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こんにちは、葵枝燕です。
この話は、「せっかくクリスマスだし、そういう話を書きたいな」、という思いつきで書いております。
はじめは、短編でいこうかと思ったのですが、長くなりそうだったので連載作とさせていただきます。もっとも、今日で書き上げるつもりではいますが。
どうか、お楽しみいただければ嬉しいです。
音もなく降り続く雨に、フローディアは溜め息を吐く。彼女の白銀に輝く髪が、さらりと煌めいた。
今日は、聖なる降誕祭だ。それなのに、フローディアは独りきりで、広く大きな城にいる。城の中に人の気配はない。白銀の髪の少女がただ一人、窓際でその向こうを見つめているだけだ。
「まるで、わたくしは人形のようね」
彼女のそんな言葉は、窓ガラスを少し曇らせただけで、誰の元へも届くことはない。凍てついた空気に、溶けるように消えていっただけだった。
窓の向こうをいくら見つめても、誰も来ないことはわかっていた。この城が、城下町の人々からは忘れ去られ、廃墟の扱いを受けていることはフローディアも知っていた。きっと、そんな廃城に一人の少女がいることなど誰も知らないだろう。自分は一生、この凍えた空間に閉じ込められるのだろうと、フローディアは諦めていた。
窓の向こうに広がる街並みは、キラキラと眩しくこの目に映る。数日前に降り積もった雪と、今も降り続く細かな雨に、城下町は白く煙っていた。それでも、町の真ん中に立つ大きな樅の木が、明るい光に包まれていることはフローディアにも感じられた。きっと、それを見上げる人々が、それを横目に通り過ぎる人々が、幸福そうにしていることだろう。
フローディアは立ち上がり、部屋を出る。自分の靴音だけが、石造りの城に反響した。この場所に、この空間に、今自分は独りなのだと、突きつけられる。小さな痛みが、彼女の心を突き刺した。
それでもフローディアは、その痛みを何とも感じていなかった。慣れ切ってしまった痛みは、もはや痛みにすら感じない。だから、彼女の冷えた肌には何も伝わない。
ドアの前に立ち、大きく開け放つ。軽い雨粒が、フローディアの顔を濡らした。
「わたくしは、ずっと独りきり。誰もわたくしに気が付かない」
確認するように歌う。透き通ったその声は、森の奥へと消えていく。