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36 開戦



 ***



(…………なるほど)



 そして、里の外の戦場で戦いが起こった。


 騒ぎの下には『商人』がいた。

 《商天秤評議会ムー・ギルド》の商人。この大陸を統べる各王国にギルドを置き、商売の流れを司る場所の娘は、戦場を見渡していた。


(…………なるほど、なるほど)


 呟き、ほい、ほいと。頷く。


 相手にするのは盗賊たちである。彼らは東側の門から打って出た彼女たち『傭兵団』を迎撃していた。夜盗らしく斧や太い刀を使って、目の前で戦う人間を容赦なく襲ってきた。

 鉄の里を守る勢力となれば――〝第三勢力〟であろうと、容赦がない。


 浴びせかけられる弓矢や白刃に、『大楯タワーシールド』で強固に弾いてから、獣人傭兵団は戦いを開始した。火花が散る。こちらは《盗賊》たちが優勢である。それに対して、『傭兵団』は五十名ばかり率いているに過ぎない。


 しかし、この戦いは優勢だった。盗賊風情に負ける傭兵団もない。


 ……だが。

 それは――あくまで、〝盗賊〟が相手だった時、だ。



(…………なるほど、)


 そして、ランシャイは上を見上モール。

 ――夜空を泳ぐ、月の下の魔物がそこにいた。



(…………これが、こちら側の〝元凶〟アルか―――?)


 さすがに、息をのむ。


 魔物――《砂鯨》。

 西方の言葉で、〝ドーザー・クル〟


 ギョロリと赤い目をむくのは〝ドラゴン〟のようで、鋭い瞳に不気味な輝きが覆っていた。西方の砂漠地帯エリアにいる魔物である。その存在自体が城のように堅牢な鎧に覆われており、一見すると武装した魚影のようでもある。


 ランシャイは商人なので、その西方に出現する魔物の存在を知っている。


 ――知っているが、こんな場所では出現しないはずである。


 この夜の現象は、何もかもが不可解だった。

 この魔物は西の砂漠地帯にしか出現しない。毎年のように砂漠を渡って交易する『隊商キャラバン』を襲い、何名もの商人がこの魔物の被害に遭って、積み荷を奪われている。かなり凶暴で上位の魔物だ。


 商人だけではなかった。

 ――被害に遭うのは、《冒険者》も同じだ。


 砂漠を渡って商売をするとき、護衛に《冒険者》をつけることがある。その際、運悪く『砂鯨ドーザー・クル』に発見され、戦いに発展するケースも多いのだ。一方的な戦いだ。蹂躙といってもいい。

 ……なにせ、正面切ってその魔物と渡り合える冒険者など、そうそう存在しないのだ。砂漠から顔を出しての《噴流ブレス》は強力で、《隊商キャラバン》の荷や馬ごと吹き飛ばす威力がある。



(……なーんで、魔物の頭のうえに、〝人間〟を乗せて戦っているアルかねぇ)


 ランシャイは、睨み上モール。


 そう。人が乗っているのだ。


 騎乗していた。その魔物は巨体をうねらせながら、砂の上へと着地する。見た目は四本足で歩行する《ウルフ》のようであるが、その頭には魚類のような〝砂ひれ〟と〝えら〟がついており、《魚》を連想させる。

 胴体には粗末ながら〝馬のあぶみ〟のようなものがついており、魔物用に無理矢理大きくしたようだった。


 ――その上に、人が乗っている。

 魔物が『人間を乗せている』というのは、聞いたことがなかった。


 猛獣の牙に、一つの角。月影に魚のように浮かんだ。

 仲間であるはずの盗賊たちですら道を開けていた。


 そして、


「ぶひゃーひゃひゃ! ……こっちの戦況が、あんま良くねえ。って聞いたんだが!! なかなか生意気そうな奴らが残ってがやるな! ぶぎ。残らず、俺様が喰らい尽くして、蹂躙してやるよ!

 この俺様と―――この魔獣、『一角魔獣鯨ロッド・モール』でな!」


 それが、現れた。

 緑色の皮膚をした〝亜人種オーク〟である。確か南方。そこの出身の体が、粗末な山賊装備の革の鎧に覆われている。

 肥大した腹が揺れながら、その身体は魔物の頭の上にあった。



「――俺様は、〝オーク〟のヨードフってもんだ。ヨロシクぅ」





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