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ヴィーゼとプレリエの錬金冒険譚  作者: 鯉々
第14章:怨み募りて仇を成す
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第119話:不定存在の腕輪

 レシピ集に描かれていた謎の道具であるブレスレットが何かの役に立つかもしれないと考えた私とプーちゃんは、唯一の素材である金属を手に入れるために部屋を出た。何故他の素材が一切書かれていないのか、何故道具の名前すら書かれていないのかという疑問はあったが、私達の中にあるこの道具に対する奇妙な既視感には不思議な信頼もあった。

 砲弾に使われている金属を手に入れるためにリオンさんの所へと出向いた私達は事情を話し、一つだけ貸してもらった。自分達で部屋まで運ぼうとしたものの、とても二人がかりでも運べない程の重さであったため、リオンさんに運んでもらった。リオナさんとリオラさんが船から居なくなった事によって、彼女の表情は以前の様に穏やかになっていたが、しかしそれでもどこか悲しそうな寂しそうな印象も受けた。


「ここに置いておけば良いですか?」

「はい、ありがとうございますリオンさん!」

「ありがとね」

「では、自分はこれで」

「あっ、リオンさん!」

「……はい?」

「あの……リオナさん達の事、寂しくないですか?」

「ええ。自分にとっての家はここだけです。レレイが居て、船長が居て、シップジャーニーの皆が居る。それが私の家族です」

「そう、ですか……」

「……ですが、あの二人も家族であったのは間違いありません。形はどうあれ、私を想っていた。そこだけは理解しているつもりです」

「ヴィーゼ、ほら行こう」

「そうだね……ありがとうございますリオンさん。ごめんなさいお時間取らせちゃって」

「構いませんよ。それでは」


 そう言うとリオンさんは元居た場所へと戻っていった。

 彼女は彼女なりにあの二人の事を考えているのだろう。決して許すつもりは無いのだろうが、それでも自分を愛してくれているという想いは受け取っている。彼女が自分から会いに行くという事はしないだろうが、それでももう恨み続けるという事しないだろう。

 部屋へと戻った私達はお父さんにも手伝ってもらいながら釜の中に砲弾を入れると、鞄の中に仕舞っているナイフを取り出し、お互いの手の平に傷を付けた。レシピ集には血が必要とは書かれていなかったが、金属だけでそんな道具が作れるとは思えない。もし素材一つだけを使って調合したとしても、何の効果も無いだろう。複数の素材が持っている特性や性質を混ぜ合わせて新しい道具を作るのが錬金術なのだ。素材一つだけでは何にもならない。


「よし、じゃあ行くよ」

「オッケー」


 傷口を絞り釜の中へと自分達の血を入れていく。砲弾は既に釜内部の液体の中に姿を消しており、私達の血もまたその中へと溶け込む様にして消えていった。そしてある程度まで入れたところで、突然私の頭の中に奇妙な直感が走った。どうやらそれはプーちゃんも同じだったらしく、二人で同時に手を引っ込めた。


「プーちゃん、今……」

「うん。あたしも今……」

「どうかしたのかい二人共?」

「うん……何か、これ以上は入れちゃいけないって感じがして……」

「あたしもなんだ。ていうかこれかベストっていうか……」


 まるで一度自分達で作った事があるかの様な感覚だった。このタイミングで血を入れるのを止めれば一番いい物が出来るという不思議な実感があったのだ。プーちゃんは感覚型の自分の方が向いていると感じたのか、掻き混ぜ棒を掴んでぐるぐると混ぜ始めた。実際これに関しては私よりも彼女の方が向いているだろう。私はいつも経験や知識によって調合をしているが、プーちゃんは感覚だけでやっている。『新人類』だった頃の記憶を失っている私達二人のどちらが向いているかといえば、彼女だろう。

 ぐつぐつと釜の中が泡立っており、かなりの高反応が起きているのが窺える。今まで血を使った道具は色々と作ってきたが、ここまでの反応を見せた事は一度も無かった。あのレシピ集に詳細が記載されておらず、更に上から大きく上書きする様にバツ印が描かれていたのだから相当危険な代物ではあるのだろう。だが、印が付いている他の道具とは違い、これだけが既視感があったのだ。この道具だけが異質だった。


「ヴィーゼ、ちょっと代わって!」

「えっどうしたの!?」

「ちょ、ちょっと何か反応が変な感じ!」


 掻き混ぜ棒を受け取り中を見てみると泡立ち方が先程よりも激しくなっていた。かなり危険そうな状態であり、彼女が私に任せるのも納得だった。プーちゃんは感覚型ではあるが、その代わり不測の事態には弱い。今まで経験や知識で何とかカバーしてきた私であれば、何とか出来ると信頼してくれているのだろう。

 最愛の妹からの信頼に応えるためにゆっくりと掻き混ぜ始める。こういった経験は別に今の始まった話ではない。今までも釜内部が危険な状態になった事は何度もあった。どれも小さい頃の話であり、今ではそういった事は無いに等しかったが、そんな過去の失敗や経験が私の中には蓄積されている。その中には、お母さんから教えてもらった技術や知識も混ざっている。

 混ぜる速度を細かく微細に調整していると、段々泡立ちが安定状態に収まってきた。ここまで来れば爆発したり素材が消滅したりといった現象は起こらないため、蓋をそっと閉めて完成を待つ事にした。


「……今ので、もう大丈夫なのかい?」

「うん。多分これで問題無いと思うよ。後は待つだけ、かな」

「ありがとヴィーゼ……冷や冷やしたよ……」


 二人でベッドに腰掛けてしばらく待っていると、蓋の間からもくもくと上がっていた煙がピタリと止んだ。完成した合図を見た私が蓋を開けて中に手を突っ込み中に入っている物を取り出してみると、レシピ集に描かれていたブレスレットが二つ出てきた。本来こういった調合では一つしか作れない筈だが、何故か二つだったのだ。まるで私とプーちゃんの二人が作る事を想定していたのかの様に、まるで最初から二つで一つであるかの様に。


「これが……」

「やっぱりあたし……これどこかで見た事あるよ……」

「うん。私も。付けてみる……?」

「一回だけ、やってみよっか?」


 この道具がどんな力を持っているのかを確かめるために覚悟を決めてそれぞれの右手首へと装着する。別に示し合わせた訳ではないにも関わらず、私とプーちゃんは同時に同じ場所にそれを付けていた。そしてブレスレットを付けた瞬間、奇妙な感覚が体を襲った。全身がふわふわと浮いている様な感覚がし、更に体中で鳥肌が立っている様にも思えた。


「あ、れ……」

「何だろ、この感じ……」

「お、おい二人共、大丈夫なのかい……?」

「う、うん……でも何か変な感じで……」


 少し足元がよろめいて咄嗟にテーブルに手を付こうとした瞬間、このブレスレットが持つ力が理解出来た。テーブルへと触れた手がスッとすり抜け、私はそのまま床へと尻餅をついてしまった。そんな私を見たプーちゃんは助けようと手を伸ばし、先程すり抜けた筈の手へと触れて掴む。その時、恐らく今まで封印されていたのであろう以前の記憶が僅かだが脳裏に浮かんできた。

 記憶と言ってもかつてこれを作った自分の記憶だけだったが、それでもその力を理解するには十分だった。この道具の持つ力は『ことわりを越える』というものだった。先程テーブルに触れずにすり抜けてしまったのは、理を越えているからなのだろう。あのテーブルがある世界と今私達が存在している世界がずれているのだ。自分で作った物だというのに上手く表現出来ないのはもどかしかったが、とにかくこれが今まで作った物の中でトップクラスに異常な物なのは確かである。


「ヴィーゼ!? プレリエ!? 今のは一体……!?」

「プーちゃん……この道具……」

「うん……分かった。これ、そういう事だよね……」


 プーちゃんの体が私に触れているのは、同じブレスレットを付けているからだろう。今のこの場所で違う世界に存在しているのは私と彼女だけなのだ。今私達に干渉出来るものは、この世界ではお互いだけという事になる。


「何で私達こんな道具を……」

「それよりヴィーゼ! これ使えばさ、あの槍にも近付けるんじゃないかな!?」

「……そっか。世界が違っていれば槍の影響を受けないかもしれないね。どうやって破壊するかはまだ思いつかないけれど、現場を確認には行けるかも」

「行ってみよう!」

「ちょっと待ってくれよ二人共! 僕には何が何だか……」

「あ、えーとね?」


 困惑している様子のお父さんに分かる範囲の事を教えてみたものの、やはり理解はしてもらえなかった。実際私自身も感覚的に、記憶的に理解しているというだけで理論的には何も分かっていない。この道具の力を真の意味で知っているのは私とプーちゃんだけなのである。それも、その理論が正しいかどうかを証明する技術も方法もどこにも存在していない。まるでこの世界における今の私達の様に。


「よく分からないけど……つまりそれがあればどうにか出来るかもしれないって事なんだね?」

「うん。まだ解決策が浮かんだ訳じゃないし、数値を弄る道具を思いついた訳じゃないけれど、どこにあるのかが分かれば少しは思いつくヒントになるかもしれないの」

「だね。あたし的にも一回どんな見た目なのか見てみたいし」

「分かった。僕に何か出来る事はあるかな?」

「そうだね。お父さんはこの事をヘルメスさんに伝えておいて欲しいかな。さっきも頼んじゃって悪いけど」

「構わないよ。くれぐれも無理はしない様にね」

「まっかせてよ!」

「じゃあいってきます」


 問題の槍を止めるために私はプーちゃんと共に船の外へと出て行った。ブレスレットを付けている間は物質の影響をほとんど受けないのか船の壁や扉も簡単にすり抜ける事が可能となっており、いとも容易く島へと移動する事が出来た。その状態でも他の人には見えているらしく、山にあるシュペーア一族の屋敷へと向かっている私達は島民から怪訝な目で見られていた。やはり島民の間でも、あの槍は島を守る強力な武器であり、同時に人々の命を奪う危険な呪物だと認識されているらしい。

 そんな人々からの心配される様な目を受けながら、私とプーちゃんはシュペーア一族の屋敷へと向かっていった。

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