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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

グリーン・アイズ

作者: quiet

 瞼は重く、瞳に映る風景は断片的だった。

 視界は薄い緑色に染まっていた。周囲には自分と同じ中学生くらいの子供たちが、標本のように裸で浮かんでいた。

 大きなカプセル状の機械だった。いくつもの機械が彼らを収納していた。そして自分も同じようにそれに収納されているだろうことが、身体を包む液体の感触と浮遊感から察された。


 意識がぼんやりとしてきて、目を瞑った。かすかな音が耳に届いた。


――40、45、32、59、12……


 何かを数える声。淡々と読み上げるその口調は、羊を数えるそれにも似ていて、意識はどんどん深く落ちていく。

 そして意識を眠りに明け渡す最後の瞬間に。


――96。


 とても近くで、嬉しそうな声が響くのを、竜宮竜雄は聞いた。





――かつて消えた、幸福な幻想ゆめを見た。



 遠くにいても想い合える両親がいた。愛されていた。

 寂しいときに寄り添える幼馴染がいた。愛していた。


 長い道のりは小さな幸運と小さな不運で傾斜づけられていて、ときたますれ違う人が大きな幸せを贈ってくれる。

 永遠に続くと思っていた、けれど無惨にも閉ざされたその旅路を、竜雄はかなし


         ほど

     に


                           あいして。



――目覚めの時間だ。





 見知らぬ路地裏で竜雄は目を覚ました。

 不審に思って周囲に視線を張り巡らせた。不審に思えないことが不審で、周囲に視線を張り巡らせた。


(知っている……。俺はこの知らない場所を知っている……)


 それはデジャヴによく似た感覚だった。違いは、どこまでもその既視感を手繰り寄せることができるということ。


『目覚めましたか。竜宮くん』

「――!?」


 咄嗟に竜雄は耳を押さえた。しかし違う。その声は鼓膜に響いたのではない。脳に直接、情報として響いている。まるで体験したことのない感覚、しかし竜雄はこの感覚も知っていた。


『……誰?』

『通信機能は問題なく使用できているようですね。でしたら何の問題もないでしょう』

『何の話?』


 丁寧な口調ながらも、まるでこちらの人格など構いはしない、という調子の相手の男の声に、竜雄は不安と苛立ちを覚えながら問いかける。


『竜宮くん。十分後に、現在地点のひとつ向こう、六蔵通りで戦闘……、いえ虐殺が発生します。あなたのすべきことはわかりますね?』


 何もわからない。そう思う一方で、すでに竜雄の拳は固く握られていた。


「…………」

『期待していますよ』


 それから先、男は何も言わなかった。

 竜雄は困惑と確信を持って、六蔵通りへと足を進めた。





(どいつだ……?)


 六蔵通り。人通りの多いメインストリートで竜雄は息を潜めて周囲を観察していた。


 まるで何の脈絡もないこの状況で、竜雄は確信していた。絶対に何かが起こる。そしてその視線は誰かを探している。誰かはわからない、けれど心のどこかでわかっている。


 不思議な感覚だった。まるでひとつの身体にふたりの自分がいるような、そして、自分ではない自分によって行動が制御されているような――。


 ひた、と目を留めた。


 視線の先は何の変哲もない、少女だった。長い黒髪。周囲の高校生たちと変わらない制服に身を包んでいる。顔立ちの整っているのが、強いて言えば外見からわかる唯一の特徴だったのかもしれない。


 竜雄が感じたのは、激しい違和感だった。


 違う。この女は違う。

 まるで羊の群れに狼が紛れ込んでいるような、ワイン樽の中に一滴だけ垂らしたドブ水のような、あるいはたったひとつだけヘリウムの代わりに液状の鉛を詰め込まれた風船のような――。


 無意識のうちに竜雄の足は動き出した。右足を踏み出して、その女に近付こうとした瞬間。


 はっきりと、目が合って。

 女は邪悪に笑った。



 雨粒の落ちるような音がして。女の身体が水色に輝いて。

 そして次の瞬間に、彼女の周囲にいた通行人の頭部が無惨に弾け飛んだ。



「殺すわ、裏切り者」


 戦闘開始。





『彼女は第三世代サイボーグ<レイニー・デイ>。強敵ではありますが第五世代サイボーグである君の力を最大限に発揮すれば勝利は可能です』

「サイボーグ!? 三とか五とかなんのことだよ!!」


 竜雄は脳内通信の方法を利用するのも忘れ、必死で叫んだ。余裕のないのも当然である。なぜならば、彼の周囲は激しく 崩壊を続けているから(・・・・・・・・・・)だ。

 目の前で突如として人間が死んだ。それも説明のつかない、非日常的な死に方で。

 群衆は我先にと逃げ出した。けれど竜雄はその恐るべき<レイニー・デイ>とやらと向き合っている。そして絶え間なく、おそらく先ほどそこに倒れ伏した人間たちの命をたやすく奪ったであろう”攻撃”が彼を襲っている。

 激しい回避運動のなか、彼は叫んだ。


「なんだよ、なんなんだよこれえ!!」

『あなたはもう知っているはずです』


 頭に響く男の冷たい声。弾け飛ぶ道路のコンクリート片が竜雄の目の前を横切る。足の裏に飛び散ったショーウインドウのガラスを踏みにじる感触がある。竜雄の心中では、拒絶と諦念がせめぎ合っていた。


(そうだ……。俺は知っている。なんで、どうしてかなんてわからないけど……。普段の俺だったら、絶対に今みたいな動きなんてできない。俺はこれまでの俺と決定的に ちがってしまっている(・・・・・・・・・・)。それは間違いなく理解できて、そして……、)


 竜雄は拳を握る。そして力強く、<レイニー・デイ>を見つめた。


――こいつの倒し方も。


「起動しろ!」


【Operate―― Green eyes】


 体内から電子音声が響いた。そして次の瞬間、竜雄の身体から駆動音が鳴り始め、関節部に緑色の蛍光が迸る。



 第五世代サイボーグ<グリーン・アイズ>。それが今の竜宮竜雄の姿だった。



「へえ」


 <レイニー・デイ>は竜雄の姿を見て、面白がるような表情で攻撃の手を止めた。


「<グリーン・アイズ>ねえ……。どんな改造されてるんだかしらないけど、裏切り者の割には結構ちゃんとしたボディしてるじゃない」

「……裏切り者? いや、そんなことより……」


 竜雄は<レイニー・デイ>を強く睨み付ける。


「なんで殺したんだ」


 竜雄と<レイニー・デイ>の周囲は荒廃している。道路は穴だらけでとても自動車が走行できる状態ではないし、道路沿いの店舗も破損が激しく、ほとんどのガラスが割れて、ひどいものは支柱がへし折れているのが見て取れる。倒れ伏す死体も、<レイニー・デイ>が初撃で殺した数人だけではなく、優に十人は超えている。

 竜雄の問いに<レイニー・デイ>は答える。


「任務だからに決まってるじゃない」

「任務?」

「そうよ。それが私たち<永遠の海>の使命、あるいは……」


 <レイニー・デイ>はうってかわって、ひどくつまらなそうな顔で言い捨てる。


「悪趣味な運命ね」


 竜雄は<レイニー・デイ>の言葉を聞いて考え込む。


(<永遠の海>? 使命? 人殺しの集団なのか? けど<レイニー・デイ>は浮かない顔をしている……。ひょっとして交渉の余地が……)


「あのさ、」

「はい、おしゃべりはおしまい。子供相手だからってちょっとのんびりしすぎたわね」


 無情にもそう告げた<レイニー・デイ>は、再び戦闘態勢に入る。関節部に宿る水色の蛍光が激しくなり、機械的な駆動音が鳴り始める。



――そして、再び雨音が。



 咄嗟に竜雄は飛びのいた。次の瞬間、竜雄が一瞬前までその足を置いていたコンクリートの地面が、激しく音を立てて抉れて、弾け飛んだ。間髪入れずに雨音が鳴り響き、追撃が襲う。竜雄は尋常ならざる脚力で疾走しその連撃を躱し続ける。


(いったいどういうカラクリなんだ!?)


 竜雄は心中で悲鳴にもにた疑問を叫んだ。

 火器による破壊の類ではない、そう竜雄は判断した。それは火薬の臭いや火炎の熱を知覚できないための予測である。


「うーん。遠距離じゃ埒が開かないかな?」


 <レイニー・デイ>は何気ない調子でそう告げて、竜雄のそれと比較しても遜色のない脚力で飛びかかってきた。

 竜雄に格闘の心得はない。しかし、これもまた自分でない自分が知っていた。決め手に欠ける状況での空中戦は悪手だと。空中では身動きが取れない。着地の瞬間は不可避的に無防備になる。


 チャンスだ。竜雄はそう思った。


 <レイニー・デイ>の動きを注視する。飛び上がり、右足を振りかぶり、死神の鎌のごとくしなるその足が今まさに自らの首に振り下ろされようとしていて――。


 紙一重で、避けた。<レイニー・デイ>の空中機動は終了し、あとはただ、慣性に従い落下する彼女に渾身の拳を合わせれば――。



――また、雨音が響いて。



 次の瞬間、竜雄は地面に倒れ伏していた。





(なんだ!? なにが起こった!?)


 <レイニー・デイ>の踏みつけの追撃を転がって回避しながら、しかし竜雄は混乱していた。

 あの女は、 空中で軌道を変更した(・・・・・・・・・・)


(いったいなにを――、いや、今は格闘に集中を――、しかしあの動きの理由がわからないままでは――)

『竜宮くん』


 立ち上がり、<レイニー・デイ>の奇怪な空中機動に苦闘していると、脳内にあの男の声が響いた。その声が少しばかり竜雄に冷静さを取り戻させる。


『どうなってるんだ! <レイニー・デイ>のあの動きはいったい、』

『サイボーグには個体ごとにそれぞれ特有の能力があります』


 竜雄の言葉を遮るように男は続ける。


『彼女の攻撃における不可解な部分はおそらくすべてそれが原因です。しかし、サイボーグの個体能力はあなたにも備わっています。そしてそれは、』

「もう俺にはわかってるって言うんだろ!」


 迫りくる<レイニー・デイ>の死神の右足にダメージ覚悟で前に出る。今度は雨音は響かず、不安定な空中姿勢でタックルを食らった<レイニー・デイ>は押し戻され、竜雄は少なくないダメージと引き換えに距離を得る。

 <レイニー・デイ>は不可解そうな顔で言う。


「あなた、いったい誰と……。ああ、あの博士ね」


 <レイニー・デイ>は呆れたように肩をすくめる。


「馬鹿なやつよね。裏切りさえしなければ長生きできたかもしれないのに」


 心にもない、と一目見てわかるような露骨な表情で言う。

 竜雄はその間にも考えていた。<レイニー・デイ>に勝利する方法を。自分の個体能力、すなわち<グリーン・アイズ>の能力はすでに理解している。けれど、 今はただそのスペックに任せて力押しで切り抜けられるほどの出力はない。少なくとも<レイニー・デイ>を打倒するためには。


――推理と、確信が必要だ。


 竜雄は拳を構える。


「やめておきなさいよ」


 <レイニー・デイ>は諭すように言う。


「第五世代だかなんだか知らないけど、あなたには万にひとつの勝ち目もないわ。大人しくしてれば、お姉さんが優しく殺してあげるわよ」

「やってみなくちゃわからない」

「やらなくてもわかるから言ってるのよ」


 冷たく言い放つ。


「あなた、まさかこれが遭遇戦だと思ってる? それとも自分たちから仕掛けた戦いだとでも? <永遠の海>はそんな甘い組織じゃないわ。 私はあなたを殺しに来たの。 <四億光年の彼方>からの情報を握って逃亡した博士ごと抹殺するためにね」


 そして彼女も拳を握る。


「<永遠の海>は戦力を出し惜しむ組織じゃない。私は第三世代最強のサイボーグよ」

「初めての戦闘なんだ。相手が自分より強いことは諦める理由にならない。そんなのは当たり前のことだ」

「口の減らない子ね」


――殺してあげるわ。


 再び死神の鎌が迫る。今度は塵ひとつ見逃す気はない。


 跳躍する<レイニー・デイ>。翻る髪。ひねる上半身。しなる右足。一度見たそれを回避するには容易く――。


 雨音が響いた。


 そしてその瞬間、はっきりと見た。<グリーン・アイズ>はハッキリと捉えた。彼女の左足が、空中で何か足場らしきものを蹴った。しかし、そこには何もなかった。彼女は宙空を蹴り上げた。この機動を見るのは二度目で、辛くも避けた瞬間に、次の雨音が響いて――。


 再び強引な交錯で<レイニー・デイ>と距離を取る。おそらく、世代差か格闘性能は<グリーン・アイズ>が勝っている。明らかな技術差があっても多少のことなら強引に押し切れる。


 予測はついた。あとは賭けだ。


「<レイニー・デイ>。お前の個体能力は見切った」

「へえ」


 <レイニー・デイ>はせせら笑う。わかるわけがない、と嘲るように。


「――音、あるいは振動」

「――!?」

「……当たったか」


 竜雄は内心胸をなでおろした。推測は数あるうちから一番それらしいものを選んだだけだし、もしもここで<レイニー・デイ>がポーカーフェイスを貫いていたら、状況は果てしなく不利に傾いただろう。

 しかし<レイニー・デイ>は露骨に表情を変えた。これで勝機は見えた。


「なぜ!? いったい何が――」

「雨音が、俺には聞こえている」

「――解析型!? けど、戦闘能力が――」


 <レイニー・デイ>が表情を変えた理由は明快である。それは通常露見するはずのない能力だからだ。少なくとも戦闘型サイボーグを相手にした場合には。

 <グリーン・アイズ>が聞いたあの雨音は、 通常の人間には(・・・・・・・) まず聞こえない(・・・・・・・)。その音は非常に微細であり、また人間の可聴域も大幅に超えたものであるからだ。

 最も<レイニー・デイ>の能力が露見する可能性の高い、能力発動のトリガー、あるいは証拠。それを聞き取れるのは解析型サイボーグくらいだと彼女は考えていたし、<グリーン・アイズ>の身体能力から解析型サイボーグの可能性をはじめから考えていなかった。


 だからこそ露見した。戦闘型と解析型のハイブリッドである<グリーン・アイズ>であるからこそ気付くことができた。


 しかし即座に<レイニー・デイ>は冷静を取り戻す。


「けれどわかったところでどうしようもないわ。遠距離も近距離も能力込みなら私が圧倒してる。解析型のあなたがどんな個体能力を有していたところで、」

「いいや。当たったならもう勝機は見えた」


 <レイニー・デイ>の第三世代最強の称号は伊達ではない。たとえ戦闘型を相手に個体能力が露見したとしても、その能力の汎用性と彼女個人の戦闘技能をもってすれば、おそらく苦戦すらせずに完封することができる。


――相手が<グリーン・アイズ>でなければ。


「個体能力起動」



【Operate―― Rainy day, imitation】



 電子音声とともに、<グリーン・アイズ>のボディから放たれる蛍光が、 緑色から水色に(・・・・・・・) 切り替わった(・・・・・・)


 そして<レイニー・デイ>はその変化を敏感に警戒した。即座に格闘戦に持ち込むのではなく、距離を取り、遠隔攻撃を仕掛ける。


 雨音は、響かなかった。


「――な……!?」

不協和音(ディスコード)、あるいは 消音(ミュート)


 静かに<グリーン・アイズ>は囁く。


「もう、お前の攻撃は通用しない」

「ぐ、……ぐううッ……」


 <レイニー・デイ>のコードネームがその個体能力を示唆するように、<グリーン・アイズ>もその名が個体能力を表している。

 緑色の瞳。嫉妬の比喩としても使用されるそのコードネームが表す個体能力は。


 模倣。


 戦闘型と解析型のハイブリッド、そして<四億光年の彼方>からの情報がもたらした拡張性が可能にした特殊能力である。


 いま、竜雄は<レイニー・デイ>の能力発動に合わせて、<レイニー・デイ>の能力を模倣してかぶせることで攻撃を無効化しているのだ。

 相性が良かったとしか言いようがない。<レイニー・デイ>の個体能力が繊細なズレによって無効化される類のものでなかったら勝ち目はなかったし、逆に<グリーン・アイズ>の能力が別の能力であったなら、それがどれだけ有用でも第三世代最強のサイボーグと初戦を交えて生き残ることはできなかっただろう。


 しかし竜雄は同時に理解していた。<グリーン・アイズ>がいまだ成長途中の個体であるということを。今の自分では<グリーン・アイズ>の全力を引き出すことはできない。どうにかあちらから撤退してくれないものかと視線を送るが。


「ちがう……。私は、あんな風には、あんな、違う、ゴミになるのはよわ、弱いやつだけで、天使様は、天使様は私に、わた、わたしはわたしわたわたしは」


 様子がおかしい。先ほどまでの冷静さは消えて、視線はどこかここではない現実をさまよっている。


 その表情は、恐慌だった。




「死にたくないよ」


【Operate―― Rainy day】【Full drive】【Screaming melody】




 一帯が、破裂した。その瞬間の竜雄には、それを認識するのが精いっぱいだった。


 そして意識を取り戻して、衝撃の刹那に気を失ったのだと気付いた。それから、戦闘中に意識を手放した自分が生きていることを不思議に思った。


 すでに竜雄は<レイニー・デイ>の射程外に吹き飛ばされていた。<レイニー・デイ>はうつむいて顔を両手で覆い、髪を振り乱しながら何事かを叫び続けていて、それと同時に嵐のような雨音と破壊音が響き続けている。


叫びの旋律スクリーミングメロディ……」


 呟いた竜雄は、ふらふらと<レイニー・デイ>の方へ近付いて行く。


『待ってください』


 それを止めたのは竜雄の脳内に響く男の声だった。


『フルドライブモードを使用したサイボーグの寿命は開始時点から数えて三分です。相手が錯乱状態にある以上、何もする必要はありません。あなたの勝利です』

「でも……」

『その情けは見当違いです。彼女は<永遠の海>の構成員で、人殺しです』


 それでも足を止めなかった竜雄だが、<レイニー・デイ>の射程圏に入った途端に一瞬も置かずに弾き飛ばされる。

 転がって再び弾き飛ばされた竜雄。<レイニー・デイ>の攻撃は、ただ自らに近付くあらゆるものを拒絶する意思のようにも思えた。

 その姿を竜雄は呆然と見ていた。竜雄のボディはボロボロで、上半身の一部は内部金属が剥き出しになっていた。


「でも、あいつ、泣いてるじゃん……」

『…………』


 男は、何も答えなかった。



 竜宮竜雄。<四億光年の彼方>からの贈り物に最も適応した子供にして、第五世代サイボーグ被験者唯一の生き残り。

 彼が立ち向かう過酷な運命の先に天使は微笑まず、それでも救いを信じて未来へと進んでいく。






 第三世代サイボーグ<レイニー・デイ>が機能停止したのは、フルドライブモード発動からきっかり三分後のことだった。


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