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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第15章:我ら群れる故に我は個なり
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第124話:湿地に潜むもの

 多くの人々の魂を食らい続けてきた『血吸いの槍』を封印し終えた私とプーちゃんは屋敷を後にし、門の外で待っていたお父さんとヘルメスさんの所へと戻った。二人に話してクリンゲさんを埋葬したいと告げたものの、自分達だけで墓石を建てたり埋葬するのは難しい上に、シュペーア一族の人々はこの島の住人から嫌われているため彼をあのまま放っておくしかないという事になった。下手に住人に知らせた結果、静かに眠りについた彼が何をされるか分からない。


「二人共、可哀想だけど、その人はそのままにしておくしかないよ」

「でもさお父さん! お墓くらいは!」

「……ううん、やめようプーちゃん」

「何言ってんのさ!? ずっとあの人一人で頑張ってたんだよ!? それなのに……」

「プーちゃん。人っていうのは、自分が正しいって思ってるとどこまでも酷い事が出来る生き物なんだと思うの。家族を奪われたリチェランテさんみたいに……」

「どういう……」

「この島の人達の中にも、あの槍に家族を殺された人が居る。もしそんな人達に槍が消えたって事がバレたら……」

「や、やめておきましょう……! あの槍の事は知らせない方がいいです、はい。『シュペーア一族の屋敷にはまだ槍がある』……そういう事にしておいた方がいいと思います……」


 ヘルメスさんの言う通りだろう。『血吸いの槍』はこれまでもこれからも、ずっとあの屋敷の中にあり続ける。そういう風にしておくべきだ。かつて島民をおびやかしていた今はもう実在しない呪いの根源は、これからはシュペーア一族最後の一人だったクリンゲさんを守るための盾となる。例えそれが実在しなくても、『あるかもしれない』という噂が残っていれば牽制する事が出来る。血塗れの怨みに包まれた槍は、皮肉にも彼の安らぎを守る最強の武器となるのだ。


「ごめんねプーちゃん……私もクリンゲさんをちゃんと弔ってあげたいけれど、あのまま動かさない方があの人の誇りのためにもなると思うの」

「……うん、分かったよ。あたしはこの島の人じゃないから気持ちは分かんないけど、でも……ヴィーゼ達が言うなら、きっと正しいんだと思う」

「ありがとう……」

「二人共、そろそろ船に戻ろう。あんまり長居して島民に怪しまれてもいけない」

「そうだね。戻ろう」


 四人で船へと戻ると、船長であるヴォーゲさんに仕事が済んだ事を告げて船を出してもらった。島民からすれば私達の行動は不審に思えてならなかっただろうが、下手に追及されない夜の内に出港してしまった方が安全だった。

 船室でベッドに腰掛けて静かに揺られながらメモを見る。リチェランテさんや002さんから教えてもらった数が正しければ、現在残っている錬金術関連の物は四つという事になる。少しずつではあるが、水の精霊との間に交わした約束が果たされつつある。お母さんがどこに居るのかは分からないが、この指輪を付けている時に感じる不思議な感覚は続いている。お母さんがまだ指輪を外していないのであれば、今もどこかに居る筈である。


「あと四つ……だね」

「うん。次はどれにするの?」

「取りあえず上から順番に行ってみよう。まあヴォーゲさんに聞いてからだけれど……」


 その後、食堂で夕食を終えた私達は一睡し、朝を迎えてからヴォーゲさんに次の場所を伝えに行った。すると、ここから一週間は掛かる位置に湿地帯があり、このメモに書かれている地域の中ではそこが一番近いとの事だった。海上での知識はヴォーゲさん達の方が多いため、こちらからは余計な事は言わずに任せる事にした。

 そうして現地に着くまでに私達はリチェランテさんと話をしたり、何か新しい便利な道具でも作れないだろうかとレシピ集を眺めたりしていた。リチェランテさん曰く、彼が考えていたというやり方はまさに私達がやったやり方だったそうだ。当初私達は槍の呪いの数値を弄る事を考えていた。しかし最終的に作る事になった『無の鉄鎖』は、巻き付けた対象を0と同様の存在である虚無へと変えてしまうというものだった。意図しない内に、私達はリチェランテさんと同じ考え方をしていた様だ。彼はこの事に驚いた様子を見せていたが、自分よりも後に作られた『新人類』である私達になら可能かと一人で納得していた。


 そうして一週間が経過し、やがて私達は新たな地点である『ルステン湿地』へと辿り着いた。湿地と呼ばれているだけあって所々冠水しており、全体的にジメジメとしていた。海辺の辺りには人が住んでいないという事もあって小舟で降りる必要があり、普段から狩りなどで自然には慣れているシーシャさんと生物学に詳しいお父さんが同行してくれる事になった。ヘルメスさんはこういった場所に居ると落ち着かなくなるらしいので、危険だと言われていた腕輪を預けて一旦船で待っていてもらう事にした。理由は話してくれなかったが、恐らく虫が多いからだろう。


「あっづ~……」

「どうしても湿気が多くなるからね……」

「ヴィーゼ、プレリエ、こういった所は虫が多い。私も知らない種類が居るかもしれない、気をつけろよ?」

「…………あたしちょっと用事思い出した」

「今まさにその用事の最中でしょ」

「あわわわわ……かんっぜんに忘れてたぁ……! ヘル姉が行かないって言ってる時点で気付くべきだったぁ……!」

「えぇ~……平気になったから嫌がらないのかと思ってたのに……」


 プーちゃんは私に引っ付くと忙しなくキョロキョロしながら歩き始めた。お父さんも普段来ない場所という事もあっていつも以上に警戒しており、それだけ湿地という場所は危険な場所なのだと感じた。

 周囲から聞いた事もない鳥や虫の鳴き声が聞こえる中歩き続け、しばらくすると集落の様なものを発見した。冠水しても大丈夫な様に少し床が高くなっている民家が建てられており、外に掛けられている梯子や階段を使わなければ入れない構造になっていた。


「こういう所にも住んでる人居るんだねお父さん」

「当たり前さ。生き物が多いという事は捕れる食材も多いという事だからね。ここは海水で冠水する地域みたいだし、魚も捕りやすいんだと思うよ」

「三人共私の後ろに居てくれ。もしもがあるかもしれない」


 シーシャさんはいつでもナイフが抜ける様にと構えながら先頭を歩き集落へと足を踏み入れた。ここに住む彼らからすれば私達は部外者なのだから、いきなり攻撃されてもおかしくない状況である。そのため戦い慣れているシーシャさんが前に立ってくれているのだ。


「んにゃっ!?」

「プ、プーちゃん!? ど、どうしたの……?」

「ヴィヴィヴィ、ヴィーゼ……なな、何か足に変な感じがしたぁぁ……」

「プレリエすまないが少し静かにしてくれ……」


 足元を見てみると、私達が立っている場所が少しぬかるんでいるというところ以外は特に変わったところは無かった。虫が偶然足元を掠める様にして飛んできたという可能性もあるが、刺された様な跡も残っていないためプーちゃんが気にし過ぎているだけの可能性が高い。


「……皆、何かおかしくないか?」

「な、何がですか……?」

「人の気配が無さすぎる……プレリエがあんな声を上げたのに誰一人出てこない……」

「確かに変だね……僕もこういった所に来るのは初めてだけど、狩りをしに行くにしても全員が出払うというのは考えられない」

「ヴァッサさんもそう思うか。少し付いて来てくれ。適当に調べてみよう」


 そう言うとシーシャさんは近くにあった建物へと近寄ると、梯子を使って上へと上がり一人で中へと入っていったが、数分後には外に出てきた。どうやら中には誰も居らず、かと言って死体が転がっているという事も無かったらしい。しかし誰かが住んでいたと思しき痕跡は残っており、衣服や生活用品などは屋内で見つかったのだという。

 シーシャさんは地面へと飛び降りると、内部で見つけたという衣服を見せた。


「やっぱりおかしい。こういう物は残ってるのに何故誰も居ないんだ……?」

「シーシャさん、何か変な物とかはありましたか?」

「他の所も見てみないと何とも言えないが……少し待っていてくれ」


 私から質問に答えるためにシーシャさんは他の建物にも入っていったが、やはりどこにも人は居ないらしく残っているのは生活用品だけだったらしい。しかしある家からは太陽を模したものと思しき壁掛けオブジェが見つかったらしく、それを持ち出して来てくれた。見たところ太陽を対象とした信仰のシンボルといった印象を受けたが、今までの事例からこれが錬金術によって作られた道具であるという可能性も十分にあった。住人の失踪にも何か関わっているかもしれない。


「どうする?」

「一応その辺に置いておきましょう……下手に近くに置いて何かあったら対処出来ないかもしれませんし……」

「そうだな。分かった」


 オブジェを近くの家の足元に置きに行くシーシャさんを見ながら、一体何があったのだろうかと考えていると、突然シーシャさんが右ももの辺りを手で払う様な動きをした。その直後、シーシャさんはナイフを抜き自らの右腿に先端を突き立てると、表面だけを小さく抉り飛ばした。ナイフで抉られたシーシャさんの足の肉片は近くの水溜まりへと落下し、そのまま姿を消した。


「シーシャさん!?」

「船に戻れ! 何か居る!!」


 シーシャさんは右腿から血を流しながら私達と共に船の方へと駆け出した。

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