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34 戦いの後の静寂




 その戦いが終わった戦場で、蜘蛛たちが固まる。

 どの魔物も、今目の前で起っている現実が、信じられないような硬直。それから、状況を確認するように、一息の間が生まれていた。



 静まりかえった戦場では、蜘蛛と。その女王に向けて、剣を握って見つめる冒険者がいた。


 一匹の《鎧蜘蛛ヨロイグモ》が、そんな女王蜘蛛に近づき。

 それから、僕らに向かって、体を低くした。


 他の蜘蛛も、それに倣っていた。

 墓地に満ちる蜘蛛たち―――それが、一斉に頭を低くして、僕らを見送ってきたのだ。……女王蜘蛛の、意志があったからかもしれない。



「……すごい、こんなこと……起るの……ね」

『マスター』


 驚いて、瞳を周囲に向けるメメアと。

 静かに、そんな女王蜘蛛に向かって歩みを進めた僕に、ミスズが声をかけてきていた。


 僕は、そっと手を触れる。

 女王蜘蛛の――その、光を失った瞳に。その巨大すぎる頭の、先端に手を触れて、


「……、ありがとう。女王蜘蛛」


 僕は、言った。



 ――その勝負を。してくれて。

 ――こんな僕と、戦ってくれて。


 この戦場で、戦ったのだ。

 お互いに最後まで――力が燃え尽きて、灰になって、でも、その先にある――限界の先の本気まで。全力を振り絞って、戦ったのだ。


 お互いに本気だった。生命の魂を削りあって戦った。そこに、一切の情けや容赦なんて感情はなかった。


 こちらも全身全霊の《ステータス》をもって戦い―――。向こうも、同じように、長い歳月をかけて巨大化した、その全力を持って叩き潰しに来た。手強かったし、何度も、死にかけた場面はあった。

 そして、決意を張り巡らせた果てに―――勝負があったのだ。



「……ありがとう。戦ってくれて」


 もう一度言った。

 勝負を、正々堂々とさせてくれて。

 冒険を――させてくれて。


 僕は、そこで一つ気づいた。蜘蛛の向こう――。墓地の続く景色の中でも、ひときわ立派な、大きい墓の前に。『献花』がしてあることに。


 白く咲き誇った花は、この周辺にはない、森の奥でとれるものだった。

 それを、あんなに瑞々しく。




 ――優しい《魔物》がいた。

 王の墓を守る魔物は、立派で、そしてどこまでも――強かった。今までと比較にならないほど。そんな魔物と戦えて、僕は、心の底から誇らしく思えるのだった。


「……っ、」


 僕の体がふらつき、女王蜘蛛の手前で崩れる。

『え!?』とメメアが慌てて、そんな僕に致命傷があったのかと駆け寄ってきて――。それから、静かな寝息を立てていることに気がついた。



『……眠ったんでしょうね。信じがたいことに』

「な、なんて無茶をしていたの……!? こんな、体力ギリギリまで戦っていたの?」



 そして、僕を抱き留めて。

 膝枕のように、運ぶことも出来ず、その場の――膝の上へとメメアは頭を載せる。眠りについた僕と、その少女の冒険者の周りで、



 ―― 一斉に蜘蛛たちの波が引いていく。


 その森を。制し。

 エリアの主を倒した《冒険者》だと――認めた動きだった。


 メメアが。そんな森の景色を見回して驚いている。驚いてはいるが――安堵の感情もあった。もう戦いは終結した。戦わなくてもいいのだ。

『300匹はいたわよ……』と静かに息をつき。それから、膝の上で眠る僕の顔を、もう一度上からのぞき込む。少し微笑ましそうに、



 「…………まったく。なんて冒険者なの」





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