商店街の福引で少女奴隷が当たりました。
執筆したのは2年以上前となります。
昨年末に公開しようとしていたのですが、時期を逸してしまいました。orz
加筆しての公開となります。
俺の名は、エミール・ベルクール。職業は、しがない冒険者だ。
冒険者としての経験はある心算だが、一般的なDランクなので日々の糧を得るために、迷宮の浅い階層に潜って雑魚の魔物を狩ったり、郊外での簡単な討伐依頼やら採集依頼やらを熟したりで、糊口を凌いでいる。
俺の悪い癖は、物事に集中すると視野狭窄を起こし易く執着することだ。
それから、星の巡りが悪いのか、子供の頃から籤運も悪いというおまけ付きだった。
そして現在、そんな俺は、困った事態に直面していた。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「おやっさん、この燻製肉と堅焼き麺麭、それから、あの棚のヒールポーションを3本くれるか」
「あいよ、全部で……銀貨3枚と銅貨7枚だね」
「銀貨3枚と銅貨7枚だな」
「確かにお代は頂戴したよ。ところでエミール、現在商店街はバーゲン期間中でな、恒例の福引をしておる。福引券を3枚付けておくから帰りに籤を引いて来いや」
「おやっさん、ありがとうな」
何時ものように、馴染みの店で保存食料やら消耗品の補充分やらを購入したのであるが、店のおやっさんはバーゲン期間中ということで商店街の福引券を3枚くれた。
俺は昔から籤運が悪いので、5等賞の黄燐燐寸1本ぐらいしか当たらないと高を括って籤を引いた。
そして予想通りに、1本目と2本目は5等賞だった。
「まあ、こんなものだろう。最後の3本目もどうせ同じだろうな――」
俺は平常運転で最後の籤を引いたのだが……。
カラン、カラン、カラン
「と、特等が出ました! 特等は夜のお相手も任せられる少女奴隷で御座います!!」
「へ!?」
ところが、なんと特等が当たってしまった。
これで一生分の運を使い果たしたのではないかと内心焦っていた訳であるが、特等の賞品はなんと奴隷だった。
しかも、夜の相手も任せられる少女奴隷だという。
「この娘が賞品の少女奴隷です。大切に使ってあげて下さいね」
「こ、これが……」
福引所となっていた簡易天幕の中から、特等の賞品となる少女奴隷が連れてこられた。
ただ、この少女奴隷が問題だった。
美女の奴隷ならば正直いって触手も伸びるというものだが、一見して生ごみのような子供だったのだ。
汚れでくすんだ長い金髪は、密林のように乱れており、服も汚く残飯が腐敗したような悪臭が漂っていた。
また、足枷が外されても真っ直ぐに歩くことすら出来ないようで、多分左脚を負傷しているのではないかと思われた。
おまけに口も不自由だという。
恐らく、商店街に加盟している奴隷商のアランの奴が、厄介払いとして、福引の賞品に提供したものだろう。
ご丁寧に特等が出た途端、ハンドベルの音が ― カラン、カラン、カラン ― と鳴り響き、奴隷の所有者が決まったことを周囲に喧伝してくれやがった。
更に奴隷の登録料として、銀貨1枚を請求される始末だった。
渋々登録料を支払うと、奴隷に所有印を刻む規則になっているのだという。
俺としては権利放棄したいところであったのだが、もし俺が権利放棄すると、この奴隷は3日後に殺処分することになるという……。
完全に詰みだ。
「それでは規則により奴隷に所有印を刻みます。刺青もしくは焼印ならばサービスいたしますが、呪印を希望される場合には別途銀貨5枚を頂戴します」
「……呪印にしてくれ。そら、銀貨5枚だ」
「ありがとうございます。魔術師を呼んで参りますので暫くお待ち下さい」
こんなに汚い子供でも、刺青を彫ったり、焼印を捺したりして泣き叫ぶ姿は、見たくはなかったのだ。
仕方が無いので、更に銀貨5枚を支払い、魔術師に呪印を掛けて貰うことにした。
呪印というものは、高額な女性奴隷や冒険者の相方として購入される場合に良く採られる所有印のことで、普段は見えない状態なのだが、奴隷の主が鍵言をいうと現れるものである。
ただ、魔術師に依頼する必要があることから、その他の所有印と比較して非常に高価だった。
今日は厄日か!
その他の書類にも必要事項を記入し、少女奴隷の所有権は正式に俺のものとなった。
奴隷は主の所有物であり、煮るなり焼くなり好きにして良い筈だ。
正直いって武器屋で新調した剣の試し斬りに使ってやろうかとも考えたのだが、周囲のやつらが好奇の目で見ている中で、そんなことをする度胸もない。
また、生ごみ状態の奴隷を引き連れていては、俺のなけなしのプライドにも傷が付く。
仕方が無いので、街外れの小川に半ば強引に引き擦っていき、汚い着衣を強制的に剥いでいった。
奴隷は衰弱しており大した抵抗はせず、為すが儘だったのだが、脱がせてみると間違い無く女の子だった。
少女奴隷は痩せ衰えており、左胸から斜め下側に向けて深い刀傷が付いていた。
また、左脚も骨折部を治療せず、自然治癒に任せたようで少々曲がっている。
俺は深い溜息を吐きながら、少女奴隷を小川に放り込み、雑貨屋で購入した糸瓜のスポンジで ― ごしごし ― と擦って汚れを落としていった。
すると、汚れを落とした少女奴隷の肌は、意外にも色白で肌理も細かいことが判明した。
次に頭から水を掛け、頭髪を洗ってやった。
すると、どうだろうか? 汚れが落ちると輝くような淡い金髪が現れた。
それから、縺れて密林のようになっていた頭髪を、根気強く梳ってみると、極細の金糸のような繊細な髪質であることが分かった。
数時間の奮闘の後、少女奴隷の輝くような淡い金髪は、まるでどこかの国の姫君か貴族のご令嬢といっても通用しそうな程に見事なものであったのだ!!
只の村娘には、こんなに手間の掛かる髪を伸ばす事など出来ないのではないか?
ついでに前髪をあげて顔を確かめた。
身体付きと同様に、頬も痩けていたのだが、元々の骨格自体も細面であり、もう少しふっくらしていたら大層な美少女だったのではないかと思われた。
また、虹彩の色も美しい青緑色なのだが、まるで紗が掛かったように視線が定まっておらず、惚けているように感じた。
顔立ちが明らかになり、汚れを落とすと益々高貴で侵し難い雰囲気すら漂う容貌をしていることが明らかになったのである。
健康だった頃の少女奴隷の姿を想像すると、とても市井の娘とは考えられず、奴隷に落ちる前は貴族のご令嬢だった可能性が高くなってきた。
これは、もしかしたら思いも掛けない掘り出し物かもしれない。
この少女奴隷はまだ幼く、俺の守備範囲外だが、もう少し身なりを整えれば高値で転売できる可能性が出てきた。
少女奴隷の身体を洗い終わると、布で拭いて乾かせた後、俺の着ていたフードで全身を覆って街に戻った。
まずは古着屋で銀貨2枚を支払って少女奴隷の着衣を整えた後、俺は調子に乗って少女奴隷を治療魔術師の許に連れて行き、なけなしの金貨2枚を払い治療することにした。
魔術師の殆どは、攻撃魔術に長けているものの、治療魔術の行使できる者は稀少であるため、治療費は高価なものとなる。
ただ、薬草などで治癒できない深い傷などを癒すには、彼らに縋る以外に無かったのだ。
俺は、この美少女奴隷の転売で、大儲けできることを確信していた。
流石は金貨2枚の効果であり、少女奴隷の胸の大きな刀傷と左足の骨折痕は綺麗に完治した。
しかしながら、視線が定まらず惚けたような瞳と口が不自由なことは精神的な要因が原因らしく、治療魔術でも治すことはできなかった。
完治とはいかなかったが、先ず先ずの成果だ。
あとは少女奴隷の肉付きを改善すれば、高値で転売できそうである。
ただ、気掛かりなことは、全く面識が無かった筈なのだが、どこかで見掛けた気がするのである。
俺は1週間ほど十分な食事を与えて、見栄えが良くなったところで転売することにした。
ところが、である!
あれから2日後の夜、俺は少女奴隷を担いで謎の敵から逃げ回っていた。
敵は手練れで、俺たちを抹殺する気満々である。
どうしてこうなったのか……。
奴等の会話から、この美少女奴隷のことを第二皇女と呼び、俺のことは近衛騎士と誤認しているようだった。
そこで、俺は冒険者ギルドの掲示板に貼ってあった指名手配書のことを思い出すと共に、少女奴隷の出自についても見当が付けられたのだが、今更である。
奴等は俺のことも、少女奴隷の仲間と勘違いしているのだ。
指名手配書の内容としては、半年前にバレーヌ皇国で帝位簒奪事件が勃発し、その際に帝族の殆どは殺害されたのだが、エリュアーナ第二皇女は深い手傷を負わされた際に、城に引き込まれていた河川に滑落して生死不明となっていたのだ。
簒奪者たちは、直ちにエリュアーナ元第二皇女の指名手配書を作成し、発布した。
生死不問で、身元を確認できる部位を持ち込めば金貨500枚という賞金額は破格なものだった。
実は、俺も気にはなっていたのだが、基本的に無関係と思っていたので、今の今まで気付かなかったのだ。
そして、現在の俺にとって重要なことは、エリュアーナ元第二皇女の逃亡を手助けする者に対しても、金貨50枚の賞金が出ていたのだ。
つまり、大儲けする筈が、俺はいつの間にか賞金首になっていたのだ。
やはり、俺の籤運は最悪であったなと思いつつ、逃亡を続ける俺たちであった。
俺は、美少女奴隷ことエリュアーナ元第二皇女を放り出して逃げれば良かったのだが、既に多額のお金を投資していたので、そんなことは思いもしなかったのである。
お読み下さり、ありがとうございます。
教訓としては、『損切りくらい出来ないと、冒険者も務まらない』というところでしょうか。