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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第15章:我ら群れる故に我は個なり
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第128話:回転は浮遊に通ず

 部屋から出ていったお父さんが戻ってきたのは、数十分経ってからだった。どうやらあの謎の生物が海まで追って来なかった理由が分かったらしい。


「やっぱり間違いない。あれは淡水生物なんだ」

「えっとお父さん、どういう事?」

「今まで僕はあの湿地は潮の満ち引きで出来るものだと思ってた。でも違ったんだ」


 お父さんによるとルステン湿地は河口付近に出来ているものらしい。かなり遠くに標高の低い山が存在しており、そこから海まで川が流れている。つまりあの湿地帯は淡水域と海水域が同時に存在しているのだ。そういった地域では当然、淡水生物と海洋生物の両方が確認出来るそうだ。


「僕達が居たあの場所は淡水域なんだ。だから海まで追って来れなかった」

「……そうか。普段淡水で生きている生物は海には出てこられない」

「そうですシーシャさん。僕達学者の中でもその研究がされてるんです。海に生息している魚は海水に含まれている塩分を鰓や腎臓で調整しています。でもそれを淡水の中でやってしまうと上手くいかずに死んでしまう」

「えーっと……じゃあお父さん、要はあの虫みたいな生き物は海水が苦手って事?」

「そういう事になるね。上手く海まで誘導出来れば、それだけで倒せるかもしれない」


 この情報は私にとって有り難いものだった。当初考えていた水を蒸発させる道具『人工太陽』は効果的だが危険な様にも思っていたのだ。当然だがその場所の生態系に大きな影響を与える可能性がある。危険な生物だけのために他の生物まで殺してしまうのはあまりにも非道だろう。だが、海水が弱点なのであれば話はもっと簡単になる。もっと『人工太陽』の出力を抑えて熱で追いやるという手段が取れれば、最小限の被害で済む。


「ありがとうお父さん! それなら多分、上手く出来ると思う!」

「分かったよ。道具はさっき言ってた物?」

「うん。出力を抑えれば海まで上手く誘導出来ると思う」


 何とか状況を打開する手段が浮かんだ私はレシピを作るためにお母さんのレシピ集を開き、ベッドの端で膝を抱えているプーちゃんの傍へと寄る。同じ部屋の中に死骸とはいえ虫が居るというのが余程怖いらしいが、話自体はしっかりと聞いていたらしくあれこれと意見を出してくれた。


「じゃあまずは、だよ……必要な道具だけれど、何がいいかな?」

「うーん……太陽って何で出来てるんだろ?」

「それは…………ごめん、分からない」

「あたしも」

「でも本物みたいな出力じゃなくていい訳だし、何か変わりにさえなればいいと思う」

「じゃあ、ランタンとか?」


 確かに中心部から周囲に光を放射する様な道具ではある。錬金術はその道具が持つ特性を増幅させて継承させる事が出来る技術である。そこに私達『新人類』の血液を入れれば、その特性を更に増大させる事も出来る。今回は血液は必要無いかもしれないが、ランタンを素材にするのであれば核となる部分は作れそうである。


「ランタンなら大丈夫かもだね。それじゃあ、他の素材はどうしよう?」

「やっぱあれだよね、持ち運び出来なきゃ使いにくいよね?」

「それも考えたんだけど、もし道具を使ってる最中に不意打ちされたら危ないんじゃないかなって思うの。ここの湿地帯全部を歩いて回るのも大変だし」

「それもそっか。じゃあやっぱり『太陽』っていうくらいだし、空からピカーッとか?」

「それがいいかなって思う。それなら角度を調整しちゃえば一気に広範囲を照らせると思うし」

「オッケ。でもどうやるの?」


 問題はそこだった。どうすれば道具を飛ばす事が出来るのかが思い浮かばなかったのだ。シーシャさんが持っている矢に付いている羽根を素材にすれば、ひとまず飛ばす事は出来るだろう。だがその場合、きっとコントロール出来ずに勝手に動いてしまう。道具そのものに命令を遂行させる機能が付けられればいいのだが、少なくとも今の私にはとても思いつきそうにない。


「うーん……」

「お父さん、シー姉、空を自由に飛ばせる方法って無いかな?」

「悪いけど……僕の専門外だから分からないなぁ」

「すまん、私もそういうのは分からない」

「だよねー……」

「プーちゃん、ヘルメスさんに聞いてみない? ヘルメスさんなら何か知ってるかもしれないし」

「そだね。ヘル姉はあたし達より錬金術詳しいだろうし!」


 プーちゃんは虫の死骸がある机から常に最大の距離を取る様にして動くと、私の手を引いて部屋から飛び出した。その足は少しでも早く部屋から離れようとしているのか素早く動き、あっという間にヘルメスさんが居るであろう資料室までやって来た。

 部屋へと入ってみるとヘルメスさんは椅子に座って色々な本を読み続けており、私達が入ってきた事に気がつくと栞紐を挟んで本を閉じた。


「あ、さっきヴァッサさんがいらっしゃいましたよ……。あ、あの、虫は大丈夫でしたか……?」

「ヘルメスさんもお父さんに聞いたんですね。実はその事でちょっとお力を貸してもらいたくて……」

「わ、私で良ければ、はい……。それで、ど、どうしたんですか……?」


 私はまずあの虫が持っている生物としての特徴と海水には移動出来ないという事を告げた。そして次に自分達が作ろうとしている道具と、それを空中に浮かべて自由に動かす事が出来る機構を付けるにはどうすればいいのかを尋ねた。ヘルメスさんは少しの間、口元に手を当てて考えていたがやがてレシピ集を開く様にと口を開いた。


「ま、まだ実用した事が無くて理論だけなんですけど、もしかしたら回転の力を使えばいいかもです、はい」

「回転、ですか?」

「それってあれ? 馬車の車輪みたいな?」

「はい、そういう回転です……それで、こういうのをイメージして欲しいんですけど……」


 そう言うとヘルメスさんは懐から羽ペンを取り出すとレシピ集へと図を描き始めた。インクを付けている訳でもないのにすぐに使えるそのペンも少し気になったが、私の視線はすぐに描かれたその図へと吸い寄せられた。

 そこに描かれていたのは一本の棒の先端部分に二枚の薄い板の様な物が付いている物体だった。その板は僅かに斜めになっており、ヘルメスさんはその板の下方向へと矢印を伸ばしていった。


「こういう風に回転してると、空気の流れが出来るんですけど、ここまで分かります……?」

「えぇっと……」


 プーちゃんは人差し指を立ててぐるぐると回転させ始める。


「……よく分かんない」

「私は何となくですけれど分かります。実際に見た事ないですし確証は持てませんけれど……」

「そ、それは私も同じです、はい。それでですね、この回転の力を強くすれば、重たい物も浮かせられるんじゃないかと思うんです、はい」

「……そっか。下にどんどん風の流れが出来る様にすれば、確かに浮くかもですね」

「でもさでもさ、それだと下の方はどうなるの?」

「どういう意味?」

「ヴィーゼとヘル姉の言ってる通りにイメージするとさ、『人工太陽』の上の方にこれ付けるんでしょ? そしたら回転させた時に一緒になって下も回っちゃわない? そうならなくてもバランス崩して墜落~みたいなさ」


 プーちゃんの意見ももっともだった。どうしても回転させる軸になる部分を付ける以上、どういう付け方をしても本体部分への回転の影響を避ける事は出来ない。仮に回転の影響を防げたとしても、下方向に発生する空気の流れまでは防げない。そうなってしまえばプーちゃんの言う通り地面に真っ逆さまだろう。


「た、確かにそうですね……ごめんなさい、忘れてください……」

「い、いえいえ! まだ分からないじゃないですか!」

「そ、そんな謝んないでよ! ヴィーゼが言う通りまだ分かんないし!」

「そ、そうでしょうか……」


 ヘルメスさんは申し訳なさそうな表情をしながら自身が描いた図をじっと見つめていた。しかし何かに気がついたのか再びペンを動かし始めた。そしてやがてレシピ集に描き上げられたのは太陽の様な丸い球体の上部と後部に先程の機構が付属しているという物だった。


「こ、これです! 閃きました! これなら解決出来ます、はい!」

「え、えっと? すみません私達にも分かる様に言ってもらえると……」

「どうしても本体が回転や空気の影響を受けるのなら、それをまた別の回転や気流で変えてしまえばいいんです……!」


 ヘルメスさん曰く、後部に付いている回転機構の向きを細かく調整する事により、本体のバランスを維持すればいいのだという。更に上部の回転機構も傾ける事が出来れば前後左右へと動く事も出来るかもしれないそうだ。実際にどう動くのかを見ていないためいまいちイメージが湧かないが、落ち込んだヘルメスさんがここまで一気に復活するレベルという事は本当にこうなるのだろう。


「そうだヴィーゼ、これってさ、あの風魅鶏の時みたいなものなんじゃない?」

「あのママ・エンリルの時のやつ?」

「そうそう。あの時もさ、スバル姉が投げた銛が上手く飛んでく様に風を飛ばしたじゃん? あんな感じに似てるんじゃないかな?」


 言われてみればあの時も風を生み出して物を動かすという事をしていた。今回はあの時とは違い長時間飛ばさなければならないため風魅鶏は使えない。しかし原理が似ているのであれば、ヘルメスさんが考えたこの回転機構は使えるだろう。自信が無さそうな顔をしている事が多いヘルメスさんがあそこまで興奮していたのだ。きっとその理論は本物なのだろう。


「だったら……確かにこれで行けるかも」

「お、お力になれました……?」

「はい! 試しに作ってみます!」

「そ、それなら良かったです……! また何かあったら、いつでも言ってくださいね……!」

「ありがとねヘル姉!」


 二人でお礼を言い資料室を出ると急いで自室へと向かった。あの回転機構は初めて見るものだったため、どうすれば作れるのかまるで分からなかったが、まずは最も重要な部分である『人工太陽』本体を作る事にした。

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