06 出会いのサルヴァス(後編)
それから、ほどなくして『入学・初段試験』なるものが始まった。
別に難しいことをするわけではなく、筆記試験もない―――という噂は聞いていた。もともとセルアニアの田舎村落で過ごしていた僕に、まともな学なんてあるはずもなく。その一言だけでも安心できるはずだったが……この日ばかりは不安だった。
自分の生い立ちを、考える。
父は田舎の木こり。『文字は自分の名前が書ければいい』と豪語する山の男。母は『将来のために毎日ずっと勉強しなさい』と叱咤する、貧乏克服キャンペーン中の母親。こんな二人に挟まれて、僕がどのように成長を遂げたか言うまでもないだろう。人生、中途半端である。
そして、
「緊張するねえ、クレイト」
隣に座る、侯爵家のモノクル。
巷でも評判の高い、『王国世界の名家20選』に選ばれてしまう富貴・ドラベル家の次男坊にして。遊学中だとか、建築、彫刻、あらゆるものを勉学中とのたまうお気楽男―――ガフという人間が、僕の隣に座っていた。
「お前でも、緊張するか」
「そりゃ。当然。ボクだって胃袋も小さければ、肝っ玉も小さい小市民であるからにしてだね。一生を決めるような儀式の前には、緊張だってするさ」
肩をすくめて、両手を広げる。
…………ふん。よく言うよ。
僕は、あれから《はぐれ御子、ミスズ》という部屋住みを受け入れながら、入学までの日程を暮らしていた。すると、尋ねてきたこの男―――『ガフ・ドラベル』が、挨拶代わりにミスズを前にしたときだった。
『―――ふむ。実に美しく、豊かな胸だ』
その一言で、その場の空気が凍りついたのは言うまでもない。
彼は隣人として挨拶に来たようだった。対して、ミスズは住所不定、無許可滞在―――というレッテルが消えた直後で、嬉しそうに出迎えた後での悲劇だった。
興味深そうにモノクルを動かして、こう呟いたガフという男に、ミスズは半透明な体でふるえて、「うえええん」と涙を流しながら逃げていった。
(…………ったく、コイツに関しては最初から変人ぶりが極まっていたよな)
僕は、思い出す。
この男は、学問の名家である『ドラベル家』の出身だ。
どうも、この伯爵家の次男坊は、『学術論文』や『剣術の型を分析』するのと同じ気持ちで、女性に関する『胸の曲線』の評価をそのまま口に出してしまうらしい。
ただ、彫刻での曲線美を追い求めたり、お得意の建築学での『空中にアーチをかけたお城の飛梁――(フライング・バットレス構造というらしいが)』――その細工品の美しさを鑑賞でもするように。彼女の胸に目が行き、ごく自然にその豊かで実った形状を、そう分析したに過ぎないという。
「おい。色ボケむっつり研究家」
「…………なんだね、人を非常に誤解を招くようなネーミングで呼んでくれて。クレイト。まあ、ボクはそれはそれで構わないがね」
「構え。ってか、お前にそもそもプライドってもんはないのか。……ところで、そろそろお前の順番じゃないのか?」
僕は、目を落としていた。
そこは《熾火の生命樹》の木の根っこ―――後で説明するかもしれないが、とんでもなく大きくて、とんでもないスケールの世界樹の下にある、ごく自然に木の根が『ドーム状』になった空間である。
―――その空間に、少なくとも二百名の『新入生』が入っている。
僕たちがいるのは、その席の一つだ。まるで交響音楽のホールや、音が響くように工夫された円闘技場のように、中央にある『壇上』を見下ろすような形で席が並べてある。しめて、二百名分だ。
そして、中央の壇で燃えさかる『業火』。
あれこそが、《熾火の生命樹》の生命の根幹であり。神より授かりし奇跡の炎、とまで呼ばれている『聖剣を生み出す炎』らしかった。幾何学模様に木の根が奔り、そこから栄養を吸収しているようでも、生命を分け与えている心臓部分にも見えなくもない。
学徒たちは、
「――おおっ」
「すげえ」
眼下。中央で繰り出されている奇跡に、歓喜が鳴り止まない。
そこでは、聖剣が生み出されていた。
この《剣島都市》の教師らしい、実に6.000名は超えるかという剣の達人、武術闘技の達人たちの中の精鋭が、中央の壇で燃えさかる『業火』を囲んでいる。それぞれ聖剣と思われる刀身に不思議な文様の入ったものを、抜き身で地面に突き立て―――佇む姿は、まさに神々の門番である。
その中を、名前を呼ばれた新入生が進む。
『エデン・ブロウナイツ』
『は、はいっ』
呼ばれた学徒は、緊張した面持ちで起立する。大観衆によるプレッシャーを背に受けながら、不安で足をもつれさせて。中央へと進んでゆく。
そこでは、儀式が行われていた。
中央の祭壇、そこの業火に向かって学徒は祈る。
―――聞いた話、あの『炎』は熱くないらしい。
むしろ生命の根幹を司る、人体のような温かい炎。故郷の太陽を思い出させる懐かしさがあり、心臓の温度と同じく、母なる優しい温かさがあるという。
その炎が吹き出す場所に立つと、学徒は叫ぶ。
『―――我、聖剣を所望する』
すると資格が認められた者のみ、キラキラと天から粒子が降り注ぎ、彼の目の前に『大剣』『直剣』『曲剣』『短刀』『大斧』『大鎌』―――など、彼らの性格、人物、心の底で求める強い力の願望―――それを形にした『武器』が、目の前に浮かび上がるという。この男子生徒の場合は、〝金曲刀〟であった。
同時に、握った瞬間にあるシルエットが降り立つ。
(………おお)
僕は、身を乗り出してしまった。
アレだ。アレが、さんざん噂になっている存在。
―――――《剣の御子》である。
技巧派のパートナーらしく、細めのエルフ族よりの風貌と、束ねて一つにした髪が印象的な女性だった。細い目が狐をイメージさせる。彼女は、自分の主人であろう年下の男子生徒を見つめると、優雅に一礼する。
(……すごい、な)
僕は、もう一人の知り合いの御子―――学生寮で待っているであろう、ある子の顔を思い出していた。
***
『―――ふええん。ご主人様、行っちゃうのですかー!?』
二時間前。
そう泣きながら、新品の学徒の服を引っぱってくる《剣の御子》が、一名いた。
ミスズだった。
僕が儀式によって『聖剣』を授かり。選ばれるであろう《剣の御子》が一緒になって、学生寮に帰ってきた場合。自分の居場所はなく、出て行くしかないと思っているようだった。
『落ち着け。ミスズ』
『は、はい……』
『今から《聖剣の儀式》に向かう。それで、経験者だろうーーきみに、《熾火の生命樹》の儀式について事情を聞きたい。もし情報が分れば、精霊であるキミにも有利になる条件があるかもしれないだろ?』
しかし、ミスズの説明はどこか曖昧で。
『う。それが。よく覚えてません……。捨てられる前の記憶は、あんまり覚えていないんです』
『おいおい、情報源じゃなかったのか』
『―――ふええん。とにかくご主人様、ミスズが役立たずでも置いていかないでくださいーー!』
***
…………以上。
僕が出かける前の学生寮の会話を思いだし、すぐさま首を振ってかき消した。今は神聖なる儀式を目の前でやっていることだし、余計な考えを浮かべるべきじゃないのかもしれない。
すると。僕の目の前の会場が、割れんばかりの拍手喝采に包まれた。
先ほどの『冒険者と精霊のコンビ』が新しく誕生したことを祝っているのだ。―――最悪、学徒の心根が腐っていたり、神樹に認められなかった場合、『儀式が失敗する』―――というパターンもあるらしく。会場は大賑わい。儀式を終えた生徒は、ホッと息をついている。
(…………うわぁ、どうしよう。どうしよう。もうそろそろ僕の番が迫ってくるよ……)
心臓がバクバクと鼓動する。
儀式と、契約が一つ片付いてゆくたびに、重厚に着込んでいた鎧を一枚ずつはがされるような、そんな落ち着かない不安が襲ってくる。
僕は自分の順番に、恐れおののいていた。
…………そりゃ、セルアニアの田舎村落では『いい子』だったはずだし。両親の手伝いで山に柴刈りにいったり、農作物の手入れをして、土いじりを繰り返していた。お手伝いと言ったらその程度だけど、他の家の子よりも頑張っていた気がする。
……だから、その分評価されてもいいと思うのだ。
僕は、自分がどれほど聖剣にふさわしいのか、その日頃の行動をふりかえる。
僕は思い出していた。
15の夜。急にお酒というものが飲みたくなって、両親の隠している地下室の保存庫からお酒を盗み出した。それを飲んで、気持ち悪くなって倒れて、朝起きたら酒の瓶が割れていた。100センズ分の高級品が、床の黄色いシミになった。
さかのぼる。13歳の記念日。
教会の神父に会いに行って、彼の隠し持っている人物画から、恋をしている村娘さんの名前を知った。
僕はいうつもりがなかったが、一緒に遊んでいた悪ガキにぽろりと話してしまい、それが夜が明けて日が昇ると、結果的に村中の噂話になっていた。僕は悪くない、と強がりつつも、後日に神父さんが荒れているのを目撃した。
さかのぼる。11の《地竜の季節》―――。収穫日を迎えて盛りあがる村祭りのイベントの前日、用意されていた《セルアニアの赤小麦のパイ》をつまみ食いして、結果的に出し物を一つ潰した。悪気はなかったんだ。
ただ、その後で村で一番怖い『長老』が騒ぎ出して、犯人捜しが始まった。楽しいはずだった村祭りが、一転してギスギスとした推理ショーに早変わりした。(そして、僕は無事に逃げおおせた)
…………あれ?
僕って、けっこう余計なことばっかりやってる?
忘れていたイタズラや、悪事やらを思い出してしまい、僕は慌てて首を振った。
だ、大丈夫だ。大丈夫だ―――!!
自分に言い聞かせる。今日から僕は真面目にやる。僕は善人になる。僕はいい子にする。(……たいてい、この理屈を口にする人間は、悪事を働いた後であったが。もちろん無自覚である)
あらゆる物事に懺悔をしつつ。心の中で念じた。
――――聖剣よ、来たれーーーー! と。
最悪、僕だけ聖剣と契約できずに、《剣島都市》を追い出されることすらもありえる。
『――次。クレイト・シュタイナー』
「は、はいっ」
僕は立ち上がった。
声が震えてしまったせいか、後ろで待機する新入生の女の子たちから、クスクスと笑い声を向けられる。恥ずかしさで死にそうだった。
い、いや。
今は儀式に集中しよう。そういう思いで、気分を落ち着けようとした。右足を踏み出せば右手も一緒に。左足を出せば、左手も一緒に動いていた。ぶっちゃけ緊張している。冷や汗が滝のように出てしまっていた。
僕は、大観衆によるプレッシャーを背に受けながら、その階段を下りて向かった先の中央―――壇上を目指す。
「クレイト・シュタイナーか?」
「は……はい」
業火を囲んで、儀式場として立っている先生の一人から、そう声を掛けられた。見れば、石彫りで刻まれる『レリーフ名簿』と呼ばれる石版を握っている。ずいぶん怖そうな先生だ、と見上げながら思った。岩のような顔だ。
「儀式で何をするか、分かっているか」
「え、ええと。あの『聖剣を生み出す炎』に向かっていって祈ります。―――それから、『我、聖剣を所望する』と叫びます」
「よろしい。注意することは、己がほしい力を想起して――その形状を、熱い炎の中で思い浮かべるのだ。なに、難しいことじゃない。あの暖かな火に包まれていると目には見えない『形』が見えてくる。その後は、御子へと託す願いだ」
「は、はい」
「言わなくてもいい。心で念じろ。神々の世界とつながる木、《熾火の生命樹》は、いつでも我々を見届けてくださっている」
僕は、そう言われて中央へと進んでゆく。
……不安だった。
限りなく不安だった。
もう、何が何だか分からなかった。
頭が混乱している。中央の『聖剣を生み出す炎』というのは、近づけば身長の二倍もあるほど大きかった。そこで燃え上がる炎はうねり、形状を変え、不思議な灼熱の波動を送っていた。
―――聞いた話、あれは熱くないらしい。
ボンヤリと、そんな言葉が脳裏で繰り返される。
僕は灼熱に手を伸ばして、触れてみた。メラメラと溶岩から吹き上げたような灼熱の業火。しかし…………確かに、熱くない。
それどころか、温かかった。
不思議だ。生命のぬくもりを感じた。……ずっと、触れていたい。そう思うような懐かしさだった。
それこそ、故郷で土を耕していて、思わず寝転がってしまったような、あの太陽の温もりを帯びた湿った土。セルアニア王国の地熱。『太陽』と、自然の温かみ。
そんなものに似ている。
海を知る者なら、海水の安らぎを覚えるのかもしれない。山を知る者なら、山頂に登ったときのあの岩に腰掛けた温もり。それを感じるかもしれない。
業火が吹き出す場所に立つと、僕は叫んだ。
「―――われ、聖剣を所望するッッッ!!」
それが、儀式の始まりだった。
僕のーーーーー『冒険』の始まりだった。
会場に、自分の声が鳴り響いた。
それだけでも不思議な感覚だったのに、もっと驚いたのは『声』が吸い込まれたような感覚がしたからだ。この生命を司るという《熾火の生命樹》は、僕の声を吸収してメラメラと燃え上がった。
そして、儀式の炎の中―――、僕の目の前で、〝大剣〟〝直剣〟〝曲剣〟―――めまぐるしく炎が形を変えるように、何かの幻が見えた気がした。
(…………いや、これは幻じゃなく……僕の心の中……?)
なぜか、そう気づいた。
本能的な部分からの、解答なのかもしれない。
続いて考える。僕の気に入りそうな、夢の武器―――。
色々あると思う。
大剣は大型のモンスターを吹き飛ばしながら戦うのに向いているし、刺剣は剣士の中でも『決闘用』や『技巧肌』とも呼ばれる繊細で使い勝手のいい武器。大きな鎌は平原でのモンスターを一掃するために適しているだろうし、斧槍は竿状武器として手の届かない広範囲を体感ぴったりに攻撃することができる。
色々ある。
わずか、一秒以下の短い時間の中で、僕の頭の中がめまぐるしく動いていた。炎が揺れて、武器が現われては消えてゆく。すべて、一瞬の出来事。
…………その中で、浮かんだ武器。
それは、『王国の剣』のような直剣だった。田舎者にとって、その王国の剣という正統派な武器への憧れ、尊敬、そしていつか自分も握ってみたい―――と思う羨望の気持ちは、武器というものがありふれていない田舎村落だからこそ、大きいのかもしれない。
僕は、剣を持ちたい。
それも、王国の名誉ある兵士が持つような『剣』が。
直後。炎の中心部が大きく爆ぜ、爆発は三度渦巻きながら燃え上がった。炎の中からトロトロとした溶解鉄が生まれて、何かの光を形取った。それは剣が誕生するべき、命の爆発であった。
(………おお)
僕は『業火』に認められたことが、直感的に分かった。
回転しながら炎の色が冷めない剣が生まれ、祭壇の前に突き刺さった。
と。同時に。
もう一度、炎がうねった。
それは、次なる『精霊の選別』に入ったのだと、僕の本能が直感した。
(―――僕にも、『精霊』が与えられるんだ……!)
そのことは、分かっていた。
直感的な部分が教えてくれる。
だが、同時にふと心にさした影があった。
これだけ儀式を成功させたのに、雨の日のような不安の陰りだ。
(――――〝あの子〟は、どうなるんだろ?)
今も学生寮の一部屋で、箒を片手に不安そうな顔をしているだろう。ある少女のことを思い出した。あのハの字の眉毛を向けて、僕の儀式の成功を願っているのだろうか。
成功したら、あの子は、また雨風をしのげない《剣島都市》の街中をさまようのだろうか。
じゃあ、僕はどうしたらいいのか。僕はあのこのために、どうすればいいのか。
―――僕は、おそらく『精霊』を与えられる。
直感的な部分が教えてくれる。
だが、僕が剣の御子と契約してしまったら、どうなる。
あの子はこの身寄りもない《剣島都市》で、一人過ごすのだろうか。僕は彼女の居場所を奪ってしまったのか。……いや、そもそも。僕はこうまで心配するほど……彼女のことを知っているのか。
僕は。
…………なんだかんだで、彼女の明るく健気な顔を。嫌いじゃ無かったのか。
僕は。
…………なんだかんだで、彼女のことを心配しているのか。
ぼくは。
彼女のことを、どう思っているのだろうか。
……今さら、〝他の御子〟が現われたところで――。
自分の身に起きた『栄華』を感じ取った瞬間、僕は、そのひどく冷たい精神に支配されてしまった。我に返ったように冷静になり、自分でも驚くほど冷たい顔になった。今まで考えもしなかった思考ばかりが脳裏に浮かび、喜んでいたあの興奮がなくなる。
もし、僕がこのまま切り捨てて契約してしまったら。
僕が、そこまでして〝契約〟をしたいのか。
そして、その瞬間に、
「……!」
キラキラと、光が振ってきた。
精霊でもある御子と、『剣』を繋げる最後の儀式―――〝剣〟は〝御子〟の半身であり、また、〝御子〟は〝剣〟の半身でもある。そう格言が残されている、儀式の最終段階である。
そして、このとき。
《剣島都市》が始まって以来。前代未聞の―――現象が起こった。
「な」
「えっ」
《剣島都市》の教師陣が、一斉に凍りついているのが伝わってきた。歴戦の剣士の先輩たちのはずなのに、身動きが出来ていない。
そして、その見守る祭壇の中央にはーーー。
「…………ふえ?」
現われたのは。
部屋の掃除用の箒を、片手に。
ハの字眉毛の女の子が、何かのやけ食いのつもりか。ボリボリと僕の持ち込んだ《ドラゴフルーツ・チップス》というお菓子の袋を空けて、そのカケラを口にくわえた状態で現われたのである。
「…………な、な、な……」
会場が、ざわつく。
僕も、口をわななかせる。
業火を囲んでいた先生たち教師陣が、騒ぎ出す。素早く目を合わせて、この危機的な状況をどうにか変えるために会議を始める。会場に、波乱が起きる。波が広がっていく。
現われたのは、無契約の《御子》―――ミスズだった。
一目見て、他の生徒たちにも《今までの御子》とは違う事が分かったようだった。なにせ、お菓子を食べている。それだけじゃなく、着ている服装がえらく所帯じみた―――彼女が最初から持っていた『侍女服』なるものを身につけていたからだ。
……と。いうか、だな。
「ちょっと待て! おい、居候の精霊! なに人の儀式にさも当然のように現われて、しかも人が故郷を懐かしむあまり買ってきたセルアニア王国の特産品のチップスを勝手に開封してんだよ!?」
「や、ヤケクソですぅ。ご主人様、私を捨てて新しい《御子》のところに乗り換えるなんてやってられないです! う、うわあああん! 呪ってやりますぅ!」
「じょ、冗談じゃない! というか、その儀式がお前のせいでぶちこわしに……」
そこで、僕はハッと気がついた。
彼女が、 僕の正面。
儀式の祭壇の中央――――『御子の座』にいることを。
「お、おいおい。まさか……」
振り返った僕の目に、教師陣の『そうだ』と頷くような視線が向けられている。
そして、儀式は一度中断。
他国にも剣の腕を鳴らす、優秀なる『先生方』による臨時の協議で、この会場に集められた生徒たちが見つめる中。その決定が、下されるのである。
―――新入生。クレイト・シュタイナー。
――汝、剣の御子――〝ミスズ〟の契約者となりしこと。 と。