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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第14章:怨み募りて仇を成す
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第122話:究極の無たる鉄鎖

 お父さんとヘルメスさんに鎖を任せ、私とプーちゃんはレレイさんを探すために船の中を歩き回った。もし私達が魔法を使う事が出来れば自分達で氷を作る事も可能だったのかもしれないが、一切の素質が無かったため実際に使っていたレレイさんを頼るしかなかった。

 しばらく船内を探し回り、ようやく資料室の中に居るレレイさんを発見した。どうやら特に今はやる事が無いためここで本を読んで過ごしているらしい。確かに本来この場所はシップジャーニーが取引をしている場所ではないため、副官である彼女ですら時間を持て余しているのだろう。


「レレイさん、少しいいですか?」

「あら、どうしたの? もう用事は済んだ?」

「あのねレレイ姉、ちょっとお願いしたい事があるんだ」

「何かしら?」

「実はさ、氷が欲しいんだ。でも氷って作るの大変みたいだし……レレイ姉なら作れないかなーって」

「前にレレイさんが魔法みたいなのを使ってるのを見た事があるんです。だから、もしかしたらと思って……」

「なるほどね……。出来なくはないんだけど……」


 レレイさんは少し申し訳なさそうな顔をして氷を作るには時間が掛かると伝えられた。どうやらレレイさんは魔法を使う事自体は出来るらしいのだが、瞬間的に魔力を自然のエネルギーに変換して解放するという使う方が基本なのだという。氷を作るには精密で繊細な魔力操作が必要になるため、レレイさんの普段のやり方とは大きくかけ離れているのだ。今の彼女が氷を作るには少なくとも数時間は掛かるという。


「け、結構時間掛かるんですね……」

「ええ。その……どうしても氷が必要なの?」

「うん。一個作ってくれればいいんだけど……」

「……分かったわ。一個だけならやるわ」

「いいんですか?」

「ええ。船長はあなた達に協力するって決めてる。だったら副官の私もそれに従うまでよ。それにリオンの件もあるしね……」

「ありがとうございます!」

「部屋で待っててもらえる? 完成したらすぐに持っていくから」

「ありがとレレイ姉! 待ってるね!」


 何とかレレイさんからの協力を仰ぐ事が出来た私達は一旦部屋へと戻り、氷が完成するまでの間中和剤や『氷室箱』の素材の一つである木箱を作って待っている事にした。お父さんとヘルメスさんは既に鎖や木材を見つけてきたらしく、部屋に素材となる鎖を持って帰ってきてくれていた。普段、船を停泊させる際に錨を使っているのだが、その錨用の鎖が破損した時の予備を貸してもらったらしい。許可を出してくれたのは防衛部隊隊長のリオンさんであり、私達に貸しがあるからと言っていたのだという。

 中和剤を作りながら待ち続け、そろそろ外も暗くなり始めてきたその時、レレイさんが部屋へと駆け込んできた。その手には冷気をまとった小さな氷が乗っており、レレイさんの顔には汗が浮かんでいた。それほどの集中力が必要になったのだろう。


「レレイさん!」

「二人共急いで! いつ溶けるか分からないわ!」

「ありがとレレイ姉! じゃあ貰うね!」


 プーちゃんは氷を手の上から摘まみ取ると、急いで釜の方へと駆けて行き調合を始めた。レレイさんの手には霜焼けの様な痕が出来ていたが、私がそれについて聞こうとするとサッと手を引っ込め、やらなければならない仕事が出来たからと部屋から出て行ってしまった。


「……」

「ヴィーゼ、早く作ろー?」

「だ、大丈夫ですか……?」

「え、あ、うん。ごめんね、すぐ行くよ」


 私に気を遣わせない様にと気遣ってくれたレレイさんに心の中で感謝をし、『氷室箱』を作るための調合に移る。とは言ってもこの道具はお母さんが元々作っていた物という事もあって、そこまで難しい道具ではなかった。調合が複雑になればなるほど強力で超常的な道具になるのが錬金術の基本ではあるが、普段から依頼を受けて作られていたこの道具はそれだけ単純な道具なのだ。今の私達からすれば苦戦する事無く調合出来る物だった。

 そんな簡単な道具である『氷室箱』はものの三十分程度で完成した。直方体の箱の内部に氷が入っており、その内部の冷気で食物の腐敗を防ぐらしい。レレイさんから貰った氷は一つだけだったが調合すると複製されたかの様にその数を増やしていた。これは『氷室箱』という道具になるにあたって、『冷やす物』という氷の概念だけを抽出した結果、こうなったのだろう。この素材が持つ概念を抽出して付与するという技術を使えば、0という概念を利用出来る筈である。

 プーちゃんが床の上にサッと『氷室箱』を置く。


「ひんや~……指痛くなっちゃうよ……」

「お父さん、お母さんが作ってたのってこんな感じだった?」

「僕の記憶ではこんな道具は見た事が無いけど、ブルーメが危険な物を売るとは考えにくいし、多分それなんじゃないかな?」

「ヘル姉はどう?」

「そ、そうですね、わた、私はこの道具を作った事は無いですけど、あのレシピに書かれてた通りには出来てると思います、はい」

「よしヴィーゼ! 早速あの槍を何とかする道具作っちゃおうよ!」

「そうだね。ヘルメスさん、一応作るところ見ててもらってもいいですか? レシピの内容自体は理解出来てるんですけれど、自分達で考えたものじゃないから本当に理解出来てるか不安で……」

「い、いいですよ……! しっかり見てます……!」


 何とか『氷室箱』を手に入れる事が出来た私とプーちゃんは、『血吸いの槍』が持つ特異性を封じ込めるための道具の調合を開始した。まず最初に釜に入れたのは鎖である。これは最終的に完成する道具の素体となる存在であるため最初に入れておく必要があった。通常の調合であれば別にそこまで細かく順番を分けなくてもいいらしいのだが、ヘルメスさん曰くこの道具はきちんと順番を守らないと失敗する可能性が高いらしい。

 鎖を入れてゆっくり掻き混ぜた後、先程作ったばかりの『氷室箱』を釜へと入れた。プーちゃんが冷たがっていた様に、常に冷気を放ち続けているため素手で長時間触るのは危険そうだったので手早く投入した。もし長時間持とうものなら霜焼けなどを起こしてしまいそうな代物だった。


「ヘルメスさん、大丈夫そうですか?」

「は、はい。で、でもでもここからが重要です、はい……! 混ぜるペースを私に合わせてください」


 そう言うと背中側から手を伸ばし、私が持っている棒に触れて混ぜる速度の調整をしてくれた。私が速すぎれば力を加えて抑え、遅すぎれば少し速めてくれる。もしあのレシピを考えたのが私やプーちゃんであるならば、自分達でこういったペースの調整が出来たのだが、あくまでヘルメスさんが思いついたレシピであるため、こうしてサポートをしてもらわなければ分かりようが無かった。

 どれほどの時間そうしていただろうか。もう完全に外が真っ暗になってきた頃にようやく混ぜるのが終わり、蓋をして後は待つだけとなった。ずっと立ちっ放しで混ぜ続けて手が痺れていた私はドサッとベッドに腰掛け、手を握ったり開いたりして少しでも早く痺れが取れる様にしていた。するとプーちゃんはベッドの上に上がると私の背中に引っ付き、背中側から手を伸ばして私の痺れている手をにぎにぎと揉み始めた。


「ありがとうプーちゃん……それ気持ちいいよ」

「うん。ヴィーゼに任せきりだったしね。あたしに交代しても良かったのにさ」

「途中で混ぜるの止めたら失敗しちゃうかもって思ってさ。思いの外長かったけど……」


 ヘルメスさんが申し訳なさそうな顔をする。


「す、すみません……ふ、二人の釜だから私が勝手に調合するのも良くないかと思いまして……」

「いえいえヘルメスさんが気にする事じゃないですよ。体力が無い私が悪いので……あはは……」

「別にいいよヴィーゼは体力とか付けなくて。そういうのはあたしが居るんだからさ」

「う、うん。でもプーちゃんにばっかりそういうの任せちゃダメかなって思って……」

「ダメ。そういうのはあたしがやる」

「う~ん……お父さん、やっぱり私もうちょっと体力付けた方がいいよね?」

「僕も別にいいと思うよ? この旅に出てからヴィーゼも大分体力付いたと思うけどね」

「そ、そうかな?」

「そーそー。だからヴィーゼは今のままでいーの」


 自分ではそんな実感は全く無かった。二人が気を遣って嘘を言っているのだろうかとも思ったが、わざわざそんな事をするとは思えないので、実際に昔よりも力が付いてきているのかもしれない。思い返してみればこの旅は様々な場所へと行き、命の危険に脅かされる事も数多くあった。お父さんやプーちゃんに助けられる事もあれば、逆に私がプーちゃんを助けたりした事もあった。小さい頃から家で本ばかり読んでいた昔の私にはこんな事は想像も出来ないだろう。自分でも気づかない内に少しだけ成長していたのかもしれない。

 手の痛みが引いて来た頃、そろそろ完成するとヘルメスさんから告げられたためプーちゃんが蓋を取りに行き、釜の中から一本の鎖を引っ張り出した。その鎖は一見すると普通の物と見分けがつかなかったが、近くで見た際にようやくその異質さが理解出来た。その鎖は遠目に見れば普通の鎖なのだが、近くで見ると何故か実体が安定していない様に映ってしまう。確かにそこにある筈だというのに、まるでそこだけ視界がぼやけているかの様に見える。鎖だけがぼやけているのだ。


「ヴィ、ヴィーゼこれ……」

「う、うん……私にも変な感じに見える……。ヘルメスさん、これで合ってるんですか?」

「は、はい。これならきっと、槍を止められる筈です、はい……!」

「これは……あんまり見てると目が悪くなりそうだね……。ヴィーゼ、プレリエ、持ち運ぶなら視界に直接入らない様にした方がいいと思うよ」

「そうだねお父さん……何か酔ってきちゃいそう……」

「プーちゃん、ベッドのシーツに包んで行こう……もう暗いけれどすぐに行った方がいいかも」

「だね」


 こうして何とかヘルメスさん考案の道具を完成させた私達は、お父さんとヘルメスさんと共にクリンゲさんが待っている屋敷へ向かうために夜の町へと繰り出していった。

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