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35 一矢、突貫



 ***



 森の中を光とともに〝貫〟いていた。


 僕は息が上がるのも構わず、たった一人で聖剣を振り払っていた。―――冒険者の意地だ。


 ……冒険の体力は、そろそろ燃え尽きようとしていた。

 ……だが、こんなところで終われなかった。


 邪魔してくる魔物を切り払い、無理矢理にでも《ステータス》を上昇させていく。敵の顔ぶれが、今までの《スライム》や《ウルフ》とは違ったものになっていた。数段手強く、さらに終わりが見えない。


 僕らの目の前には―――ぼろぼろに朽ちた剣や盾を装備して森を巡回する骸骨たちがいた。《骸骨剣士スケルトン》だ。奴らが出てきたということは、この森の長かった道のりも、ようやく終わりが近い。ということだ。


 まるで大陸の寒い雪国から、火山地帯へと向かうようだった。草原から雪が減っていくように、その〝魔物〟の分布が変わりつつある。つまり、元凶が近いと言うことだ。


「…………ミスズ」

『は、はいっ』


 僕は跳躍し、〝走り〟を止めないよう回転しながら剣を一閃させた。


 力を出し惜しんでいる場合ではない。

 魔物と戦うときだけ、一瞬だけ《聖剣》の力を強化した。消耗戦でつちかった、〝消費を抑える〟ためのリミッターを解除するためだ。


 それにより、触れた魔物の体がバラバラに吹き飛ぶ。…………もともと骸骨だ。また森の中で復活しないとも限らなかったが、この場合はいい。少しでも長く、戦力を削ぐことができれば。


 大昔の革装備や盾を装備する《骸骨剣士スケルトン》に遭遇しながら、僕は二、三匹を同時に突き崩した。もはや容赦がない。一瞬たりとも足を止めることなく突貫した。


 魔物の中には、反撃する骸骨もいる。

 切り傷や、弓矢が飛んできて振り払えずに浅手を追う。


『ま、マスター』

「―――いい。今は、先を急ぐ」


 ―――しかし、僕は構わずに急いだ。

 この程度の怪我が、なんだ。冒険者の道は茨の道だ。その体は魔物を倒すために鍛え上げ、魔物を凌駕するために《ステータス》が存在している。見つめる先は、冒険者として助けるべき――人々のところだ。



 僕は、移動しながら、自分の《数値》を確認した。



   ***


 ―――契約の御子・ミスズ

 分類:聖剣/ → 固有技能《限界突破》S+



 ステータス《契約属性:なし》

 レベル:1 → 24

 生命力:5 → 65

 持久力:4 → 36

 敏捷:11 → 77

 技量:5 → 36

 耐久力:3 → 29

 運:1 → 31



 ***


 …………上がり切れていない。

 まだ、弱い。


 僕はギリッと奥歯をかみしめていた。


 まだサルヴァスの初期段階、修行とした積みを重ねていて、やっと森の魔物を倒すくらいならこのレベルでもよかった。――だが、今はまだ足りない。あまりにも多くの魔物から人間を守ろうとし、あまりにも強大な敵から、この鉄の国――《クルハ・ブル》を守備しなければならない。


 …………そのためには、もっと力が。

 何者にも負けない、力が必要だった。


 僕は《剣島都市サルヴァス》でいつも〝弱さ〟と向き合ってきた。あの島では強さこそが全て、力もないものには誰も見向きもしないし、情けさえもかけてもらえなかった。

 そんな強さが必要だった。

 強さは、《ステータス》という数値の形をしていた。


 僕は苦しんだ。下積み時代に、うまく上がらず、自分が努力しても全て空回りになる。来る日も来る日も、誰も超えられない、強くなれない日々だった。……だが、それも克服し、ようやく《冒険者》として一歩、誰かを守れるために戦えると思った。


 ……だが、


(…………何がだ、ばかやろう)


 僕は奥歯をかみしめた。

 血が出るほどに、かみしめた。


 …………何も変わっていないじゃないか。

 本質的には、何も変わっちゃいなかった。


 こうして鉄の国の里に入ってきても、誰かを守れない。裏をかくために動いた盗賊の行動も分からない。――これが、もし代表的な《剣島都市サルヴァス》の冒険者だったら?

 《剣島都市サルヴァス》で、誰もが求める〝獣人ベン〟だったら。


 …………たぶん一瞬で、里へと到達しただろうし。

 …………全ての盗賊と骸骨を、一瞬で殲滅しただろうし。


 …………たぶん、こんな悲劇になっていなかった。


 里が燃え上がることもなかったはずだ。獣人ベンだけじゃない。『Aランク』以下の、他の冒険者たちでもそうだった。僕の友人、上級冒険者の〝ガフ〟もそうだった。上級の冒険者は、行動で運命を変える。

 自分の〝信念〟に見合った力をもっていて、決して大口なんて叩かない。

 やれることを、着実にこなす。誰かを助けるというなら、それは本当に助けるのだろうし。彼らが全力を尽くして護衛する〝対象〟なら、きっと何者からも守れるはずである。


 ……だが、僕はどうだ。


 里の一つも、友人の一人も守れないじゃないか。


 ……メメアは……。

 森を振り返る。森に残ったメメアは、静まりかえった視界の先で戦っているはずだ。

 そんな僕の、〝半身〟を肩代わりしてくれた。僕がこの戦場に必要だと言い、見送ってくれた。里を守りたくても手も足も出ない《冒険者》の僕のために、目的地に向かうための翼を与えてくれた。


 ――だったら。


 ――だったら、僕は。



(…………強くなるしかない、じゃないか!)



 回転しながら、森で魔物を切り払った。

 剣で骨の魔物の胴体を両断し、背後から振りかぶってくる骸骨の頭部を貫いた。

 骸骨が飛び散るのを横目に、その中をすり抜けて跳躍。爆発させるように脚力を使って、一気に〝森〟を突き破る。



 ―――一矢のように。

 ―――たった、一本の矢のように。


 何も考えず、無心に、貫く風になる。


 そこに、どれほどの思いを込めればいいか。

 そこに、どれだけの気持ちを込めればいいか。


 前進を光り輝く矢のようにして、《聖剣》を前へと構える。輝きとともに群れへと突撃を始めた。山を駆け下りる。みるみる速くなる。斜面を蹴る。真下に向かって、蹴るように走り、体が宙を駆ける。


 ――まだだ、まだ速くなる。

 ―――まだ、速くする!!!


 迷いはない。

 僕はこの異常な光景の中に、突撃を開始した。






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