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一頭の狼が、森の奥で歌声を聴いていた。白い身体の狼は、そっと両耳を震わせた。聴き憶えのある歌声だったのだ。思わず立ち上がる。
透き通って綺麗なその歌声は、しかしどことなく寂しそうにも聴こえる。誰かを呼んでいるような、誰かに見つけてほしそうに。
まるで、泣いているようだ。狼はそう思う。
そして、確信する。この歌声は、あの子に違いないと。雪のように白い髪を持つ、独りぼっちのあの子のものだと。
ああ、あの子はまだ、独りきりであの城にいるのか。誰ともかかわらず、冷え切ったあの空間に取り残されたようにしているのか。
狼は、そっと足を踏み出した。寒さをしのぐためにいた木の洞を抜け出し、凍りそうな空気の中に足を浸した。寒さなど、どうでもいいと思った。独りきりで過ぎ行くときを生きてきたあの子の心に比べれば、自分の身体を襲う冷気などなんでもないと思えた。
白い狼は走り出す。
寂しさを忘れ、涙を流すことも忘れて、全てを諦めたようなあの少女。でも、自分は知っている。あの子に、寂しさを教えてもらったのだ。氷のような、人形のような、あの少女が自分に教えてくれたのだ。
今度は、自分がそれを伝える番だ。言葉なんか、伝わらなくてもいい。寂しかったら泣いてもいいと、あの子に伝えられたらそれでいい。あの子の心に少しでも、温もりが戻ってくれればいい。
静かな雨の降りしきる白銀の世界を、一直線に走り抜ける。まるで白い光のように、狼は木々の間を駆け抜けていく。




