匣の中で
完全に趣味でしかなくて息抜き
ものすっごく楽しんで書いてる事は確か
「物語の中の常識と現実の中のそれとは混同してはいけない。このいけないは、禁止だ。タブーだ。間違い、禁忌。
ブレーメンの音楽隊なんて、楽しいお話があるだろう?あの中では動物が楽器を弾くことや人間のような思考をすることなんて当たり前の常識なんだよ。その常識について、改めて問い直すことは全く意味がない。不毛だ。別世界の互いの常識を擦り合わせる意味はない。議論の余地はない。
そして!ふふ、この世界では僕が常識だ。僕はこの世界の常識に気付く事ができる。僕はもう既に幾つかの常識を知っているよ。知りたいかい?ふふ、一つは僕が美しいこと、二つはお前が美しいこと、三つは本の価値は絶対だということ、まあまあその他諸々。中でもとっておきが……
前世だの魂だのといったものは無い、ということだ。」
「紅茶のお代わりは?」
「うん。」
熱弁もふるわず、彼はいつも通りに青い蝶の羽がきらきら光る紅茶を勧めてきた。物の多い狭い部屋に華やかな香りが広がる。この部屋は古い家具と、本と、紅茶と、そして僕達があって完璧だ。バランスを崩さない限りここはいつまでも存在しうる。
「ありがとう。…美味しい。」
「良かった良かった。それで、常識っていうのがよく摑めないんだけど。クリスマスには家族で過ごすこと、みたいなやつ?」
ああ聞いていないようで聞いていたのか。色の薄いそいつは同じく色の薄い窓の外を見、そこにある煩く飾り付けられたクリスマスツリーを見た。
「違う。お前らはキリスト教に近しいからそういうことをするが、世界中の誰もがする訳ではない。現に僕もそんな習慣を持ち合わせていなかっただろう?誰でも何にでもどんな状況であっても、この世界においては当て嵌まる真実というのが、常識なんだよ。決まり。必然。」
「成る程?…というか君、美しいとか自分で言って恥ずかしくないの?」
思わず笑ってしまう。
「勿論恥ずかしくない!こんな下らないことで嘘を吐いても仕方が無いだろう。僕は美しくて、お前も美しい。只の事実だ。」
呆れたような顔をするでこっぱちを指で弾く。痛そうにしてから赤い額でこちらを睨む。肌が白いから赤くなりやすいのだ。
「もう紅茶淹れないからな」
「それは困るな…って、あ!!こんな下らない話をしている間に日付が変わってしまったじゃないか。年明けだ、元旦だ。ほらほら、初詣しよう。僕は信心深いんだ。」
「はつもうで?じんじゃか?外は寒いし行けないだろ。」
「いや、問題無い。この場所で良い。」
「んん?」
「簡単だ。僕を拝めばいい。」