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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第15章:我ら群れる故に我は個なり
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第127話:個より群れか、群れより個か

 お父さんが求めている大鋸屑おがくずを手に入れるために試験管片手にリオンさんを探していると、甲板でその姿を発見した。どうやら普段この辺りには来ないため、珍しい湿地帯を見るために出てきているらしい。

 そんなリオンさんへと二人で近寄ると、事情を説明し大鋸屑が必要であるという事を伝えた。するとやはり粘土製爆弾を納めているあの木箱の中に入っているため、少量であれば持って行ってもいいとの事だった。


「ありがとうございますリオンさん」

「いえ。それでその、皆さんが見つけたその生き物とは何なのですか?」

「それが私達にもまだはっきりとは分かってなくて……水を伝って移動してくるのは分かってるんですけれど……」

「水を伝って……? ではここから離れた方がいいのでは!」

「ああ大丈夫だよリオン姉! 何でか分かんないんだけど海の方には出てこないんだよね」

「む、そうなのですか? なら良いのですが……」


 少し心配そうにしていたリオンさんを落ち着かせ、爆弾が収められていた木箱がある倉庫へと向かう。あの場所は船の奥の方にあるが、一度既に行った場所であるため迷う事なく真っ直ぐに辿り着く事が出来た。

 そこはあの時と同じ様に様々な武器や兵器の類が仕舞われていた。室内では常に鉄や火薬の匂いが漂っており、あまり長居したい場所とは言えなかった。


「ヴィーゼ、これだっけ?」

「うん、確かそれの筈だよ」


 以前に粘土製爆弾を持ち出した際に開けた木箱を開ける。するとそこには大鋸屑に包まれる様にして保存されている爆弾の姿があった。この爆弾は粘土を基に作った素焼きの爆弾であり、内部に入っている特殊な液体が空気に触れれば発火するという物らしい。だからこそ割れやすい素焼きになっており、保存にはこうした手法を使う必要があるのだ。船の揺れで割れてしまえば大惨事になるだろう。

 中に詰められている大鋸屑を試験管へと少しずつ入れていく。元々が木だとは思えない程に小さな破片になっているため、一気にやれば溢してしまうかもしれないのだ。ここまで小さい物であれば再度拾うのは困難を極めるだろう。


「こんなもんでいいかな?」

「そうだね。あんまり取り過ぎるのも良くないし、そろそろ戻ろう」


 これだけの量で足りるかは分からなかったが、試験管二本分の大鋸屑を持って私達は部屋へと戻っていった。

 部屋に戻るとお父さんとシーシャさんがフラスコに閉じ込められている謎の生物を観察していた。どうやら水の精霊によって閉じ込められたそれらは、外部に脱出しようとずっと内部で跳ね続けていたらしい。やはり何らかの知性を持った存在であるのは間違いなく、自分の置かれている状況を理解している様子だった。だがそこから脱出するだけの知能や力は無いという事だろう。


「お父さん、持ってきたよ!」

「ありがとう二人共。それじゃあここに出してくれるかな」


 そう言ってお父さんが用意したのは食堂から借りてきたという一枚の皿だった。言われた通りに試験管内の大鋸屑をそこに全て出すと、お父さんはフラスコの栓を開けて斜めに傾けながら口の部分を大鋸屑に接触させた。

 その状態になると、フラスコ内部の水が一部自我を持った様に動き、大鋸屑の上へと飛び出した。また攻撃を仕掛けてくるのではないかと私達は警戒していたが、結果としてそれは何も仕掛けて来なかった。いや、仕掛ける事が出来ない状態になったという方が正しいのだろうか。


「お、お父さん、それ……」

「やっぱり僕の思った通りみたいだね。この生き物は水が無いと動けない。いやもしかすると、生きる事すら出来ないのかもしれない」


 そう言うとお父さんは自身の持ち物から虫眼鏡を取り出し、皿に盛られた大鋸屑をじっと見つめた。


「ほら見てごらん。これが正体だ」


 虫眼鏡を受け取って見てみると、大鋸屑の山の上には小さな虫の様な生物が数匹倒れていた。どうやら纏っていた水分を大鋸屑に全部吸水されてしまいこうなったらしい。足が複数あり何らかの虫の類だとは思うが、今までの人生において図鑑ですらも見た事が無い生物だった。


「ねぇヴィーゼ、あたしにも見せて~」

「うーん……プーちゃんは見ない方がいいかも……」

「えー何でさ~!」

「その、虫みたいな見た目してるのこれ」

「あっじゃあ結構です」


 プーちゃんは虫という単語を聞いた瞬間サッと距離を取り、こちらには近づこうとしなくなった。代わりにシーシャさんに見てもらうと、やはり私と同じ様に見た事が無いという返事が返ってきた。


「しかし何だこの虫は……」

「虫というのは正しくありませんよシーシャさん」

「ヴァッサさんは知ってるのか?」

「ええ。と言っても最近学会で存在が確認された生物種なんですけどね」


 お父さん曰く、ここ最近になって非常に小さいサイズの生物が存在しているという事が明らかになったらしい。土や水の中などでいくつかの種が確認されているという。これらが発見された事によって、今まで謎とされていた肉食生物の幼生期の餌がこれではないかと話題になっているそうだ。しかしまだ研究が進んでいない生物種であるため、未解明の部分も多いという。


「これもその仲間なのかな?」

「いや、それは考えにくい。こういった生物が狩りをする時は自分よりも小さいものを狙う事が多いんだ。もちろん例外はあるけどね」

「……じゃあこの生き物は、その新種の生物種を基にして作られた錬金生物?」

「その可能性が高いと僕は踏んでる。自分よりも遥かに大きな人間を狙うのはどう考えても普通じゃない。相手が死骸ならともかくとしてね」


 確かにこれだけ小さな体をしているというのに、自分よりも遥かに巨大な生物を狩るのはリスクが大きすぎる気がする。小さな生き物であればある程弱いため、全体の数が多いというのはどこかで見た事がある。絶滅のリスクを少しでも避けるためだ。しかし彼らは積極的に人間も襲う。通常の生態からは逸脱している様に思える。


「しかしこれがその錬金生物とかいうのだとして、どうすればいいんだ? いまいち思い出せないがあの狼や怪物魚とは訳が違うんだぞ? 全体の数が分からない以上駆除は難しくないか?」

「これに関しては僕からはアイデアの出しようが無い。ただ言えるのは、水が無ければ彼らは動けないという事だよ」

「水が無いと動けない、か……」


 確かに大鋸屑の上に倒れていたそれは既に絶命している様に見えた。もし水が無くなっただけでそうなってしまうのであれば、水だけを一時的に消し去れる道具を作ればいいのだろうか。


「ねぇお父さん、もしあの湿地帯から水だけが急に消えたらどうなるかな?」

「もちろんこの生物は済む場所を失くす事になって全滅すると思う」

「他の生き物は?」

「当然影響を受けるだろうね。上手くこれだけを絶滅させれば大丈夫だろうけど……」

「あのねお父さん、実は今、一個考えついた道具があるの。ちょっと聞いてもらってもいいかな」

「いいけど、僕は専門外だからあんまり細かくは指摘出来ないよ?」


 私が思いついた道具、それは『人工太陽』というものだった。空から私達を照らしているあの太陽を小型化した道具を作り、それによって高熱を放射すれば湿地帯の水を干からびさせる事が出来るのではないかと考えているのだ。まだ発想段階であるため完成図はまるで想像が出来ないが、水を蒸発させられるだけの熱量が出せれば上手く倒せるのではないだろうか。

 話を聞き終えたお父さんが口を開く。


「それが出来るのかはともかくとして、実現すれば可能だとは思うよ」

「しかし待てヴィーゼ。もしあいつらが海に逃げたらどうする? 海は水の塊そのものだぞ? そこにこの大きさの奴が逃げれば、私達には追えなくなるぞ」

「そこが私の中でも引っ掛かってるんです。あの時、海までは追って来なかった。あれがただの気まぐれからの行動なのか、それとも何か別の理由があるのか」

「どういう意味だ?」

「シーシャさんが言う様に、海を逃げ道にする可能性もあるんです。でもそれならどうしてあの時、海まで逃げた私達を襲うのを止めたのかなって……」


 私達はこの船に戻るために小舟に乗っていた。水を操る様にして移動出来るこの生物であれば、すぐにでも追いついて全員仕留める事も出来た筈である。しかしそうはならなかった。単に深追いしなかっただけか、それとも別の理由があるのか。


「ヴィーゼ、これはあくまで経験と知識から来る考えなんだが、一部の肉食動物は必要以上に獲物を追わない傾向がある」

「えっと、昔図鑑で見た事があります。自分が怪我したら狩りが出来なくなるからですよね?」

「そうだ。それと同じ様に、こいつらも深追いを止めたのかもしれないぞ」

「どうなんでしょう……? これは僕の見解なんですけど、この手の虫みたいな生物は個よりも群れを重視する傾向が強いんです。そう考えるとあそこで追跡を止めたのは少し変だと思います」

「うーん……プーちゃんはどう思う?」


 プーちゃんは私達から距離を取り、ベッドの上でシーツに包まる様にしてこちらを見ていた。


「……プーちゃん大丈夫だよ、動いてないって」

「う、動いてなくてもダメなの!」

「もう……。それで、プーちゃんはどう思う?」

「どうって……分かんないけど、海水が苦手~とかじゃないの……?」

「そんな事あるかな? だってすぐ近くに海があるんだよ?」

「いや待ってくれないかなヴィーゼ……。もしかするとあの場所は……」

「お父さん?」

「確か海図か何かが置いてある部屋があったよね?」

「う、うん。資料室がある筈だけど……」

「少し待っててくれないかな。確かめたい事があるんだ」


 そう言うとお父さんは足早に部屋から出て行ってしまった。残された私達はポカンとしたが、生物学者であるお父さんの知識を頼るためにしばらく待つ事になった。

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