければ出来る範囲で、ですが、はい!」

「ありがとうございますヘルメスさん!」


 情報交換を終えた私はヘルメスさんと別れ、自分達の部屋へと戻った。机の上には壊れてしまった回転機構と人工太陽が置かれており、プーちゃんはベッドの上で寝息を立てていた。お父さんによると、部屋に戻ってきてからすぐに眠ってしまったらしい。苦手な虫を相手にするのは彼女にとってはつらいものだっただろう。しかも死に対して敏感な彼女には相当なストレスになっていた筈である。

 お父さんにヘルメスさんとの会話内容を話すと、私は一旦部屋を出て甲板へと向かった。望遠鏡で遠くを眺めていたヴォーゲさんに声を掛けると、オステン島に向かって欲しいと伝えた。どうやらヴォーゲさんもそこが火山島である事は知っているらしく、先代からの言い伝えによるとおおよそ50年周期で噴火しているらしい。そして今年が丁度、50年目に該当するのだという。


「協力すると言った以上は手伝いますが、火山の活動がいつ活性化するかは誰にも分かりません。危険だと判断した場合はすぐに撤退します」

「はい。わがままを聞いてもらってごめんなさい。海の上での事はヴォーゲさんにお任せします」

「分かりました。ではどうぞお部屋で休んでいてください。到着したら合図を出しますので」


 そう言い船員への指示を出し始めたヴォーゲさんに礼を言うと、自室へと戻り少し休む事にした。お父さんも少し休んだ方がいいと勧めてきたので、厚意に甘えてプーちゃんの隣で横になった。

 今のところ順調に進んではいるが、未だにお母さんに関する決定的な情報はほとんど手に入っていない。一応、シャルさんやルナさんが見たという謎の自画像の情報とそれの模写、それくらいだった。お母さんが今どこで何をしているのかまるで分かっていないのだ。かつてお母さんが作ったという指輪のおかげで今のどこかに居るという事だけは感じられるが、その正確な場所が分からない。そのせいで酷くモヤモヤしてしまう。届きそうなのに届かない、感じる事は出来るのに目には見えない。そんなもどかしさが苦しかった。


「……」


 しかし諦める訳にはいかない。ここまで来たのだ。ここで引いてしまえば全てが無駄になってしまう。もしかするとこれ以上の深入りをすれば大怪我では済まなくなるかもしれない。事実、今回も判断を誤れば虫達の餌になっていた。何とか皆と協力して切り抜ける事が出来ただけに過ぎない。しかし逆に言えば、力を借りれば苦境も乗り越えられるという事だ。このまま行けばいつかきっと、お母さんに会える筈だ。

 横になった事で急に強い眠気に襲われた私は、そのまま眠気に身を任せベッドに体を沈めていった。

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