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また来年

作者: 北森一輝

初執筆作品です

拙い文章、物語ですが読んでいただけたら幸いです

春は寒さが和らぎ、雪が解け、花々が芽吹き始める。夏は暑くなり、雨が降り、新緑に囲まれる。秋には涼しくなり、、木々が色づき、落ちていく。冬には寒くなり、雪が降り、銀世界へと変わる。

 これが四季だ。

 だが、今年は少し違っていた。例年ならとっくに来ていたはずの春がまだ訪れていないのだ。いつもなら既に桜が咲いていてもおかしくないというのに、未だに雪が降り、冷たい風が吹いており、桜が咲く気配など微塵もない。

 私はあることに気が付いた。「そういえば今年はまだ、春の運び屋さん見てないなー」普段なら季節が移ろう時にはその季節の運び屋さんが姿を現すのだが、今年はまだ、春の運び屋さんを見かけていない。

 このまま春が来なければずっとこの寒さということだ。それは耐えられない。そんなことを思いながら私は、春の運び屋さんを探そうと決めた。

 とはいえ、運び屋さんがどこにいるのかなんて見当もつかなかった。そこで私は、運び屋さんのことに詳しい祖父のもとを訪ねてみることにした。

 祖父の家は山奥にひっそりと佇んでいる。小さいけれど素敵な、森の家 と表現できるようなかわいらしい家だ。

 森のなかを20分ほど歩いたらその家が見えてきた。昔とさほど変わっていない素敵な家のままだった。ドアをノックし少し待っているとおじいさんがでむかえてくれた。

 「おぉー、よく来たな。さあ、はよう中に入りなさい」そう言って、出向かえてくれた。

 「して、今日はどうしたんじゃ?」とおじいさんが私に尋ねてきた。私は今年はまだ春の運び屋さんを見かけていないことを話し、春の運び屋さんが行きそうな場所や何か心当たりがないかを尋ねた。

 「ほうか、今年はまだ来とらんのか、どおりで寒いわけじゃ。この時期にまだ来とらんちゅーことはどこかで道草でも食っとるかもしれんな。春の運び屋はマイペースなやつじゃからな」そういっておじいさんは、はっはっはと笑って見せた。「運び屋はそれぞれの季節のものの近くを好む。春の運び屋なら、木々や花々、とりわけ桜を好んどる。近くにいるやもしれんぞ」おじいさんに春の運び屋さんが行きそうなところを教えてもらい私はすぐに桜の木がある場所に向かうことにした。

 「おじいさんありがと」私は祖父にお礼を言い、家を飛び出した。

 私はこのあたりで有名な山の奥地の開けた場所にある枝垂れ桜に向かうことにした。このあたりの地域ではその枝垂れ桜には精霊が住むという言い伝えがあるらしくきっとその精霊は春の運び屋さんのことだと思っている。

 険しい道を進みやっとの思いでその場所に着くと、そこには桃色ではなく、真っ白に冬化粧した、大きな桜の木が佇んでいた。この幻想的な光景を見た私は、言葉を失い、全身に鳥肌が立ち、まるで夢の世界に迷い込んでしまったかのような感覚になり、静寂の中ただ白い吐息の洩れる音だけが響き渡っていた。

 しばらく経って夢のような感覚から覚め、春の運び屋さんを探すことにした。

 桜の木まで歩いていき、隈なく観察していると、木の裏側に妙な窪みを見つけた。

 そこには、桜の花びらが入っているスノードームのようなガラス玉があった。ガラス球を取ろうと手を伸ばす。触れた瞬間ガラス玉にヒビが入り、青白く光りだし、砕け散る。すると、中から妖精が現れたのだ。

 「あなたが春の運び屋さん?」

 「そうだよ。君が僕を助けてくれたんだね。ありがとう、助かったよ」

 「どういたしまして。・・・え?助かったってどういうこと?」

 「実は僕、冬の運び屋にガラス玉の中に入れられて閉じ込められていたんだ」

 春の運び屋さんが見つかってほっとしたのも束の間、私はその言葉に驚きを隠せなかった。

 「え・・・どうして・・そんな・・・」

春の運び屋さんが言うには、冬の運び屋さんは春の運び屋さんに嫉妬していたらしい。

 春は暖かく木々や花々が芽吹き艶やかな色を付け、人々は春の訪れを待ち焦がれるが、冬は寒く、風は冷たく吹き、木々は枯れ、雪が降っても多くの人からは迷惑がられるだけ。冬の運び屋さんはそれが気に入らなく、春を来なくして人間たちに嫌がらせをしているらしい。

 「それで、冬の運び屋さんは今どこに?」「あいつはこの山の頂上にいるはずだよ。閉じ込められている間も外の様子は見ることができたから」

 「ありがとう。私行ってくる。冬の運び屋さんを止めなくちゃ。冬は迷惑がられるだけじゃないってこと伝えないと」

 「頼んだよ。僕はこのまま村へ降りて春を届けてくるよ。ずいぶん遅れちゃったけどね。じゃあ冬の運び屋をよろしく」

 そういって春の運び屋さんは春を届けに、私は冬の運び屋さんを止めに山頂へと向かった。

 

  --山頂に着くと雪が吹き荒れ、凍てつくような寒さで私を襲ってきた。

 私は吹雪に耐えつつ、大声で冬の運び屋さんを呼んだ。

 私の体力が尽き欠け、もうこれ以上は無理だと思った瞬間、目の前に白く、美しい妖精が現れた。

 「あ、あなたが雪の運び屋さんね」

 「いかにも。人の子よ、何をしに来た」

 「私はあなたに伝えたいことがあってここまで来たの」

 「なんだ?」

 私は今にも倒れそうなのを必死で耐え、声を振り絞り、冬の運び屋さんに言葉をぶつける。

 「確かに私たち人間の多くは、冬が嫌いなのかもしれない。でも、冬が一番好きだって人もいるの。私だってそう。冬は空気が澄んで星が綺麗に瞬いて、吐いた息の白さに嬉しくなったり、雪が降った後の景色は別世界みたいで素敵で、冬は寒いけれど同時に温かくて、幻想的で素敵だもの。それに、季節は巡るもの。一つの季節しか来ないんじゃ好きな季節を待ちわびることもできないじゃない。だからこれ以上自分で自分を否定するのはやめて」

 私は、今のありったけの思いをぶつけ、そこで意識が途切れた

 



 目が覚めるとおじいさんが私の顔を覗き込んでいた。

 「あれ、おじいさん・・わたしどうして・・・」

 「お前さんのことが心配で様子を見に行ったんじゃが、そしたらお前さん倒れておったんじゃよ」

 「私倒れて・・・あ、外の様子は?」

 「ん、ああ、ほれ、みてみなさい」

 そういっておじいさんはカーテンを開け外の様子を見せてくれた。私の目の前には色とりどりの花が咲き乱れており、窓を開けると春風が私の体をそっとなでるように吹いてきた。

 そんな私をほほえましく見守っていたおじいさんが何かを思い出したかのようにし、私に話しかけてきた。

 「そういえば、冬の運び屋からお前さんの目が覚めたら枝垂れ桜の下まで来てほしいと伝えてくれと言われておっったんじゃ」

 「冬の運び屋さんが?」

 「ああ、何かはわしも知らんが行ってきなさい」

 「うん。おじいさんありがとう」

 そう言って私は急いで身支度を整え枝垂れ桜の下まで向かった。


 枝垂れ桜の下までいくと冬の運び屋さんが開口一番に私に謝ってきた。 

 「すまなかった。私はそなたやそなたたち人間にたくさんの迷惑をかけてしまった。だが、そなたの言葉で目が覚めた。ありがとう」

 そういって深々と頭を下げてきた。

 「いやいや、頭を上げて。分かってもらえて何よりだよ」

 「あぁ、これからは冬を皆に好きになってもらえるように努力するよ」

 「うん。みんなに好きなってもらえるいいね」

 「今年はこれでお別れだが来年また会おう」

 「そっか・・・もう行っちゃうんだね・・・うん、また来年ね」

 あぁ、ではまた来年。これは私からのお礼だ」

 そういって、冬の運び屋さんは姿を消し、空から真っ白な雪が降ってきた。だがそれは、普通の雪とは違い、温かく、綺麗で、心を落ち着かせてくれるように幻想的で、枝垂れ桜に積もっていき、白に染め上げていく。 

 私は、手のひらに降ってきた雪を見つめ、「また来年」そう呟き、帰路へとついた。

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