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銀髪の少女は歌い続ける。音を生まない細い雨が、少女の身体に降り注ぐ。白い世界に一人の白い少女がいるその景色は、儚くも優美であった。しかし、少女のその歌は孤独さしか感じさせず、それが真っ白な世界に溶けていくさまは、その孤独を倍増させていくだけであった。
それでも少女は、フローディアは歌い続ける。美しく透き通った歌声で、自覚のない寂しさを歌い続ける。
ふいに、フローディアは歌声を止めた。どこからか、小さな足音を聞いたからだ。それは、どうやら自分の方へと向かっているらしかった。
黙ったまま、フローディアは森を見つめる。逃げる素振りは全くない。いや、それはむしろ、逃げることへの必要性さえも感じていないようであった。
タタッ、タタッ……。小さかった足音は、次第に大きくなる。フローディアは透き通った青の瞳で、ただ森を見ている。
やがて、木々の隙間から現れたのは、一頭の白い狼だった。
「カナツ……?」
フローディアの唇から、そんな声がこぼれ出た。その白い狼に見憶えがあったのだ。
あれはいつだったろう。森で道に迷ったとき、後ろ足に怪我をした狼の子を見つけたのだ。小さなその子が、まるで今にもこの世から消えてしまいそうに思えて、フローディアは手を伸ばした。血を拭い、傷口に包帯代わりのハンカチを巻いた。そして、子狼が一匹の力で歩けるようになるまで、一日も欠かさず通った。
カナツは、その子狼に付けた名前だった。本当は、自然の中で生きる子に名前を付けたくはなかったが、世話を焼くうちに愛おしいものへと変わっていたのだ。
いつからだろう。森に入ることさえもやめ、城の中にこもるようになったのは。
いつからだろう。愛おしく思っていたカナツの元に通うのをやめたのは。
いつから、自分は――……。
「カナツ」
呼びかけると、白い狼は返事をするように小さく鳴いた。
フローディアは、そっと足を前へ出した。その足が、どこかたどたどしかった足取りから、次第に早くなり、最後には駆け出していた。
カナツも、フローディアに向かって駆け出す。白い世界に、それより強い白線を描くように駆ける。
カナツは、フローディアの元へと飛び込むように跳躍した。フローディアは、腕を大きく広げてそれを受け止める。
白い景色の中で、白い少女と白い狼が出逢う。




