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11 山頂からの望郷(1)




 その戦闘が終わったときには、昼の太陽が頭上に昇ったときだった。


「――せいっ」


 僕は握りしめ、聖剣の一撃を放つ。

 相手は魔物・《ウォー・ゴブリン》だった。


 ゴブリン族は森を巣にした《魔物》であり、人と同じように〝軍隊〟をつくって行動する。これだけでも他の魔物より厄介なのに、その群れが大きくなってくると装備が充実してきて、森の樹木の皮で作った『鎧』や『盾』に、悪くするとウロコまで装備している。


 ――これが、堅く。


 通常の冒険者じゃない剣士が戦っても、なかなか突破することが難しいのだった。ゴブリンはその群れの大きさや装備によって〝推奨レベル〟が上がり、より難しい冒険地帯になると――〝ゴブリン・ナイト〟や、〝ゴブリン・キング〟といった個体に変化していく。



 推奨レベルは、〝10~15レベル〟の間。

 それが集団で《冒険者》に襲いかかってくると思えば、恐ろしい話である。


「うわあああん。クレイトさん。数が多すぎるのであります!」


 そして、その短剣で斬り結びながら、弱音を吐く冒険者が一人。

 泣き顔を見せる冒険者の少年は、ゴブリン二体と斬り結んでいた。ゴブリンも粗末で切れ味の鈍いながらも、剣は『森の番人』と呼ばれるに相応しいものを持っている。


 その一方と斬り結びながら、ロドカルは回避し、また聖剣で斬り結ぶ。二対一ではさすがに分が悪いかもしれなかった。彼の契約している《聖剣》は精霊の力をかりて、『結合シンクロ』状態で光を放っている。だが、それはまだ弱い。


「――しっかりしろ、ロドカル。お前がついてきたんだろうが!」

「そ、それは。そうでありますがー!」


 僕らは馬車を囲むように、その戦闘を行っていた。

 サルヴァスの授業でも習ったが、こういった〝多数〟を相手にする魔物との戦いの場合は、〝円陣〟が基本だ。


 エレノアやその一行もそれは心得ているらしく、一方は魔物を牽制するように展開。こちらが、約三人。そして、馬車を守るエレノアの供をして、守備に当たるのが二人。そして僕ら《冒険者》は、最も危険な中央に『凸』の字で出て、魔物の激しい攻撃を受け止め、切り払う役目を負っていた。


 こうも魔物に馬車を囲まれては、森を進めない。


 ゴブリンは『森の番人』なんて呼ばれているが、その生息地は森の奥深くとは限らない。中には、旅人も通るような平地へと現れ、道を塞ぎ、その荷物や、交易品の《果物》など――人が持つ恩恵を受け取ろうとする。〝道具〟を狙って現れる魔物というのも、このゴブリンくらいで、とても珍しい。

 ただ、数は多い。


 ――〝兵士ウォー

 ――〝戦士ソルジャー


 ――〝祈祷師シャーマン

 そして――〝王族キング〟。など。


 森の中でも彼らの縄張りは広く、醜悪で小柄な体だったが、その中には明確な階級意識というものが身についているらしい。つまり、広義で、〝働き蟻〟と〝女王蟻〟のような違いだ。知能が高いゴブリンになると戦闘も狡猾で、大きな群れを成し、弱小冒険者では手がつけられなくなる。


 個体値も大きく異なり、キングともなると人よりも体が大きく、ぶん回すこん棒などの武器は騎士が構える鉄盾すらも弾き、砕く。―――ゆえに、森で一番危険なのは、こうした知能を持つゴブリン軍隊が襲来してしまったときだと言われており――冒険者も、複数で対抗するなど、対処を講じることになる。


 僕も、聖剣で魔物ゴブリンの『剣』と斬り結んで、はじき飛ばしていた。


 しかし、僕の戦いの中で、最も意外だったのは。


「――ていっ。わらわの前に、立ちはだかるでないわっ!」


 その声とともに。脚の旋風が起こる。


 魔物が吹き飛ぶ。馬車に縋りつき、その荷物の中身を争うとしたり、馬を傷つけ、車輪を壊そうとしようとする《ウォー・ゴブリン》を馬車の前で阻止し、一匹ずつ吹き飛ばす〝少女〟がいたのだ。


 風になびき、揺れる二本の銀髪。

 ――エレノアである。



「……なっ。なんだ、お前強かったんじゃないか!?」

「―――、一対一では。じゃ。わらわは、自分の武術は磨いてきておるが、それしきで〝魔物〟を蹴散らせるなどと武勇を過信してはおらん。…………上には上がかならずいるものであるし、多数対決は苦手とするところじゃ」


「でも、戦えてるだろ」

「―――今は、な。じゃが、次は分からん」



 まるで、自分の限界を見極めるように。


 エレノアは慎重に立ち回り、必ず多数対決にならないよう務めていた。…………その判断は正しい。魔物の猛攻を相手に、《聖剣》を手にしていない人物が強がって攻撃に転じると、思わぬ負傷をしてしまう。


 一対一では、戦える。


 その言葉通りエレノアは《ゴブリン》を相手に、エレノア一行で最も強い武勇を示し、僕ら《冒険者》が取りこぼした《ウォー・ゴブリン》たちを次々と葬っていく。僕らが守っている〝円陣〟の一方を任せるくらいの力はあった。


 だが、


「多勢に、無勢……っ! そろそろ、本気で行かないとまずいか」

『マスター。魔物さんたちの勢いが、激しくなってきます』


 僕が本腰を入れて剣を構え、そして『結合シンクロ』状態にあるミスズが、聖剣の内側から声を放ってくる。


 ……そう。そろそろ、潮時だ。

 この見定めていた戦いを、終わりにしなければ。


「『結合シンクロ』の力を上げる。ミスズ。――いけるか」

『はいっ。どこまでも。―――剣に込める力を、強化します』


 慎重に立ち回っていた僕の《聖剣》が、さらなる光を帯びる。

 《熾火の生命樹フレア・ユグドラシル》―――大陸の神樹から与えられた力が、精霊を通じて剣に流れ込んでくる。


 僕の場合は、少し他とは違う力だ。

 青い輝きが拳を覆い、そして剣に群青色の炎のような輝きが横に向かって伸びる。僕が森の中で剣を横たえ、静かな眼光を向けているのだ。魔物ウォー・ゴブリンたちは異色の雰囲気に触れたように、小さく悲鳴を上げながら後退する。


「…………クレイトさん?」

「少し、下がってろ。ロドカル」


 ―――《限界突破》―――発動。


 僕が先日、夜の女王蜘蛛を討伐したときの〝肌に触れる感覚〟を思いだし、そして精神を研ぎ澄ませた―――その先にある、力をたぐり寄せようとする。


 少しずつ、鼓動が高くなっていった。

 聖剣の光に誘われるように、僕の奥底に眠っていた《何か》が溢れる感覚を受けた。



「――――行くぞ」


 血を蹴り、血路を開く。


 まず、《ウォー・ゴブリン》の二体を斬り捨てた。一瞬だった。寮母さんの修行で習得した技で一体を切り捨て、レベルが膨張するように〝急上昇〟―――ぐんと速くなった剣で、もう一匹のゴブリンの喉を串刺しにした。


 戦場は、静止。

 それから、剣を引き抜いた僕の動きに反応するように、やっと動きはじめた《ウォー・ゴブリン》たちの群れが僕に殺到する。


 一匹。袈裟切りに斬り捨てた。


 もう一匹。




 ***


《聖剣ステータス》


 冒険者:クレイト・シュタイナー


 ―――契約の御子・ミスズ(クラス『E』)

 分類:剣/ 固有技能―――《 限界突破 》S+


 ステータス《契約属性:なし》

 レベル:1 → 8

 生命力:5 → 25

 持久力:4 → 14

 敏捷:11 → 37

 技量:5 → 26

 耐久力:3 → 17

 運:1 → ???


 ***



 ―――その力を、発揮する。



 僕の眼前にゴブリンの群れが押し寄せてきた。まず一匹の顔を潰し、そして返す刀で回転斬り。三匹をまとめて斬り捨てた。


 さらに、一歩踏み込んで、僕を盾ごと押し潰そうとしていた《ウォー・ゴブリン》を斬り上げ、さらに踏み込んで盾の向こうを両断。地面に崩れ落ちるのを見届ける間もなく跳躍し、僕は体ごと《聖剣》を回転させながら群れの中央に切り込んだ。


 ―――〝寮母クロイチェフの構え〟――。


 僕が現在習得している中で、間違いなく最強の構え。

 聖剣で《円》を描くことを意識して、一人で〝円陣〟を完成させるように剣舞で立ち回る。《ウォー・ゴブリン》たちは武器や盾を持ちながらも近づけず、少しでも足を進めたら、聖剣の青い旋風に切断される。


 すくい上げるように舞い、そして剣舞のかまいたちを作る。

 ―――聖剣は、森で輝く蒼い光を放っていた。

 ―――青い光は、魔物を斬り飛ばせば斬り飛ばすほど、威力を増していった。


 そして僕の討伐数が〝20匹〟を数え始めた頃、森の奥から狙っていた〝そいつ〟が姿を現わした。


 他のゴブリンとは明らかに一線を画す装備と、服装。

 人間でいうところの『司祭』のような姿をして、鳥の魔物の骨のついた『杖』を持っている。それでゴブリンたちを指揮して、冒険者や、旅人の荷馬車を襲わせていたのだ。



『マスター!』

「…………ああっ。待っていた。〝魔術師メイジ〟だ」



 ―――《ゴブリン・メイジ》。


 現在のゴブリンたちよりも上位の《魔物》の、そいつが現れた。




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